下部の図(上)「GDPプラスアイ」は、NRIが提唱している新社会経済指標である。従来の経済指標GDPに加えて、デジタル化の進展によりもたらされた消費者余剰の増大、すなわち市場で取引される財やサービスの価格を超える、消費者が実際に享受している満足度や便益の拡大を可視化するものである。従来のGDP指標は金銭で取引される経済活動のみを測定対象としてきたが、デジタルサービスやプラットフォームの発展は、無料あるいは低価格で多様な価値をもたらし、統計上は反映されない大きな消費者余剰を生み出している。安心・安全、つながり、利便性といった非市場的な要素を縦軸「i」として取り込むことで、社会全体における真の価値創出の全体像を示した点に革新性があると言える。
下部の図(下)「AI活用で実現すべき方向性」は、こうした「GDPプラスアイ」の考えを踏まえ、AIの活用を通じて日本社会が進むべき方向を可視化したものである。ここで強調されるのは、AI導入によって経済成長(横軸)のみならず、消費者・生活者の満足度や安心感(縦軸)を同時に高める、すなわちベクトルが右上に向かう社会的変革の必要性である。人手不足の深刻化という現実に対し、単なるオートメーション化や省人化では、GDPは上がっても失業への不安や仕事のやりがいが失われることで「i」が毀損される懸念がある。したがって、AIは人間の業務のうち創造性ややりがいを拡張・補完しつつ、同時に効率性を高める「+AI的」な使い方が求められる。NRIは、AIの登場によって情報化社会の次の創造化社会が到来すると考えている。創造化社会のシナリオはいくつか考えられるが、AIが人間の知的活動のパートナー、アシスタントとして機能することで、個々人が「創造する」幸せや社会的ウェルビーイングを高めつつ、アイデアや知識生産の総量を増大させる社会像を目指すべきだ。
このように、縦軸と横軸の両方を最大化するAI活用のあり方こそが、今後の日本に求められる戦略であろう。日本は、コンテンツ産業の存在感など高度な創造性を発揮してきた。これらの文化基盤と、AI活用による新たな価値創造の視点を統合することで、日本は世界の中で、21世紀の創造化社会をけん引する十分なポテンシャルがある。
GDPプラスアイ

AI活用で実現すべき方向性

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執筆者情報
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- 執筆者
- 森 健
- 部署
- 未来創発センター
- 所属・職名
- 未来社会・経済研究室長
お問い合わせ先
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NRI 未来創発センター研究レポート担当