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業務プロセス改革を成功に導く要件

2015年6月号

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金融業界では、リーマン・ショック以降、ITやオペレーション要員をかなり絞り込んだ結果、ここにきてIT部門の人材不足が顕在化している。厳しい状況の中で、業務改革を成功させるポイントは何か。ワールドワイドで監査・保証業務、税務関連業務、アドバイザリーサービスを提供するグラントソントンで、多くの企業の業務プロセス改革を成功に導いてきた松山仁氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2015年6月号より

語り手 松山 仁氏

語り手

太陽グラントソントン株式会社
システム部門担当取締役
松山 仁氏

1990年 太陽グラントソントン株式会社入社。多通貨・多言語・管理会計システムを国内外資系商社など100社以上に導入。野村総合研究所のI-STARとのインターフェースを開発し、外資系金融機関などにも多数の導入経験を持つ。また、国内企業の海外進出支援も行う。現在は、業務プロセス改革、基幹システム再構築、システム選定などを担当。

聞き手 平中 直也

聞き手

株式会社野村総合研究所
ホールセールソリューション企画部 営業担当部長
平中 直也

1989年 野村総合研究所入社。海外向け証券システムの開発に従事。その後オープン系プラットフォームによるワークフローシステムの開発を経て、1994年よりホールセール証券会社向け統合バックオフィスシステム「I-STAR」の営業・マーケティングを担当。現在は営業担当部長として、外資系投資銀行を中心にソリューションを提供。

自社開発システムから外部システムへの移行

平中:

金融業界ではリーマン・ショック以降、経営環境の厳しさから採用人数を減らすなど、社員の拡大を抑える傾向が続きました。それは、オペレーション部門、特にIT部門に顕著に表れていたと思います。

景気回復の兆しが見られる今、ビジネスの拡大を図る企業が増えてきています。そうした中、限られた人員でどのように回していけばいいのだろうという悩みが出てきています。また、新規採用を控えた結果、ベテランの持つノウハウが継承されず、属人化してしまっている感もあります。

松山さんはいろいろな業界でITコンサルティングを手がけていらっしゃいますが、どのように感じていますか。

松山:

お客さまが基幹業務に自社開発のシステムを使っているか、汎用のアプリケーションを導入しているかで、だいぶ事情は異なるように思います。

自社開発システムを利用しているお客さまの場合、以前はベテランの人が業務全体を見渡して、全体の連係を考えながら、優先的に効率化すべきポイントを押さえて開発していました。

ところが、今おっしゃったように人員を補充してこなかった結果、システム部門の仕事は保守が中心になってしまい、新しく全体をつくろうとした時に業務全体の連係を考えながらつくるためのノウハウが途切れてしまっているように感じます。

一方、アプリケーションを導入している会社でも、同じようなことが起こっています。しかし、失敗した経験などを持っているケースもあり、それらが活かされているように感じます。

平中:

そうすると、これまで自社開発をしてきた会社でも、外部システムやパッケージの導入を検討するのでしょうか。

松山:

そうですね。

ただ、全体を見渡せる人がいなくなってしまっているため、部門間にまたがった課題を外部システムの営業担当に話すことができないという問題が生じています。営業担当に伝えることができるのは、部門ごとの断片的な課題だけになってしまうんです。そうすると、彼らもその断片的な課題に対して「そこはこのパッケージを使えば、解決できます」という提案をしてくるわけです。また、「こんなBI(ビジネス・インテリジェンス)ができます」といった素晴らしい世界も見せてくれます。しかし、横串での連係が考慮されていないので、ERPを入れても動かない、または動かすのにかえって苦労しているというケースがどうしても出てきてしまいます。


業務プロセス改革の進め方

平中:

お客さまの業務プロセス改革をお手伝いする際に、「この会社はうまくいきそうだ」と感じる会社に共通点はありますか。

松山:

そうした案件をいただいたとき、われわれはまずお客さまに改革の提案書を提出します。その時点で、最終目的、すなわちなぜ業務改革をするのかが明確になっている会社はうまくいくことが多いように思います。

最初から細かいところにばかりに関心が向いている会社は、そこから修正する必要があります。ある会社でIT改善委員会をつくって、各部門から業務を知っている人が集まって話し合いの場を設けたんです。ところが最初から細かい話しか出てこなくて、そこから前に進みません。まさしく、「木を見て森を見ず」の状態です。

そこでわれわれから、まず全体の業務フローチャートを作るよう提案しました。すると、「うちの業務は複雑だから」ということで、細かい業務フローチャートをつくろうとします。これは、細かいことを最初から確認しておかないと業務にみあったシステムがつくれないのではないか、という不安があるからです。自社開発のシステムを利用している企業は、自分たちのやりやすいように至れり尽くせりのシステムをつくってきたので、このようなことになるのです。このような場合、業務の幹をまず「見える化」する必要性について、粘り強く説得する必要があります。

平中:

とすると、経営者がトップダウンで改革を進めた方がうまくいくんでしょうか。

松山:

それはその通りだと思います。ただ、動きが早い経営者ですと、われわれが全体の業務プロセスを明確にする作業をしている最中にもどんどん業務を変えてしまったりするケースもあります。そうなると、現場は余計に振り回されてしまって、全くついてこられなくなります。

そういう意味では、全体を把握するためには、経営者と現場の話をうまく融合させないといけません。その辺りのバランスを取るのはすごく難しいです。

平中:

お客さまの業務分析をする際に、特定の業務をシステム化すべきかどうかの判断は、どのような基準で行っているのですか。

松山:

もちろん「ない袖は振れない」のでコストが重要になることもありますが、一番重要なのは、お客さまがその業務をどれだけ重要視しているかだと思います。

ただ、金融業は、システムで計算できるからこそ初めて提供できるサービスや商品があるように感じますので、他の業種とは異なっていると思います。

平中:

更に金融の場合は、マーケットルールや制度に則った事務を求められる世界ですので、業務プロセスを考える中でも、規制の求める情報をきちんとつくっていかないといけないのは確かです。そういった情報を準備するためには、一定のデータフローがどうしても必要になります。

例えば、金融業界では現在グローバルに決済期間の短縮化が進んでいます。早晩、エンドクライアントへの連絡や決済のタイミングをどうするかが課題として出てくるはずです。そのため、その辺りの業務プロセスをどう見直していくかは、どこの金融機関でも考えています。

松山:

以前、ある金融機関で内部統制の構築支援をした際、システムを入れ替えたいのにどうしても進まないということを聞きました。

金融業界では、法律の変更により顧客との契約内容が変更されるということが多々あります。その金融機関では、その都度、何千人ものITスタッフが対応にあたってきました。ですから、従来から稼働しているレガシーシステムから新しいシステムに切り替えるのは不可能だ、とおっしゃっていました。

そういう話を聞くと、やはり金融業は製造業や卸売業などとだいぶ違うと感じます。


業務改革の必要性を現場と共有

平中:

業務プロセスを変えて合理化を図ろうとすると、もともとやっていた業務がなくなったりするわけですから、どうしても現場は抵抗しがちになります。こうした時、現場の人たちに業務改革に前向きになってもらうには、何かしらコツのようなものはあるのでしょうか。

松山:

一つは、現場の人たちが、今やっている仕事を否定するところから始めるということです。

特に抵抗が強いのは、バックオフィスの人たちです。彼らは地道で時間のかかる仕事を請け負うことで評価されているところがあります。ところが、システム化が図られることで、今までやってきた業務がなくなってしまう可能性があるわけです。

では、どのように切り替えてもらえばいいか。例えば、ERPの導入を検討している会社で、経営者が今以上に経営に直結したタイムリーなデータを欲しがっていたとします。そのような場合、われわれはバックオフィスの人たちに、「簡単に算出できるデータはシステムにお任せして、経営判断に必要な情報は何かを常に考えていきましょう」と説得するわけです。作業で評価されるのではなく、考えることで評価されるようになりましょうと。

もう一つ大事なのは、改革の工程が一巡して、1回目の決算が終わった時に、すべての現場に話を聞きに行くことです。そして、それを基に効果の評価を行います。プロセスが変わった当初は必要でも、いったん落ち着いたら不必要となる業務も出てくるからです。

業務改革の効果を測定する方法として定量的な指標を重視する傾向がみられます。例えば、データの入力や伝票の作成にかかる時間を、改革の前後で比較したりするわけです。しかし、業務プロセスを変更したわけですから、容易には比べられません。評価すべきなのは、業務プロセス改革の結果、「あるべき姿」になっているかどうかです。あるべき姿からずれていたときには、もう一回PDCAサイクルを回して、再度業務改革を実行する必要があるかを判断します。効果評価をするのはそのためです。

平中:

NRIはシステムベンダーとして、お客さまにサービスを提案し選んでいただく立場にあります。しかし、客観的に見て「なぜ、こんな選択をしたのだろう」と感じるケースを時々見かけます。端的にいえば、価格だけを過度に重視して評価しているように感じることがあるのです。

松山:

ソフト選定を行うとき、われわれは業務要件と機能要件を挙げて、ベンダーに向けたRFP(提案依頼書)を作成します。その際、「この要件を満たすにはいくらかかりますか」と尋ねる場合と、「この予算でこの要件を満たした商品を提案してくれませんか」と依頼する場合の2つのパターンがあります。

後者のように先に予算を提示した場合によくあるのが、ベンダーは「この予算ではちょっと…」と言いながら、「標準機能でできる」にチェックを入れたり、見積もりに入っていないのに「カスタマイズすればできる」にチェックを入れたりしてきます。やはりベンダーは、システムを導入してもらわなければ始まりませんから価格帯をすごく気にします。

こういう課題に対して、われわれは、整合性がとれない点や曖昧な点を指摘することはできます。しかし、お客さまがベンダーの提案を精査せずにそのまま額面通り受け取ってしまったら、後々「言った」「言わない」になったり、予算が倍になったりといった問題が起きてしまうわけです。


新しい時代のエンジニア

平中:

80年代からずっとバックオフィスシステムの変遷を見てきていると、エンジニアに求められる役割やスキルもずいぶん変わってきているように思います。

松山:

プログラミングをしなくても業務フローチャートからシステムができ上がるというシステムが結構あって、最近興味を持って見ているんです。今のところ、まだきちんと使えるような業務システムにはなっていないのですが、素晴らしい発想だと思っています。このようなシステムが出てくると、将来的にはSEが要らなくなってしまいます。SEが要らなくなるということは、人手不足も解消して、もっと業務を知っている人が重宝されるということになります。

平中:

そうなると、足りないのは、ビジネスアナリストでしょうか。

松山:

そうですね。ビジネスアナリストを増やすには、今、システム的な要件定義をやっている人たちに、もうちょっとビジネス全体を見渡すことに興味を持ってもらう必要があります。ITの文化はどうしても受動的ですが、どこまで能動的になれるかがビジネスアナリストになれるかどうかの別れ目だと思います。

数年前から、大企業では「システム部」という組織の名称を「ビジネスサービス部」などに変える会社が多いようです。これは社内のシステム部をITに詳しい人だけで構成するのではなく、現場の経験者を入れて、「次世代のITをどう経営に有効活用できるか」を考える部門に模様替えしようとしているわけです。

もちろんそうした場合でも、過去に導入して失敗したシステムの経験やその原因を、新しい組織にもきちんと伝える必要があります。新しい組織はそうした失敗を繰り返さないためにつくられたのだという明確なミッションが理解されていないと、「システム部」から名称を変えただけになってしまいます。

平中:

最近は業務プロセス全体を俯瞰できなかったり、業務プロセスの背景を理解できないままシステムのデザインをしてしまうケースも見られます。その業務が成立している根本的な背景をよく理解していないと、何が必要で、何が不要かを判断できません。

松山:

その通りですね。私は学校の教育にも少し注文があります。例えば、商学部の学生は簿記のことはよく知っているのですが、会計システムがどんなふうに動いているかは知りません。商品を販売したり在庫が動いたりしたら、会計システムを通して自動的に財務諸表に反映されます。そういったことなどは、若いうちに知っておいた方がいいと思っているんです。

それから、業務プロセスという観点からも、学校で学んでおいて欲しいことはたくさんあります。「その製品をつくるにはどんな材料でなければならないのか。どんな工程を踏まないといけないのか」といった意識を学生のうちに養い、ちょっとでいいので勉強しておいて欲しいんです。そうした意識は、経営者などのリーダー的な立場にたった時に非常に役に立つと思います。会社に入れば自分の会社のやり方は知ることができますが、世の中全体から見れば、ごく一部に過ぎません。

平中:

基礎知識をベースに応用力が問われるわけですね。

金融業界でいえば、例えば経理処理については、これまで統一経理基準があって、システムもそれに沿って開発すればよかったのですが、IFRS(国際財務報告基準)が導入されれば状況は一変すると思われます。IFRSは原則主義ですから、財務諸表の作成処理など各会社でどう処理するかを決めなければなりません。エンジニアも一人ひとり深い知識を持っていないと対応できない、厳しい時代になっていくように思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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業務プロセス改革を成功に導く要件

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