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オールジャパンで考える総合取引所構想

2015/08/05

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アベノミクスをきっかけに株価が回復し現物の株式市場が活況を呈する一方、債券や金利のデリバティブ市場は長引く超低金利を受けて機能が低下しているという指摘もある。日本のデリバティブ市場を活性化するためのカギは何か、日本取引所グループのデリバティブ部門の主要幹部の一人である大阪取引所副社長の山澤光太郎氏に語っていただいた。

語り手 山澤 光太郎氏

語り手

株式会社大阪取引所
取締役副社長
山澤 光太郎氏

1980年 日本銀行入行。米国ペンシルバニア大学Wharton SchoolにてMBA取得。日本銀行人事局人事課長、函館支店長を経て、2006年 大阪証券取引所、執行役員。08年 常務執行役員、09年 取締役。13年 日本取引所グループ常務執行役、14年6月 専務執行役。15年7月より現職。著書に「ビジネスマンのためのファイナンス入門」(2004年)他多数。

聞き手 大崎 貞和

聞き手

株式会社野村総合研究所
未来創発センター 主席研究員
大崎 貞和

1986年 野村総合研究所入社。1990年 ロンドン大学法科大学院修了(LL.M)。1999年 資本市場研究室長。2008年4月より研究創発センター(現 未来創発センター)主席研究員。現在、早稲田大学客員教授、東京大学客員教授を兼務。金融審議会委員、規制改革会議委員などの公職も務める。著書に、「ゼミナール金融商品取引法」(2013年、共著)他多数。

日本のデリバティブ市場が抱える構造的な問題

大崎:

 昨今、アベノミクスをきっかけに株価が大きく上昇し、現物市場は活況を呈しています。その一方で低金利が続いているため、債券市場は流動性が低下し、金利デリバティブも取引が細っています。こうした市場の現状をどう見ていらっしゃいますか。

山澤:

 ご指摘の通り、現物市場はアベノミクス、日本銀行による異次元の金融緩和、GPIFの日本株投資比率見直し等によって極めて堅調に推移していますが、デリバティブは、現物市場ほど調子がよくありません。

 まず株価指数関連デリバティブについては、このところ日経225もTOPIXもボラティリティが失われています。例えば、最近は午前中に相場が下げた後、午後にかけて上げて、最終的に前日とほぼ同水準で終わるというパターンがよく見られました。

 一方、金利、債券については、短期金利から長期金利までほとんど動きがないため、そもそもディーリングやヘッジニーズが乏しくなっています。このため、大阪取引所の代表的な金利商品である10年物JGB先物の出来高は、1日当たり3万~4万枚程度と、数年前に比べて大幅に落ち込んでいます。

 最近では、10年物JGBの利回りが底ばいになり20年物との連動性が低下するとともに、超長期JGBの発行量が増えていることから、超長期JGBのヘッジ手段の整備を求める声が高まっています。こうした中で、大阪取引所では、昨年4月に、市場機能維持に向けた取組みとして、12年ぶりに20年物の超長期国債先物の取引を再開しました。また、この7月には、その商品性を見直し、呼び値の刻みを縮小するとともに、市場実勢から乖離していたクーポンレートを6%から3%に引き下げて取引しやすくしました。

 今後2、3年の間に、日本銀行は現在の異次元緩和からの出口の議論を本格化するものと思われます。米国FRBと同様、日本銀行も慎重に出口を模索するとは思いますが、テイパリング、その後の金利上昇局面で、金利のボラティリティが高まったときに、そうしたボラティリティを受け止められる厚みのある市場が必要だと感じています。この点、日本では、大阪取引所の長期金利市場だけではなく、様々な市場でプレーヤーが減少するなど市場機能の低下が懸念されています。

大崎:

 現在、ヨーロッパもアメリカも、世界的にどこもゼロ金利ですが、こうした状況で取引が細るのは仕方ないのでしょうか。

山澤:

 必ずしもそうとは言えません。たとえば、世界最大のデリバティブ市場であるCMEの短期金利先物(ユーロドル3カ月物)などを見ると、現状でも1日百万枚単位の出来高があります。ですから単純に、金利がゼロになると取引ができなくなるというわけではありません。

 日本と欧米の違いが何かをしっかり見極めて、日本のマーケットを活性化する必要があると考えます。

大崎:

 先ほど、市場の厚みが足りないことを懸念している、という話がありました。デリバティブ市場は株式も債券も、市場参加者の構成がもう少し多様化しないといけないのではないでしょうか。具体的にいうと国内の機関投資家がデリバティブに積極的に参入していないことが問題なのではないかと感じたのですが、いかがでしょうか。

山澤:

 おっしゃる通りです。

 日本では、個人投資家は夜遅くまで積極的に先物のトレードをしていますが、これとは対照的に、プロの機関投資家がデリバティブの利用に積極的ではありません。

 資金の出し手と運用先とでそれぞれの事情がありますが、共通するのは、デリバティブは投機、賭け事であるという先物悪玉論的な考え方です。日本の機関投資家も、極めて厳格にヘッジ目的でデリバティブを活用することはあります。ただ、欧米の年金基金やヘッジファンドが、よりダイナミックにポートフォリオ全体のスパイスとしてデリバティブを積極的に利用しているのとは大きな差があります。

 なお、金利物については、過去のさまざまな経緯によって、長・短金利のデリバティブが、大阪取引所と東京金融取引所という別々の取引所、別々のシステム、別々の清算機関で提供されています。一方、米国CMEでは、短期金利物から長期金利物まで幅広い金利関連商品を一つのシステム、一つの清算機関で提供しています。このため、イールドカーブ全体を対象とした裁定取引やスプレッドに注目した取引が拡大し、低金利下でも活発な取引を下支えすることにより、市場機能の健全な発揮に貢献しています。


デリバティブに対する日本人の理解を深める

大崎:

 こうした構造的問題を解決していかないと、JPXが掲げる「アジアでもっとも選ばれる取引所」、あるいは国や東京都のいう「東京国際金融センター」の実現はなかなか難しいかもしれませんね。

山澤:

 昨年の東証の現物市場の出来高は世界第5位、上場企業の時価総額は第3位だったのですが、デリバティブの出来高は世界で第15位、アジアの中では第9位でした。アジアでは、韓国、中国、インドの取引所にも後れを取っています。ですからデリバティブは本当に頑張らないといけない状況です。

大崎:

 ところがこうした危機感に対して、「世界第15位で何がいけないの?」と受けとめる方もたくさんいます。先ほどのようなデリバティブに対する偏見も災いして、当局者にも案外そういうところがあるように感じます。

 どうすればこうした認識は変えてもらえるのでしょうか。

山澤:

 デリバティブは「社会にリスクをもたらすもの」ではなく、「既に社会に存在しているリスクを、負担可能なセクターに移転するための最も効率的なツールだ」ということを改めて認識してもらう必要があります。

 こうしたデリバティブの社会的意義を、あらゆる機会を捉えてメディアや政策決定に関わる方々に説明していかないといけないでしょう。こうした取組みには時間がかかりますが、今始めないと、いつになっても変わらないと思います。

大崎:

 一方で、一般の方々を対象に広げるための教育も大事です。デリバティブの理解を促すためにJPXで何か行っていらっしゃいますか。

山澤:

 現在、一般の社会人向けに「JPXアカデミー」という教育活動を行っており、これまで9万人弱の方々に参加頂いているJPXの「隠れたヒット商品」となっています。「JPXアカデミー」の参加者は幅広くホームページで募集しており、入門基礎コースでは、現物とデリバティブの両方を学習してもらいます。そこで興味を持った方は中級、上級に進んで、より詳しくデリバティブを学ぶことができます。

 社会人教育とは別に、将来を見据えて取り組まなければいけないのが、学校における金融経済教育です。

 昨年、文部科学大臣が学習指導要領の全面改訂について中央教育審議会に諮問を行っています。ここ1、2年で決着する話ではありませんが、是非学校カリキュラムの中に、金融経済教育を組み込んでもらいたいと思います。

 金融経済教育については、現在、証券業協会、金融庁、JPXがそれぞれ熱心に取り組んでいますが、やはり「点」の取組みに止まっています。もしも金融経済教育が学習指導要領に入ることになれば、1学年100万人以上の中高生全員が一定期間、金融の勉強をすることになります。その中で、デリバティブの概念や基礎的な仕組み等もカバーできればと思っています。

 ところで、JPXでは、学校の先生を対象とする講習会も実施していますが、残念ながら、金融経済教育に興味を持ってくれる先生方は少数です。その理由は、第一に受験と関係ない、第二にカルチャーとしてお金の話はしたがらない、第三に、先生自身に教えるノウハウがない、ということです。こうした根っこの問題を解決していかないと、われわれが積極的に取り組んだとしても、効果は限られると思います。このため、学校の先生向けの講習会を春夏冬の休暇時に継続して実施しています。


なぜ総合取引所の実現が重要か

大崎:

 デリバティブ市場の裾野を広げるために、私が一つのカギになると考えているのが、だいぶ前から政策として提起されている総合取引所構想です。この構想はこれまで何度も「何年までに実現を図る」ということが政府の計画にうたわれたり閣議決定されたりしていますが、現実を見るとまだそのような取引所は存在しません。

山澤:

 取引所の監督権限のあり方にも関連する難しい問題です。

 総合取引所の議論は8年前からスタートしており、この間、金商法の改正に加えて、4回の閣議決定がなされています。6月末に閣議決定された「日本再興戦略」の中でも、「総合取引所を可及的速やかに実現する」との文言が入っています。総合取引所の実現は、われわれ大阪取引所にとっても、それから日本の国益にとっても非常に重要な課題だと思っています。

 まず大阪取引所にとっては、われわれの掲げる「アジアでもっとも選ばれる取引所」を実現するために、どうしても実現したい課題です。

 世界第一位のCMEの出来高は年間35億枚と、われわれの約10倍に当たります。その内訳を見ると株式指数関係は全体の2割に過ぎず、6、7億枚程度です。これに対して、大阪取引所の3億枚強の出来高のほとんどが株価指数関連です。日米のリスク資産の規模の違いを考えると、株価指数関連のデリバティブに関しては、われわれの市場も結構よい水準まで拡大してきているわけです。

 それではCMEと大阪取引所で何が違うのかというと、CMEはコモディティ、長短金利、FXといった幅広い商品をワンストップで提供している点です。

 要するに、投資家のニーズを踏まえて、幅広いデリバティブ商品をワンストップで提供しないと、グローバルな取引所とは競争できないということです。今後、上場商品のバリエーションを増やしていく観点から、総合取引所の実現は不可欠だと思います。

 次に、国益の観点については、最近では中国の商品先物マーケットが非常に速いペースで成長しています。中国は、世界最大の商品需要国であり、近いうちにコモディティのグローバルな価格決定権を握ることになるでしょう。

 これまでも、必ずしもTOCOM(東京商品取引所)がグローバルな価格決定に関与してきたわけではありませんが、CME、ICE等が透明なルールの下でコモディティ価格を決定してきたのと中国が価格決定権限を持つのとでは、大きな違いがあります。

 例えば、5年前に尖閣諸島周辺で中国漁船の衝突事件が起こった際には、中国がレアアースの対日輸出を実質禁止したため、酸化セリウム等の価格が数十倍に急騰しました。

 今後中国が完全にコモディティの価格決定権を握った場合、われわれの生活や経済活動に不可欠なコモディティでマーケットメカニズムが貫徹されなくなる事態が起こるのではと懸念しています。こうした事態を避けるためには、日本のマーケットがある一定のシェアと価格決定権を維持することが極めて重要です。要するに、総合取引所の問題は、単に監督官庁や取引所の箱の問題ではなく、市場を利用している日本の製造業者にどんな影響が及ぶかを意識する必要があります。これは、オールジャパンで考えていかなければいけない問題だと思います。

大崎:

 監督者は市場機能を第一に考えないと、市場の予測可能性が低下し、参加者もやりづらくなってしまいます。中立的な監督者であれば、投機家の思惑が外れて損をするのは自己責任だからやむを得ないと考えるべきでしょう。

 総合取引所の議論をしていると、農林水産省や経産省の方々から、現物に対する政策決定者の見解を先物市場にも反映させないといけないという主張がよく出てきますが、そうした考えは市場機能を歪めかねないように感じます。そういう意味では、市場規制の経験が長い金融庁が監督したほうが参加者は安心できるのでしょうか。

山澤:

 グローバルに見ても、そうした考え方が一般的だと思われます。たとえば米国でも、原油等の現物についてはエネルギー省、農産物については農務省が管轄する一方で、金融先物、商品先物は商品先物取引委員会(CFTC)が包括的な監督権限を持っています。

 さらに、総合取引所の議論に関して、経産省が唱えるツーステップ論があります。これは、第一ステップでTOCOMが、LNG、原油、電力等に関する総合的なエネルギー市場を作った上で、第2ステップで総合取引所を実現するというものです。しかしながら、シンガポールや中国と競争し、アジアで高いプレゼンスを有する総合的なエネルギー市場を実現するためには、TOCOM単独ではなく、JPXも含めてオールジャパンで対応する必要があると思います。

 大阪取引所は次期デリバティブ取引システムをTOCOMに提供することで合意しましたが、日本のコモディティ・マーケットでグローバルなプレーヤーの取引を一層増やすには、更に踏み込んだ施策が望まれます。

大崎:

 たとえば、別の意味のツーステップ論として、まずTOCOMの清算機能をJPXグループの清算機関である日本証券クリアリング機構(JSCC)が担い、その後、総合取引所化を考えるということはあり得るのでしょうか。

山澤:

 確かにJSCCがTOCOMの清算機関になると、TOCOMでの取引の効率性・信頼性が高まり出来高が大幅に増える可能性があります。ただ、それでは二元的な規制・監督の問題はそのままで、取引のしづらさは解消されません。

大崎:

 そうすると、やはり総合取引所の早期実現には、TOCOMが日本取引所グループに参加するか、あるいは大阪取引所が経済産業省の同意を得た上で、独自に商品デリバティブ市場を開設するかという二つの道のいずれかを選ばなければならないということですね。

 これは、取引所グループの経営課題というだけではなく、日本の国益に係わる重要な問題でもあり、関係者の英断に期待したいところですね。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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