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資産運用業は有望な成長産業

2016年1月号

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昨今、資産運用会社の企業への成長マネーの供給や投資家の資産形成に果たす役割に期待が高まっている。そうした期待をいち早く感じとり、成長産業としての運用会社の役割を果たすべく、既成の枠を超えて改革を断行する三井住友アセットマネジメントの横山邦男社長に、運用会社の社会的使命について語っていただいた。

金融ITフォーカス2016年1月号より

語り手 横山 邦男氏

語り手

三井住友アセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
横山 邦男氏

1981年 住友銀行(現 三井住友銀行)入行。2006年 日本郵政執行役員、2007年 同専務執行役、かんぽ生命 取締役を経て、2009年 三井住友銀行執行役員に就任。2011年 同常務執行役員を経て、2013年5月に三井住友アセットマネジメント 副社長執行役員。2014年4月より現職。著書に、「今こそはじめる資産形成 人生を劇的に好転させる50のお金の知識」(幻冬舎)。

聞き手 堀江 貞之

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション研究部 上席研究員
堀江 貞之

1981年 野村総合研究所入社。96年~2001年 野村アセットマネジメントに出向。現在、大阪経済大学経営情報研究科大学院客員教授。2013年8月から金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」メンバー。2014年4月からGPIFの運用委員会・運用委員長代理。8月より「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」メンバー。

社会的使命が大きくなった資産運用業

堀江:

横山さんは銀行と運用会社の両方の経営を経験されています。銀行から運用会社に来られて、一番大きく違うと感じたのはどんな点ですか。

横山:

約2年半前に三井住友アセットマネジメントに来た時、最初に思ったのは、なんと成長が期待できる産業なんだろう、ということでした。アベノミクスで経済が好転してきた影響もありますが、それ以上に資産運用業の社会的使命が非常に大きくなっていることを感じます。

私は、バブル時代の前後で日本の銀行の社会的責任に対する意識が大きく変わったと考えています。

日本の銀行業界は戦後の復興期、高度成長期には、限られた資金を効率的に資源配分するために重要な役割を果たしていました。今の言葉でいえばデットガバナンスを通じて、企業あるいは産業の構造改革に大きな役割を果たしたわけです。

日本興業銀行の頭取、会長を務めた中山素平さんは「商業銀行の要諦は親身になることだ」という言葉を残されています。当時、現場の支店長は町工場の経営者に寄り添い、人を見て、技術力を見て、今後の発展性を見る中で、「それではお金を貸しましょう」と判断していました。

ところがバブルの辺りから銀行はそうした社会的使命を放棄したように感じます。今や「メーンバンク」という言葉も死語となりつつあります。東証上場企業を見ると6~7割は実質無借金の企業で、株式の持ち合いもどんどん解消されています。この結果、企業と銀行の関係はすっかり希薄になってしまいました。

これに対して、資産運用会社はこれまでどちらかと言えば陰の存在で、あまり社会的使命を意識することもありませんでした。ところが、今回の金融行政方針を見てもわかるように、政府は明確に資産運用業にスポットライトを当てています。

今、日本経済に問われているのは、いかに適切に成長に資するリスクマネーを供給できるかです。資産運用業がエクイティガバナンスに果たす役割に関する議論もその延長線上にあります。また、「貯蓄から投資へ」が叫ばれる中で、資産運用業は個人の資産形成に資するさまざまな手段を提供していくことも求められています。

堀江:

資産運用業界の人たちはそうした変化を認識しているのでしょうか。

横山:

残念ながら、まだまだ感度は低いと思います。私は経営会議で「金融業の中でこんな成長産業は他にないし、これほど社会的使命を帯びた産業もない。そのことを意識して仕事をしてほしい」と繰り返し言っています。

堀江:

海外の運用会社の人たちと話すと、社会的使命を強く認識していて、そのことにプライドを持っているように感じます。また、他人のお金を預かっているという受託者責任の重さについても新人の頃からたたき込まれています。

横山:

先日、ESG投資で定評のあるスイスの古い金融機関に話をうかがう機会がありました。完全に長期投資の視点を持っています。彼らの歴史に根ざした思想を聞くと、表面だけを真似てもダメだと感じました。重要なのは、魂をどう入れるのかというところですね。


「フィデューシャリー・デューティー宣言」の狙い

堀江:

御社では8月に「フィデューシャリー・デューティー宣言」を公表されました。この宣言には、具体的に何をするのかを示した「アクションプラン」も付されており、非常に興味深い試みだと思いました。

横山:

資産運用会社が果たすべき社会的な使命や責任が非常に大きくなっている中で、「われわれはこんな哲学を持った会社だ」ということをはっきりと示し、日本の金融市場における存在感を高めたいと考えました。

宣言には、「運用技術を駆使して、お客さまの資産形成に貢献する」といった一見当たり前のことばかりが書かれていますので、一般の人は「なぜ、こんなことを宣言するの?」と思われるかもしれません。しかし、実はそういう当たり前のことも実際にはあまりできていないのではないかと感じています。そういう当たり前のことができる会社になりたいという意思を示そうと思ったのです。

特に、年金基金には「われわれは運用責任を全うしていくのだ」と、個人投資家には「われわれはメーカーで、製造物責任を負っているんだ」という思いを伝えたいと思いました。5年、10年経った時、投資家に「どこの銀行、証券会社で買ったのか」ではなく、「どこの運用会社の商品を買ったのか」に関心を向けてもらい、「三井住友アセットの商品を買ったよ」と言ってもらいたいのです。

堀江:

アクションプランでは、「運用」、「商品開発」、「お客さまサービス」、「経営インフラ」の4分野について、実施項目と実施時期が示されています。すでに実施済や実施中の項目もありますが、これから実施する項目でも遅くても来年度中には実施することになっています。かなり野心的なスケジュールではないでしょうか。

横山:

たとえば、商品開発の項目に載せた「信託報酬基本方針を策定する」については、計画通り9月に「運用報酬に関する基本方針」を発表しました。まだ考え方を公表しただけですが、方針に基づいて運用報酬が商品・サービス内容に見合ったものかすべての商品について見直しを行っています。

新しい商品については、「なぜ販売手数料がいつも同じ料率なのか」と厳しく問いかけていますし、信託報酬の販売会社取り分についても、販売会社が情報提供などで果たしている役割に応じた手数料体系にしたいと考えています。これは手数料を下げるために行っていることではなく、サービスの対価という視点で臨んでいます。

堀江:

今の信託報酬の話もそうですが、御社では日本の投資信託市場に一石を投じるような新しい試みをどんどん打ち出していますね。

横山:

個人マーケットでは特に投資初心者を大事にしたいと思っています。中でも若者に寄り添って、彼らに「考えるきっかけ」を与えていきたいんです。投資をテーマにした人気漫画「インベスターZ」を説明に活用したり、資産運用の初心者向けの入門書「今こそはじめる資産形成」を出版したりしたのも、そういう意図があります。

個人投資家向けの新しい試みとしては、バランス型ファンドの直販を始めたり、コストの低い確定拠出年金(DC)向けインデックスファンドの一般向け販売を楽天証券で始めたりしました。特に後者は価格破壊だったこともあり、大変な反響をいただきました。

それから弊社では現在ホームページの改定を進めており、2016年4月からはファンドマネジャーを動画の形で登場させたいと考えています。運用哲学を熱意を持って個人の方に発信していきたいのです。

弊社はこれまで「何か新しいことを創造していきたい」という気概に欠けるところがありましたが、使命感を持っていろいろ取り組む中、社員の意識も確実に変わってきています。例えば、先日、女性誌「VERY」に、読者の奥さま3人と弊社の若手男性ファンドマネジャー2人が誌上対談を行う記事広告を掲載しました。これは30代前半までの社員にチームごとに社長に提言させたときに出てきた企画です。ファンドマネジャー自らが「表に出て語りたい」と言って、VERYという雑誌も指定してきました。また、最近の例ではミドル、バックオフィスの女性社員がユニバーサルデザインの素晴らしい目論見書のアイデアを提案してきてくれたこともありました。今までとまったく違う出来映えで、読む気になる目論見書でした。これは、非常に嬉しかったですね。


長期投資を実践する難しさ

堀江:

私は長年、長期投資の重要性について訴え続けています。もともとは海外より国内の投資家のほうがボトムアップの長期的な視点を持っていたはずなのに、今では国内の投資家のほうが四半期の業績ばかり気にしています。これはどうすれば変わるのでしょうか。

横山:

先ほどの、銀行の社会的責任の話とも関係しますが、長期のファンダメンタルズを見るというのは、実はかつて銀行員がやっていたことです。「貸したい先に貸す」というのと、「投資したい先に投資する」というのは全く同じです。昔の銀行員は「長く寄り添う」という観点で企業を見ていたので、企業を成長させる観点もありました。昔の銀行員にやらせるとよい分析をするかもしれません。

堀江:

そうですね。今でも、すぐれたクレジット投資のマネジャーや長期ファンダメンタルズ派の株式マネジャーは今おっしゃったような発想を持っています。デットか、エクイティかにかかわらず、売買を前提にせず持ち切れるかどうかだけを見ているわけです。

運用会社の経営者と話をしていると、長期投資の重要性についてはかなり理解していらっしゃると感じます。むしろ、現場のポートフォリオマネジャーの方がそれに追いついていないと思うのです。ポートフォリオマネジャーは、お客さまから「マンデートはこれだ」と、短期のパフォーマンスが求められれば、それに引きずられてしまうところがあります。

私は、何社か、ポートフォリオマネジャーのコンサルをやったことがあるんです。「この運用プロセスでは駄目だ」といったようなことを提言するわけですが、そういうプロジェクトは大抵、経営者からくるんです。「うちは駄目なので、堀江さんから言ってください」と。私の提案に対して現場が一番、抵抗勢力という印象を持っています。

横山:

堀江さんのおっしゃっていることも、経営者は分かっているということもそうなのかもしれません。けれども、経営者が堀江さんに頼むというのは間違いであって、経営者は自ら、経営として信じるところをやらせるという信念がなければ駄目です。経営は継続する強い意志なんです。それがなかったら単なる評論家です。

堀江:

一方で、運用会社の経営者には運用に対する遠慮があると思うんです。これは間違ったカルチャーだと思うんですが、投資に対して口を出してはいけないと思っている経営者が多いように感じます。

横山:

もしそうだとすると、それは経営者に責任感が足りないということだと思います。私も自分の方針が全部正しいとは思いませんが、やはり経営哲学がないと、会社を発展させることはできないと思います。

堀江:

なるほど。経営者の覚悟が問われているということですね。

この問題に関連してもう一つ、運用の現場に経営者の意思が届かない理由に、「3、4年我慢すれば、社長は親会社に戻るだろうから、聞くふりをしてやり過ごそう」というカルチャーがあると感じているのですが、この点はいかがでしょうか。

横山:

そういう側面はあるかもしれません。金融グループの資産運用会社と、系列と関係なく就任した社長とはかなり立場が違いますね。

私がこの会社の筆頭株主である三井住友銀行の出身ということで、当初、社内には赤字の投資顧問事業をやめて投資信託に特化するのでは、という観測もあったようです。しかし私は、自らいろいろ考えた上で「やはりエンジンは投資顧問事業にある」と考えて、強化する施策を取ってきました。どうも、その辺りから社内の求心力が高まってきたような気がします。


年金基金へのアプローチ

堀江:

運用会社のファンドマネジャーに長期的視点が育たない理由として、お客さまである年金基金が短期の業績にこだわりすぎる傾向があるということも大きいのではないかと考えています。これは、どうすれば変えることができるのでしょうか。

横山:

この点については、企業年金の事務局の人たちばかりを責めるのは酷ではないかと思っています。この20年間、彼らは運用実績について本体の財務部門に叩かれ続けてきました。私はむしろ、本体の経営者がもっとしっかり年金運用のリスク管理をやるべきだったと思っています。年金運用も本体の運用と一緒に考えていくべき経営課題だと思うのですが、経営者はどこか逃げているように見えます。

堀江:

同感です。現場ではどうしても既存のやり方にとらわれがちになりますから、企業の経営者がコーポレートガバナンスの観点からトップダウンで年金運用のあり方を見直すのは非常に大事です。

横山:

われわれ運用会社としても、年金基金を管理している本体の財務部や人事部に働きかける必要があると思っています。弊社ではこれまで営業は基金にしか行かず、本体には行かなかったのですが、こうしたやり方は変える必要があるでしょう。実はこの前、ある企業の人事担当役員が私の友人だったので直接会いに行こうとしたら、「基金がへそを曲げるかもしれません」と止められたことがありました。

堀江:

確かに、基金としては頭越しにやられるのは嫌がりますね。

本体も年金も資産運用会社も、ともに変わらないといけないということですね。

横山:

そうです。GPIFの運用委員会には堀江さんもいらっしゃいますし、これからも長期投資を重視していかれるのだと思います。GPIFが変われば、他の公的基金も変わっていくでしょう。そして何年かかるかはわかりませんが、私たちが働きかけていけば、日本の年金運用全体が変わっていくのではないかと思っています。

資産運用業界もそう信じて、自分たちが汗をかいてつくった商品について熱意を持って語っていくことが大事です。そのためにも私は闘争的なファンドマネジャーをもっと採用したいと思っています。生意気だけど、運用が好きで好きで仕方がない。そんな熱いファンドマネジャーが日本の運用業界を変えていくのではないでしょうか。

堀江:

ぜひ高い志を持った挑戦者に出てきてほしいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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