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チャレンジし続ける地域金融機関が示す地方創生

2016/04/05

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国をあげて地方創生への取り組みが活発化する中、その推進において、資金力、情報力、機動力など様々な面で地域金融機関の役割に期待が高まっている。「地域にとって“なくてはならない”銀行」をビジョンに掲げ、次々に産業育成の施策を打ち出してきた鹿児島銀行。鹿児島銀行が考える地域金融機関の役割について、上村頭取に語っていただいた。

語り手 上村 基宏氏

語り手

株式会社九州フィナンシャルグループ 代表取締役社長
株式会社鹿児島銀行 代表取締役頭取
上村 基宏氏

1975年 鹿児島銀行 入行。紫原支店、指宿支店、福岡支店、高見馬場支店の支店長を歴任後、2004年 取締役業務統括部長。06年 常務取締役を経て、10年 代表取締役頭取に就任(現職)。15年 九州フィナンシャルグループ発足と同時に代表取締役社長に就任(現職)。

聞き手 齊藤 春海

聞き手

株式会社野村総合研究所
専務執行役員
齊藤 春海

1982年 野村コンピュータシステム(現 野村総合研究所)入社。ITプロジェクト推進部長、ECソリューション開発部長を経て、2002年にe-ナレッジ事業本部長。04年 執行役員 証券システム事業本部副本部長に就任。情報技術本部長を経て、09年 金融システム事業本部長。10年4月より常務執行役員、15年4月より現職。

地元に貢献する

齊藤:

 上村頭取が頭取に就任されたのは2010年。まさしく、激動のビジネス環境のもとで、銀行を率いて来られました。更に、地方には、固有の厳しさもあるように思います。

上村:

 世間が一般的に取り上げている少子高齢化の問題は、地方にとっても非常に大きな問題です。特に少子という問題については、人が減少する、就職する人がいなくなる、そうすると産業が衰退する、という悪循環になりますから危機感は当然あります。最近それが急速に進みつつある、という印象を持っていますし、統計上にも表れてきています。

 今までどの銀行も、拡大均衡をベースに経営を行ってきましたが、現状維持すら難しくなってきており、これからは路線を変更する必要があります。どちらかというと縮小均衡に走らざるを得ない状況にあって、それをどうやって打破していくかが課題としてあります。そうすると、従来の銀行業務だけではなく、銀行も商社的な色彩を帯びた総合金融サービスを提供していかないと生き残れないと考えています。

 従来の銀行は、当局が言うようにオーバーバンキングだと思います。これは今後4~5年で間違いなく淘汰されていくと思います。しかしそうだとしても、そのプロセスが非常に重要です。なぜなら、お客様を放り投げて自分だけ淘汰されるわけにはいかないから。特に、地域におけるトップバンクであれば、淘汰される姿に責任を持たないといけません。

齊藤:

 昨今、世間では「地域創生」という言葉を良く耳にしますが、御行では、地元に密着した地域創生を既にいろいろ実践されています。

上村:

 「地域創生」というのは最近の流行り言葉で、昔は「地域活性化」と言っていました。

 それよりも、「地域貢献」という言葉がずっと気になっていました。私は、「地域貢献」と「地域に貢献すること」とは違うと思っています。私が推進したいのは「地域に貢献すること」。産業の育成を含めて、地域に貢献することが銀行の最大の使命でもあります。

 その中の一番のテーマが、雇用です。そこで安心して暮らせるような雇用がない限りは、UターンもIターンもJターンもあり得ません。

 従来の金融機関には、雇用の創出までは求められていませんでした。しかし、地方版総合戦略でも「産・官・学・金・労」と謳い始めたわけです。もともと「産」の中に入っていた「金」を取り出したところに、金融としての使命があると思います。地域のナンバーワン銀行として、雇用の創出について真剣に考えないといけない時期になっています。

 その一つが少子をどうやってカバーするか、です。出ていく人間を引き留めるという課題もありますが、少子自体を解決していくという課題もあります。

 今年1月に鹿児島銀行は、鹿児島県医師会が運営する基金に1,000万円寄付しました。今年から毎年1,000万円、5年間で5,000万円の寄付をする予定です。これは安心して子どもを産める環境を整えたいからです。産婦人科の医師、看護師、助産師がいなければ安心して子供を産むことはできません。産む環境がないのに「子育て」の話だけが先行しており、かねてから「順番が違う」と思っていたところに、医師会会長の池田先生から基金の話をいただき、賛同したわけです。

齊藤:

 農業についても、御行では、いろいろなファンドを使って、新しい試みを実施しています。

上村:

 今、農業生産法人を立ち上げようと計画していますが、問題になるのは「どういう農業をするか」です。農業には、「収益力が弱いので生活が苦しい、だから農家を継がない」という構図があります。収益をあげる農業を考えた時に、参考になるのがオランダ式農業です。同じ農地面積のままで、湿度、気温、土地についてしっかりIT管理をすることで、従来以上の生産量が期待できるわけです。しかし、これには欠点がある。IT管理だから、雇用を生まないんです。

 鹿児島銀行が手がけたいのは、オランダ方式の管理システムをしっかり作りつつ、従来の人手がかかる露地栽培に取り組む、その両方なんです。両方をベストミックスする方法があるかどうかを今から実験していきたいと思っています。

 ただし、こういう実験には時間がかかります。どう考えても最初の4~5年は赤字です。しかし、その覚悟で臨まないと、農業は絶対うまくいかない。すなわち耐える時間が必要です。この赤字に耐え切れる体力を持った企業が音頭を取らないと無理なんです。それができるのは銀行であり、鹿児島銀行は耐えきれると思っています。

齊藤:

 最近、そういう長いレンジで投資や運用を考えることができる経営者が減ってきているように感じます。

上村:

 どの経営者も問題意識はあると思います。ただ、問題意識があることと行動することは違うということ。行動しないと。トライアル・アンド・エラーでしょう。

 おそらく、地域において今、トライアルができる環境にあるのは、地銀だけだと思います。そうすると、おのずと地域に貢献する姿が見えてくるのではないかと思います。

齊藤:

 農業の中でI Tの話が出ましたが、牛の飼育のトレーサビリティを管理して、ABLで融資をする仕組みも作られていますよね。

上村:

 牛・豚・鶏といった生き物を担保に取るということは容易ではありません。なぜなら、どれぐらい育っているのか、それがどれぐらいの価値を持つのかの判断ができないからです。

 それを解決するために鹿児島銀行では肥育・繁殖牛を管理する「Agri Pro」(アグリプロ)を開発しました。決して、完成度が高いとは思っていません。1日に餌を幾ら食べさせたら、これぐらい太るはずといった、ある意味、粗い計算をしている訳ですが、それでも何もないよりはずっといい。少なくとも、牛が成育しているかどうかの管理システムとしては非常に有効な手段です。昔は、牛を担保に取ったとしても、勝手にその牛を売ってしまう人がいたわけです。しかし管理システムがあることで、牛を売ったらすぐ分かる仕組みになっています。

 これは銀行の管理システムであると同時に、肥育・飼養をしている畜産農家にとっての管理システムにもなっているので、双方にとってよかったと思っています。ただ、もう一歩進める必要があって、例えば牛の肥育に資するような肥料・飼料等の情報をAgri Proに入力して、双方向でやりとりできるようになるともっと充実すると思います。


九州フィナンシャルグループの設立

齊藤:

 九州フィナンシャルグループの設立については、その判断の速さに驚かされました。いつ頃から問題意識と言いますか、構想を練られていたのでしょうか。

上村:

 問題意識は、役員になりたての10年ぐらい前からありました。少子高齢化の問題は既に取り上げられていましたし、デフレの時期でもあった。銀行として拡大路線が難しくなっていました。

 そうすると、銀行同士の競争が激しくなる。競争の激化に対処するには、どこかと手を組む必要があるという答えは、自然だったと思います。特に熊本県は隣県ですし、肥後銀行とは収益力もボリュームも似ていました。両者が競い合っても、お客様にとって何一ついいことはありません。それよりも、肥後銀行と組むことで、体力を2倍にして財務基盤を強固にした方がよっぽどよい。

 両行で今、純資産が約6,000億円あります。肥後銀行の甲斐頭取とは250億円ぐらいずつためていけば15年で1兆円を達成できるね、という話をしています。1兆円の純資産を持てば、そう簡単にはぐらぐらしません。

齊藤:

 経営統合にあたって、人事交流も積極的にされています。

上村:

 研修等での交流のほか、両行の営業店・本部の所属長や行員を3月の異動から相互に人事異動させる予定です。それにより相手の風土・気質・文化を知ることができます。

 こういった企業文化は、ルールブックに落とし込めない世界です。感じてくるしかないんです。実際に相手行に行って一緒に仕事をすることで、お互いの良いところを学ぶ。だからと言って、どちらかに合わそうとは思っていないんです。合わすぐらいなら、合併すればよかったわけです。経営統合という道を選んだのは、鹿児島銀行であり肥後銀行であるべきだから。それは、地域の特性が違うからです。

齊藤:

 次のステップはどう進まれるのでしょうか。様々な選択肢があるのではないかと思います。

上村:

 メディアも含めて第三極の話をしたりするけれども、それは相手のあることで、われわれがどうこうすることではないし、今そういうお話はありません。こちらから積極的にお声掛けする気もありません。船頭が多くなると組織というのはうまくいかないから、これは自然体で構えておくしかないと思っています。今は、九州フィナンシャルグループとしての経営体制の基礎作りに専心しています。

齊藤:

 グループの中で、一部統合をされるといった動きもありますね。

上村:

 両行の本部監査機能は、4月1日に九州フィナンシャルグループ監査部に統合することが決まっていますし、鹿児島経済研究所も「九州経済研究所」に名称を変更して、南九州の全域をカバーすることにしました。その他の関連会社についても検討を進めています。

 こういった動きは、これから1年ぐらいの間に、形として出せるもの、思いとして出せるものの両方が出てくると思います。証券会社も、来年の4月に設立したいと思っています。九州フィナンシャルグループの下で、総合商社的な金融集団でありたいと思っています。


ITなくして金融は成り立たない

齊藤:

 新しい基軸を次々に打ち出されていますが、上村頭取のその行動力は、何が原動力になっているのですか。

上村:

 自分たちでできる限界をわきまえること。自分たちだけの考えでは限界があるし、自分達だけでやるものだとも思っていない。そこに、NRIも含めた他者の知恵を借りることで、一つのインスピレーションが湧いて、新しいものが生まれる。使い古された言葉だけれども、コラボレーションはビジネスには不可欠だと思っています。

 だから、九州フィナンシャルグループも、協力者をどれだけ募れるか、どれだけの支持者を集められるかにかかっている。その活動は私も肥後銀行の甲斐頭取もやっています。

齊藤:

 NRIも、御行から金融の新しいサービスをつくるということで、「サザンウィッシュ」というITの合弁会社の提案を受けました。「フィンテック」という言葉がまだ浸透していない随分早い時期にお話をいただき、昨年の設立にこぎ着けました。

 頭取は以前からIT活用に積極的に取り組まれていますよね。

上村:

 役員になってシステム担当をしていた時期が4年ほどありますが、それ以前から「今後はITなくして金融は成り立たない」という思いがありました。しかしこれは、金融に携わる人なら誰もが感じていることだと思います。ただ、そこを正しく理解して行動に移せるかどうかで、大きな違いが生じると思っていました。だから、システム部門には、例えばRubyやブロックチェーンといった基礎的な勉強をさせてきました。

 ベースはデジタル、見せ方はアナログ。これが私の主義です。地方では、ただ単にデジタルで情報を見せるだけでは駄目なんです。ベースとなる部分は、しっかりとデジタルで管理する必要があるし、特に経営管理システムのデジタル化は不可欠です。しかし、お客様に見せるところはアナログでないと。

 デジタルのパートナーとしてNRIは、ぴかいちだと思っています。当行はアナログが得意だから、それをうまく融合することが、私にとってのフィンテック。アナログとデジタルをつなぎあわせ、お客様に心地がよいと思っていただきたい。

 デジタルの世界は決して心地よくないですよ。デジタルは人を不安に陥れるんです。例えば、携帯電話をどこかに置き忘れたらドキドキするでしょう。「自分が持っていない間に、大事な電話がかかってきたらどうしよう」とか。

齊藤:

 人工知能(AI)についてはいかがですか。

上村:

 これから一番気をつけたいのがAI。間違いなく進歩します。ディープラーニングの世界になる怖さ、認識が、まだまだ足りないと思います。その怖さを取り除くには、いち早く自分たちが勉強して取り入れること。遠ざけていたら、怖さが分からない。怖いからこそ近くに置いておくべきだと思っています。そうすると、理解するではないですか。

 私が「IT、IT」と言い続けているのは、そこなんです。分からないから。分からない時は、分かる人たちを周りに置いておくこと。一番危ない敵は身近に置け、と昔から言うでしょう。孫子の兵法にそう書いてあるんです。ITも、それと一緒です。

齊藤:

 御行とは、ネットバンクやサザンウィッシュなどでご一緒させていただいています。新しいシステムのご相談を受けたりもしています。これから九州フィナンシャルグループとして、ますます拡大されていく中で、NRIに対する期待がありましたら、お聞かせいただけますか。

上村:

 NRIに特に求めるのは「力業」。ITにふさわしくないと思うかもしれないけれども、実は、力業というのは必要だと思っています。

 私がいつも言っているのは、スピード感を持って早く作りあげること。「巧遅は拙速にしかず」と思っているので、多少不具合があっても仕方ありません。トライアル・アンド・エラーだから、エラーは付きものです。そこで、なぜ間違ったのかを分析し、それを修正していく過程が一番大事。逆に、遅くてもいいなら誰でもできるわけです。

 3年かかるのなら、よそに頼めばいいんです。それを3カ月でやってくれるのがNRIなんです。

齊藤:

 3ヶ月ですか?(笑)

 しかし、ご相談いただけるというのは、期待いただいていることと思いますので、一緒にチャレンジしていきたいと思います。

 本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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