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リサーチ重視がもたらす運用のアドバンテージ

2017年4月号

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グローバルで高い評価を受けながら、日本での知名度がそれほど高くない運用会社は少なくない。ナティクシスもその1社であろう。傘下に、とがった運用会社を何社も抱え、それぞれが「リサーチ重視」を打ち出している。その姿勢から導き出される強みについて、ナティクシス・アセット・マネジメント代表取締役社長の加藤氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2017年4月号より

語り手 加藤 欣司氏

語り手

ナティクシス・アセット・マネジメント
代表取締役社長 グループ北アジア統括を兼任
加藤 欣司氏

1981年 東京大学数学科卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。86年にソロモン・ブラザーズ本社に入社し、商品開発に従事。88年に野村證券NY支店に入社、新商品開発と資産運用業務に従事、関連運用会社のCEOを兼任。97年にルーミス・セイレス本社に入社しアジア・日本代表就任。2007年にナティクシス・アセット・マネジメントに入社、08年3月に代表取締役就任。

聞き手 堀江 貞之

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション研究部 上席研究員
堀江 貞之

1981年 野村総合研究所入社。96年~2001年 野村アセットマネジメントに出向。現在、大阪経済大学経営情報研究科大学院客員教授。「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」メンバー、GPIFの運用委員会・運用委員長代理、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」メンバー等を歴任。著書に「コーポレートガバナンス・コード」(日経文庫)他多数。

マルチアフィリエイト型運用会社

堀江:

ナティクシス・グローバル・アセット・マネジメント(以下、ナティクシス)はマルチアフィリエイト型の運用会社で、傘下に専門性の高い運用会社を多く抱えています。グローバルには知名度も高く顧客からの信頼も厚いですが、日本ではあまり馴染みがありません。日本でサービスを開始したのはいつ頃からでしょうか。

加藤:

私が1997年にボストンのルーミス・セイレス(以下、ルーミス)本社に入社してからです。その後、2000年にフランスの政府系金融機関CDCがルーミス、ハリスアソシエイツ、AEWなどの米国メットライフ傘下の資産運用グループをすべて買収することにより、同年からグループとしての営業活動を本格的に始動しています。更に、民営化後の組織改変を経て、現在のナティクシスの体制に至っています。

堀江:

基本的にはCDCから変わっていないんですか。

加藤:

アフィリエイトの体制などは同じですが、更なる買収によりオルタナティブ等の運用会社が増えています。

堀江:

ナティクシスの母体はフランスの会社ですが、傘下の運用会社の多くが米国の運用会社ですね。

加藤:

メットライフ傘下当時から、米国で債券・株・不動産等の主要セクターで定評ある運用会社を次々に買収していたからだと思います。

堀江:

買収するときは、マジョリティ出資するんですか?

加藤:

100パーセントが多いです。買収先は高い専門性を追求した運用会社であり、トップやポートフォリオ・マネジャーの退職が最大のリスクなので、契約の際、主要ポストの人には相当な期間「辞めません」というサインをしてもらいます。その代わり、会社の収入のかなりの割合を、買収後も彼らに配分しています。

堀江:

その他に、買収する際のルールのようなものはあるんですか。

加藤:

他社グループでは、同様の戦略の運用会社が複数あり、買収される側のメリットが複雑なことがありますが、ナティクシスでは、戦略ごとに重ならないようにしています。

堀江:

それぞれのセクターでとがったところにターゲットを絞っているということですね。

加藤:

今年2月に発表されたBarron'sの「Best Fund Families of 2016」で、ナティクシスは再び総合1位の評価を頂きましたが、そのランキングに、ナティクシスの特徴がよく表れています。ナティクシスは米国株式、世界株式で上位に名を連ねていますが、両方ともハリスが運用しています。また債券部門でも上位にランクインしていますが、これはルーミスが運用しています。

堀江:

日本のお客さまの資産は、どのくらい運用しているんですか?

加藤:

今は、グループ全体で、3兆円強を運用していて、金融法人のお客さまもかなり増えています。

堀江:

金法の割合は、3分の2ぐらいですか。

加藤:

大体6割くらいでしょうか。

債券運用ではルーミスのDan Fussが80歳を超えた今も副会長として健在です。彼がダブルデッカーの通貨選択型ファンドに消極的であることもあって、リテールの比率はなかなか大きくなりませんでした。親しい取引先の役員からの直接のリクエストでも、彼は頑として首を縦にふりませんでした。

堀江:

Dan Fussは、債券運用では伝説的な人物です。どうして、彼はそれほどまでに頑ななのでしょうか。

加藤:

「リサーチに基づく運用」への信念がぶれないからだと思います。また、彼はお客さまが取ってはいけないリスクに対する考えがしっかりしています。これはグループの運用会社に共通しています。


リサーチ重視の運用

堀江:

ナティクシスの強みについてはどのようにお客さまに説明されているのですか。

加藤:

基本的にはバリュースタイルの運用会社が多いことをご説明していますが、ルーミス、ハリスそしてAEWにしても、リサーチを一番大事にしています。不動産関連投資のAEWは、調査部門であるAEWResearchを最も大事にしています。そういうところを理解していただけるように説明しています。

堀江:

大手の機関投資家は、内部でケーパビリティを結構持っているので、外部の運用会社に委託するのは、インハウスではできないようなかなり特殊なものや極めてハイアルファを出せるものに特化する傾向があるように思います。あるいは、トータルのソリューションをアイデアとして提供してくれる資産運用会社が選ばれるように思います。

加藤:

ナティクシスは、どちらのニーズにも対応できます。ハイアルファの代表的な運用会社としては、ハリス、ルーミス、AEW、ナティクシス・アセット・マネジメントがあり、H2Oという債券・為替系のヘッジファンドもあります。リサーチを重視し高い確信度を持って積極的にリターンを取りにいっています。

堀江:

リサーチにはどのぐらいかけているのですか。

加藤:

入社した年の「Forbes」のルーミスとPIMCOのリサーチの比較記事によればその予算は、確か、前者が1千300万ドル、後者が1千万ドルだったと記憶します。ルーミスのその予算は7倍以上に増え、昨年は9千200万ドルとなり、まさにリサーチハウスと呼ばれる所以です。

堀江:

リサーチはクレジットだけですか?

加藤:

クレジット部門の52名に加えてクオンツやアセットアロケーションも強化し、現在はリサーチに百数十名が携わっています。

堀江:

ルーミスは年間100億円ぐらいを使ってリサーチ体制を敷いているんですね。

加藤:

ルーミスはリーマン危機の2008年ですら人を採用しました。ナティクシス傘下の運用会社は、経費の大半を自社で負担しており、経営の自由度が高く、アフィリエイトが「リサーチが必要だ」と言えば、親会社は何も言いません。

堀江:

元々クレジットが強いところにDan Fussがリサーチとトレーディングの機能を融合したということですか。

加藤:

その融合には運命的なものを感じます。S&Pよりも古い1930年代からの独自の格付システム「Red Book」を持つルーミスに、経験豊かなDan Fussが42年前に参画し、クレジット市場の黎明期から、その活用と発展に貢献してきました。

堀江:

Dan Fussは、インベストメントグレードもハイイールドも、すべての債券について投資できるマンデートを持っているんですか。

加藤:

はい、彼が最も得意とするマルチセクターという戦略です。

堀江:

それは、基本的にどういうタイプの戦略なんですか。

加藤:

長期投資ですが、一つの特徴は、リサーチ重視の姿勢、もう一つは、流動性プロバイダーであること、です。

堀江:

流動性プロバイダーとはどういうものかご説明いただけますか。

加藤:

ルーミスの社内格付システムは、その格上げ、格下げの的中率の高さで、業界ではよく知られています。各アナリストが産業ごとに格付を行い、米国の投資適格社債では、その発行体の97%、グローバルでも91%と、ほぼすべての投資可能な社債をカバーしています。従って大きく売られたような銘柄についても、「ルーミスに行けばすぐにビッドしてくれる」という信頼が市場でもたれています。

堀江:

なるほど。だから、いい案件が最初にいくわけですね。

加藤:

最初の2~3社の中に必ず入り、即ビッドを出すことで、しばしば割安に購入することができます。


最近の運用スタイル

堀江:

先日、グローバルな年金ファンドを訪問してきました。資産クラスでポートフォリオを考えるのではなく、ファンドを一つのバランスシートと見立て、リスク・リターンの観点から有利な投資案件を探すスタイルが主流になりつつあることを感じました。

ルーミスはその典型例で、株のチーム、クレジットのチームなどでそれぞれに投資戦略を持ちながらも、投資対象先の企業の分析はコラボレーションしています。これはいつ頃から始まったことなのですか?

加藤:

私が入社した1997年には、既にその体制になっていました。

例えば、ある産業の企業10社のうち7社は投資適格債しか発行していないが、残りの3社は劣後債やバンクローンも出しているかもしれません。しかし、いずれの企業も同じ産業で競争しています。これらの負債はすべて関連しているので、株式アナリストも債券アナリストも会議には一緒に出て分析に役立てます。

堀江:

そのようなアプローチ方法は最近始まったものだと思っていました。

加藤:

投資適格、ハイイールド、バンクローン等、十余りの投資セクターごとに、ポートフォリオ・マネジャー(PM)、アナリストとトレーダーが三位一体の「セクターチーム」を構成し、PMは、その複数に属することもあります。各チームは、その市場環境や銘柄ごとのリスク、リターン等について議論し、半年から1年間のパフォーマンス予想でランキングし社内格付システムで情報共有します。各運用チームは、これらのインプットを受け、ポートフォリオ構築を行います。これを活用してDan Fussのチームでは、ハイイールドが暴落して高い期待リターンが見込めるとなればその投資割合を大きく引き上げることができます。

堀江:

投資機会を素早く見つけて大きく比率を変えられるわけですね。タイミングの話は理論的にはわかるのですが、実際に実行してそのポジションを取れるのはどうしてなんですか。

加藤:

個別銘柄の期待リターンとリスク、及び顧客のリスク許容度の2つがポイントになります。

一点目は、社内格付システム等から取得できます。加えて、どこまでリスクを取れる銘柄なのかPMが判断できるデータも提供されます。次に割安セクターをどの比率まで入れるかは、お客さまの投資目的や投資ガイドライン、リスク許容度を見ながら、最終的にPMが決定します。

堀江:

期待リターンを予測できる能力とリスクマネジメントをしっかり行い、それを基にお客さまごとのガイドラインに従ってポートフォリオ構築をする、これらが揃っていないと駄目だということですね。


機関投資家のアドバンテージを生かした提案

堀江:

お客さまは、ナティクシス傘下のそれぞれの運用会社の特徴を知った上で依頼してくるのですか?

加藤:

以前は、お客さまが、どういう運用プロダクトが欲しいのかを伺ってから、提案をするのが主流でした。現在はソリューションを提供する態勢を整えており、お客さまの欲しい運用プロダクト、というより、お客さまの問題意識、ニーズにお答えすることに焦点をあてています。例えば、「円債代替としての次なる選択肢は?」というニーズに対して、幅広くソリューションを提案しています。AEWの米国コア不動産及び米国優先リート、H2Oのアダージョ、ルーミスのバンクローン、アンコンストレインドなどはその例です。

堀江:

加藤さんはナティクシスの北アジア代表なので、アジア各国の機関投資家の方々とお話されていると思います。国によって違いはありますか。

加藤:

韓国の大手機関投資家を見ていると人の出入りが結構あります。

堀江:

キャリアパスとして、いろいろなところを経験するわけですね。

加藤:

海外の教育を受け、英語のできる人は、いろいろな会社で働けるチャンスがあります。人の出入りで時々頭の痛いことはありますが、皆さん、理解も良く、決断が早いことも多いですね。また、マーケットを見ながら、投資タイミングをご自身で判断されることもあります。

堀江:

台湾はどうですか。

加藤:

台湾は、契約期間が4年ときっちり決まっているところもあり、その場合は4年間はどんなことがあっても解約されることはまずありません。4年後にレビューして再契約となると、次の4年も保証されます。中長期運用が徹底しています。

堀江:

それは運用会社にとってありがたいですね。

中国本土はどうですか。

加藤:

中国はここ数年ですごく変わりました。報道されている通り、今は本当にキャピタルを絞っているので、シンプルなプロダクト、プレーンバニラな運用が中心の運用会社は厳しくなっていると思います。ただ、不動産投資などの効率性を追求しているので、ナティクシスでいえば、傘下のAEWによるソリューションをご案内することもあります。

堀江:

最後に日本のお客さまに期待することを教えていただけますか。

加藤:

ナティクシスの運用会社の多くは、リサーチベースのバリュースタイルを提供していますので、中長期投資が重要な要因になってきます。特にハリス、ルーミス、AEWやH2Oについては中長期投資であることのご理解を深めていただけますと、きっとご満足いただける結果をご提供できるのでは、と思います。

堀江:

中長期投資の重要性について分かっている機関投資家は多いと思います。一方で、なかなか変われない状況もあります。ですので、海外のお客さまと話す機会が多い加藤さんの知見は、非常に役立つと思います。

加藤:

リテールは、アメリカでも、すごく足が早いです。株式やハイイールド・ファンドの成績がよいとそこに資金がどっと入ってきますし、逆に解約の時のスピードも速いです。機関投資家サイドは、中期的に運用できれば、逆にそのアドバンテージがとれます。どういうリソースがアルファの源泉になっているのかといった見極めが中長期で運用しているとできると思います。

堀江:

日本の機関投資家にも、自分達がそういったアドバンテージを持った資金の出し手だという強みのあることが伝わるといいのではないかと思います。

本日は、示唆に富んだお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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