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地方創生の一翼を担うカード会社

2017年7月号

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日本におけるクレジットカードの発行枚数は2億6,600万枚(2016年3月末)で、成人一人当たり2.5枚を保有している換算となる。ただし、個人消費におけるクレジットカードの利用率は18%ほどで、まだまだ伸び代は大きい。蓄積されたカードの利用データはヒントの宝庫である。それをどう活かすか、三井住友カード 専務執行役員の鈴木正俊氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2017年7月号より

語り手 鈴木 正俊氏

語り手

三井住友カード株式会社
専務執行役員 公共・金融法人営業担当
鈴木 正俊氏

1979年 住友銀行(現三井住友銀行)入行。名古屋支店を振り出しに、国内部門の企画・営業部署を経験。1999年10月に株式会社住友クレジットサービスに出向し企画部長、一旦銀行に復職し、2007年再び三井住友カードに。執行役員経営企画部長、2010年 常務執行役員、2012年 営業企画本部長、2014年 金融法人営業本部長、2016年 専務執行役員などを経て現職。

聞き手 楠 真

聞き手

株式会社野村総合研究所
理事
楠 真

1983年 野村総合研究所入社。旧鎌倉研究本部にてIT企業に対するコンサルテーションに従事。その後システム商品事業部、金融情報サービス部などで新規事業プロジェクトを担当。2003年に執行役員。2009年に常務執行役員。金融ITイノベーション事業本部長、システム基盤担当などを経て現職。2015年5月よりITProにて「NRI 楠 真 強いITはここが違う」連載開始。著書に「FinTech2.0」(中央経済社)。

小口化が進むカード利用

楠:

鈴木さんは住友銀行の国内営業畑から三井住友カードに移られたとお聞きしています。

鈴木:

住友銀行から当時の住友クレジットへ異動しました。その後、住友銀行がさくら銀行と合併することになり、カード会社も再編することになりました。

銀行ではリテール関係を中心に担当していたので、ある程度カードビジネスについては判っているつもりでしたが、理解していたのは氷山の一角だけで、カード会社と銀行ビジネスは大きく違っていました。

楠:

鈴木さんが営業を担当された時に、三井住友カードは地銀のマーケットシェアを随分拡大されました。

鈴木:

個人の決済の流れを囲い込むことは時代の流れでもありましたから、企画部長という立場でありながら地方銀行に自社ブランドのカードを発行してもらう営業に随分力を入れました。

楠:

地銀にカードの発行を働きかけるのはなぜですか?

鈴木:

弊社自らが展開することも可能でしたが、末永くお客様にサービスを提供することを考えた時、サービス提供者はお客様の近くにいる必要があります。個人のカードにしても、地方銀行をメインバンクにされている方にとってはその銀行発行のカードの方がメインカードとして利用される頻度が多くなると思います。あるいは、地方自治体にカード利用を進める場合でも、地方銀行の方が自治体の指定金融機関でもありますし、日常取引においても適していると思います。

楠:

現在、クレジットカードの利用規模はどの位ですか。

鈴木:

今、日本の個人消費は約280兆円、家賃を控除すると約240兆円と言われていますが、このうちクレジットカードの利用は、2016年4月からの1年間で約54兆円でしたから18%位です。利用率は増えているものの、アメリカと比較すると半分以下です。また、足元で増加を牽引しているのは公共料金の支払いやネット取引です。

楠:

小口化も進んでいますよね。iTunesでは100円位の決済が多いと聞いています。確か、年初にゲーム会社のアイテム販売がスタートするということで、12月31日から1月に日付が変わった瞬間に想定外の決済件数が発生したためにシステムがパンクしそうになったと聞きました。

鈴木:

おっしゃる通りですが、常日ごろゲームやネット販売に接している人にとっては、新年のセールは当たり前のことで、我々も相当数のトランザクションの増加を見込んでいました。ただ、予想を遙かに上回る状況でした。

ゲーム以外でも、音楽にしても映画にしてもネット配信が主流になり、決済がますます小口化してきています。小口でも大口でも1件にかかるコストはほぼ同じですから、カード会社としてはなかなか厳しい状況です。

楠:

ETCも小口決済ですね。

また、以前はスーパーマーケットでクレジットカードを出している人を余り見かけませんでしたが、最近は利用している人が増えているように思います。

鈴木:

スーパーマーケットでは平均単価が4,000円を切っていますし、小口化はまだまだ進むと思われます。そのため弊社では電子マネーの充実も図っています。例えば、当社の扱っている「iD」は何種類かの自販機でも使えるようになりました。街中で、iDや「Suica」等で買い物ができるところが増えています。

楠:

iDは非接触ICカードやスマホをかざして使うんですよね。

鈴木:

電子マネーにはチップ中に金額のデータが入っているタイプとセンターサーバーで管理しているタイプのものがあります。前者の形式だと販売時に通信トランザクションがないので簡潔ですが、iDはポストペイなので1万円を超えた場合等に通信が発生します。通信が発生する頻度を抑えつつ利便性を追求しようという仕組みです。

このように、小口化がどんどん進んで来るとトランザクションコストをいかに軽減していくかが大きな課題で、新たな仕組みを考えていく必要があります。


法人カードの拡大

楠:

カード会社としては、コストダウンはもちろんですが、利用の裾野をもっと拡大していかなければなりませんね。今後、法人での利用は期待の持てる分野なのではないですか?NRIではAWSへの支払いが結構な金額になっているのですが、これはすべてカード決済です。

鈴木:

確かに海外では法人カードの利用が進んでいますから、日本でも法人利用の拡大は課題です。AWSの支払いは基本カード決済です。AWSの利用料は確かに一石を投じた形になりました。

官公庁にも広がりを見せています。個人カードで支払いを済ませ、後日、経費として精算するといった立替払いには問題が生じやすいということで、個人での立替払いを軽減させたいと考えておられます。このため大学の中にもコーポレートカードを発行し、経費の支払いをカード決済化させる動きが出てきています。大学の先生がネットで本を買う際、コーポレートカードで支払うことで立替払いを減らしていく訳です。更にそこには通常よりもセキュリティを高めた仕組みを導入しています。

楠:

どのような仕組みなんですか?

鈴木:

トークンのようなもので、仮に番号が他人に知られても、次は番号が変わっているので使えません。

官公庁に限りませんが、会社の経費を個人が立替払いをして、ポイントは個人のカードに貯まってしまうことを、ガバナンスの観点から排除したいと思う企業は増えてきた感じがします。特に官公庁のように公のお金、すなわち税金で買ったものに対して個人にポイントが付くのは問題であると思われ始めています。

楠:

だから、全部コーポレートカードにしたほうが公明正大です、ということですね。

鈴木:

しかも、カードであれば利用履歴が明確に残せますからね。

楠:

海外では法人カードが普及しているので、グローバル企業では全社の決済データを集約して誰がどこで何を使っているのかをデータベースでモニターしているという話を聞きました。

鈴木:

VisaやMastercardでは、全世界のグループ会社のカード利用状況を集めて親会社で分析できるようにするサービスがあります。

弊社のお客様でもそうしたサービスを利用されているグローバル企業は相当な数に達しております。弊社は、世界の主立った金融機関と手を組んで日本のお客さまの海外現法に対しては、現地のVisaメンバー会社を通じてコーポレートカードを発行していただいております。例えば、NRIはインドに会社がありますよね。そこの社員にコーポレートカードを出すとしたら、当社のインドのパートナーが発行し、そのデータを本体に集約する訳です。


カード利用データの活用

楠:

カード利用データの話が出ましたので、APIについてもお聞きしたいと思います。「マネーフォワード」上で、御社のカード利用状況がエラー表示されました。

鈴木:

マネーフォワードのように、弊社がお客様に提供している情報をスクレイピングという手法で取りに来られている場合、弊社がレイアウトを変更すると、データを取る場所がずれてしまい、結果エラー表示につながります。弊社としてはきちんと契約をして、レイアウト変更について情報連携する仕組みを構築して、お客様の利便性を高めていくべきと考えております。

一方、API連携についても前向きに検討を進めております。ただ、何でもかんでも求められれば提供するのではなく、当然のことながら提供先の情報管理体制などを見極めた上での話になります。当局も出せば良いということではないと思います。今後我々が提供する側という立場だけでなく、される側にも立つことを考えれば、API連携は、ある意味積極的にやっていくべき領域かと思っています。

楠:

スクレイピングはものすごい頻度で取りに来ているんですよね。

鈴木:

サービスごとに異なるようですが、1秒間に1回程度のものもあれば、お客様がログインされる時に取得に来られるなど色々です。こちらにもシステム負荷がかかりますから、1秒ごとといった頻度でログインされると厳しいですね。そうしたことも含め、API連携の在り方の基準作りがスピード感を持って進むことを期待しています。

今は、金融機関からデータを提供することについての議論が主流のようですが、受け取る側になることも検討していかないといけません。例えばPOSの売り上げデータをAPI連携でもらってくることができれば、百貨店で何を買ったかをカード会社側でも把握できるようになり、お客様に提供するサービスの付加価値を高めていくことが可能になると思います。

楠:

アメリカやヨーロッパでの議論を聞いていると、お互いがデータをもらってきて、その蓄積でデータベースマーケティングに活用する、という発想です。例えば「このぐらいの金額を使っているのであれば、このぐらいの与信を出しても大丈夫」といった与信に活用する発想です。

鈴木:

元々、アメリカのAT&Tがカード事業を本体で行っていた時に、「サラリーマンが下着と乾電池を買ったら2週間以内に出張がある」という分析をした。それがデータベースマーケティングのはしりだったと、聞いたことがあります。

銀行は口座に振り込まれた給与とボーナスを把握できることから、個人の可処分所得的なものを推測できる訳です。賞与の比率の多い人は賞与の出る1カ月半ぐらい前にローンを借りる傾向が高いといった分析もあります。

楠:

そう考えると、日本の銀行におけるデータベースマーケティングの活用方法は無限に考えることができそうですね。

鈴木:

それから日本にきた外国人が、何処で買い物をし、次に何処へ移動して行ったかという行動分析もある程度可能で、インバウンド対策にも活かせると思います。地方創生の活動を支援するような情報の提供を積極的に行っていきたいと考えています。

海外からの観光客が実際どの位利用したかを調査したことがあります。例えば、富山県の五箇山、和紙の里では1年間に数百人がカードを利用しており、平均単価は4,500円程度でした。その金額だと、当時は免税を受けられないので、「観光案内所に合同の免税コーナーを作り、そこでもう一品買ってもらう。合算すれば、免税を受けられます」といった提案になります。

九州福岡の「キャナルシティ」には年間1,600万人以上の来場者があります。その人達を周辺の商店街にもっと送客できないかと考えることはやってみる価値があるのではと思っています。

楠:

自治体や周辺の商店街からすれば、誰がどこに行っているかのデータを持っているカード会社は一番のコンサルティング・パートナーになりますね。


カード会社の役割は消費喚起へ

楠:

そうなると、地域振興にカード会社の役割は欠かせなくなりますね。

鈴木:

今年、弊社は日本クレジットカード協会の会長会社となっています。協会活動でのキーテーマの一つが「地方創生」と「キャッシュレス」です。いかにして地方に人が出向き、そこで消費を発生させ、お金が循環する枠組みを作り出すかということです。

別の切り口で見ると、例えば全国47都道府県の中では恵まれていると思われている所ですら、中心部はいいものの、周辺部では過疎化が進んで対策に苦慮している所もあります。先程の福岡でも周辺部や隣接県では大きな課題になっています。首都圏と同じで地方は地方で一極集中が進んでいる感じがしますね。

地方を活性化する策として、「海外から観光客を呼ぼう」と言う活動が行われていますが、来ていただくだけでは、なかなかお金を落としてくれません。どうしたら使ってもらえるかを考えていかなくてはいけません。例えば、日本酒に馴染みのない海外のお客様には、最初の一杯を無料で提供することで美味しさを実感してもらい、購買に繋げるといったようなことを積み重ねて行くことも必要かと思います。言うのは簡単で、実際は難しいと思いますが。

また、海外のお客様だけではなく、東京・大阪・名古屋、そういう大都市圏のお客様に地方に足を運んでいただき、いかに新たな消費を作り出すかも重要な課題だと思います。

一泊10万円の旅館に泊まっておられる方は意外に多いですし、数十万円の列車がすぐに満員になってしまうように、特別感のあるサービスやプライスレスなサービスに対してそれなりの消費をする時代でもあります。出かけた先で、今までになかったような感動を味わうことができたら、「もう一回味わいたい」という気持ちになると思います。我々はそういうものを作っていかないと駄目だと思います。付加価値をつけて、これまでにない感動を味わえるようなサービスを提供することが大切なことではないでしょうか。

カード会社はペイメントだけではなく、消費を喚起させる会社になる必要があると考えています。

楠:

東京オリンピックに向けて何か新しい施策など考えていらっしゃいますか?

鈴木:

会社としてはまずアクセプタンスの改善に力を入れていきます。日本では非接触通信(NFC)の規格としてFelicaを採用していますが、グローバルで見るとType A/Bが標準規格となっています。規格が違うと、外国人が来ても持っている非接触の媒体が使えないということになります。今後外国人が利用できる非接触の端末を増やしていこうと考えています。

楠:

日本への観光のリピーターを増やすチャンスでもありますね。本日は、今後の動向が楽しみなお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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