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他業種からの金融サービス参入

2018年2月号

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金融サービスの分野に、FinTech技術を取り込んだ他業種からの参入が相次いでいる。人材・販促メディア事業などを展開するリクルートグループも、中小企業向けに融資業務を開始し注目を集めている。金融サービス参入の狙いは何か。リクルートファイナンスパートナーズ代表取締役、小川安英氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2018年2月号より

語り手 小川 安英氏

語り手

株式会社リクルートファイナンスパートナーズ
代表取締役
小川 安英氏

1998年 リクルート入社。人材サービス事業を経て、2009年より旅行事業を担当。アジアにおける旅行事業の立ち上げに参画。13年IDポイント戦略統括室 室長を経て、16年4月より金融プロジェクト(現Fintech推進室)室長として金融事業に携わり、16年7月 リクルートファイナンスパートナーズ設立と同時に、代表取締役に就任。

聞き手 横手 実

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション事業本部 副本部長
横手 実

1989年 野村総合研究所入社。大手証券会社のアプリケーションエンジニアを経て、共同利用型証券バックオフィスソリューションの企画・設計を長年担当。2005年 大手証券会社に出向し、インターネット証券設立に参画。06年 システム企画部長。08年 NRIに戻り、新システムプロジェクト部、STAR事業部を経て、10年 STAR業務推進部長。14年4月に執行役員に就任。17年より現職。

金融サービスに参入した背景

横手:

金融サービスはこれまで金融機関から独占的に提供されてきましたが、近年、FinTech技術を取り込んだ他業種からの参入が相次いでいます。御社も昨年、旅行予約サービス『じゃらんnet』に参加する宿泊施設に融資のサービスを開始しました。

小川:

弊社は、これまで一貫してマッチング・ビジネスに携わってきました。消費者とサプライヤーのマッチングだったり、求職者と人材を募集している会社のマッチングだったり、分野はいろいろです。これは紙メディアの時代も、インターネット革命後も、変わらず取り組んできたことです。

そんな中で今回、金融サービスに注目した背景は2つあります。

一つは、マッチングの世界にお金の情報が結びつき始めたことです。例えば、宿泊施設の予約についていえば、何月何日の何号室というのは1部屋しかありません。一つのものに対してリアルタイムで予約を埋めることができるとなると、更にもう一歩踏み込んで、その部屋に「2万円で泊まりたい」といったお金の情報が結びついてくるわけです。

横手:

マッチングに自然にお金の情報もついてきたわけですね。

小川:

そうです。

もう1つの背景は、「リクルートポイント」の発展です。弊社にはもともと顧客のロイヤルティーを高めるツールとしてインターネット上のポイントプログラムがありました。「じゃらん」を使って旅館に泊まったらポイントがつきます。それがたまると次回の宿泊に使えます、といったものです。それが、3年ほど前にPontaと提携しました。その結果、たまったポイントが、たとえば、ローソンや昭和シェルでも使えるようになりました。こうなると、少額決済の電子マネーに非常に近いものになります。おそらくこの延長線上にあるのは決済かもしれません。

ですから、われわれにとっては、「金融業を始めた」というより、既存のお客さまにとっての利便性を高めようと思って始めたのが金融サービスだったということです。

横手:

お客さまが喜ぶことを考えたら、それがたまたま金融サービスだった、という感じですね。

小川:

そうですね。弊社にとって、「お客さま」とは、事業者と消費者の両方になります。われわれはこのBとCとのマッチングを行っているわけです。ところがマッチングには、最終的にどこかでお金のやりとりが発生します。ホテルの予約をした場合でも、事前にクレジットカードで支払われるか、あるいは現地で事後的に支払われるかはともかく、どこかでお金のやりとりが行われているはずです。ですから、お金のやりとりについても、何かしら自然な形でサービスを提供できたらいいなと考えたわけです。


スモールビジネスのニーズに応える

横手:

御社が今回まず、Bである旅館への融資をやろうと思ったのには何か理由がありますか。

小川:

弊社では、既に消費者であるCに対しても、住宅ローンの事前審査を複数の金融機関に一括で申し込んで条件を比較できるサービスを提供しています。ですから、必ずしもBから取り組もうとしているわけではありません。

B側でいうと、会社は異なりますがリクルートグループとして3年ほど前から、無料で簡単に使えるPOSレジアプリ「Airレジ」の事業をやっています。リクルートグループがお付き合いをしている企業の大多数はスモールビジネスの方々で、売上管理や会計処理といったバックヤード業務の人手が不足しがちです。そこでITの業務支援ツールを提供すれば、彼らが本業に専念できるのではないかと考えたわけです。

こうした業務支援の次に考えたのが彼らのファイナンスのニーズにどう応えるかです。スモールビジネスにとって、運転資金をどう確保するか、資金繰りをどうするかは常につきまとう課題です。

今回の旅館への融資について言えば、『じゃらんnet』のお取引状況からある程度、融資の返済についても予測が立つのではないかと考えました。われわれが融資できるのは少額の運転資金ですが、それでも役に立てるのではないか、と思ったわけです。

横手:

借り手の事業に密接に関わるデータを持っているからこそ、場合によっては銀行よりも顧客の状況をよく理解した上で運転資金を提供できるというわけですね。

小川:

旅館業は、繁閑のあるビジネスです。冬場には月次のキャッシュフローがマイナスになってしまう事業者も少なくありません。そうした時たとえば、冬の温泉地の旅館で配管につららが落ちてパイプに穴が開き、お湯がどんどん漏れてしまう事故が起きてしまったとします。これではお客さまを迎えることができませんから、今すぐ修繕しなければいけません。ところが、その費用に数百万かかるとなると、たいていは事業計画書を書いて銀行などに融資を申請しなければならないわけです。

横手:

その間にお湯がなくなってしまいます(笑)。

小川:

その通りです。ですから、このような少額の、突発的な資金需要に対しては、われわれが持っている取引データから、即時に融資の判断ができると思ったわけです。

横手:

借りる側のニーズをよく理解しているからこそできる、かゆいところに手が届くようなサービスですね。

小川:

融資額の大きな案件は、やはり銀行や地域金融機関がやるべきことだと思いますので、かゆいところをちょっとかいてあげられればいいな、と思っています。

横手:

今のような事例を聞いていますと、中小事業者のお客さまには他にもさまざまな金融サービスを提供できるように感じます。

小川:

たとえばスモールビジネスは、ほとんどがオーナーと経営者が同一人物ですので、法人と個人の両方の側面があります。こうした経営者は会社の資金繰りを考えるだけでなく、経営の情報を欲しがっていたり、従業員の採用をどうするか、ご自身の後継者をどうするか、悩んでいたりします。ですから、こうした経営者の方々に、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営課題についてトータルにサポートできればよいのではないかと思います。

中小企業の皆さんが元気になったり、地域経済が活性化することで、結果的に日本経済がよくなることに少しでもお役に立てればうれしいと思っています。

横手:

日本においては、企業数で見れば大企業はほんの少しですし、付加価値額でも、大企業と中堅・中小企業で半々です。中小企業が元気にならないと、日本経済全体の底上げになりません。

小川:

そうですね。弊社で提供できるサービスはもちろん、そうでないものも提供できる会社と提携しながら、お客さまに提供していきたいと思っています。

横手:

リクルートの中で閉じずに、いろいろな会社と一緒に顧客にサービスを提供するわけですね。

小川:

われわれが行っている経営支援サービスには「Partners」というブランドを使っています。この「Partners」という名称は、「お客さまとパートナーでありたい」という意味ももちろんありますが、趣旨に賛同いただいた他の会社もパートナー企業として一緒にスモールビジネスを盛り上げていただきたい、という思いも込められています。


金融サービスの民主化の潮流

横手:

現在、金融業界では、提供する側の論理ではなくユーザーの立場に立ってサービスを提供する「金融サービスの民主化」が進行していると考えています。今、お聞きした「お客さまのためにどんなサービスを提供したらよいかを考えて、自然に金融サービスを始めた」という話は、正にそのような流れに沿ったものだと感じます。

小川:

弊社の場合、マッチング事業にずっと取り組んできましたが、裏側では必ずお金が紐づいていたわけです。ですから、この裏側の部分を支えるのも、表側のマッチングをやっているわれわれの責任ではないかと思うわけです。

横手:

過去を振り返ると、IT化の取り組みは、金融機関が他の業種よりもかなり早かったと思っています。膨大なデータを確実に処理することが、業としての宿命だったからです。ところが、スマホなどを通じてITが消費者に身近になると、今度は逆に金融が他の業種より遅れるようになりました。ECや御社のような会社が、消費者の立ち位置でIT化を進めた結果、金融機関よりユーザーエクスペリエンス(UX)の優れたものを提供するようになっています。

小川:

私はフィンテックというのは大きく2つの分野で進展してきていると思っています。

一つは、営業・マーケティング活動です。従来、暗黙の前提とされていた「固定の店舗」と「対面営業」がデジタル化により不可欠ではなくなってきました。もう一つは、実際の金融業務に関わるところです。特に契約関連は文書が多く時間も費用もかかるので、そこを自動化しようとするものです。

ただ、こうした話は金融に限った話ではありません。たとえば、店舗については、あらゆる業態で存続が厳しくなっています。店舗が提供していた価値がアンバンドリングされ、一部はFacebookやLINEといったアプリに代替されました。消費者の時間における「店舗」のシェアが減って、アプリを見ているシェアが増えたわけです。

横手:

おっしゃる通りです。

金融の場合、日本特有の事情としてキャッシュの利用が多いという特徴もあります。これは金融サービスが高コストになる原因となっています。紙ベースの事務と同様、物理的なものが介在するとミスを防ぐためのコストがかさんでしまいます。キャッシュのデジタル化が進めば、いろんな意味でコストを抑えられると思います。

小川:

そこも将来の金融サービスを考える上で大事なポイントだと思います。

横手:

御社は、飲食であれば「ホットペッパー」、就活だったら「リクナビ」といったように、グループとして実にさまざまな人々のライフイベントにかかわっています。リクルートのIDだけあれば、それだけで何でもできる一つの経済圏も構築できそうです。

小川:

可能性としては、そういうこともできるかもしれません。しかし、それはわれわれの目的とはちょっと違うと思っています。

リクルートの企業理念は、「新しい価値」を創出して「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」というものです。そして、「FOLLOW YOUR HEART」、つまり、お客さまがやりたいことをいかに可能にするか、という問題意識がわれわれの根底にあります。ですので、結果的に経済圏みたいなものができる可能性はありますが、あくまで「行きたい旅行にちゃんと行ける」、「やりたい旅館経営をスムーズにできる」といったニーズに応えていくのが大事だと思っています。


金融サービスの理想像とは

横手:

金融サービスには、古くからの規制がたくさんあります。御社が金融サービスに参入するに当たって、「なぜこんなところにこんな規制が・・・」といった疑問を感じることはありませんでしたか。

小川:

今回、貸金業のシステムを自分たちでつくりました。これまでいろいろなシステムをつくってきましたが、これほど細かいところまで画面遷移を弁護士に確認してもらったのは初めてです。

横手:

コンプライアンスの問題があるので、どうしてもそうなりますね。

小川:

いつもは、ユーザーの使い勝手だけを考えて、「このボタンを押したらこうなった方が便利だよね」といった感覚で画面を作っています。ところが「このボタンの次にこれが出てきたら、業法違反です」というようなトラップがいっぱいあったわけです(笑)。

正直、「このルールは本当に必要なのか?」と感じたルールもあります。しかし少し調べると、既に金融機関の方々が当局に問い合わせをしてパブコメが出ているものがかなりありました。当局の説明も納得できるものが多かったです。

金融庁も従来の硬直的な仕組みを変えようとすごく努力されているように感じます。マネロン(Anti-Money Laundering)や顧客確認(Know Your Customer)などの国際ルールは別として、顧客目線に立った業務運営を行うためのルールづくりは進んできていると思います。われわれとしては、そうしたルールに従いながら時流に合ったサービスをつくっていきたいと思っています。

横手:

小川さんが「将来、こうなったらいいな」と考える金融サービスの理想像みたいなものがあれば、お聞かせいただけますか。

小川:

実体経済と金融経済はコインの表裏です。両者が本当に一体化し、金融機関と事業会社が垣根を感じずに経済活動をできる状態になると面白いですね。

たとえば、家を買おうと思ったら、すぐに自分の住みたい家が見つかる。鍵をもらうまで、誰とやりとりする必要もない。いつの間にかローンも実行されているし登記も済んでいる。そんな世界に向かうのがいいのかなと思います。すべて顔パスでいける世界です。

個人や法人の少額の決済や融資などは将来そんな感覚でできるようになるかもしれません。それを実現するための技術もかなり出揃ってきているように感じます。お客さまがやりたいことをやれる、やりたいことに集中できるよう、どんどん便利になればいいと思います。

横手:

そうした未来を実現するためにNRIもあらゆる可能性に挑戦して、貢献していきたいと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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