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不動産テックで拡充する個人向け金融サービス

2018年3月号

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不動産とITを融合した「不動産テック」の動きが活発になる中、不動産の投資型クラウドファンディングへの注目が高まっている。不動産クラウドファンディングは従来の不動産投資市場と何が違うのか。NRIと協業で不動産クラウドファンディング事業に参入することを昨年公表したケネディクスの代表取締役社長 宮島大祐氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2018年3月号より

語り手 宮島 大祐氏

語り手

ケネディクス株式会社
代表取締役社長
宮島 大祐氏

1985年 三菱信託銀行(現 三菱UFJ信託銀行)入行。92年 同行ロスアンゼルス支店に転勤。不動産融資事業担当。98年 ケネディクス入社、2004年 J-REIT運用会社ケネディクス・オフィス・パートナーズ(現 ケネディクス不動産投資顧問)代表取締役就任(2011年まで)。12年 ケネディクス取締役に就任しアセットマネジメント業務を統括。13年 代表取締役に就任。

聞き手 立松 博史

聞き手

株式会社野村総合研究所
執行役員
立松 博史

1987年 野村総合研究所入社。その後、事業戦略コンサルティング部長、経営戦略コンサルティング部長等を経て、2014年 執行役員就任。専門は、住宅・鉄道・不動産の事業戦略、企業再生、マーケティング・組織・人材戦略等。著書・発表等多数。2017年よりビットリアルティ社外取締役、18年1月よりKDDIデジタルデザイン副社長兼務。一級建築士。

洗練された日本の不動産投資市場

立松:

不動産市場が堅調に推移しています。不動産ファンドの組成・運用を手掛ける御社の業績も好調です。現在の不動産投資市場をどう見ていらっしゃいますか。

宮島:

よく「今の不動産価格は高過ぎる」と言われますが、マーケットは極めて健全に運営されていると思っています。理由はいくつかあります。

第一に、今、世の中で極端にオーバーレバレッジになっているマーケットが見当たらないからです。過去を振り返ると、金融市場や不動産市場が大きく動揺したのは、どちらかというと不動産や株式市場からではなくデット・マーケットからでした。現在、金融機関がこぞって不動産に過度に資金を提供するようなことは起こっておらず、貸出は適切に管理されていると思っています。

第二に、日本の不動産投資マーケットの発展はアメリカからは10年ほど遅れましたが、1990年代から2000年代にかけていくつもの波を乗り越えて非常に洗練されました。以前とは違い、何かショックが起こっても狼狽売りに走ったり、過度にオーバーシュートすることはなくなっていると思います。

第三に、業界の地道な努力もあり情報公開が非常に進みました。特に、2001年9月にJ-REITができたことは大きなきっかけとなりました。J-REITに組み入れられているような優良なオフィスでも、賃料のトラックレコードが10年、15年にわたって手に入ります。住宅の家賃も「この条件なら一坪いくら」という情報だけでなく、一定期間家賃を無料にする「フリーレント」の状況などもわかります。商業施設も同様で、物流施設、ホテルなどカテゴリー毎にさまざまな情報を利用できるようになりました。

立松:

投資家が金融商品としてリスク、リターンを合理的に判断して投資できるようなマーケットになってきたわけですね。

宮島:

正にそうです。

さらに第四に、不動産市場が洗練された結果、キャピタルゲインではなくてインカムゲインを狙って不動産を運用する投資家が日米欧で増えてきたことがあります。いろいろな種類の資金が入り始めており、これも市場の安定性につながっていると思います。


不動産クラウドファンディング事業の魅力

立松:

昨今、世界中で、不動産関連のサービスにテクノロジーを活用する「不動産テック」の動きが大きな話題になっています。今、御社とNRIが共同で準備を進めている不動産の投資型クラウドファンディング事業もそうした流れの一つに位置づけられると思います。

宮島:

テクノロジーの活用は今後、ますます加速していくと思います。特にクラウドファンディングは、今後非常に成長する分野だと期待しています。

立松:

クラウドファンディング事業の魅力はどこにあるとお考えですか。

宮島:

クラウドファンディングの対象は個人投資家です。潜在的なマーケットの規模という観点でいえば、個人投資家の資金は巨大です。機関投資家の資金量が大きいといっても、代替資産の一つである不動産に向けられる割合はそれほど大きいわけではありません。ですから、個人投資家のニーズに合致するような商品をつくることができれば、大きな資金の流れを不動産市場に呼び込める可能性があると思っています。

立松:

NRIは、ITサービスの面で御社を支援させていただいています。

宮島:

ケネディクスが本事業のためにいかによい商品をつくり上げたとしても、運営には必ずシステムの構築が必要となります。特にこの分野は膨大なデータを扱いますから、システムの専門家と組む必要がありました。

またクラウドファンディングの世界には、その世界に特有の市場慣行やマーケティングがあると考えています。そうしたノウハウに精通していることも、パートナーとして重要な条件でした。

立松:

弊社としても、不動産アセットマネジメント業界のイノベーターである御社と協業する機会が得られたのは、非常に意義深いです。

宮島:

不動産は物件により個別性が高く、同じタイプであっても一物一価にならないという特性があります。ですから今回のクラウドファンディング事業でも、これまでのアセットマネジメント商品と同様、洗練された投資商品につくりあげる必要があります。これまでも、さまざまなタイプの投資家と一緒にファンドビジネスを構築してきましたので、不動産の特性をどのように市場に提供すればよいか、それなりに理解しているつもりです。この経験はクラウドファンディングでもぜひ生かしたいと思っています。

立松:

今おっしゃったように、御社はこれまで実にさまざまなタイプの不動産ファンドを手がけてきました。クラウドファンディングで提供する商品もその延長線上にあると考えて良いのでしょうか。

宮島:

今回のクラウドファンディングに提供する商品は、ある意味、究極の一任勘定だと思っています。物件を選りすぐり、投資戦略を立て、戦略に従って一任で運用し、情報開示を行うところまでケネディクスがすべて手掛けます。そういう意味で、極めて質の高いアセットマネジメントの能力が求められると思っています。

これまでケネディクスが手掛けてきたファンドについては、不動産の知識をある程度持っているプロの投資家を前提にしていました。ですから、もちろんベストを尽くして商品の提案をしますが、投資家の方たちと意見を調整しながら投資戦略を組み上げていくような側面もありました。

今回のクラウドファンディングでは、何から何まで運営者が決めることになりますので、責任はより重くなります。

立松:

クラウドファンディングのお客さまと長く付き合っていく上で大事なことは何でしょうか。

宮島:

一つは、不特定多数の個人のお客さまと取引するわけですから、厳選した投資情報をすべてのお客さまに一律に提示することが大事になります。お客さまから質問があった場合には、例えばホームページ上で対応して認識に齟齬が起こらないような策を講じる必要があると思います。長期にわたってお客さまと取引を続けていく上で、案件の信頼性や透明性は非常に重要です。

弊社ではこれまでも個人マーケットに参入しようと考えたことが何回かありましたが、なかなか決断できませんでした。というのも、お客さまによって受け取る情報に違いが出てしまうという問題をうまく解決できなかったからです。今回、満を持して個人マーケットに参入するのも、金商法の改正で、投資型クラウドファンディングにおける投資家への情報提供義務が明確に定められたことが大きかったと思います。

立松:

「情報の非対称性」を埋めていかないといけないわけですね。

宮島:

そうです。

それからもう一つ。今回、クラウドファンディング向けに新たに投資スキームを組むに当たっては、不動産のリスクは投資家の方々に取っていただくのですが、特定の企業の信用リスクや環境リスクなど、それ以外のリスクはできるだけ排除したいと思っています。これまでもプロの機関投資家にはそうした投資スキームを提供してきましたが、同じクオリティのものを個人の方々に提供したいと考えています。

立松:

クラウドファンディングのお客さまにはどのようなタイプの商品が向いているのでしょうか。

宮島:

まずは、投資対象がわかりやすく、投資期間や投資リターンがはっきりわかっている、フィクストインカムのような商品が、説明しやすく、訴求もしやすいのではないかと思っています。メザニンローンや、一定期間後にREITなどに売却される予定の物件といった、投資期間をある程度想定できる商品が向いているのではないでしょうか。

また、事業が本格的なフェーズに入れば、都心の優良な物件を個人に年間2%ぐらいの利回りで提供すれば、かなりの需要があると思います。逆に、海外に目を向け、成長性の高い国の好利回り商品などを提供するのもよいかもしれません。

立松:

エクイティ商品についてはどうでしょう。

宮島:

まずはメザニンローンなどベーシックなものから始めて、そこで実績を積み、クライアント像を明確に把握してからエクイティ商品を提供するのがよいと思っています。

もちろんエクイティといってもいろいろあります。長期に安定的なインカムを狙うエクイティファンドもあれば、開発型ファンドみたいなものも可能でしょう。対象物件をリポジショニングしたりリノベーションしたりして付加価値をつけてから売却する、バリューアッド型ファンドを組むのもありだと思います。


ケネディクスの目指す長期ビジョン

立松:

クラウドファンディング以外で、テクノロジーの活用で期待している事業はありますか。

宮島:

注目しているのは、クラウドソーシングの分野です。テクノロジーを活かした効率的なオペレーションとも言えましょうか。

日本では今、インバウンドのお客さまが大変増えており、従来型のホテル、旅館、民宿だけではマーケットの需要に応えられなくなってきています。ニーズのミスマッチも起きていると思います。そうした中で、民泊や、多人数で泊まれるような「簡易宿所」といった多様なタイプの宿泊施設を、新たなテクノロジーを活用して省力化を徹底し、効率的な運営をすることができれば面白いのではないかと考えています。

ケネディクスの傘下に「スペースデザイン」というサービスアパートメント(家具、家電、キッチンなどの付いた住居施設)の運営会社があります。従来のサービスアパートメントとしての運営に加え、民泊の利用者を取り込むことを考えています。ここでは、二つの用途を無理なく、無駄なく運営するためのシステム・テクノロジーが必要です。また、それとは別に、民泊に特化した施設を作り、クラウドソーシングの考え方を導入して、徹底的に無駄を省いた運営をしてみるのも面白いのではないかと思っています。

立松:

もしそういった分野に取り組むとすると、企画の段階からすべて御社で作りこむことになるのでしょうか。

宮島:

そうですね。もちろん、その道のプロの方たちとジョイントベンチャーを組むことになるでしょう。というのも、コンシェルジュサービスから、清掃サービス、鍵の受け渡しまで、すべてテクノロジーで対応できるような体制を整えていく必要があるからです。

若い方たちは、リアルな鍵を用いずにスマートフォンで操作して部屋の出入りをすることに抵抗がありません。カード決済にも慣れています。また、利用者が書き込む宿泊施設のレビューによって、どこが優良かといった情報も行き届くようになっています。ですから、質の高いサービスさえ提供できれば今後大きな成長が期待できるのではないかと思っており、力を入れていきたい分野です。

立松:

テクノロジーを利用してこれまでになかった新しい需要に対応するわけですね。

宮島:

そうです。一方で、不動産テックを活用して少ない供給を有効活用する、シェアリングの事業も面白そうだと思っています。住宅だけではなく、オフィス分野にもWeWorkのような新しいシェアリングオフィスのコンセプトが入ってきています。単なるレンタルオフィスではなく、コワーキングスペースとしてコミュニティのネットワーキングを重視している点で興味深いオフィスの形態です。

それからもう一つ。ロジスティクスの世界では、eコマースの拡大に伴い、商品のデリバリーを効率的に行うための物流ネットワーク構築が非常に重要になってきています。不動産のマーケットも新たなディストリビューション体制に合わせて、新しいタイプのロジスティクス設備が必要となるでしょう。たとえば、生活密着型の商業施設とラスト・ワンマイルのための物流拠点を組み合わせたような施設はもっと出てくるのではないかと注目しています。

立松:

最後に、御社の今後の戦略についてお聞かせください。

宮島:

「Kenedix Vision 2025」と称する長期ビジョンの中で、「ケネディクスでは、自ら不動産を保有しない。グループで組成・運用するファンドが保有する」という成長モデルを明確にしています。

不動産の分野には実にさまざまなプレイヤーがいます。しかし、REITでも私募ファンドでも、ほとんどの会社で自社のバランスシートとお客さまのファンドの間に利害相反が常に発生しています。そこで当社は、ファンドに入れるために一時的に不動産を保有することはありますが、それを長期保有し、そこからの賃料収入を当てにすることは完全にやめました。恐らく日本の不動産プレイヤーで初めてでしょう。

私は、自ら不動産を保有することを前提とするビジネスモデルは、どこかで成長の限界がきてしまうと思っています。むしろ、NRIとともに取り組むクラウドファンディング事業もそうですが、さまざまなタイプの投資家とファンドを組み、事業規模を大きくすることで、成長機会を無限に広げられると思っています。

長期ビジョンでは、「2025年には預かり資産を4兆円にしたい」という考えを打ち出しています。2017年末が2兆円でしたので、今はまだ道半ばですが、社員全員でこのビジョンに沿って会社を成長させていきたいと思っています。その中で、われわれの中核的なビジネスであるJ-REITと私募ファンドに加えて、このクラウドファンディングも重要な事業に育ってほしいと思っています。

立松:

NRIも、不動産市場をよりよくするために、クラウドファンディング事業の成長をテクノロジー面で支えていきたいと思います。業界標準のプラットフォームにしたいですね。

本日は今後の成長が楽しみなお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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