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個人投資家参加でスタートアップ企業支援

2018年4月号

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中小企業やスタートアップ企業の資金調達方法としてクラウドファンディングの活用が盛んになっている。市場規模も年々その存在感を増し、世界銀行の予測では2025年には960億ドルに達するという。サービス形態も様々である。ここに、グローバルで見てもユニークなサービスが誕生した。その共同創業者であるエメラダの代表取締役 澤村帝我氏に、新たなサービスにかける思いを語っていただいた。

金融ITフォーカス2018年4月号より

語り手 澤村 帝我氏

語り手

エメラダ株式会社
代表取締役CEO
澤村 帝我氏

2008年 野村證券入社、投資銀行業務に従事。2012年 ゴールドマン・サックスに転職。投資銀行部門にて、企業買収および資金調達の助言業務に従事。2016年6月 オンラインファイナンスプラットフォームを運営するエメラダ株式会社を共同創業、代表取締役CEOに就任。

聞き手 大崎 貞和

聞き手

株式会社野村総合研究所
未来創発センター 主席研究員
大崎 貞和

1986年 野村総合研究所入社。90年 ロンドン大学法科大学院修了(LL.M.)。91年 エディンバラ大学ヨーロッパ研究所修士課程修了(LL.M.)。2008年4月より研究創発センター(現 未来創発センター)主席研究員。東京大学客員教授を兼務。著書に、「ゼミナール金融商品取引法」(2013年、共著)他多数。

スタートアップ企業の事業支援にかける思い

大崎:

澤村さんは、大学卒業後、野村證券、ゴールドマン・サックスで、主に投資銀行業務を経験された後、エメラダを創業されました。もともと起業したいと思っていたのですか。あるいは就職後、何かきっかけがあって起業を考えられたのですか。

澤村:

私は、何でも自分で考えて行動することが性に合っているところがあります。小さい頃からそうでした。職場の先輩、同僚、後輩には本当に育ててもらったと思いますが、組織の中で力を発揮するタイプではないと思っていたので、30歳が一つのくぎりという気持ちは持っていました。

大崎:

最初のご入社はいつですか?

澤村:

2008年4月です。リーマン・ショックが起きた年です。入社して半年で、マーケットが完全にクラッシュしました。そうした中でも、金融の速さですとか動きの大きさにはすごく惹かれるところがあり、計8年働きました。

野村證券では、現在提供されている金融商品がどういう経緯でどういう議論がなされてできあがったかを知ることができる部署にいました。先輩たちが当局と話をしながら金融商品をつくってきた歴史を垣間見ることができました。それを見ると、野村證券という組織が日本の証券市場をつくってきたといっても過言ではないと感じて、そこに蓄積されたナレッジや人を活用するということは、恐らく金融市場を新しくする上で必要な要素だと思いました。

一方で、新しいオンラインの流れにどう取り組んでいくのかというところについては、現行の金商法の概念からちょっとステップアウトしてゼロベースで考える必要もあるのではないかと思っていました。そこにはどうしても不確実性がありますので、野村證券やゴールドマン・サックスを飛び出してみる意味はあったと思います。

大崎:

それで、クラウドファンディングのプラットフォームを提供する会社を創業されたわけですね。クラウドファンディングに注目された理由はなんですか?また、御社のビジネスモデルは他社と違う面がありますが、その背景にはどんな考え方があるのでしょうか。

澤村:

創業の思いとして、未上場企業を取り巻く金融システムを刷新したいという気持ちがあります。未上場企業の活動に、透明性の高い資金が潤滑に流れていくようにしたいと考えています。ですので、クラウドファンディングは、やりたいことの一部です。

未上場の企業は一部の例外を除いて、売り上げが大きくても数億円といった小さい企業がほとんどです。まったく売り上げがない企業もあります。日本にはそういう企業が数百万社あり、数としては圧倒的多数を占めます。こういう企業に対して、銀行や証券会社がこれまでできなかった資金提供を、どうすればできるか、そこが大事だと思っています。

長期的に見た時に、資金提供を受ける人とお金を出す人の両方が納得する仕組みにすることが大事です。可能な限りリターンが得られるようにするとともに、仮にリターンが得られなかったとしても、投資家が自ら下した判断に納得感が得られるようにすることだと思っています。

株式のクラウドファンディングは今、日本以外ではかなり大きくなっています。イギリスやアメリカで生き残っているプラットフォームを見ると、エグジットの案件も出てきています。良質な案件を扱うということは、それを担保する仕組みがあるということです。ICOもこうしたトレンドを辿っており、今後は既存の法体系の解釈に基づき様々な整備がなされていくと思います。それは、長期的に投資家に納得感を提供できる仕組みであり、企業に対しても利用しやすい仕組みを提供することだと思っています。

大崎:

利用のしやすさとは具体的にはどういうことでしょうか?

澤村:

われわれが提供している「エメラダ型新株予約権」という商品は、ベンチャーキャピタルやプロの投資家が投資する未上場株式を対象とした、コンバーティブル・エクイティの仕組みを取っています。その特徴は大きく2点あります。

1点目は、投資家は、投資時には株式を取得しないで、将来株式を取得する「権利」を保有します。投資家は、将来この「権利」を行使することで株式を取得することができます。

多数の個人が株式を保有すると、企業にとって総会の運営が煩雑になってしまいます。新株予約権というスキームを使えば、投資家は議決権行使の保有者になるわけではありませんので、手間が省けます。

2点目は、新株予約権の行使価格は、将来的に決まります。スタートアップ企業は、まだ経営者しかいない、事業がまだでき上がっていないところがほとんどですから、スタート時に企業価値を判断するのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストでも難しいと言います。そうであれば、株価を決めるのは将来に先送りして事業がもう少しでき上がったときに、プロの投資家の投資判断に任せましょう、という考え方です。

実は、クラウドファンディングでコンバーティブル・エクイティを導入するというのは、グローバルで見ても特殊な事例だと思います。

大崎:

個人投資家からすれば、会社の株を直接持つのではなくて、いずれ買うことのできる権利だけを買うわけですね。でも、予約権ではそれほど大きな資金調達ができないのではないですか。

澤村:

ここは有償の新株予約権という整理です。イメージでいうと、本来50万円を払い込まなければいけないところ、49万9,999円を払って予約権を取得し、行使をするときに1円だけを払い込む形です。

大崎:

企業としては、成長して企業価値が大きく上がれば、追加の払い込みが小さいのに大きな価値のある株を投資家に渡すことができる、そういう判断で発行する、ということですね。

澤村:

そうです。企業価値が将来幾らになろうが、行使時には1円しか払わない、という定義になっています。基本的には、ほぼ全額を最初に払い込むので、資金調達性が極めて高いスキームになっています。

大崎:

こういうスキームを未上場企業に売り込む活動をする中で、手応えはいかがですか。

澤村:

自身がスタートアップの経営者でもありますし、日々スタートアップの経営者と会っている中で、われわれが提唱しているスキームは刺さっていると思います。

例えば、直近で最大8,000万円の資金調達をしようしている会社があります。募集を2段階に分けて行っているのですが、合わせて1営業日ぐらいで埋まっています。330人が1営業日以内に、投資をするんです。

大崎:

投資家からすると、他にもいろんなタイプのクラウドファンディングがあります。ファンド型もあれば寄付型もある、また株式に直接出資するのもあるわけです。そこの違いはどう捉えられているのですか。

澤村:

大前提として、株式のクラウドファンディングというのは応援をするための仕組みです。

大崎:

一獲千金を狙うのではなく、あくまで長期的に応援していくということですね。

澤村:

そうです。基本的には、投資家の方々にはそこは理解していただいています。将来的なリターンを期待しないという話ではありませんが、「入れたお金は返ってこないかもしれない。10社に投資したら、もしかしたら1件だけでも跳ねるかもしれない」といった、まさにエンジェル投資の期待値のスタンスです。

一方で、将来うまくいく可能性に対する自分の目利き力のわくわく感のようなものは残っています。そこは、購入型や寄付型のクラウドファンディングとも異なると思います。

大崎:

平均投資金額はどの位ですか。

澤村:

今、1人当たり二十数万円ですので、ロットはそこそこ大きいです。

大崎:

投資家層の年齢や性別に傾向はありますか。

澤村:

多いのは30~40代の会社員が多いです。性別は、現時点において男性が多くて8割くらいです。

大崎:

ネットビジネスでは、投資家の実像がわかりにくいという指摘もあります。そこはどのように把握されているのですか?直接会うことは、ほとんどないですよね?

澤村:

そうですね。一応、投資家に対してアンケートを採っています。企業を応援したいという理由で投資をされている方がかなり多いです。あと、分散投資の観点で選ばれている方も多いです。

大崎:

上場株投資の経験があるような人ですか。

澤村:

基本的に、経験がある方ばかりです。われわれの適合性原則は結構厳しくて、残念ながら入り口の段階で投資をお断りしている人がかなりいます。やはり、リスクが高いところがあるので、投資経験やお持ちの金融資産、年収の観点でも高いハードルを設けています。

大崎:

国の政策レベルの課題である「貯蓄から投資へ」のお金の動きはなかなか進みません。特に、資産形成層である30代、40代が、証券投資にまでお金を回す余裕がない、持っている金融資産も小さい、リスクをあまり取りたくない、という話を聞きます。そういう平均的な像とはちょっと違う投資家層をうまく獲得されているということですね。

澤村:

確かに、当社のお客さまが日本の同世代を代表するまでにはまだなっていないと思います。アーリーアダプターですね。

大崎:

会社員が多いというのは、企業に勤めながらいろんなビジネスに携わる中で、その経験値を生かしたいという思いがあるということですか。

澤村:

まさしくそうだと思います。会社員としていろんな経験を積んで、自分で判断ができる。しかし、スタートアップに投資する機会はなかなかないですよね。自分が関わっているコミュニティの外にいるベンチャー企業を発見して、その経営者と接点を持つことはかなり難しいと思います。ですから、投資意欲があるそういう方々に対して、当社が「プロの投資家が出資をしている」という条件をクリアした案件だけを紹介し、その上で目利きをしていただく、というのはすごくニーズがある気はしています。

大崎:

ベンチャーキャピタルと一緒に投資をするという、これが御社の極めて大きな特徴だと思います。

ベンチャーキャピタルは千差万別で、どこか特定のベンチャーキャピタルとべったりになってしまうと、プラットフォームとしてはやや中立性の問題が出てくると思います。そのあたりはどのような工夫をされているのですか。

澤村:

当社は、完全中立でやっています。ありとあらゆるベンチャーキャピタルとコミュニケーションを取らせていただいています。当社の株主にもベンチャーキャピタルが数社いますが、基本的に投資案件については彼らに頼ってはいません。逆に、当社の株主のベンチャーキャピタルの案件を扱う場合には、それこそ、投資家に開示をしなければいけないと思います。


新サービスの成功の鍵を握るUI、UX

大崎:

クラウドファンディングも含めて、今、インターネットを使ったいろんな新しい金融ビジネスが出てきており、「フィンテック」といったくくりで語られます。多分御社もその一つに位置づけられると思います。

失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、澤村さん自身は技術者ではありません。創業メンバーの中に技術に詳しい人もいらっしゃると聞いていますが、技術面のハードルは、フィンテックにとってどの位の重みがあるとお考えですか。

澤村:

今、技術それ自体が価値を持っている領域は比較的限定されていると思っています。アメリカで成功しているUberやAirbnbといった会社も、テクノロジーで勝負しているわけではありません。

先端技術よりも、むしろユーザーインターフェース(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)のほうが大事だと考えています。使い勝手がいい、それこそ日本人の「おもてなし」の精神のような、利用者に対する配慮を細かいレベルでシステムに落とし込んでいくこと自体にむしろ価値がある気はしています。

大崎:

そうなりますと、プロセスの分析のほうが重要ということですね。それを短期間で開発してリリースすることも重要だと思いますが、それは決して全部自前でやられる必要はないということになりますか。

澤村:

個人的には、システム開発は内製化をすべきだと思っています。システムのオーナーシップを、少なくとも経営者とコアなエンジニアが持つことの価値はすごく大きいです。

当社は今、オンラインのレンディング事業の準備をしており、もう間もなくスタートできます。その関係でさまざまな地域金融機関を訪問し、総合企画やIT戦略の方々とお会いしています。彼らが何億、何十億のお金をかけて開発しているものを、当社であれば、それよりも高いクオリティで、数千万円でつくることができます。

なぜそれができるのか。極めて優秀なエンジニアは、実は大企業に属していなくてフリーランスでやっていたり、自分で基礎研究を含めて開発の論文を書いたりしています。そういう人間に賛同してもらってオーナーシップを持ってもらうと、その会社の成長を自分が担うんだという覚悟とプライドを持って取り組みますので、クオリティも高いですし、スピードもすごく速いです。

大崎:

優秀という意味が、技術レベルで世界でまだ数名しかできない、といったこととは違うんですね。

澤村:

基礎技術ではなくて、UIとかUXをいかに徹底的に改善していくことができるかです。それこそ、昔、ゼロ戦がすごくよいものとして脚光を浴びました。飛行機を基礎技術とするならば、それは既に存在していました。細かいプロセスを一つ一つ、用途に合わせて徹底的にアジャストしたことで素晴らしいものができあがった。それに近い感覚だと思います。

大崎:

クラウドファンディングや今後やられるレンディングも確かに今ある技術でできるものですね。そこに、UI、UXのこだわりを持つサービスを提供して、未公開会社の飛躍を応援するということですね。

本日は、今後の展開が楽しみなお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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