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日本型RPAをグローバル標準に

2018年8月号

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働き方改革が叫ばれる中、業務の自動化を図るRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に対する国内企業の関心が急速に高まっている。RPAを成功させるカギは何か。なぜ日本型のRPAが世界標準になり得るのか。世界的に高い評価を受けるRPAリーディングカンパニーUiPath日本法人の代表取締役CEO長谷川康一氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2018年8月号より

 

語り手

UiPath株式会社
代表取締役CEO
長谷川 康一氏

1983年 アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)入社。1993年 ゴールドマン・サックス入社。ニューヨーク、香港、ロンドン勤務。2000年 ドイツ銀行入社。日本グループCIO、アジアパシフィック債券部門CIO。2005年 バークレイズ銀行入社。アジアパシフィックCIO、グローバルOutsourcing Strategy、取締役日本COOを歴任。2017年より現職。

 

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション事業本部長 常務執行役員
林 滋樹

1988年 野村総合研究所入社。PMS開発部に配属。保険システム部、金融ソリューション部門プロジェクト開発室長、金融ITイノベーション推進部長を経て、2007年に野村ホールディングス株式会社に出向。09年にNRIに戻り、保険システム推進部長。12年 執行役員 保険ソリューション事業本部副本部長。2014年同本部長。2016年 常務執行役員。2017年より金融ITイノベーション事業本部長。

なぜRPAにいち早く着目したのか

林:

日本企業のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に対する関心が盛り上がりをみせています。長谷川さんがRPAと出会ったのはいつ頃ですか?

長谷川:

2005、6年頃、前職のバークレイズでアジア地域のCIO(最高情報責任者)として、インドのオフショアセンターにて自動化の案件で話を聞いたのが初めての出会いです。ただ、実際にRPAのツールに触れたのは2016年、バークレイズ証券日本法人のCOO(最高執行責任者)をしていた時です。当時最新のRPAを見て「これは、今までできなかった現場のラスト・ワンマイル(最後に取り残された手作業)の自動化を実現できるツールだ」と思いました。

林:

どこがこれまでのツールと違ったのでしょうか。

長谷川:

戦略システムを構築する場合、エンドユーザーの人たちにもいろいろ助けてもらいます。ところがリリースされたシステムを見ると、新しいシステムが悪いわけではないのですが、エンドユーザーの視点で見て、本当に使い勝手を考えたシステムが提供できていないことが多々あり、私にとってジレンマになっていました。RPAは、このラスト・ワンマイルを自動化できるかもしれないと感じたわけです。

林:

その後長谷川さんはRPAを手掛けるUiPath日本法人のCEOに就任されます。グローバル金融機関から新興ツールの会社へ転職されるというのは大きな挑戦ですね。

長谷川:

RPAを目にして、これは非常にディスラプティブで実効的なツールであると確信しました。前職のままRPAを広めることもできたかもしれませんが、それ以上にRPAの可能性に懸けて、日本の生産性向上に尽くしたいという気持ちが強くなりました。

また、外資系金融機関に長くいて、海外のソフトウエア製品が日本でうまく導入できないケースをたくさん見てきました。なぜうまくいかないか肌感覚でわかっていたので、自分でやるのが一番よいと考えました。

林:

数あるRPAベンダーの中でなぜUiPathだったのでしょうか?

長谷川:

UiPathはエンジニアリング重視の会社で、製品は最新のテクノロジーを用い、機能の操作性が抜群によく、アーキテクチャーも素晴らしいと思いました。創設者のダニエルCEOが技術者だった点も惹かれました。

日本のRPAが世界標準になる理由

林:

御社のサービスは日本市場でも急速に導入が広がっていますね。

長谷川:

UiPathは昨年日本法人を設立し、現在400社がお客さまです。SMBCグループやみずほフィナンシャルグループなど金融機関では主要9行のうち7行、さらに日本取引所グループや主要証券会社、主要保険会社がお客さまになっています。また金融業だけでなく主要流通業や製造業もお客さまになっています。

林:

日本では昨年くらいから長時間労働を見直す「働き方改革」がクローズアップされています。これも御社にとって、追い風になっているのではないでしょうか。

長谷川:

確かに時代のニーズがあると思います。

日本は労働生産性が低いことに加え、少子高齢化により働き手が不足する深刻な課題を抱えています。これを受け、仕事の質を見直す「働き方改革」の実現が求められています。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応も必須です。今、日本企業のトップ100社に聞けば、経営課題の一つとしてDXは必ず挙がります。

これらを解決する実効的なソリューションとして「日本型のRPA」をUiPathは提供していきたいと考えています。

林:

面白いですね。「日本型のRPA」とはどのようなものでしょうか。

長谷川:

日本でUiPathを戦略的なツールとして利用している企業を見ると、経営者の意識が非常に高いと感じます。多くの経営者は、会社のピラミッド組織の下から順に昇っていき、その経験をもとに会社の経営を考えています。ですからRPAについても単に「ロボットを入れてコストを減らす」という視点では見ていません。RPAの導入により、手付かずで残ってきた現場業務を可視化し、ベテランが持つ暗黙知をデジタルナレッジ化することで、人間が主でロボットが従の協業を実現したい。現場の負担を少なくして人間をもっと戦略的な仕事に配置したい。社員の満足度を高めて会社を元気にしたい。そういう熱意があるんです。

一般にRPAを表現する言葉として、「簡単、大量、繰り返し」というのがあります。しかし、日本の経営の求めるRPAは、「簡単」ではなくて「複雑」、「大量」ではなくて「少量」、「繰り返し」ではなくて「多様」つまり「分岐のある繰り返し」の自動化です。

そうした「日本型RPA」の要求に応えられる製品を開発し、グローバル標準とすれば、私たちは世界で最も成功するRPAカンパニーになると思っています。

金融機関はRPAをどう活用すべきか

林:

UiPathのサービスの評価は非常に高まっていると感じます。特に手応えを感じている産業はありますか。

長谷川:

UiPathの特徴として、「versatile(汎用的)」という言葉がよく使われます。日本でも世界でも全業種でUiPathのサービスは使われています。ただその中で金融機関は特にRPAのニーズが高い業種であると考えています。

金融機関は正確性、時限性、高いセキュリティが求められています。その下で、これまでシステム化できてこなかった多様なプロセスがあります。成長戦略が求められる中、時間的かつ精神的に多大な負担をかける手作業から社員をまず解放する自動化が求められます。

林:

NRIのソリューションでも、金融関係のお客さまのプロセスの一部、やはりラスト・ワンマイルのところで御社の製品を使わせていただいています。

長谷川:

RPAの導入を成功させるには、お客さまの業界のビジネス、システム、人事政策、更にはカルチャーへの配慮が必要です。RPAの導入では当然のことながら、業務改革から始めます。またガバナンス、ロボットワークフロー等、考慮すべき点があり、伝統的なシステム開発とは違う性質のものです。そこでNRIのような強力なパートナーの知見を特に最初に活用することが必要になってきます。

海外の事例を見ても、導入に成功したケースは、まずRPAの導入経験が豊富なコンサルティング会社を活用している企業が多いです。

林:

近年、地銀の収益力低下が懸念されています。リソースの問題もあり、なかなか新しいことにチャレンジできずにいます。

長谷川:

地銀は、メンテナンスにかかるシステム経費が重く、新しい取り組みが難しいという話を聞きます。例えばロボットセンターを共同で設立して外出しできるものを選別した方がいいのではと思います。また、社内でしかできない手作業や事務処理も、もっとロボットを活用できる余地がありますし、テンプレート化して地銀全体で活用できれば、生産性は上がります。地銀が元気になれば、地方全体が元気になります。ぜひ一緒に進めたいと思っています。

林:

金融機関は今後どんな風にRPAを使っていったらよいのでしょうか。

長谷川:

金融機関には優秀な方が非常にたくさんいます。問題はそういう優秀な人たちの能力が今は十分に活用されていないことです。

金融機関の業務が複雑化して、その領域の専門家として業務を回すことを要求されます。しかしその時間のほとんどは細かい手作業に費やされているように思えます。RPAを使って優秀な人たちがもっと生産的な仕事に集中し、成長戦略を描ける方向に進めてはどうでしょうか。

林:

RPAのプロジェクトでは、経営は前向きでも、現場はなかなか動かず、どう現場を巻き込んでいくのか苦労しています。

長谷川:

成功例を見ると、そこには「キラーコンテンツ」があります。会社の人がよく知っている手間暇のかかる手作業を自動化できた、というような実績をいくつか出し、身近でその効果が周知されることが大事だと思います。

RPAを成功させるカギは

林:

NRIでもRPAに関わるコンサルティングの需要は大きいです。しかし、先程おっしゃったような「複雑で、少量で」というのは難しく、苦労しています。RPAを成功させるカギはどこにあると思いますか。

長谷川:

RPAを成功させるには3つのカギがあると思っています。一つは「スケール(規模感)」です。全社展開を目指した規模感が効果の最大化のために必要だと思います。

そのためにはトップダウンとボトムアップ両方のアプローチが必要になります。前者は、会社全体のガバナンスの視点から、コンプライアンスやセキュリティ要件、それにインフラ要件を見ながら効果の高い案件を導入します。ここはNRIのようなコンサルティング会社の知見が必要となります。一方、後者は、エンドユーザー自身が自分でRPAを使い、利用対象業務を広げていくものです。これがないと本当の意味での現場の自動化はできません。

二つ目は、「レジリエンス(安定/向上稼働)」です。RPAは基幹システムなど既存のシステムを変更することなく迅速に連携することができますが、一方で既存のアプリケーション、OS、HWすべての変更の影響を受けることになります。大規模に稼働しながら、影響を吸収することが安定稼働です。そして更に、RPAの特性であるシステム開発に比べ改良がし易いという点を活かし利便性を上げていくのが向上稼働です。

三つ目が「インテリジェンス(人工知能活用)」です。例えばAI技術を利用した様々なフィンテックアプリケーションとの連携でRPAは重要な役割を担います。RPAにより予めデータを整備することで、できることの範囲が飛躍的に拡大します。

林:

三つ目の「インテリジェンス」は、RPAをいろいろなものにつなげ、企業のデジタル基盤とする、ということですね。

長谷川:

その通りです。UiPathはオープンプラットフォームのコンセプトでアーキテクチャーが設計されており、今後新しいテクノロジーにより開発されるアプリケーションと既にUiPathによって繋げられた既存アプリケーションを簡単に連携させることができます。

外部、顧客へのデジタル化は、内部のデジタル化の成功が鍵だと思います。

今、RPAに注目してほしいのはCIOの方たちです。これまでRPAプロジェクトはどちらかといえば企画部門、デジタル戦略部門やユーザー部門の方が主体でした。最近はシステム投資効率の向上を考えているCIOの方から、UiPathの導入要請が多くなってきました。システムの改善や導入にはお金がかかります。そこにRPAを活用することで、既存システムの業務処理効率を大幅にアップし、今あるシステムの寿命を延ばすことができます。システム刷新ともなれば莫大な費用と期間がかかります。RPAをシステム化計画に入れて、複雑なGUIの構築をRPAでカバーさせて投資を最小化することもできます。また、システム開発の現場でシステムテストへの活用など開発効率の改善を目指すこともできます。

UiPathの描くRPAの将来像

林:

RPAはまだまだ進化していきそうです。御社ではRPAの将来についてどのようにお考えですか。

長谷川:

とてもわくわくするようなRPAの将来像を描いています。これまでの生産性の向上を実現するためのRPA活用から、これからは新しいビジネスモデルを創造するための戦略ツールとしてRPAが活用されるようになると考えています。RPAをビジネスに導入することで、今までは無理だと諦めていたり、これまでビジネスの延長では考えられなかったような新しいビジネスモデルを創造し実現するチャンスが得られます。

「あなたに部下が100人いたら何を始めますか」。私たちはRPAにより拡がる新しいビジネスモデルの可能性を問いかけています。

たとえば、自然言語処理(NLP)をRPAに組み込む。今でもeメールに添付された請求書の情報を読んで自動的に請求書システムに入れることはできますが、NLPを活用するとeメールの文章を読んで適切に対応してくれます。

それからRPAはOCRとすごく親和性が高いです。たとえば手書きの請求書をOCRで読んだときに全部の項目がわからなくても、請求書番号さえ読んでくれれば、RPAが会社の請求書システムに行ってそこから情報を取ってくることができます。さらにRPAとAIが組み合わさると機械学習ができます。たとえばRPAが過去の請求書を読み込んでAI-OCRに機械学習させれば、それが辞書登録になります。本年3月16日の日本銀行の「ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ」ですでに成功事例が報告されています。

要するに、RPAが手足となって既存の投資とニューテクノロジーをつなぐわけです。目がOCRで、口と耳がチャットボットで、頭脳の部分がAIだとすると、それを手、足のRPAと組み合わせることでいろんな可能性が出てくるわけです。

これに関連して、私たちは今年9月に「マーケットプレース」をリリースする予定です。AppleのAppStoreのように、いろいろな会社がつくったソリューションを載せて、それをみんなが使える仕組みです。

林:

御社にとってはRPAは「効率化のツール」ではなくて、顧客のビジネス創造を支援する「戦略ツール」に発展していくことが重要だということですね。

本日は、長谷川さんのRPAにかける情熱がひしひしと伝わってくるお話を聞くことができました。どうもありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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