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ファンドラップの営業で顧客本位を実践

2019年2月号

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新たな収益の柱とすべく個人向け資産運用ビジネスに力を入れ始めている金融機関は多い。金融庁が打ち出す「顧客本位の業務運営」は、その新たな柱の「柱」となるのか。ファンドラップなどの営業実績をあげている福岡銀行は、顧客本位なくして新たな柱は育たないと言い切る。福岡銀行は顧客本位とどう向き合っているのか、執行役員営業推進部長の一番ヶ瀬氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2019年2月号より

語り手 一番ヶ瀬 達吉氏

語り手

株式会社福岡銀行 執行役員 営業推進部長
一番ヶ瀬 達吉氏

1987年 福岡銀行入行。2008年 人事部副部長。14年 小倉支店長、16年 渡辺通支店長を経て、17年 営業推進部長。18年 執行役員営業推進部長就任、現在に至る。ふくおかフィナンシャルグループの執行役員営業統括部長を兼務。

聞き手 金子 久

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融イノベーション研究部 上級研究員
金子 久

1988年 野村総合研究所入社。株式の運用モデルの開発、投資戦略に関する調査に従事。2000年より投信評価、資産運用ビジネスに関する調査を担当。途中2005年から2006年まで野村證券経営企画部に出向。2014年4月より現職。専門は個人向け金融商品に関する制度・マーケット調査。

人生100年時代の資産運用サービス

金子:

低金利が続く中、多くの銀行で新たな収益源を確保しようとしています。個人向けの資産運用サービスに力を入れる動きは、その一貫かと思います。

一番ヶ瀬:

確かに本業である貸出から収益を伸ばしていくのは、難しい時期に来ています。ただそれは最近始まったことではないので、以前より、お客様から対価を頂くことができるサービスは何かを考えてきました。それが、お客様の資産運用のお手伝いをすることでした。

金子:

投信の銀行窓販が解禁されたのが1998年12月1日でしたので、銀行において資産運用サービスが始まってから丸20年が経ちました。その間、銀行の資産運用サービス部門が元気な時期もありましたが、ここ数年、投信の預かり残高が減少していることから見ても、やや元気をなくしているように感じます。

一番ヶ瀬:

2017年度は投資信託の販売が好調で残高も増えました。しかし、18年度に入り、販売額は対前年比マイナスの状況が続いています。そこは他行と大きな違いはない状況にあると思っています。

今は、資産運用サービスについて見直しを図る時期にきていると考えています。

金子:

見直しの必要性について、特にどういうところで感じているのでしょうか。

一番ヶ瀬:

寿命が延びて人生100年といわれる時代になる中で、自分の資産を長生きさせることが必要になってきています。しかし、預金金利も低いですし、ただ持っていても資産は増えていきません。資産を長生きさせる方法の一つとして、投資信託あるいはファンドラップを用いた資産運用があると考えています。そのあたりをお客様にうまく伝えていく必要がありますし、それに沿った営業スタイルに変えていかないといけないと考えています。

実際、普通預金の口座を持っているお客様の中で投信口座を開設しているのは、ほんの数%という状況です。これは、「資産を運用していく」という考え方の重要性や必要性をお客様にまだ伝え切れていないことを表わしています。

金子:

「数%」から脱却するには、まずは資産運用の重要性を伝える必要があるということですね。

一番ヶ瀬:

元々いろいろな金融商品がある中で、そのまま預金に置いているお客様は、リスクに対してかなりネガティブといいますか、価格が変動する商品に対して「怖い」という意識をお持ちです。投信口座を持っている人がそれほど多くないということは、やはり大半がそういうお客様なのだと思います。

例えば、アメリカでは退職金といったリタイア後の資金が、元本の2~3倍に増えている統計があります。そうしたことを伝えて、資産運用の重要性、必要性を伝えていくことがわれわれの資産運用ビジネスの拡大につながっていくのではないか、と思っています。

お客様の裾野が広がるファンドラップ

金子:

御行では、新しい取り組みとして2年ほど前からファンドラップのサービスを始められました。そもそもファンドラップを始めようと思った狙いは何ですか。

一番ヶ瀬:

お客様と話をしていると、「将来に備えて資産運用を考えたいけれどもどうすればいいかがわからない」、「預金だけで持っていても仕方ないので、分散投資をしていく必要性はわかるけれども、どういうのを買ったらいいのか、どう組み合わせたらいいのか、どのタイミングで売買したらいいかを決める自信がない」という声をよく耳にします。そういうお客様に対するソリューションとして提供できるサービスが、ファンドラップではないか、ということで導入しました。

金子:

実際、始めてみて、感触はいかがでしたでしょうか。

一番ヶ瀬:

導入当初は、あまり売れませんでした。2016年11月に導入しましたが、2018年に入っても売れない状態が続きました。行員にファンドラップの勧め方に慣れてもらおうと思い、2018年7月からキャンペーンを始めて、集中的に推進しました。

金子:

最近になって実績が上がってきたということですね。今どれくらいの残高になっているのでしょうか。

一番ヶ瀬:

9月末時点で、福岡銀行で89億円、福岡フィナンシャルグループ(FFG)全体で119億円でした。11月末にはFFG全体で120億円を突破している状況だと思います。

金子:

投信の預かり残高と比較すると2~3%といったところでしょうか。

一番ヶ瀬:

そうです。

最初、担当者の中には、ファンドラップを投資信託の一商品のような捉え方をしている者もいました。キャンペーンをはることでファンドラップは運用を一任するサービスで、ある特定の投資信託を買うのとは違うというのが浸透しました。それが、少しずつ実績につながってきている状況だと思います。

金子:

ファンドラップの取り組みを検討している地銀のかたからは、「投信販売とはノウハウのレベルがまったく異なるので、行員の育成がすごく大変だ」といった話を聞きます。実際に開始されて、そのあたりはどう思われますか。

一番ヶ瀬:

ファンドラップという商品において行員がすべきことは、お客様から聞いた内容をヒアリングシートに埋めて、お客様が期待する運用スタイルをお互いに共有することです。その情報をベースに、ファンドラップという形で一任勘定としてサービスを提供するわけです。ですから、行員に求められるのは、個々のファンドの細かい商品知識というよりは、むしろお客様のニーズを聞きだすこと、といったほうがいいかもしれません。ですので、単体の投資信託の販売を長年経験していない人のほうがとりかかりやすい商品かもしれません。

金子:

お客様のファンドラップに対する反応はいかがでしょうか。

一番ヶ瀬:

「預金では増えないし、かといって株投ではちょっとリスクが高いよね」と考えていらっしゃるお客様がほとんどです。ですので、保守的な運用を望まれる方が多いです。そうしたお客様に、ファンドラップの商品性を説明しながら、お客様のニーズを伺うことに力を置いていますので、商品の押しつけになっていない点はお客様から評価されていると思います。お客様の意向を聞いて売るといういわゆる顧客本位の営業がこのファンドラップでは実践できていると思います。

ただ、お客様の投資の意向についてきちんと確認する機会を今以上に持つことで、お客様の裾野はもっと広がると思います。当初想定していた層にはまだまだ当たり切れていないと考えています。

金子:

ファンドラップの販売を伸ばそうとすると、「元々の投信のお客様を食い合うだけではないか」、「ファンドラップは伸びても元々の投信ビジネスが縮小していくのではないか」という懸念を持つ方がいらっしゃいます。これは、既に始められた立場から、どういうふうに感じられていますか?

一番ヶ瀬:

食い合うということはないと思っています。短期の利益を追求されるお客様に単品の投資信託を売る場合には、「どれを売るか」ということになり、投資信託間で食い合いが生じると思いますが、ファンドラップは違います。

そもそもファンドラップは、今まで投資信託を購入されたことのないお客様を中心に、商品説明をしています。層を広げるための商品です。ですので、お客様の拡大にはつながっても販売額が食い合っているという意識はないです。

金子:

ファンドラップは、サービスの性格上、一定の資金量が必要です。そうでないと、ファンドラップでの運用のメリットが出てきません。ですので、お勧めできるお客様も限られてくるのではないかと思うのですが、ファンドラップ以外で、新しい取り組みはされていますか。

一番ヶ瀬:

ファンドラップ自体も、もっとお客様が契約しやすい商品性を目指して見直しを図りたいと思っています。その他、今力を入れようとしているのは積み立て型の商品です。

時間分散という観点でいうと、積み立て投資信託、つみたてNISAです。

実は、積み立て投信をやっている銀行員は結構多いんです。しかも、長期保有で継続している人は、資産が増えているんです。そうした経験を積んでいるので、お客様に対しても説明しやすいし理解も得やすい商品になっています。

ファンドラップもそうですが、一括購入する商品はどうしてもそれなりの資金が必要です。けれども、積み立て投信であれば、若い人たちが将来を見通して資産形成しようというときにもやりやすい商品です。

金子:

投資というのは、勉強することも大事ですが、実際に体験してみることが重要だと思っています。どれくらいのリスクが許容できるのかは教科書にも書いてないですし、各人によって違います。少額ずつ積み立てることによって、どれくらいのリスクに耐えられるのかを体験しながら投資できるという意味では非常にいい仕組みかな、と思っています。

徹底した顧客本位の意識付け

金子:

先ほど、ファンドラップでは顧客本位の営業が実践できるというお話をいただきました。御行としての顧客本位の取り組みについて教えていただけますか。

一番ヶ瀬:

福岡銀行では、期初の支店長会議で、頭取から「お客さま本位の業務運営」がいかに重要か、お話するようにしています。それによってまずは意識の浸透を図っています。更に、その後、役員が営業店を回って、改めてフィデューシャリー・デューティについての重要性を伝えています。意識を浸透させることを徹底してやっています。

更に、経営層から一方的に伝えるだけではなくて、各営業店でワークアウトをやり、「顧客本位の取り組みをするためには、どういうことをやったらいいか」について自ら考えてもらうようにしています。これにより、意識の定着を図るようにしています。

金子:

それは、現場の販売員の意識が非常に重要な要素であるということですね。

一番ヶ瀬:

そうです。われわれの営業実績は、顧客本位の取り組みをきちんとやる結果として出てくるものでなくてはなりません。顧客本位の取り組みが今後のわれわれの銀行の営業スタイルの根幹だというのを従業員みんなが共有することがベースとなります。数字を取ることと「顧客本位」は相入れない、といった考えや意識では本末転倒になります。

金子:

長期にビジネスを安定化させるという視点は、顧客本位とベクトルがあっているということですね。意識を徹底させるほかに、取り組んでいることはありますか。

一番ヶ瀬:

個人の評価や支店の業績も、顧客本位に沿った形で、ここ数年手直ししてきています。顧客本位の行動ができた人を評価したり、資産運用についても、ストック部分の評価を強化したりしています。

金子:

現場の意識改革は結構時間がかかると思うんです。着実に浸透しているという感覚をお持ちですか。

一番ヶ瀬:

だいぶ浸透してきていると思います。

ですが、そういう意識を持たなくても、普通通り「うちの売り方」をしていれば、結果としてフィデューシャリー・デューティができている、という形にまで持っていかないといけないと思うんです。そういう仕組みをつくり上げていきたいと考えています。

旧来型の銀行本来業務にとらわれずに、法人にしても個人にしても、お客様の企業価値向上ですとか、お客様の資産を拡大していくとか、そうした本当にお客様にとって良いことを、こちらからきちんと提案していけるような体制にしていきたいんです。その結果として、収益がついてくるというスタイルに変えていかないといけません。

そういう方向に持っていくことが今後生き残っていくといいますか、地方銀行の求められているものだと思います。

金子:

適切な提案ができるかというのは、まさにお客様を深く知ることもそうですし、多面的なおつき合いをしないとなかなか難しいですよね。

一番ヶ瀬:

そうですね。こちらがかなり高度な知見を持っておかないと、難しいと思います。例えば業界の話であれば、お客様のほうが当然詳しいわけですが、少なくともそれについていくだけの知識は持ちたいです。資産運用に関しても、非常に詳しいお客様もいらっしゃいます。そうしたお客様に対してもきちんと説明できるようなスキルやノウハウ、知識を身につけておかないといけません。それと、次世代に資産を残していきたいお客様には、どう残していくのがいいかといったコンサルティング、アドバイスをすることもできるようにならないといけません。ですので、専門性の高い人材を育成していきたいですね。

金子:

個人にとって一番身近な金融サービスを提供しているのが銀行です。特に、地方銀行の場合には、地元に密着しており、頼りにされている存在かと思います。「顧客本位」のサービスへの真剣な取り組みは、他の地方銀行からも注目を集めていると聞きます。

一番ヶ瀬:

ふくおかフィナンシャルグループのブランドスローガンは「あなたのいちばんに。」です。これは、「いちばん身近」で「いちばん頼れ」て「いちばん先を行」っている「銀行」でいたいという想いが込められています。それを本当に体現していきたいと思っています。

また、FFGには、FFG証券という証券子会社があり、密接に連携を図っています。銀行で取り扱っていない商品やサービスがある場合には、福岡銀行からFFG証券にお客様を紹介しています。逆に、証券会社のお客様で、資産の承継や相続といった課題を抱えておられる方が銀行に紹介されることもあります。そうした相互送客の仕組みがしっかりできていることも、「お客様本意」の一要素になっていると思います。

金子:

「顧客本位」の取り組みについてじっくりお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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