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不動産投資のハードルを下げる新サービス

2019年6月号

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個人資産の運用先として不動産投資を検討したことはあるものの、資金面、インサイダー取引規制などの面で、実際の行動にうつすことができない人は多いのではないか。ここにそうした課題を解決したいという思いで創業した会社がある。どのような不動産投資サービスを提供し、今後どの方向を目指すのかビットリアルティの代表取締役社長 菊嶋勇晴氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2019年6月号より

菊嶋 勇晴氏

語り手

ビットリアルティ株式会社 代表取締役社長
菊嶋 勇晴氏

1997年 日本電信電話株式会社(NTT)入社。NTT東日本でサービス開発業務に従事。2006年からケネディクス不動産投資法人(現ケネディクス・オフィス投資法人)の運用会社であるケネディクス・リート・マネジメント株式会社にて資産運用業務、資金調達、IR業務に従事。2014年から取締役企画管理部長として、ジャパン・シニアリビング投資法人(現ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人)の立ち上げに参画。2018年2月より現職。

立松 博史

聞き手

株式会社野村総合研究所 常務執行役員
立松 博史

1987年 野村総合研究所入社。その後、事業戦略コンサルティング部長、経営戦略コンサルティング部長等を経て、2014年 執行役員就任。2019年 常務執行役員。専門は、住宅・鉄道・不動産の事業戦略、企業再生、マーケティング・組織・人材戦略等。著書・発表等多数。2017年よりビットリアルティ社外取締役、18年1月よりKDDIデジタルデザイン副社長兼務。一級建築士。

非上場の不動産ファンドを個人、法人に提供

立松:

ビットリアルティについて、馴染みのある方はまだそれ程多くないと思います。まず、どのようなことをされていらっしゃる会社かご紹介いただけますか。

菊嶋:

ビットリアルティは、従来はプロの機関投資家しか投資できなかった非上場の不動産投資ファンド、いわゆる私募ファンドを個人や法人の方々に提供するサービスを行っています。すべてインターネット経由で行っており、これは日本初のサービスです。

これまで個人投資家が不動産投資を行おうとすると、アパート経営やJ-REITなどに選択肢が限られていました。しかしアパート経営には多額の資金が必要ですし、資産管理にも手間がかかります。誰でも簡単に手を出せるものではありません。一方、J-REITはアパート経営と比べると少額で投資できますが、株価に連動する傾向が強いため、価格の変動幅が低い不動産への投資にも関わらず、日々価格変動の影響を受けてしまいます。

そこで、多額の資金を必要とせず、しかも上場市場の影響を受けない私募ファンドへの投資の機会を個人投資家の皆様に提供したいと考えていました。

当社は、不動産アセットマネジメント会社のケネディクスと野村総合研究所(NRI)が合弁で2017年6月に設立した会社です。ケネディクスは20年以上にわたってプロの機関投資家とビジネスをしてきました。すなわち私募ファンドの組成には十分な実績があります。そうした中で、個人投資家の方々にも不動産投資に参加いただき、不動産の投資市場を大きくしたい、という思いがずっとありました。しかし、ケネディクスはいい商品は提供できるのですが、それを個人の方々に提供する手段を持っていません。個人投資家には、高いレベルでのセキュリティが確保され、安全な資産管理の環境が求められます。そこで、システムインテグレーターであるNRIとタグを組むことにしたのです。

立松:

ケネディクスがそういうことを考えられていた時に、NRIも、ITとコンサルティングの力を使ってお客さまの事業革新に貢献できることをしていこうということを確認した時期でした。まさしく、思いが合致したということですね。

ビットリアルティは無事に今年1月から事業がスタートしました。

菊嶋:

1月15日から会員の登録を始めまして、4月末の時点で第3号ファンドまで募集が終了しました。第1号ファンドが約1億円、第2号ファンドが約5億円、第3号ファンドが約2億円で、合計8億円ほどの資金調達を行いました。毎回ファンドを出すたびにいろんな投資家の顔といいますか像が見えてきます。日々そうしたものを吸収し、「次にどういう案件を出していくべきか」を考えながら、前に進んでいる状況です。

立松:

ビットリアルティの商品は、1つのファンドに1つの物件となっており、どの物件に投資しているかが明確になっています。しかも、非常に分かりやすく情報開示されています。その辺りはかなり工夫してマーケティングをされているのではないかと思います。

菊嶋:

ケネディクスグループは上場REITを含め2兆円を超える受託資産残高を持っていますし、私自身もJ-REITの運用会社で長年経験を積んできました。個人が、不動産投資商品について、どういったことを知りたいと思っているのか、情報開示はどこまでやるべきかについて、ノウハウは蓄えてきたつもりです。

今までのいわゆる不動産のクラウドファンディング商品のうち、代表的な貸付型については、資金需要者の匿名性ですとか複数化といった規制がありましたので、「どの事業者に貸し付け、どういった物件に投資しているのかがわからない」という声はよく耳にしていました。

物件の明示については、ビットリアルティがこだわったところです。どの不動産を裏づけにしているのかがわからない商品では、投資していただけないと思いました。ですので、各物件とも、どういうテナントがどのくらいの期間借りていて、賃料収入の変動リスクがどのくらいあるのか、といったことを分かりやすく開示することに努めてきました。そして、そうした開示をすることができるライセンスを取りに行きました。

立松:

ビットリアルティの設立から開業までに1年以上を要したのは、情報開示にこだわって、ライセンス取得に時間をかけたからなんですね。

菊嶋:

そうです。「電子申込型電子募集取扱業務」という名称の第二種金融商品取引業の一つのライセンスです。これを2018年11月に取得しました。このライセンスがあれば、われわれのスキームと組み合わせて、投資先の物件名も出していいですし、どういうテナントが借りているかも開示でき、非常にオープンに募集できます。

ビットリアルティのこだわり

立松:

第3号ファンドまで出されて、当初の想定と大きく違っていたところは何かありますか。

菊嶋:

投資家層がわれわれが想定していたものと違っていました。

実は、会社員が6割以上です。次いで会社役員、あとは個人事業主です。法人も投資に参加しています。当初想定したよりも投資家層の幅が広いと感じています。また、一般の会社員の投資ニーズが思っていたよりも大きかったことは驚きです。

立松:

今回出されている商品はインサイダー規制の枠外の商品ですよね。

菊嶋:

上場していませんので、インサイダー取引の規制対象外になります。しかも、1回買うと償還まで売ることができませんので、運用途中で物件に関する有力な情報を得たとしても、売り買いはできません。

立松:

インサイダー取引の対象外で、ある種どなたでも投資できるというところが、ハードルとしては低かったのかもしれませんね。

菊嶋:

そうかもしれないです。インサイダー規制で今まで有価証券を買えなかった方々は結構いらっしゃいます。そうした方々が、ビットリアルティが提供する商品のスキームやリスクを理解されて、堂々と買える商品が出たということで行動に移されたのではないかと思います。実際、金融機関の方から、「ようやく買える商品が出た」という声を頂いています。

立松:

年代はどうですか?

菊嶋:

結構若いです。アラフォーが結構多いですね。J-REITの投資家層は50代後半と言われていますので、一世代若いのではないかと思います。

立松:

とするとREITの投資家が流れてきたわけではなさそうですね。

菊嶋:

第1号から第3号ファンドまでは、大々的に宣伝活動をしたわけではありませんので、口コミで広がったものと思います。やはり金融リテラシーが高くて、アンテナが高い方が、口座開設、そして実際の投資というアクションを起こされているのではないかと思います。

定期預金に預けていても利息は全然つかないですよね。もう少し高い利回りがいいけれども、変動が大きいものはちょっと、という方は結構多いです。そうしたとき、1年くらいの期間である程度安心して預けられる投資商品を求めていた人のアンテナにひっかかったのだと思います。

立松:

投資家層は変化していくと思いますか?

菊嶋:

今は、運用開始したファンドばかりで、トラックレコードがありません。第1号ファンドが9月末に初めての配当と償還を迎えます。トラックレコードが出てくると、法人や機関投資家のプレーヤーも増えてくるのではないかと思います。

立松:

第1号から第3号ファンドまで、すべて完売でしたよね。

菊嶋:

われわれが気にしていたのは、ソーシャルレンディングの世界でよく耳にする「瞬間蒸発」です。募集開始と同時に満額に達してしまうという事象です。われわれの商品の最低投資額は100万円です。「「何時スタート」ということで、スマホを片手に、時計を見ながら、用意ドンですぐ売り切れてしまった」では、商品の魅力はなかなか伝わりません。そこを、われわれは懸念していました。100万円以上投資されるのですから、じっくり考えてから投資いただける環境をつくりたいと思っています。 第1号ファンドについては正直想定よりも早く売れてしまいました。ですので、第2号、第3号ファンドでは、そういったことがないように、じっくりご投資いただけるようなボリュームと募集期間を設けました。

立松:

募集期間中にいろんな問い合わせはあるものですか。

菊嶋:

想定したよりも、問い合わせは少ないという印象です。REITのI Rを担当していた時、問い合わせがないことは、うまく開示ができている証拠だと考えていました。ですので、今回も、投資判断に必要となる情報が開示できている、と皆さまにご判断いただけたのではないかと捉えています。

ビットリアルティでは、2種類の会員制度を設けています。メールアドレスだけを登録いただく会員と投資用口座を開設する会員です。メールアドレスだけでは、募集のお知らせなどを一早く受け取ることはできるものの、非会員と同様の開示内容となります。口座まで開設すると、さらにテナント情報やほかの債権者情報など詳細情報を見ることができます。

そうした情報開示が、逆に問い合わせの件数を少なくさせているのではないかと考えています。

立松:

情報開示に関するこだわりは非常によくわかりました。その他、サービスを提供する上で、ここは譲れない部分だったといったところはありますか。

菊嶋:

投資家の資金の安心安全な管理です。かなり厳格に、倒産隔離の仕組みを取り入れています。

立松:

これは日本で他にないですね。

菊嶋:

日本初です。金銭信託の枠組みを使っています。一瞬たりとも、お客様の資金がビットリアルティを通過しないようになっています。それによって、万が一ビットリアルティに運営上の問題が生じたとしてもお客さまの資金は完全に安全に守られます。

実は、お客様に、「口座に入金してから、ビットリアルティのマイページで入金額が確認できるまで、なんで時間がかかるの?なんで瞬時に反映されないの?」と聞かれます。これは、倒産隔離の仕組みを入れているからです。普通預金口座であれば、すぐに反映できますが、直接金銭信託口座に入金してもらうためタイムラグが生じるんです。金銭信託の口座管理はシステム化が進んでいないところで、入金情報がアナログで届くのです。ここはビットリアルティが頑張ればなんとかなる部分ではありません。しかし、お客さまにとって何が大事かを考えたときに、倒産隔離を担保することを優先しました。

立松:

不動産投資のクラウドファンディングを謳っている事業者のホームページを見ると、パッと見、ビットリアルティと同じような商品を扱っているように見えます。そのパッと見たときに、気になるのが、想定利回りの違いです。比較すると、ビットリアルティの想定利回りは抑えられているように見えます。

菊嶋:

それは投資対象が違うからです。専門用語でいうと、リコース・ローンとノンリコース・ローンの違いです。ビットリアルティは、不動産に直接投資していますので、ノンリコース・ローンです。想定利回りが大きく違うところの開示資料を見ますと、不動産だけのキャッシュフローではなくて不動産事業を営んでいる会社に貸しつけているリコース・ローンになっていることがわかります。

立松:

似て非なるものということですね。

不動産投資については、大きく出資の部分なのか、ローンの部分なのかに分かれると思います。

菊嶋:

ビットリアルティは、会社を立ち上げたばかりですので、まずはローンの部分の商品提供から始めています。

ローンであれば、物件の価格が下落したときでも、出資よりもダメージが少ないですし、元本が返ってきやすいというところがあります。ですので、ローンのファンドを3号続けて出しました。

不動産投資ファンドのプラットフォーマーを目指す

立松:

ビットリアルティは、ケネディクスがもっている債権だけを対象にしているのですか?

菊嶋:

ビットリアルティは、ケネディクスが、個人投資家に対して不動産投資の機会を提供したい、ということで立ち上げた会社ですし、今はその立ち上げの時期でもありますので、対象はそうなっています。

立松:

確かにケネディクスに限定したとしても、上場REITやプロの機関投資家向けの私募ファンドに入れるような高品質な物件ばかりですから、困ることは一切ないですよね。

第1号、第2号ファンドは、六本木駅に近く、テナントにはホテルが入っているビルが投資対象となっていました。これは、不動産の素人でも、立地的に稼働率が高そうなことが想定できる物件であったと思います。

菊嶋:

ケネディクスがもっている債権の中でも、この六本木のビルはピカ一だと思います。

ただ、皆さまが「これはいい」と思えば思うほど、利回りは低くなるものです。非常にいい立地の、いいテナントが入った物件は、どうしても利回りが低くなります。裏を返せば、安心できる物件と捉えることもできるかと思います。

立松:

先ほど、「今は」ケネディクスの債権を対象にしているとおっしゃいました。「今後は」は違ってくることもあるということですか。

菊嶋:

ビットリアルティ自体は、不動産投資ファンドのプラットフォーマーを目指しています。ケネディクスが保有する債権を対象としたファンドで実績を重ねることで、プラットフォーマーとしてのブランドが確立できれば、他の不動産会社の運用物件も対象になってくると思います。

プラットフォーマーとしてのデューデリジェンスと言いますか、目利き力がなければ、他社からプラットーフォームとして利用したいというお話をいただいたとしても、それが良い商品なのかどうか見分けることができません。ですので、今はわれわれの中で選別する力を蓄える時期と考えています。

立松:

今後の広がりにも期待できますね。今日は、日本初のサービスについてお聞きすることができ、楽しい時間でした。ありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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