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データインテリジェンスにより「攻め」のデータ利用へ

2019年8月号

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EU一般データ保護規則(GDPR)を契機に、世界中でデータガバナンスの重要性に対する認識が一段と高まっている。日本の金融機関も例外ではない。データ管理の高度化を司るデータガバナンスの未来はどのようなものか。「データインテリジェンス」を推進するCollibraで、世界の有力企業の導入現場に立ち会うGautam Kher氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2019年8月号より

ゴータム・カー

語り手

Collibra アジア太平洋域パートナーシップ担当
ゴータム・カー氏

2001年 J.P.Morgan証券に入社し、投資銀行部門のアナリストに従事。03年、人材マネジメントのCEBにチーフ・スタッフとして入社し、その後、部門COOに就任。07年 Nine Industriesを起業(共同創業者)。その後、Booz Allen Hamilton、GoodData、HIRABLを経て、17年 Collibraに入社。19年1月より、同社にてアジア太平洋域のパートナーシップ担当。

松下 隆一

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融グローバル事業推進部長
松下 隆一

1992年 野村総合研究所(NRI)入社。都市計画、事業開発コンサルティングを担当。2000年 NRIネットワークコミュニケーションズ出向。03年 NRIに戻り企画部、アジア事業推進室を経て、08年 NRIと三菱商事と合弁会社である上海菱威深信息技術有限公司(iVision上海)に出向、副総経理。14年 NRIシンガポールに出向し、金融システム事業を担当。17年より現職。

データガバナンスの今

松下:

Collibraは世界の有力企業に、データの価値を最大化する先進的なプラットフォームを提供しています。今年の始めには、ユニコーン企業の仲間入りを果たされました。市場の期待を集める中で、お客様のデータに関する認識が大きく変わりつつあることを実感されているのではないでしょうか。

Kher:

まず言えるのは、世界中で多くの組織が今ようやくデータは戦略的資産だと気づき始めたことです。

松下:

データの重要性は昔から言われてきたと思います。ただ以前はどちらかというと、情報が新しい、あまり知られていない、といった情報の希少性が重視されていました。

Kher:

そうですね。現在多くの会社が進めているデータガバナンスでカギとなっているのは、データ管理の重要性を組織で共有する「データ文化」の醸成です。データは真に組織を変革できると考えられているわけです。

松下:

近年、データガバナンスの必要性が広く認識されたきっかけの一つに、欧州のEU一般データ保護規則(GDPR)があると思います。私は、データガバナンスとは個人データを軸にして、さまざまな情報を個人に紐づけていくことだと理解しています。GDPRでは特に個人データの保護、データ所有者である個人が持つ権利とともに、データをいかに安全かつ正確に流通させるか、に主眼が置かれています。

Kher:

そうですね。GDPRによって、データ管理に対する信頼やプライバシー保護がこれまでになく重要になっているのは確かだと思います。

ただ、そうした信頼やプライバシーの重要性が高まっているのは、GDPRのような規制が急速に進展し導入されようとしているからだけではありません。より重要なことは、自社の「ブランドを守る」という観点です。そもそも会社は信頼されて個人データを託されているのですから適切にデータを管理しなければなりません。

松下:

今おっしゃられたようにGDPRのような個人データ保護規制は世界中に出てきています。日本でもGDPRに先立ち2003年に個人情報保護法が施行されています。Collibraではデータガバナンスやプライバシーのベストプラクティスの観点から、こうした動きをどのようにプラットフォームに反映させているのでしょうか。

Kher:

これらの規制により、我々のお客様は、重要なデータ管理プロセスを導入する義務を負うことになりました。ベストプラクティスの観点から大事なことは、第一に、主たるプロセスの確立、第二に、冒頭で述べたような、個人データの保護や管理に関するデータ文化の醸成、そして第三に、実際に個人データを安全に確保することだと思います。

Collibraではお客様が場当たり的でない、持続的なコンプライアンス対応ができるよう心掛けています。提供するプラットフォームを活用することで、お客様は簡単にデータのインベントリ(目録)作成や棚卸しを行えるようになり、自身が何のデータをどこに保持しているかを容易に把握できます。また、データ課題の対応ステータスを管理したり、プライバシーを適切に取り扱う環境(プライバシー・バイ・デザイン)が整っているかをモニターできるようになっています。

このように、Collibraが提供するプラットフォーム機能を利用することで、お客様は、①規制遵守、②データ保護、③イノベーション、の3つのメリットが得られると考えています。

データ管理を全社横断的な取組みにするには

松下:

先ほどデータ文化の話がありましたが、とても難しい課題だと感じています。日本の金融機関の多くは、リスクデータ管理に関するバーゼル規制(BCBS239)や、世界的なマネーロンダリングやテロ資金供与対策への対応からデータ管理をスタートさせました。そのため、専任部署が対応しています。一方、データ文化となると、全社レベルの体制構築に引き上げる必要があり、部門横断的な取組みに苦労しているように感じます。何かアドバイスをいただけますか。

Kher:

いくつかのポイントがあると思います。

第一は、具体的な成功の指標を設定することです。リスクやコンプライアンス分野で、こうした定量化を行うことは簡単ではありません。しかし、仮にデータ管理プロセスがなかったとしたら、銀行にどのくらいのコストがかかってしまうかを示す例は見つけられると思います。

第二は、データの効率的な管理やガバナンスの価値を理解している賛同者をユーザーである事業部門で見つけることです。データを利用したり提供したりするのは事業部門です。彼らはリスクやコンプライアンスの利害関係者であり、データ管理プロセスの重要性を理解しています。

そして第三は、こうした変化を進めるときは、「小さく始めよ」ということです。まず足元で解決したい問題から出発し、成功して良いモデルを確立できたら、この成功を再現するにはどうすべきか、どう全体の戦略に敷衍していくかを考えるのがよいと思います。

松下:

主要な欧米の金融機関の取組みを目の当たりにするなかで、参考となるベストプラクティスはあるでしょうか。

Kher:

金融業界では、データ共有のモデルとして、フェデレーテッド(連合型)アプローチが注目されていると思います。このアプローチは、全社レベルで共通の条件や基準を設けつつも、同時に事業部門ごとの柔軟性も確保しようとするものです。たとえば資産運用部門とリテール銀行部門で異なるルールを持つことを認めるわけです。こうした柔軟性を持つことで、個別の事業部門が変革に貢献していると感じることができ、文化を変えやすくなる効果もあります。

松下:

金融機関のお客様で特に印象的な導入例はありますか。

Kher:

金融セクターでは、欧米トップ10の銀行のうち7行が弊社のお客様で、印象的な事例も多くあります。

世界最大手のある銀行に、現在、データレジストリの構築のため弊社のサービスを利用いただいています。データレジストリは銀行全体で共有され、事業部門責任者、データアナリスト、データサイエンティストなど異なる利害関係者が一つのデータセットを利用します。

本サービスの利用により、この銀行ではデータ資産の共有環境を大幅に改善できました。さらに、この共有を通じて得られた情報を、クレジットカードなど新商品のリリースに活かすことに取り組んでいます。また、事業部門を跨って情報共有することで、リテール顧客の支店での体験とモバイルアプリでの体験を対比させ、顧客体験の最適化を図ることも可能となりました。データを利用して収益を拡大させるだけでなく、活用を通じて顧客体験も改善しようとしています。

データの未来:データインテリジェンス

松下:

今年5月にCollibra主催の“Data Citizens 2019”というイベントがニューヨークで開催されました。メインテーマは「データの未来」で、答えの一つに「データインテリジェンス」というキーワードが挙がっていました。

Kher:

われわれは、データの生成者であれ利用者であれ、データにかかわるすべての人を「データシチズン」と呼んでいます。「データインテリジェンス」は、データシチズンがデータの隠れた価値を見つけて取り出せるようにすることです。すべてのデータシチズンに、複雑な課題を解決し、新しいアイデアを実践し、更にはビジネスの成長に向けられる力を与えたいと考えています。

松下:

データガバナンスを巡る議論の中心が、データをどう活用するかという視点に変わってきているわけですね。

Kher:

そうです。われわれはそうしたトレンドを非常に歓迎しており、是非リードしていきたいと思っています。

データインテリジェンスでは、信頼を高め、協力関係を強化し、情報を共有することで、究極的には、適切な順番でビジネス課題を解決していけることに重点を置いています。

松下:

データインテリジェンスを推進していく上では、どのようにAIや機械学習を製品に取り込んでいくかがやはりカギになってくるのでしょうか。

Kher:

その通りです。正に弊社が重点的に投資を行っている領域です。AIや機械学習は、データシチズンが業務を効率化できるよう、自動化とレコメンデーションを提供します。我々が提供する機能により、データ利用体験を向上させ、より優れた知見をデータから得られるようにできると考えています。

松下:

企業がデータガバナンスを規制対応やリスク管理といった「守り」だけでなく、収益機会をもたらす「攻め」にも利用しようと考えるにはどのようなきっかけがあるでしょうか。

Kher:

ビジネス上の要因はいろいろあると思います。

1つ目は、個人データです。個人データは、銀行にとっては顧客記録そのものです。ですから、銀行は顧客体験を改善するために、どのように個人データを活用するか考えるわけです。

銀行セクターでは顧客体験に関する競争がますます激しくなっています。最適な顧客体験を提供することが、ブランド・ロイヤリティを高めることにつながるので、どの銀行もデータから新たな知見を引き出そうとしています。

2つ目は、銀行内部におけるデータ分析機能の向上とデータサイエンスコミュニティの台頭です。

銀行は引き続きデータサイエンスとそれを支えるインフラに大きな投資を行っています。そして、大きな投資に見合う価値を確実に生み出して欲しいと思っています。しかし実際には、データサイエンティストの多くが、利用したいデータにたどり着くまでに長い時間を費やしています。データへのアクセス方法を見つけ、アクセス許可を得て、さらに実際に使えるようにデータを加工しなければなりません。信頼性の高いソースデータをすばやく利用できる環境を整えるのは非常に大事なことです。

松下:

「攻め」に向かうには、データサイエンティストによる仕事の効率性を高めることがカギを握るわけですね。

Kher:

その通りです。

そして3つ目は、特に成熟した多くの銀行が新しいビジネスチャンスをつかもうとしていることです。

彼らはブロックチェーン技術を活用したり、顧客のモバイル体験を向上させたりして、市場シェアを引き上げたり成長性を改善したりする新しい方法を探し続けています。チャンスをつかもうと大きな意思決定や投資を行うとき、データは中心的役割を果たします。データは信頼できるのか、データから得られた知見を信頼してよいのかが重要になるわけです。

松下:

今のお話を聞いていると、やはり「お客様のことを知りたい」という気持ちがデータ活用を考える大きな動機になるようですね。

Kher:

そうです。特に顧客体験や顧客の反応は非常に重要です。

銀行におけるデータ利用の歴史を見ると、もともとはデータの「作成」に関心が集まっていたことがわかります。このデータはどこで作成されたのか、どのように作成されたのか、どのように管理されているのかが大事だったのです。

しかし今は、そうしたデータを「利用」したいと考える人たちが増えています。ビジネスの意思決定を早くするため、より迅速にデータを利用したいと考えています。データに基づいた意思決定をするために、データを欲しがるユーザーがビジネス部門に増えています。これが、「攻め」のデータ利用へ向かわせているのです。

急速に高まるアジア太平洋地域における関心

松下:

Collibraは昨年、アジア太平洋地域初の拠点としてオーストラリアのメルボルンにオフィスを開設しました。日本を含むアジア太平洋におけるビジネスの今後をどのように見ていますか。

Kher:

欧米に続いてアジア太平洋でも個人データ管理に関する企業の意識が成熟してきていると感じています。データインテリジェンスの機能を構築することにも非常にオープンな姿勢で、受け入れる準備が整いつつあります。

アジア太平洋ビジネスをオーストラリアから開始したのは、多くの現地企業が欧米と同じくらい成熟していたからです。導入を目指すプロセスも欧米と非常に似通っていました。

今年に入ってからアジア太平洋地域全体でデータ管理やデータガバナンスへの関心が急速に高まってきていると感じます。特に日本、シンガポール、香港、インドといった国々で顕著です。

彼らは、欧米の大手グローバル企業が犯した個人データ管理やプライバシーに関する失敗を繰り返したくないと考えています。

松下:

日本でデータガバナンスへの関心が非常に高まっているのはわれわれも実感しています。

Kher:

日本は、今年1月の世界経済フォーラムにおける安倍首相のスピーチがきっかけとなった面があるのではないでしょうか。

松下:

そうですね。「デジタルデータが経済成長のエンジン」というメッセージは話題になりました。

Kher:

日本で銀行セクターの方々と話していると、欧米のベストプラクティスを導入したいという意欲も感じます。規制対応の域を超えて、データインテリジェンス能力を構築し価値を生み出すための方法を真剣に考えていると思います。

松下:

同感です。われわれもこうした意欲に応えて、今後も御社とともに日本やアジア太平洋市場でのデータガバナンス普及に取り組んでいきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

Kher:

我々も御社に協力していただいて非常に素晴しい経験をさせていただいています。御社のグローバルなプレゼンスにも非常に期待しています。欧州、米国、日本、アジア太平洋と地域を問わず広い視点でのパートナーシップを楽しみにしています。

松下:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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