Nuveenのアフィリエイト・モデルとビジネス展開
世界最大規模の資産額を誇る運用会社が日本に上陸した。しかし、グローバルに見ても、その会社名、ヌビーンを知っている者は限られている。どのような特徴を持つ運用会社なのか、なぜこのタイミングに日本に拠点を設けたのか。ヌビーンの魅力の一つであるWin-Win-Winモデルを中心にヌビーン・ジャパン代表取締役社長の鈴木康之氏に語っていただいた。
語り手
ヌビーン・ジャパン株式会社 代表取締役社長
鈴木 康之氏
2018年 ヌビーン・ジャパン株式会社の代表取締役社長、マネージング・ディレクターに就任。日本における経営企画、株式、債券およびオルタナティブ戦略に関するマーケティングおよび商品企画を統括。Nuveenグループに入社する以前は、外資系運用会社にて機関投資家およびリテール向けのマーケティング業務、債券およびオルタナティブ商品のプロダクト・マネジメント業務などに従事。
聞き手
NRIプロセスイノベーション株式会社 社長
横島 豊
1988年 野村総合研究所入社 証券共同システム部に配属。T-STARなどの資産運用会社向けソリューション開発に携わる。2012年 資産運用サービス開発二部長。2017年 資産運用ソリューション事業本部付 兼 資産運用サービス事業部長 兼 資産運用サービス開発三部長。2018年4月よりNRIプロセスイノベーション社長に就任。
Nuveenのアフィリエイト・モデル
横島:
御社は昨年、日本に進出されました。不勉強で恥ずかしいのですが、当初、御社の名前を存じ上げず、後日世界最大規模の資産額を誇る運用会社であることを知りました。
鈴木:
Nuveenは米国外で営業展開してから日が浅く、まだ知名度が低いかもしれません。
弊社は、米国最大級の退職年金プラン提供機関TIAAの運用部門です。TIAAは、米国の大学教職員および非営利団体に対して退職年金プランを提供するために、カーネギー財団によって100年前に設立されました。現在、約500万人の退職年金プランの加入者及び15,000を超える機関投資家を有する強固な顧客基盤となっています。
横島:
Nuveenは主としてTIAAの資産を運用しているということですか?
鈴木:
ご指摘の通りです。弊社はグローバルで約110兆円を運用していますが、多くの部分はTIAA本体の資金です。弊社は投資家の資金を受託して運用するアセット・マネージャーとしての側面と同時に、自社グループの資金を運用するアセット・オーナーとしての側面を持ち合わせています。自社の投資戦略に自己資金もコミットすることで「お客様と同じ船に乗る」という発想は、フィデューシャリー・デューティーの観点からも極めて重要だと考えています。
横島:
相当な規模ですね。
鈴木:
アクティブ運用会社としては世界有数の運用規模だと思います。
横島:
御社は幾つもブティック型の資産運用会社を買収されています。その狙いを教えていただけますか。
鈴木:
弊社はアセット・オーナーという立場から、自社が投資したいと考える優れた運用会社を買収してきました。現時点で専門性の高い運用会社14社を傘下におさめており、いずれも各分野において優れた運用実績を有しています。例えば、株式運用については、Winslow Capital(グロース)、NWQ(バリュー)、Santa Barbara(配当成長志向)とスタイル別に専門の運用会社を持っています。また、プライベート・アセットについては資産クラス別に専門の運用会社を有しています。具体的には、世界最大級のコア不動産運用会社であるNuveen Real Estate、世界最大級の農地投資会社であるWestchester、コモディティのGresham、プライベート・デットにおいて長期にわたって優れた運用実績を有しているChurchillなどがあります。
一般的に小規模体制の運用会社は、経営コストが大きくなることが多く、運用報酬も大手よりも高い傾向があります。弊社グループでは買収した運用会社に対して営業、オペレーションなど、スケールメリット(規模の経済性)が働くものはすべて弊社が提供します。これにより各社の経営効率を改善させ、運用により注力できる体制を整えています。このビジネス・モデルを弊社では、アフィリエイト・モデルと呼んでいます。その発想は、弊社の原点がアセット・オーナーだからです。
横島:
Nuveenと傘下の運用会社がWin-Winの関係が築けるということですね。
鈴木:
実はこのモデルはWin-Win-Winだと考えています。
先ほどの通り、アフィリエイト・モデルによってグループ運用会社の経営効率が改善され、運用報酬を以前よりも下げることができます。弊社は自社グループの資金をグループ運用会社の戦略に投資していますので、運用報酬の低下は自社グループにとってプラスとなります。
さらに、買収された運用会社にとっては、経営効率が改善されることに加えて、TIAAおよび弊社グループのブランドやAAA格を有する信用力がつきますので、外部の機関投資家からの資金もより集まりやすくなります。
外部の投資家にとっても、以前より低い運用報酬で商品提供が可能となるのでプラスとなります。また、クライアント・サービスにおいても弊社が傘下の運用会社を全面的にサポートします。
このように、弊社がこれまで構築してきたアフィリエイト・モデルは、弊社グループにとっても、買収される運用会社にとっても、外部の投資家にとってもプラスになりうるビジネス・モデルだと考えています。
横島:
まさにWin-Win-Winモデルですね。傘下に入ることで、実際に投資家からの引き合いが増えていますか。
鈴木:
例えば、Churchillというプライベート・デットの会社があります。優れた運用実績を有する洗練された運用チームでしたが、傘下に入ったことで外部の投資家からの受託も大きく伸びました。
オルタナティブ投資とESG投資の2本の柱
横島:
いわゆるアフィリエイト・モデルをとっている運用会社は他にもあると思いますが、他との違いを教えていただけますか。
鈴木:
アフィリエイト・モデルでかつ運用資産の多くが自社グループの資金という会社は稀有だと思います。また、弊社は非上場の企業グループですので、短期的な収益を追う必要がなく、買収した運用会社を長い目で育てることができる点も特長です。
横島:
農園投資はオルタナティブ投資の中でも、かなりユニークな印象があります。
鈴木:
農園投資はまず土地を購入し、農家と契約して、土地の賃料とそこで生産される作物の売却益の両方がリターンの源泉になります。弊社傘下のWestchesterは世界中で投資活動を行っており、農園投資においては世界最大級の規模を誇る運用会社です。
横島:
オルタナティブ投資での運用額はどのくらいありますか。
鈴木:
約25兆円を運用しており、これは世界最大級の規模だと考えています。
横島:
確かにすごい規模ですね。
鈴木:
特にリアル・アセットに力を入れており、不動産は約13兆円、農園投資も約1兆円の規模となっています。このほか、コモディティ運用のGresham、森林投資を手掛けるGreenWoodなどの運用会社があります。
横島:
日本法人でもオルタナティブ投資の強みを生かしていく方針ですか。
鈴木:
日本法人を立ち上げた背景は、これから日本でオルタナティブ投資への取り組みが増えると考えたからです。
横島:
GPIFは資産残高160兆円のうち、オルタナティブ投資の上限を5%としています。御社は相当な規模ですね。
一方で、オルタナティブ投資が増えるとその投資対象自体が減少する、といった話もあります。
鈴木:
資産クラスごとにソーシングできる案件の数・規模は違ってきます。そこは明確に年間このくらいまでという運用とビジネスのバランスを持つ必要があります。
もし過度に企業収益を追求するならば、少し無理をしてでも多くの投資資金の募集を行うかもしれません。こうした行動は結果的にポートフォリオ構築の遅れなど投資家の機会損失につながる可能性があります。しかし弊社は非上場かつ財務基盤が安定しているため、常に投資家の利益を最重要と考え、募集金額と運用ペースのバランスを守るように努めています。
横島:
日本進出のきっかけは、オルタナティブ投資へのニーズがみえてきたから、ということですね。
鈴木:
その通りです。また弊社のもう一つの柱であるESG投資が日本で盛り上がりをみせていることがあります。
横島:
御社はESG投資についても古い歴史がありますよね。
鈴木:
70年代から本格的にESG投資を運用戦略に活用しています。過去には、アパルトヘイト問題に関連して南アフリカの企業に対してエンゲージメントを行った実績もあります。この分野ではパイオニア的存在であり、国連のPRI事務局によるレポートで最高評価のA+を獲得しています。
横島:
日本ではESGがブーム的な面もあります。特に投資先企業へのエンゲージメントについて注目が集まっています。そうした点のメリット・デメリットについてどうお考えですか。
鈴木:
メリットはエンゲージメントを行う投資先企業へ長期的な価値の創造・向上を促せる点です。またガバナンスが行き届いていない投資先には改善を促し経営のダウンサイド・リスクの抑制にもつながると考えています。
一方で、いわゆるアクティビスト的に実現性の低い強いメッセージを出すと投資先企業との関係が崩れてしまい健全なコミュニケーションが成り立たなくなります。経営資源の配分においても企業に無理をさせてしまうリスクがあります。その点は常に配慮が必要だと考えています。
弊社では日本企業に対して、現在最も重要だと考えているのはジェンダー・ダイバーシティの改善です。企業が経営判断を行う上で、女性の視点を積極的に取り入れた方がより経営の柔軟性が増すという研究報告は多くみられます。しかし、いきなり「数年以内に女性取締役を過半数にすべき」というのは無理があります。改善が必要な企業にはまず1人か2人の女性を取締役会のメンバーに専任するよう提案しました。エンゲージメント先からポジティブな回答を多く得られており、実際に今年度に入ってからこれらの企業で女性取締役が選任されたケースもあります。これは非常に素晴らしい傾向だと考えています。
横島:
エンゲージメントによるアプローチ方法はグローバルで統一しているのですか。
鈴木:
各国の歴史や価値観を踏まえて実現可能なものを提案しないと、結局反発を受けるだけで結果が伴わなくなります。弊社では国・企業ごとにアプローチ方法を変えて提案をしています。
実現に向けてハードルが高い要求を投げかけることで「あの運用会社はよくやっている」と思われるようにすることは単なるスタンド・プレーです。投資先企業と良好な関係を構築し、長期的な視点に立って連携して改善に努めていくべきだと考えています。
横島:
日本に来るタイミングを計っていたということですが、かなり後発ですよね。
鈴木:
弊社は慎重な会社で、進出先で経営が成功するかだけでなく、その地域に貢献できるかという判断も重要視しています。弊社が強みを有するオルタナティブ投資とESG、これらが明確に日本で盛り上がる兆しがみえましたので、日本へ進出するタイミングだと判断しました。
ただ、グローバル展開が遅いのも事実で、約110兆円の運用資産のうち、大部分は米国の投資家からの資金です。本格的な世界展開はまだ始まったばかりです。
横島:
日本で公募投信の販売は行っていないですよね。
鈴木:
ご指摘の通り、日本においては機関投資家へのビジネスが中心となっています。一方、自社ブランドの公募投信はありませんが、サブ・アドバイザーという形で運用を受託しており、昨年日本法人を開設してから、日本のリテール市場より約1,000億円の資金が集まっています。
横島:
かなり順調に集まっていますね。
ローカルファーストの経営理念
横島:
日本でビジネスを展開するにあたって、御社ならではの理念についてお聞かせいただけますか。
鈴木:
企業カルチャーとして投資家への優れた投資サービスの提供に努め、また金融市場に対しても貢献していきたいという大前提があります。
横島:
金融市場への貢献とはどういうものですか。
鈴木:
弊社では、日本の投資家からの資金を受託・運用するだけでなく、海外の機関投資家による日本市場への投資も促したいと考えています。実際に弊社の日本株式・不動産戦略などを通じて、まとまった資金が日本の金融市場に投資されています。今後、日本の金融資産を運用する体制は拡充しますので、海外資金が弊社の運用戦略を通じて市場に流入することを期待しています。
横島:
その地域の市場の活性化にも貢献するというのは、非常に高い志ですね。
鈴木:
市場への貢献に関してはもう一点あります。外資系企業ですと、アドミニストレーションは本社の意向にあわせて、提携先企業が選定される傾向にあると思います。これは投資家のニーズよりも自社の都合が優先されており、フィデューシャリー・デューティーの観点から望ましくないと考えています。弊社の場合、日本のビジネスの大部分はあくまで日本人投資家の意向を優先し、多くのケースで日系の信託銀行やシステム会社に業務依頼をしています。日本の投資家のためにサービスを提供する以上、クライアントおよびローカル・ファーストの視点が重要だと考えています。
横島:
NRIグループにとっても非常にありがたい話です。
一方で、グローバルに付き合いのある会社のほうが、全社的にみてオペレーション上、楽な面もあるのではないですか。
鈴木:
それは否定できませんが、弊社のメリットというよりはクライアント・ファーストを重視することが大切だと考えています。
横島:
最後に、日本法人の立ち上げにあたって、最も考慮した点があれば教えてください。
鈴木:
投資家に質の高いサービスを継続的に提供していくためには、安定的な組織の構築が不可欠だと考えます。それにはダイバーシティを維持することが極めて重要です。まだ小さい組織ですが、現時点で男女比率は半々、年齢構成・経験年数・バックグランドもバランスを取って採用しています。日本法人の立ち上げ前に他社の事例を幅広く調査しましたが、男女比率・年齢構成等が偏っている事例が多くみられました。弊社では、長期的な視点に立って安定的な組織運営を行っていくために、当初からダイバーシティを重視した組織の構築に努めています。
横島:
NRIも御社のビジネスに貢献できるよう邁進しますので、長くお付き合いいただけたらと思います。
本日は、ありがとうございました。
(文中敬称略)
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担当部署:株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
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