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デジタル活用で、働き方のさらなる高度化を目指す

2019年12月号

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人事戦略の一つとして「働き方改革」に力を入れる金融機関は多い。一方で金融機関はその特有の文化、風土、マインドから、改革実現の難しさは否めない。デジタル変革時代における「金融機関の働き方」について、働きがい、人事慣行と共に顧客本位とどう向き合うか。令和元年度総務省「テレワーク先駆者百選」に選定された岩井コスモ証券代表取締役会長CEOの沖津氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2019年12月号より

語り手 沖津 嘉昭氏

語り手

岩井コスモ証券株式会社 代表取締役会長CEO
沖津 嘉昭氏

1984年 岩井証券(現岩井コスモホールディングス)入社。90年 同社取締役、91年 常務取締役、93年 専務取締役を経て、95年 代表取締役社長。2010年 コスモ証券取締役会長。岩井証券とコスモ証券の合併に尽力。12年 岩井コスモ証券株式会社代表取締役社長。16年より岩井コスモ証券代表取締役会長CEO(現任)。

聞き手 岩村 優子

聞き手

株式会社野村総合研究所
証券ソリューション事業部上級コンサルタント
岩村 優子

金融コンサルタント。1994年~2001年 日本長期信用銀行(現新生銀行)にてデリバティブ・外為システムに携わる。銀行破綻を経て、2001年 アーサーアンダーセン経営コンサルタントに従事。現在はNRI金融コンサルタントとして「働き方改革」「相続マーケットを捉える」等の講演に多数登壇。

証券業を取り巻く環境

岩村:

上期の業績が公表されました。前年度に続き、好調さを保っているように感じます。

沖津:

この上期は、前年に比較すると減収減益ですが、今般の厳しいマーケット状況を考えますと、まずまずだと感じています。

岩村:

会長は、証券業とそれを取り巻く環境をどのように見ていらっしゃいますか。

沖津:

今の日本は「超高齢化」「人口減少」「投資離れ」です。この業界の将来は相当厳しいと思っています。気を引き締めていかなければいけないという危機感を持っています。

日本経済は発展をとげ、国全体が豊かになりました。ただし、投資活動が盛んになるのは、ちょっとした小金ができて、それをもっと殖やしたいという時です。まさに高度成長期がそれにあたると思いますが、今は豊かになったが故にそうした意欲が減退しています。

例えば、親の遺産を相続した人の中で、それを投資して増やそうとする人はどれくらいいるでしょうか?おそらく、今住んでいる普通のマンションから高層マンションの高層階に移ったり、海外旅行の回数を増やすといった自分の生活レベルの向上にその資金を充てようとする人が多いのではないでしょうか。なぜなら、ある程度の生活基盤ができあがっているからです。

証券会社の経営者と話をしていても、みなさん口を揃えて「相続した資金は銀行に振り込まれて証券会社に戻ってこない」と言います。

ですので、今後の証券市場は非常に厳しく、投資家の減少にもつながりかねません。その考えが正しいとすると、今の証券会社の数は需要に比べてバランスを欠くことになります。そうした中で証券会社が生き残るためには、覚悟を持った経営戦略が必要だと感じます。

岩村:

最近いろいろなメディアで報じられているように、銀行・証券という分野において、各社とも採用に大変苦労されています。

沖津:

人口減少によって学生の数も減ってきていますし、業界の将来性を考えたときに、学生諸君もいろんなことを考えるのでしょう。

しかしながら、業界を発展させていくには優秀な学生を集めないといけません。「ジンザイ」の「ザイ」は「材」ではなく「財」産という意味で「人財」と書く人がいますが、まさにその通りだと思います。優秀な「人財」を集めるには、どうすればいいのか。それには、働きやすさだけでなく働きがいを感じる環境を整えることが必要です。

岩村:

労働需給が厳しい中、優秀な人財を採用し、「長く」働いてもらうことは経営にとって重要な課題となっているということですね。

沖津:

当社では「働き方改革」に相当力を入れています。

当社の働き方改革の理念は、「労働時間はより短く、収入はより多く」です。そして、従業員が満足し幸福感を持って働けることを目指しています。それを実現するために、デジタルの活用に取り組み始めました。本社系は定常業務が多いためRPAが向いていると考えました。実際に導入してみると、ロボは正確かつ実直に仕事をこなすので業務効率は格段に向上し、社員は喜んでくれています。一方で、営業店に対してはICTを取り入れ、テレワークを導入しました。

岩村:

営業店でのテレワークは、どのような内容なのでしょうか。

沖津:

当社ではタブレット端末を全営業員に持たせています。株価情報・投信等のパンフレットを始め、チャット機能、電子日報やテレビ会議システム、CRMも搭載しています。このことでテレワーク、在宅勤務や部分在宅ができるようになりました。

例えば、毎日の朝会にしても、どこからでもテレビ会議システムを利用して参加できます。出社せずにお客様のところへ直行することが可能になりました。こうして時間を有効活用できるようインフラを整えています。

また、今まで、営業員は外交後、日報入力のために帰社していましたが、電子日報システムを利用することで外出先や自宅で入力でき、直帰が可能になりました。さらにサテライトオフィスを設けることで、移動時間を短縮できています。こうしたことを通してリフレッシュの機会も生まれ、「働き方」は改善されたと考えています。

働き方改革と顧客本位の相関

岩村:

対面営業において、お客様との向き合い方に変化はありましたか?

沖津:

当社は、対面取引を重視しています。対面取引の魅力は実際にお客様とお会いして、お客様の意向を直接感じ取ることができる点にあります。しかし、営業員一人に対して、お客様は複数です。どうしても接触率は少なくなってしまいます。

そうした時、タブレット端末に入っているマッピング機能が効力を発揮します。あるお客様を訪問した後、マッピング機能を使うと、「近くに、あなたが担当しているお客様がいます」といった情報が表示されるようになっています。また、GPS機能を使うことで、そのお客様のところまで道案内してくれます。そうすることで、頻度高くお客様に会うことができるようになりました。

また、テレビ会議システムが、お客様の満足度の向上にも役立っています。今まではセミナーに参加いただくには、会場までお越しいただく必要がありました。今は営業員がお客様を訪問し、その場でタブレットのテレビ会議システムを利用して聴講いただけるようになりました。これは大変お客様に喜んでいただいています。

岩村:

「働き方改革」を推進されるにあたって、デジタルを相当駆使されていることが分かります。

沖津:

会社が生き残りをかけて強靱な体力をつくり上げるには、デジタルで武装することは避けて通れないと考えています。

岩村:

一方で、営業員の中には機械に強くない方もいらっしゃるのではないかと思います。

沖津:

確かに、タブレットについては、不慣れな人もいるかもしれません。しかし、その中に用意されているのは現場へのヒアリングを重ね、直感的に操作できるコンテンツです。ですので、営業員は自然に取り扱えるようになっていると思います。

日常の中でタブレットはなくてはならないものとなり、今では自分の体の一部といってもいいかもしれません。

岩村:

導入の初期のころに、反対などはなかったのでしょうか。

沖津:

タブレット端末は部店長から試験的に導入しました。当初はとまどいがあったかもしれません。しかし、場所と時間に捉われない働き方は徐々に浸透していきました。利用が全営業員まで広がると、現場から搭載するコンテンツのアイデアが挙がるようになりました。私はこの頃からテレワークが根付いたことを実感しました。今では定期的にアンケートを取り、現場が主体となってコンテンツの改善を図っています。当社のテレワークは進化し続けていると感じています。

当社では、お客様の満足度を一層高める活動をしていかなければいけない、ということを絶えず伝えています。ですので、時短もさることながらお客様の満足度を高める一つの手段としてタブレットを利用する、という認識が浸透していると思います。

岩村:

お話を聞いていますと、「働きやすさ」だけではなく「働きがい」も実現しているように感じます。

沖津:

積極的にデジタル化を図ることで、対面営業に力強さが増したと感じています。それは「働きがい」を感じているからではないかと考えています。

進展するデジタル時代のコンプライアンス

岩村:

金融機関は、資産情報をはじめとした、センシティブな個人情報を保有しています。その辺りについて、テレワークの実施にハードルはありませんでしたか。

沖津:

おっしゃる通り、われわれは、非常に大切な金融資産を預かる業務をしていますので、個人情報の管理には相当気を使っています。

テレワーク導入検討の第一歩は業務の選別でした。アナログのまま残す業務、デジタル化する業務の選別は、慎重に慎重を重ねました。

技術の進歩によって、ICTセキュリティツールは充実していますが、敢えてアナログとして残した業務もあります。人為的事故の予防までを視野に入れた時、そのほうが適切と判断したからです。このように検討を重ねた結果、多くの業務をデジタル化しました。これまでの紙資料でのやり取りと比較すると、デジタル化で紛失リスクは減ったと考えています。

岩村:

テレワークの実現で直行直帰ができるようになりました。すると、気になるのはコンプライアンスです。その対策はどのように進めているのでしょうか?

沖津:

コンプライアンスは非常に重要で、コンプライアンスで失敗しますと、長年築いてきた信用が一瞬にして崩壊してしまうことにもなりかねません。

当社の各部店の電話では、以前より営業員がお客様とお話しする内容を全部録音するようになっています。テレワークを導入するにあたって、営業員が外出中に使用する携帯電話にも同様に録音機能をつけました。その内容について、コンプライアンス本部が相当の人数を投入して聞き取り、モニタリングチェックを行っています。

岩村:

コンプライアンスは今後ますます重要になっていくと思いますが、一方でその対応にあたって無限にコストをかけることも難しいのではないかと思います。

沖津:

通話録音のモニタリング人員が、一層多く必要になってきます。そうした問題を解決するために、来年度よりコンプライアンスのチェックにAIを導入する予定になっています。AIシステムが通話録音を読み取って、テキスト化し、問題がありそうな単語を拾います。AIが「問題あり」として挙げたものを、当社のコンプライアンス本部がチェックするプロセスを導入することで、より多くの録音をモニタリングすることができ、より多くの状況を把握することができます。相当な効率化が図れると期待しています。

岩村:

タブレットやテレワークの導入によって、目に見えた効果は既に出ているのでしょうか。

沖津:

今年は関東地方を中心に未曾有の大型台風の直撃がありました。昨年は大阪も震災や台風に見舞われました。こうした災害時の役職員の安否確認にも活用できました。

災害時等には、営業員は出社せず、在宅勤務をしてもらいましたが、タブレットのおかげで、平常時と同様にお客様とコンタクトを取ることができました。営業活動に加え、お見舞いのコール等は、お客様にとっては、一層の親近感や安心感につながったと思います。

岩村:

数十年前と比べ、共働き世帯が圧倒的に増えてきました。子育てと仕事の両立もありますが、高齢化の進展によって介護との両立の世帯も増えてきているように思います。

沖津:

確かに、そうした両立の問題が重きを増しています。

昔は、働くこととの両立は、難しいと見られていたと思います。実際に、地方の支店でこんな例があります。あるシニアのかたで、勤務先の支店から1時間以上かかるところに住んでいました。しかし、ご家庭の事情により支店に通うことが困難ということで会社を辞めることになりました。その後当社は、働き方改革によって人事制度の改定と共にデジタル化を取り入れたため、在宅勤務でも営業活動が可能になりました。それで、その方は復職されたのです。これは当社におけるテレワーク活動の典型的な例だと思います。

こうした働き方の選択肢が増えたこともあり、働き方改革導入後は、離職率も減少しました。具体的にはシニアの営業員数はおよそ4割増え、女性の営業員の離職率はおよそ1割減少しています。

人財である社員が様々な事情を抱えながらも、多様な働き方で長く働けること。これは、会社の強靭な体力づくりとして私が目指してきたことです。

岩村:

正に政府の目指す「一億総活躍社会」へつながる活動と感じました。一方で「働き方改革」の取り組みに苦戦している企業も中にはあるように思います。御社は会長自らが「やらなければいけないんだ」と本気で取り組まれているから遂行できていると感じます。

沖津:

見せかけだけの「働き方改革」では従業員はついてきませんし、そういう会社経営では長続きしないと考えています。これは「やらざるを得ない」ではなくて「やらないと、もったいない」と私は思っています。実は「働きやすさ」も「働きがい」も現場がその答を持っているのです。加えて、お客様のことを一番知っているのも現場です。だからこそ、タブレットのコンテンツ企画を始めとして、現場には一緒になって改革に取り組んでもらっています。つまり、当社の働き方改革は経営と現場の両輪で実現していると言えます。そして、その結果が目に見えてきたと思っています。

岩村:

会社の中の風通しが良いのだと思います。だから、会長の考えが、会社全体にいきわたって、それが好循環をもたらしているように感じます。

沖津:

私のモットーは「オープン経営」「全員参加型経営」です。

例えば、上場後は誤解を避けるためにやめてしまいましたが、取締役会を社員に傍聴させる制度を10年間続けました。今回の働き方改革も全員参加型の考えで実施しています。

岩村:

先例のないところを開拓されているのですね。

沖津:

今後ますます、デジタル化は進展し、世の中はそれに応じた動きになっていきます。当社は、新しいことに取り組む文化が根付いていますので、怯むことなく前進し続けていくつもりです。

今はある程度のコンテンツは揃えたと思っていますが、これをもっと進化させていくつもりです。新しいデジタル技術をどんどん採り入れて、会社を武装していくことが生き残るための、あるいは一層発展していくための方策だと私は考えています。

岩村:

常に新しいことにチャレンジし続ける御社と仕事をご一緒させていただけることに喜びを感じます。今後ともよろしくお願いします。

(文中敬称略)

 

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ファンドラップの営業で顧客本位を実践

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金融ITフォーカス2019年12月号

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