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真に顧客本位の総合的アドバイスを提供できる人を増やす

2020年4月号

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2020年1月に一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会(FA協会)が設立され、4月より活動が正式に始まる。協会設立の趣意や今後の活動予定、ならびにGAIAにおけるファイナンシャル・プランニングやゴールベース資産管理への取り組みなどについて協会の代表理事に就任したGAIAの中桐啓貴代表取締役社長に語っていただいた。

金融ITフォーカス2020年4月号より

中桐 啓貴氏

語り手

GAIA株式会社
代表取締役社長
中桐 啓貴氏

1997年、山一證券株式会社に入社。その後、メリルリンチ日本証券を経て、米ブランダイズ経営大学院にてMBA取得。2006年にIFA法人GAIA株式会社を設立し、40~60代の退職準備世代・シニア世代を中心に、資産運用をはじめ、ライフプラン全般の相談業務に携わる。2020年1月にFAの業界団体として一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会を発起人の1人として立ち上げ、代表理事に就任。

聞き手 井上 哲也

聞き手

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
吉永 高士

『週刊金融財政事情』記者、金融財政事情研究会ニューヨーク事務所長等を経て、2005年にNRIアメリカ入社。2011年より金融調査を統括。四半世紀にわたり米国を本拠に金融経営調査に従事し、日本の対面投資商品販売の深化を支援する活動にも10年以上前から取り組む。2020年4月にファイナンシャル・アドバイザー協会理事就任予定。2003年より米国登録金融ジェロントロジスト。

お客様のニーズをしっかりと聞きパートナーとしての存在になる

吉永:

中桐さんは、ファイナンシャル・プランニング・サービスを提供するIFA法人GAIAを14年前に設立されました。社会人のスタートは山一證券だったと伺っていますが、そこからGAIA設立に至る経緯をお聞かせいただけますか。

中桐:

元々証券業界に興味があり、山一證券に入社しました。堺支店に配属され、そこでは基本的には飛び込み営業をしていました。入社したのは97年で、まさしく山一が自主廃業した年です。

吉永:

それで、山一のリテール営業員の受け皿となったメリルリンチ日本証券に移られたのですか?

中桐:

はい。メリルリンチは当時、日本のリテールを変えるという意気込みで進出してきていました。プロファイリングをきちんとして、長期分散投資をして、お客様のゴールを実現することに真剣に取り組んでいました。私自身、そうした金融商品のセールスから入らない考え方に非常に影響を受けました。

そのあと、2001年9月11日の同時テロがあり、メリルリンチ日本証券も規模を10分の1くらいに縮小するということになり、自分は退社しアメリカに留学しました。

自分が通ったボストンのブランダイズ大学の前にはCommonwealth Financial Networkという独立アドバイザーを抱える会社があり、友人がそこでインターンをしていたので、見学に行きました。会社には大きなサーバーがあり、「私たちは、このサーバーを使って、ファイナンシャル・アドバイザーにプラットフォームを提供している」という説明がありました。当時はメリルリンチやモルガン・スタンレーらの大手に入社しないと、高度なツールを使った運用アドバイス・サービスは提供できないと思い込んでいましたので、独立アドバイザーたちがそうしたビジネスをしていることに大変驚きました。

元々起業したいという思いはありましたし、日本の証券リテール分野にはまだまだビジネスチャンスがあると思っていましたので、2005年に日本に戻ることにしました。2004年に金融商品仲介業の制度ができたこともあり、2006年に、GAIAを設立しました。

吉永:

Commonwealthはプランニングを軸に顧客のゴールを特定し、長期分散投資の基本的実行手段としてラップを使用するゴールベース資産管理モデルに米国内でも早くから取り組んできたことでよく知られています。これを米国で先取り的に体験されたのは大きいですね。

中桐:

当時から、「プロファイリングをしっかりする」というのが徹底されていたのが印象的でした。転勤がなく、長期的にお客様と向き合うことができることの重要性も勉強になりました。

証券会社に入社した時は、プロダクトプッシュ的なセールスを教え込まれましたが、その逆なんです。お客様のニーズを聞いて、最後に商品という形にもっていかないと、お客様には商品を押しつけてくる人に見えてしまいます。「この人は、パートナーだ」と思っていただかないとうまくいきません。

吉永:

日本においても、御社のようにファイナンシャル・プランニングでお客様の人生の目標や課題をしっかりと特定し、それらのゴールを一定の予見性あるグローバル長期分散投資の提案により、実現していくアドバイザーが増えていくことは投資家にとっても、また「貯蓄から投資へ」という社会課題の解決に向けても有用だと思います。

中桐:

われわれの価値を認識して下さっているお客様は、何か問題が生じた時に、真っ先に連絡をくださいます。GAIAだけで解決できるものもありますし、外部の専門家と連携するものもあります。いずれにしても、きちんとサービスとして対応することで安心してもらうことがわれわれの付加価値です。

お客様にとっても、専門家がいる安心感は非常に大きいと思います。私自身も、優秀な弁護士に出会えたら、「法律関係のことは、その人に任せればいい」という安心感を得られます。私たちは、お客様からみてお金のことを安心して任せられる存在になりたいと思っています。

プランニングでゴールを切り出しグローバルな長期分散投資で実行

吉永:

御社のファイナンシャル・プランニングはどのようなプロセスで実行されていますか。

中桐:

新規の方には、1回目に60分から90分くらいかけてヒアリングします。ヒアリング結果と、事前にご提出いただいた家族構成、収入や支出、金融資産などの情報をもとに簡易的なキャッシュフロー表を作成します。それをお客様に示して「今の資産配分のままでいくと、将来こういう感じになります」というイメージを持ってもらいます。

2回目では、前回の情報を基に、いくつかのゴールを設定し、ゴール毎にプランニングの提案書を出します。単に「3%で運用したい」といったゴールではなく、「毎年1回、夫婦で海外旅行に行きたい」とか、「このお金は、子ども達に平等に渡していきたい」といった人生設計におけるゴールを基にした提案になります。提案に納得いただければ、契約に進みます。

GAIAでは、ファイナンシャル・プランニングで年単位のプライベートFP契約形態をとっています。年間3万8,500円を頂戴して、半年に1度必ずお会いし、それ以外は、いつでもメールや電話で相談ができるようにしています。定期面談の良さは、「商品を買ってもらいたい」タイミングで会うわけではない、という点です。

吉永:

定期面談を何回くらいこなすと、お客様の包括的なゴールの全体像が見えてくるものですか。

中桐:

私の経験では大体3年です。

吉永:

お客様への情報発信や投資家教育では他にどんなことをなさっていますか。

中桐:

会報誌を毎月発行して、そこで、主に長期分散投資の考え方などを案内しています。またリアルイベントを年に2回開催しているほか、動画も毎月配信しています。相場が急変した時には必ずその状況についての情報を臨時配信します。実は、これが一番見られています。

吉永:

設定されたゴールに対してグローバルな長期分散投資を提案しているのですね。

中桐:

特に3年前からは、お客様の資産運用をラップにしていますので、自動的にリバランスできるようになっています。

デジタル化が支援するアドバイザー本来の付加価値追及

吉永:

個人向け資産運用アドバイスの世界にもデジタル化の波はきており、その代表的な例がロボアドバイザーだと思います。特に、デジタル化は無人型ロボによるセルフ型顧客への自動運用だけではなく、対面チャネルで人間のアドバイザーを補完する存在になると考えています。

中桐:

一時、ロボアド脅威論のような話がありましたが、アメリカのアドバイザー業界の中では聞かれなくなりました。

あるアメリカの運用会社の人が、「90年代にいろいろな会計ソフトが出てきたけれども、会計士はいなくならなかった。会計ソフトを駆使することで、会計士にはより複雑なことを相談できるようになった」と言っていました。

ロボアドも同じだと思います。ロボアドによって効率性が増した分、本来の付加価値を追求できることに時間を割けると考えています。

吉永:

人間のリソースをより付加価値の高いところに寄せていくために、デジタル化の力を借りる。そうしたとき、日本のプラットフォーマーやITベンダーにはどのようなツールの深化を期待していますか。

中桐:

アメリカのファイナンシャル・アドバイザー業界のカンファレンス等に行くと、最新ツールのデモを体験できます。ツールがすごく進化していて、羨ましいと思うことが多いです。

吉永:

確かに、ゴールベースのプランニングツールの深化はここ数年著しいです。ゴールの必須度をNeed、Want、Wishの3階層に区分した上で、区分ごとの達成確率シミュレーションを精緻化し、最新のものでは年金保険や生命保険などを併用した場合のゴール達成への影響度分析ができるものもあります。

中桐:

日本でも設定したゴールに対して、どれだけ近づいていっているかを可視化できるツールがあると良いですね。また、プランニングツールとCRMが連携しているのは一般的ですし、提案ツールやデータベースにもつながり、アカウントアグリゲーションも利用できます。自分が使いたい機能が選べて、それらがオープンAPI連携されています。

協会員同士が切磋琢磨し真に顧客本位の業界発展をめざす

吉永:

1月に業界団体として一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会が設立され、4月から正式に活動を開始します。中桐さんはその代表理事に就任されました。まず、協会設立の目的をお聞かせいただけますか。

中桐:

私自身15年間くらいIFAという職業についていますが、もともと日本にはロールモデルのようなものがなく、自分が信じたファイナンシャル・アドバイスのサービスを手探りで進めてきました。ですので、IFAとして目指すべき指針があったらいいな、という思いは以前からありました。

米国ではファイナンシャルプランニング協会(FPA)などが、いろいろな情報発信をしています。また、アドバイザーに研修機会を提供したり、横の連携を強化したり、ベストプラクティスを共有したりしています。そういう姿をみて、ファイナンシャル・アドバイザーという業種を日本でも根付かせるには、業界団体が絶対にあった方がよいと常々感じていました。

目指すところは、ライフステージに応じた総合的なファイナンシャル・アドバイスができる人たちを増やしていくことです。教育、研修機会を提供したり、自主ルール的なものを作成したり、PR活動をしたりすることで、業界のプレゼンスも高めたいと考えています。

吉永:

向う1~2年は、どのような活動を重点的に展開しますか。

中桐:

短期的なところでは、会員集めです。その後、倫理綱領や行動規範を作り、更には教育・研修プログラムを作成したいと考えています。カンファレンス等をはじめとしたイベントやPR活動の準備や実行も必要です。このあたりを同時並行的にやっていきたいと考えています。

吉永:

組織態勢面の概要を教えてください。

中桐:

まず、正会員ですが、審査を通ったFA法人が正会員になります。それに次ぐのが、法人アソシエイトで、正会員以外のFA法人になります。 更に、委託正会員を設けます。これは、FAに対してプラットフォームを提供している証券会社が対象になります。

加えて、将来的にファイナンシャル・アドバイザーを目指す個人の方々は、個人アソシエイトになることができます。

その他のステークホルダーとして賛助会員制度もあり、運用会社、生損保会社、FAが使うツールを提供するベンダーを想定しています。

一般社団法人ですので、理事会が意思決定機関になります。現在、発起人であるGAIA、ファイナンシャルスタンダード、Fan、SBIマネープラザの4社の代表が理事になります。他に有識者枠で、吉永さんと一橋ビジネススクールの本多教授に理事に就任してもらう予定です。

正会員候補の経営基盤と営業基盤を検証して、正会員としてふさわしいかどうかを審査する審査委員には金融庁検査官OBと、金融庁に出向経験のある弁護士の2名が就任予定です。このように外部の方々にも参加いただき、中立公正な立場で運営ができると考えています。

吉永:

正会員審査の基本方針はどのようなものですか。

中桐:

われわれが目指すものの根底には真に顧客本位の業務をしていくということがあります。ファイナンシャル・アドバイスをしていく上での内部管理体制やアドバイザーの業績評価といった経営基盤を見ていきたいと考えています。

営業状況に関しては、ある程度定量的に見ていきます。たとえば、預かり資産に対する収益の割合である資産収益率が一定水準を超えない、すなわち回転売買をしていないか見ていく予定です。

吉永:

IFA業界団体の名称が「ファイナンシャル・アドバイザー協会」となり、あえて「I」を入れなかったことにはどのような狙いが込められていますか。

中桐:

「IFA」の定義は難しいんです。仲介業者イコール「IFA」でもないですし、金融機関と資本関係があったら独立性はない、という単純な話でもありません。そこはわれわれも散々議論しました。その結果、日本において顧客本位のファイナンシャル・アドバイザー業界が確立されていくためには、資本関係で独立している人たちだけではなくて、将来的には、たとえば地方銀行など金融機関の100%子会社という形もあると思います。さまざまな出資母体から、ファイナンシャル・アドバイザー業界に参入したいという方々はどんどん増えていくと思います。協会名から「I」を省くことで、排他的な印象を与える可能性を取り除きたいと考えました。

今回、協会が発足することは大変嬉しく思っています。協会の活動が、この業界の発展につながることを期待しています。会員同士が切磋琢磨し合うなかで、私自身も見本となるサービスをお客様に提供していきたいと思っています。

吉永:

私自身はこれまでゴールベースの投資アプローチを提言してきました。中桐さんに初めてお会いしたのは約1年前ですが、既に同じようなことを考え、実際にそれを体現してこられた中桐さんには勝手ながら親近感を覚えました。90年代後半の米国でも各地でゴールベース的アドバイス手法が同時多発的に勃興し、その後に業界スタンダードとして確立されていきましたが、日本にも同様のうねりが起きてきている感覚があります。

本日は、ファイナンシャル・アドバイザーやアドバイスのありようを巡る中桐さんの理念や率直な想いも聞かせていただき、ありがとうございました。

(文中敬称略)

 

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