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資産管理業務で培った高い専門性で新ビジネスを切り拓く

2020年9月号

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今から20年前、日本で初めてとなる年金基金や投資信託等の資産管理業務を専門とする信託銀行が誕生した。
その後、金融市場のインフラの担い手としてグローバル化、金融商品の多様化など、様々な変革に対応すべく専門性に磨きをかけてきた。今後、専門性を生かしてどのような未来像を描くのか、日本マスタートラスト信託銀行 代表取締役社長の成瀬氏に語っていただいた。

語り手 成瀬 浩史氏

語り手

日本マスタートラスト信託銀行株式会社
代表取締役社長
成瀬 浩史氏

1981年 三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。2008年同社執行役員、11年 同社常務取締役、13年 同社専務取締役、16年 同社取締役副社長執行役員、18年 三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役専務グループCHRO。19年 日本マスタートラスト信託銀行 代表取締役社長に就任。

聞き手 横手 実

聞き手

株式会社野村総合研究所
常務執行役員 資産運用ソリューション事業本部長
横手 実

1989年 野村総合研究所入社。共同利用型証券バックオフィスソリューションの企画・設計を長年担当。2005年 大手証券会社に出向し、インターネット証券設立に参画。08年 NRIに戻り、新システムプロジェクト部、STAR事業部を経て、10年 STAR業務推進部長。14年4月に執行役員に就任。18年より資産運用ソリューション事業本部長。20年 常務執行役員。

20年間で築き上げたMTBJのカルチャー

横手:

設立20周年、おめでとうございます。

成瀬:

ありがとうございます。

横手:

20周年記念の冊子や動画を拝見しますと、発足時の社員数は25名だったのですね。それが800名を超える規模になり、資産管理残高も420兆円の規模に達しています。20年を振り返っていかがですか。

成瀬:

日本マスタートラスト信託銀行(以下、MTBJ)を立ち上げた時、私も参画していましたが、当時は量の呪縛からどう逃れるかが最大のテーマでした。日本株については、既に証券会社・信託銀行による約定処理の共同インフラが稼働していましたが、外国証券についてはファックス等紙による事務処理が太宗を占めていました。一方、外国証券は、米国市場を中心としたITバブルによる約定件数の激増への対応が大きな課題だったわけです。

当初はEUCでしのぎましたが、本邦初のSTPシステムを開発することで、最終的に量の呪縛から脱することにチャレンジしました。

しかし、STPの仕組みをつくったものの、業務環境は未だ約定情報の大半が紙で届く状況でした。そのため約定情報を入力してデータにする専門部隊をつくり後続処理をSTP化しました。その後、徐々にSWIFT等のデータ化が進み、本来のSTPの仕組みが使えるようになり、ボリュームの面では格段に処理能力が上がりましたし正確性も向上しました。

今年の3月は、多くの領域で取引件数が過去最高を記録しました。特に先物オプションや日本株では前年比で2倍近い件数でした。しかしながら、ボリュームへの耐性は相当ついていたので、市場関係者の皆様にご迷惑をおかけすることなく、すべての処理を完了させることができました。

また、クオリティもかなり高くなっています。5年程前、私が三菱UFJ信託銀行のリスク管理担当役員だった時、MTBJの事務ミスがほとんどなくなっているという報告がありました。設立当初を知っている私としては、そこに至るまでに関係者の大変な努力があったであろうことを思うと感慨深いものがありました。

横手:

品質については、IT化と並行して、人材育成の歴史があるように感じます。陣容がこれだけ拡大する中で、システムで対応できない部分を人材でカバーしていく必要があります。そこには、業務に精通するプロフェッショナルが欠かせません。

成瀬:

IT化と人材育成は車の両輪です。デジタル化によってクオリティを上げることは極めて有効な手段ですが、同時に個々人のスキルアップも欠かせません。当社では、「Be professional」というスローガンを掲げています。一人一人が自分の担当領域のプロになることで、クオリティの確保を図っています。

当社ではクオリティをMTBJのセールスポイントとして業務を遂行してきました。これは終わりがない世界だと思いますが、理想に近づいているという実感はあります。

「ミスは絶対起こしてはいけない」、ある意味、社員の意識はすごく強いです。ただし、それによって萎縮しないようにすることも大事です。ミスを恐れるあまり、新しいことに挑戦できない、従来のやり方を変えられない、そういうことに陥ってしまう危険性があります。高品質を保ちつつ、進化する、その両立は難しいですが大切にしているところです。

横手:

よくわかります。特にお客様のビジネス変化が激しい時こそ、自社も進化していく必要があります。

それを20年間築き上げた結果が、今の御社の企業カルチャーになっているわけですね。

成瀬:

まさにカルチャーです。

「Be professional」というスローガンの下に、一人一人が何をやるべきか、それを個人ごとにしっかり腹落ちしてもらったうえで、そこを目指す。その成長に対して会社がサポートしていく。この仕組みが回転し続けた結果、当社のカルチャーが形成されているのだと思います。

横手:

そうですね。一人一人が強くならないと、組織としての強靱さに結びつかないと思います。

資産管理銀行を取り巻くビジネス環境の変化

横手:

この20年の中で、資産管理銀行を取り巻く資本市場の変化はどのように見ていらっしゃいますか。

成瀬:

資本市場における商品は、運用手法も含めて多様化しました。それから、低金利の長期化です。更に、近時で申し上げれば、フィデューシャリー・デューティに代表されるように説明責任に対する社会的要求が高度化しました。大きな変化としてはこの3つが挙げられると思います。

横手:

行政に関わるところでいえば、規制もだいぶ厳しくなりました。

成瀬:

おっしゃる通りです。規制への対応は、社会インフラを担う当社がしっかりとサポートしていくべき領域だと考えています。各社がそれぞれに対応するのではなく、資産管理信託銀行に任せれば、ルールに沿った形で正しく管理してもらえる、と思ってもらえることが重要です。

最近で言えば、デリバティブの証拠金規制について、マージン、証拠金の管理のアウトソースのご要望を多く頂いておりサービス提供を行っています。

横手:

今はコロナ禍ですが、この20年を振り返ると、東日本大震災のような大きな自然災害もありました。そうした中でも社会インフラを担う以上、業務継続が求められます。

成瀬:

当社の場合、業務継続への取り組みは早かったと思います。広域災害への対応としては、大阪にオフィスを構えてデュアルのオペレーション体制を整えています。

しかし、今回の感染症蔓延は性質が違いました。そもそもオフィスで仕事をすること自体の自粛要請がありましたし、ウイルスから従業員の安全を守りながら、業務継続体制を維持する必要がありました。

そうした中、1月の終わりには危機管理対策本部を立ち上げ、在宅勤務の推進、執務室の分散などを行いました。緊急事態宣言が出た時には、いち早くお客様に「業務は平常通り行います」という連絡をしました。これは、経験のない社会環境に大きな不安を抱かれていたお客様に安心をお届けできたのではないかと思っています。どんな環境になっても、どんな事態が起きても、変わらずに質の高い業務を提供する、おそらくこれがお客様に対する最高のサービスだと思います。

緊急事態宣言下での当社在宅勤務率は3~4割程度でした。社会的には7割という目標が掲げられていましたが、品質担保と7割水準達成の両立は難しいところがありました。当社には、MTBJが直接採用した人、株主からの出向者、派遣社員という3つの属性の就業者がいます。属性に関わらずみんなが、社会インフラを担っているという自覚を持ち、エッセンシャル・ワーカーとしての使命感により、日々の業務に対応してくれています。

横手:

経営から見ると、頼もしいというか嬉しいですね。

成瀬:

はい。そうした社員の努力に報いるためにも、IT、デジタルの力を借りて引き続き在宅勤務率の引き上げに注力したいと考えています。

この数か月の中で、従来は在宅では絶対無理だと思っていたことが、プロセスを見直すことによって可能になることも出てきました。さらにいろいろなITツール、新技術を適用しながら在宅勤務可能領域を拡大していこうと考えています。

横手:

今の状況下は、いつかやらなければいけないと思っていたペーパーレス化や、慣れ親しんだ業務プロセスの改革を、外圧的にやらざるを得ない状況にあります。ですので、やる、やらないではなく、検討段階でもなく、「どうやってやるか」というフェーズに変わったと感じます。

成瀬:

当社も、お客様から「従来のファクス、紙での対応から、どうやってデジタル化していきましょうか」という相談を受けるケースが増えてきています。

横手:

自分たちだけではなかなか変えられなかった部分を、お客様と一緒に変えていく。そういった変化の流れが業界全体に波及しているように感じます。

今までの事業の枠を超えて新しい時代を切り拓く

横手:

20年間の軌跡について伺ってきましたが、今を起点として未来の20年を考えた時、何を変えずにMTBJの良さを残し、何を未来に向けて変えていこうとお考えですか。

成瀬:

守るべきものは、今まで培ってきたクオリティにこだわる気持ちです。加えて、常に「お客様のために何ができるか」を考えて仕事に取り組むパッションです。また、「Be professional」も未来永劫変わらないものだと思います。この3つは変えてはいけないものと思います。

変えていく点については、私は「変えていく」のではなく、「拡大」だと思っています。従来の資産管理業務という枠をどれだけ超えられるかです。

その一つの解は、データビジネスだと思っています。MTBJの事務サービスは、外部から入ってくるインプットのデータに対して、データクレンジングも含めて付加価値をつけて、お客様に提供しています。この付加価値をどう最大化するか、それがデータビジネスにつながると考えています。クリーンデータをどれだけ早くお客様の望む形で提供できるかは、一つのキーファクターになると思います。

それは、お客様の説明責任に対する貢献でもあると思いますし、多様化する運用手法を底辺で支えるサービスでもあるとも思います。さらに申し上げれば、運用会社ないしは機関投資家の方々が、コアコンピタンスである運用に、リソースを集中することができるように、既存の資産管理サービスの枠を超えたサポートを行っていきたいと思っています。

それから、もう一つ。社内にはお客様からの個別ニーズに対応すべくカスタマイズしたサービスがいくつもあります。こうしたものを汎用的なものに変換し、それをパーツに分解し再構成したうえで、お客様にサービス提供したいと考えています。私たちがお客様の課題やニーズを的確につかんで、それらに対するソリューションを私たちから示していけるようにならないといけないと考えています。ですので、これから高めていくべきスキルは「コンサルティング力」です。

資産運用会社は、低金利が長く続いていますし、報酬の引き下げ要望も強くなる等、大変厳しい経営環境に置かれていると思います。そうした運用会社の経営課題に対して、当社は、様々なソリューションを揃えたプラットフォームを提供したいと考えています。ここは時間との勝負の面もありますので、自前に固執せずに、外部の優れた機能提供者がいれば協働していくことも視野に入れています。

例えば、ミドルオフィスが担うリスク管理業務は、プラットフォームのソリューションの一つだと考えています。リスク管理業務は伝統的に優秀な人材が集まっている領域で、どの金融機関も、自身のリスク管理手法が最適だと思っているところがあります。しかし、コスト削減が迫られる中、リスク管理に係るデータ作成等は外に任せたほうが良いという考え方が、今後は広がっていくのではないかと思います。

横手:

実体経済を見たときに、プラットフォーム化は至るところで起きていて、それぞれがうまく連携しながら一つのサプライチェーンを築く世界になっています。このサプライチェーンは日本国内で閉じたものではなく、グローバルで連携がなされています。いろんなプレーヤーの方々が、近いところでの「競争」ではなくて、「共創」することで、それぞれの規模の拡大が図れるのではないかと思います。

成瀬:

これから20年もかからないとは思いますが、資産管理の領域の中で新たに期待できる技術活用は2つあると思っています。

一つは、資産のトークン化、デジタルアセットの運用です。これは、あらゆる投資家に投資のチャンスが拡がっていく、ある意味新たな投資インフラになっていくのではないかと思います。例えばインフラ投資をする場合でも、デジタルアセットとしてトークン化することで直接の投資対象とすることができます。対象も、不動産、著作権、特許権といったものにまで広がる可能性があります。

MTBJでは、投資対象である以上、しっかり管理、決済、評価する。しかし、これは最低限のことですから、プラスアルファで何ができるかを考えているところです。

もう一つは、ブロックチェーンです。ブロックチェーンの特性は、データが改ざんされない、参加者が皆同じものを見られるといった点が挙げられます。これはコーポレートアクションや約定処理の工程に非常に馴染みます。それを考えると、MTBJの業務に、ブロックチェーンの活用の余地は相当程度あるのではないかと考えています。ただ、これは個社で対応できる話ではないと思いますので、御社に期待したいところでもあります。

横手:

私も同じ問題意識を持っています。ただ、既存の確立されたものを新しいものに置き換える場合、リスクだけでなくスイッチングコストも発生します。また、置き換えによるメリットを誰もが享受できるのか、事前の見極めが難しい面もあります。ですので、新しい技術を利用する場合は、今ないもので、その正確性や、本当に実稼働に耐え得るかを試してみることが大事だと思います。「これでいける」というのが見えてきたら、既存のものを置き換える、そういうステップを踏むのが良いと考えています。

ブロックチェーンに限らず、まだまだテクノロジー的には未成熟なものは多いです。文字認識や音声認識もそうです。過去を振り返ると、そういった未整備のところから確度を上げていったものがたくさんあります。新しいテクノロジーが活用されるようになると、楽しい金融、新しいキャピタルマーケットが描けるのではないかと思います。

成瀬:

そうですね。そういう意味では、RPAも適用領域を拡充していきます。今はまだ単品プロセスの域を出ませんが、RPAの技術もかなり成熟してきていますので、個々の業務ごとに一気通貫で対応ができるようになる可能性はあると考えています。

横手:

御社の存在意義が拡大される中で、NRIもご支援させていただけたらと思います。

本日は、ありがとうございました。

(文中敬称略)

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