ワクチン接種先行国における接種率および感染状況から見た今後の日本の見通し(第3版)
概要
首相官邸のホームページに8月5日に公表された8月4日までの接種実績をもとに、前回6月に公表したレポートと同じ条件設定で今後の日本のワクチン接種率の推移を見通すと、接種率が人口比72%に達するのは、①自治体等で1日100万回接種+職域接種の場合で10月15日、②自治体等で1日120万回接種+職域接種の場合で10月8日となる。ただし、ワクチンの接種が日本より先行したアメリカなどで起きたように、ワクチンの接種が相応に進むと、次第に接種率の伸びが鈍化していく傾向が見られるため、上記の日付は最善のペースで進んだ場合として幅をもってみておく必要がある。なお、人口比72%は、新型コロナワクチンの接種対象年齢である12歳以上の人口が全体の9割を占める日本で、このうちの8割が新型コロナワクチンを接種すると仮定した時に導き出される数字である。
5月に公表したレポートのなかでワクチン接種先行国として言及したアメリカやイギリスの感染状況を見ると、感染力の強い変異株であるデルタ株のまん延によって、人口比4割のワクチン接種で感染者数に減少傾向が見られるという従前の経験則はもはや通用しなくなっている。
現在流行しているデルタ株は、従来の新型コロナウイルスに比べて少なくとも2倍以上の感染力を持っていると考えられる。そのため、ワクチン接種のみで新型コロナウイルスの感染を制御することは以前に比べてはるかに困難となっており、定期的なワクチン接種と並行して種々の感染対策の再徹底や強化を継続して行っていく必要がある。
特に日本では、ワクチン接種が今後一定程度に進展するまでは、ワクチンを接種していない人々を感染から守るという観点からも、この1年半で得たコロナ禍への「慣れ」を捨て、他者との接触機会を可能な限り抑制することが強く求められる。
その際には、ワクチンの具体的な接種率や医療提供体制の状況を目安として、段階的に行動制限の緩和をしていくことを一つの目標として設定してみても良いのではないか。例えば、今回の接種率見通しの予測では、ワクチン接種が最も順調に進んだ場合に人口比72%に達するのは10月8日だが、このように2か月程度といった形で目標とその到達予想時期が見えやすくなれば、この間の行動自粛などに対する心理的なハードルも幾ばくかは低くなるはずである。
今秋にワクチンの接種が一巡した後は、他国と同様に感染状況のコントロールを行いながら、高い水準で経済社会活動が営める社会体制への変革を進めていくべきである。その際には、新型コロナウイルスのまん延に伴う問題が比較的長期にわたりうること、今後もさらなる変異株が現れる危険性があることなどを想定したものとすべきである。
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