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2021年の財政・金融の行方

2021年1月号

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2020年は新型コロナウイルスのパンデミックにより、長期にわたり世界経済に大きな打撃をもたらした。マクロ政策が既に手詰まりの中、日本経済を立て直すことはできるのか。21年には米国に新政権が誕生する。世界のリーダーシップの構造は変わるのか。政治経済学がご専門の慶應義塾大学の小幡准教授に、日本の政治経済が直面している危機について語っていただいた。

金融ITフォーカス2021年1月号より

語り手 小幡 績氏

語り手

慶應義塾大学ビジネススクール 准教授
小幡 績氏

1992年大蔵省(現財務省)入省、99年退職。2001年~3年一橋大学経済研究所専任講師。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph. D.)。03年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應義塾大学ビジネス・スクール)准教授。専門は行動ファイナンス。著書に、『アフターバブル 近代資本主義は延命できるか』(東洋経済新報社)他多数。

聞き手 木内 登英

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト
木内 登英

1987年野村総合研究所入社。経済研究部・日本経済調査室に配属。90年NRIドイツ。96年NRIアメリカに赴任し欧米の経済分析を担当。2004年野村證券に転籍。07年経済調査部長兼チーフエコノミスト。12年日本銀行政策委員会の審議委員に就任。2017年7月より現職。著書に、「決定版 リブラ:世界を震撼させるデジタル通貨革命」(東洋経済新報社)他多数。

日本経済の転換点

木内:

まず、2021年の日本経済についてどのようにみていらっしゃいますか。

小幡:

結構無風と言いますか、あまり転換点になるような年にはならないとみています。金融・財政政策がどこで破綻するか、あるいはシフトチェンジを迫られるかという問題はありますが、何か起こるとしても黒田総裁後の2023年でしょうか。BISの新しいルールも、2023年から適用されるということですから、転換点があるとしたら2023年だとみています。

唯一、安倍政権から菅政権に代わって良かったのは、菅さんはミクロにしか関心がないので、アベノミクス継承と言いながら全然継承せずに、局地戦に終始しています。株価を上げたいという思いが強いので、お金をやみくもに配るということは安倍政権よりはしない傾向にあると思います。ですので、財政破綻の懸念は、収まったわけではないけれども膨らまずに済むという状況にあるかと思います。

しかし、コロナ対応で、第1波の時にお金を配り過ぎました。現在はそれに懲りてやらなさ過ぎという問題があって、バランスが悪くなっています。現状からいえば、感染対策は第1波よりは第3波のほうが量的には重要になるので、何かあったときは財政に圧力がかかって破綻するリスクが予想よりも早まるかもしれません。

金融は何とか持ちこたえるけれども、財政の破綻リスクが高まると、それを誤魔化すために中央銀行に圧力をかければ、2023年まで待たずとも金融政策が破綻するというか量的緩和が破綻する、というリスクを一番懸念しています。

木内:

菅政権の政策については、多くの人もそう言っていますが、マクロではなくてミクロ重視です。グランドデザインがなく、ミクロの政策も、打ち出すのは個別に関心を持っているテーマだけとの印象です。ミクロの政策を積み上げて、最終的にどういうマクロの姿を目指しているのかという説明がないため、政策の執行について疑心暗鬼が世の中に広まっていると感じます。総論だけで各論がないのもよくないと思いますが、やはり、両方揃っていないと、国民の理解と納得は得られにくいでしょう。

財政は私も少しは気にしています。例えば3次補正は、もしかしたら規模がかなり大きくなる可能性があります。あれだけ予備費が残っていながら、党内では30兆円という話が出ている。コロナ対策だけでそこまでの規模にはなりませんから、公共投資の、国土強靱化対策に使うのではないかと思います。そうであれば、それは今必要な政策なのか疑問です。財政拡張的な要素は菅政権下でも続き、財政の悪化がさらに進む可能性はあると思います。

コロナ対策で必要なお金は使うべきだと思いますが、そこは先生と意見が違うかもしれません。

小幡:

はい、違いそうです。

木内:

財源については、野放図に国債発行だけで賄っていくのはどうかなと、私は思っています。

小幡:

それは同意見です。ただ、必要な支出を増税で賄うというよりはやはり歳出削減せざるを得ないと思っています。終わったことを言っても仕方ないですが、コロナ第1波の時のばらまきは大失敗だと思います。

木内:

必要のない人にまで配られた点では、問題があったと思います。

指摘された財政・金融の破綻は、実際どういう形で現れるとお考えですか。

小幡:

日本の内的な現象としては、日銀の政策が変更されるのではないかという疑心がマーケットで広まった時に、国債の新規発行の入札が不調に終わることが頻発する、それがきっかけになると思います。

欧州のソブリン危機の時のドイツ国債のように、破綻するとは誰も思っていないけれども、値下がりするとは思っています。そうすると、慌てて買う必要はないから見送るということが起こります。そうなると、政府は借り換えもできなくなる。既発債の暴落が始まり、株も為替も国際的な売り仕掛けで暴落する。そういうシナリオです。

もう一つは、世界的な株式バブルの崩壊がもたらす影響です。銀行セクターを直撃しなくても、株式と不動産が暴落すれば、タイムラグをもって金融セクターに影響が及ぶとみています。銀行セクターに火がつけば、国債バブルも崩壊します。21世紀に繰り返し起きてきたバブルは、バブル崩壊を財政金融出動で誤魔化し、再びバブルを作ることでバブル崩壊を先送りしてきましたが、今回はそうはいきません。なぜなら、今回は、既に財政も金融も政策を出し尽くしており、手当てできない状態になっているからです。

木内:

国債の信認が落ちて国債市場が調整するという形で財政の問題が表面化してくる。

グローバルで見ても政府債務はかなり増えていますので、そういうリスクがあるということですね。

小幡:

ただ、債務の水準よりも新発債の引き受け手がいなくなることが暴落の唯一のきっかけだと思っています。アメリカと比較して、日本では中央銀行が実質的に新発債の引き受け手になっています。アメリカ国債は、FRBが大量に買うといっても、元々世界中にそれなりの投資家がいるわけです。やはり日本のほうが怖いと思います。

木内:

日本の場合、プライマリーディーラー制があります。それでも、セカンダリーマーケットよりもプライマリーのほうがリスクがあるということですか?

小幡:

そうです。三菱UFJ銀行以外にも、プライマリーディーラーの資格を返上する金融機関が続出することも考えられます。また、プライマリーディーラーと理財局の間で、利回りの折り合いがつかない場合、そうしたニュースが、セカンダリーに波及することも考えられます。

コロナ対策により延期された量的緩和バブルの崩壊

木内:

コロナショックを受けて、FRBは相当な金融緩和を実施しました。これは、金融市場を歪めた面があると思っています。

小幡:

おっしゃる通りです。

木内:

先ほどご指摘いただいたように、金融市場の混乱が生じても、それはリーマンショックとは違い、銀行セクターを直撃しない、というのはその通りだと思います。ではどこが影響を受けるかというと、ミューチュアルファンドやヘッジファンドなどのノンバンク(非銀行金融機関)です。そのあたりが比較的リスク性の高い証券化商品であったりハイイールド債を持っています。

株が先に崩れるかどうかはわかりませんが、問題の本質は債券にあると思います。それを保有しているのはノンバンクです。日本のノンバンク、例えば生保にはそれほどのリスクはないと思います。そういう意味では、金融面での問題は主に欧米に残されていて、そこが崩れると、世界的に株も下がるし、悪い形の金利の上昇も起こると考えています。

リーマンショック以降、マーケットメイク機能が銀行からノンバンクに移りました。そこのマーケットメイク機能も落ちるかもしれない、ということが表面化しそうになったことから、3月に、FRBが過剰な政策をしたのではないかとみています。

小幡:

確かにそうですね。別の言い方をすると、コロナバブルで、前のバブル、世界的量的緩和バブルの崩壊を先送りした、ということです。

木内:

そういうイメージです。あれだけ長期の緩和が続いた後、金融面で何も問題なく済むというのは考えにくいです。

日本の金融機関や証券化商品に大きな問題がなくても、金融市場が混乱すれば当然日本市場も巻き込まれます。

小幡:

日本市場への影響としては、円高が大きいということですか。

木内:

円高のリスクはあると思っています。もし世界規模の金融危機的状況が起こればリスク回避として円高になりやすいと思いますし、そうではなくても幾つかの要因で円高の可能性はあると思っています。

小幡:

ドル自体が崩れるということですね。

木内:

ドルが崩れる要因としては、一つは双子の赤字です。財政の悪化がどういう形の問題を生むかは国によって違うと思いますが、アメリカは、金融市場に影響が出やすいので、そうすると、円高になります。

もう一つは、すぐではないですけれども、ドルの覇権が揺らぐとの観測が出る可能性があります。中国のデジタル人民元の発行は、アメリカの金融・通貨覇権への挑戦だと思うので、そのあたりが意識されればドル安になっていきます。

3つ目は、世界的に日本化が進んでいることです。日本化とは、政府債務が増大するとか、低成長、低インフレ、低金利、金融緩和が効かなくなるということです。欧米はコロナショック以降、日本化が進んでいます。そうすると、日本の悪さが目立たなくなり、日本円の価値が見直されることになります。

最後は、先ほどご指摘のあった金融政策です。コロナショックで、FRBが突出して金融緩和を実施した。ECBもBOEも多少実施しました。日本銀行はやると言っただけであまりやっていない。

小幡:

コロナの被害自体も、日本は欧米に比べれば軽度で済んでいますからね。

木内:

欧米はまだやるぞという姿勢を残しているので、そのあたりの金融政策の差から考えても円高。この4つくらいの要因があって、2021年は円高のリスクがあると思います。

小幡:

短期的には景気には円高はマイナスですが、長期的には妥当な水準への是正だと思っています。

木内:

私も今は円安の状態だと思っています。

リーマンショックの際、円高になった時、国民も政府も騒いで、それが量的質的金融緩和につながっていったと思うんです。

今回は、コロナショックで影響を受けているのは輸出型企業ではなくて内需系でしかも中小・零細のサービス業が中心です。むしろ円高はプラス面があるわけです。結果日本銀行も従来ほどは円高を警戒しなくなってきていると思っています。

小幡:

ただ、政治家たちは、固定観念だけで動いているので円高になると反射的に反応しますよね。そういう反応は思考停止がもたらしていると思うんです。政治家は、現実を直視せずに観念だけで動いている上に、国民の感情や雰囲気に動かされているので、国民の反応にどう反応するか、あるいはどう反応を抑え込むかという受け身になっています。完全にリーダーシップが不在になっています。

政治が変わらない限り、官僚は変わらない。政治家が思考停止で怒鳴り散らせば、官僚も思考停止になる。思考しても無駄なので。そうすると、日本国全体が思考停止になっていく。その悪循環が生じていると思います。

日銀は、まだましかもしれません。

木内:

ましですが、過去にやってしまったものは残っています。それをどうするかは見えていないですね。バランスシートは簡単に元に戻らないし、ETFはもう30兆円以上買ってしまっています。株価が下がれば日本銀行は債務超過になります。

小幡:

黒田さんは最近、「リスクプレミアム」という言葉を前より使うようになっています。とにかく株を量を決めて買うのではなく、リスクプレミアムが高くなりすぎたら抑える、という意味のある株式購入という含意かと期待しているのですが。

木内:

ETFの買い入れ自体は、白川さんが総裁の時から始めています。ただ、当時は、株式はリスクプレミアムが高過ぎたので、アメリカの信用緩和に倣う形で、異例ではありますが、市場機能を正常化させるという目的で日銀が株式を購入したわけです。ところが、2013年の黒田体制になってからは、リスクプレミアムに働きかける、イコール、株価を上げると宣言した。それは中央銀行の政策ではないと思います。

小幡:

白川さんはセントラルバンカーですが、黒田さんはそうではない。その違いが大きいですね。一番フィロソフィカルに違うと思っているのは、市場の邪魔をしてはいけない、と考えているかどうかです。どんな大規模緩和をしようが、国債や株を買おうが、白川さんの時代は、市場を正常化させるためでした。白川さんの時、株を買っても株価に効果はなかったと言われますが、株価に影響を与えないように買っているから当たり前です。今は、株価を上げるためなので、フィロソフィーがまるで違います。

木内:

そのあたりは、議論されずにスタートしてしまったところはあると思います。

今後世界をリードするのは

木内:

米国の大統領選の結果も出ました。この先、世界経済の覇者は中国になるとみていらっしゃいますか。

小幡:

アメリカは覇権を自ら放棄しました。一方、中国は覇権をとりたいと思っている。覇権を放棄したい国と覇権を取りたい国が戦ったら、取りたいほうが勝ちます。実際に中国が覇権を取れているかどうかは別ですが。

G2かG0かという話からいえば、G0の世界に近づいていると思います。ただ、覇権がない中で、衰退していくところと上昇していくところの影響力を比べれば、上るほうが勝っています。「覇権」という言葉ではニュアンスが違いますが、世界の主導権は中国に移っていくと思いますし、既に移っていると思います。

木内:

政治的パワーについてはいかがでしょうか。

小幡:

政治も同じことが言えると思います。元々、第2次大戦後が例外的な状況で、アメリカという国はもともと孤立主義ですし、何かの間違いで世界秩序に介入しているだけです。ヨーロッパとも心から通じ合っているわけではないです。ただ、中国が政治的に世界のリーダーになることは当面ないので、政治は世界政治的にもますますリーダーシップ不在の状況になると思います。

通貨の話でいけば、米ドルが残ると思っています。二極化というか三極化すると思っています。

超長期的な話をすれば、これはほとんどの専門家には否定されるでしょうが、私はユーロが最有力だとずっと前から思っています。なぜかというと、ユーロが形式的に個別の国家主権から独立している唯一の通貨だからです。通貨の発行において、政治的独立性が、今後は、より重要となると思うので、ユーロは構造的に優れていると考えています。

私は、財政と金融が一体化していないのは正しいし、そうあるべきと思っています。もちろん、ユーロの基盤が脆弱というか元々基盤がないから危ういという問題はありますので、ユーロが世界でもっとも重要な通貨になる前に、失脚する可能性も十分にあるのですが。

政治から独立という点ではLibra1)というのもありますが、結局は私利私欲なのでインフラにはなり得ないと思っています。

もし、アメリカが覇権を失ったとしても、米ドルは資産市場においては圧倒的な軸になっていますので、一番影響力が強い通貨として残り続けると思います。

木内:

アメリカと中国を比べると、貿易規模では中国が上回っていて、経済規模でも早ければ2020年代のどこかで中国が追い抜きます。けれども、金融・通貨でいうと歴然とした差があるので、近い将来、人民元がドルに代わるということは、私はあり得ないと思っています。デジタル人民元ができても。先進国がそれを利用することは考えにくく、中国は自分の同盟国に広げていくしかありません。違う土俵でドルと戦うということになります。

中国は、今アメリカと貿易摩擦があり、次のバイデン政権もトランプほどではなくても厳しい態度はとるでしょうから、自分の仲間を増やしていくという動きを強めると思います。そのベースが一帯一路で、その経済圏で半ば強制力を持って人民元での決済を広めていくと、今まではドルが使われていた新興国で人民元がそれに代わっていく可能性はあります。そして、その傾向は、バイデン政権でより強くなると思います。というのは、トランプ政権の時には中国も攻撃するけれども同盟国も攻撃しました。それに対して、バイデン氏は同盟国との結束をより強固にしようとしています。

小幡:

そうですね。日本にとってはトランプのほうが中国をやっつけてくれるから良い、という理解しがたい言説が結構あります。政治家の中にもそれを信じたり、有識者と称する人にもそういう意見を持つ人がいます。けれども、対中のことを考えたら、どう考えてもバイデンのほうが対中包囲網をつくりやすい。トランプは、こちら側の同盟力を弱めているわけだから、中国に隙を存分に与えているわけです。バイデンのほうが中国にとっては手ごわいと思います。

木内:

米中の対立の構図が、先進国対中国あるいは先進国対中国を中核とする新興国の構図になりやすいと思います。

その観点からは、香港問題は大きな転機だったと思います。それ以前は、トランプの対中政策もひどいし、日本もヨーロッパも多少中国に共感する部分があったと思います。それが香港問題で吹っ飛んでしまいました。中国も開き直ってしまった。そうすると、バイデン政権の下で日本やヨーロッパが結束するのであれば、中国は中国で独自の味方をつくっていくことになります。

中国はおそらく、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を一つの足がかりとして、貿易を強化するのに加えて、もしかしたらルールも変えていくのではないかとみています。今までの世界貿易のルールは、先進国に都合のいいものなので、中国としては受け入れたくないはずです。RCEPは緩いルールでスタートしているので、柔軟に変更ができるかもしれません。

TPPとRCEPの2つの大きなEPAが米中の対立になっていくという構図もあり得ます。2つの国の対立ではありますが、スタンダードをめぐる対立でもあるわけです。戦後の先進国の都合で作ったルールに対する、新興国の反発もありますので、中国がその盟主のような形になって、スタンダードを変えていくことも考えられます。

小幡:

そのときにヨーロッパはどうなんですか。政治的にはもちろん対中包囲網的な民主主義ですが、ドイツもイギリスも経済においては中国から実利を取ろうという行動をとっています。

木内:

取れるのであれば取りたいとは思っていると思いますが、やはり香港問題は大きいと思います。中国包囲網のようになった時に、経済だけいいとこ取りというのはやはり難しくなっていると思います。ヨーロッパは別に中国がなくても経済は回ると思いますし。

一方で、日本は今の瞬間、中国がなくなったら、経済は回らなくなりますよね。

小幡:

経済だけのことを考えれば、中国の軍門に下るのが合理的ですが、そうしたくないという気持ちの政治家や有識者が多いのは分かります。しかし、結局損をするのは日本経済かもしれません。

木内:

価値を共有する国の価値とは、どういうものなのか、普遍的なものなのか、ということを問われることになるような気がします。

小幡:

ただ、悪く言えば日本人には別に価値観はないですよね。

木内:

結局は、アメリカについていかないと安全保障上は成り立たないので、アメリカと価値を共有しています。その価値は普遍性のある価値という解釈です。だから人権問題を起こしている中国に対してはそこは譲れない、ということになるのだと思います。けれども、そもそも絶対的な価値なんてあるわけはないと思います。

難題の多い日本銀行による正常化策

小幡:

次の日銀総裁はどなたがなるとみていますか。正常化にはどのような影響があるとみていますか。

木内:

少なくとも安倍前首相が辞任したことによって日銀出身者が総裁になる可能性が出てきたと思います。そうすると、希望的観測も含めれば、正常化しやすくなるかもしれません。

小幡:

危機になってから正常化を始めるのか、徐々に正常化するのか、どちらなのでしょうか。

木内:

今でも正常化は進めていると思います。例えば、国債の買いも年間80兆円を超えていたのが、今では十数兆円になっていますし、ETFの買い入れも「いっぱい買うぞ」と言いながらも買っていません。先般の当座預金制度の見直しも、今まで金融緩和で打撃を与え続けてきた地域金融機関に対して補償の意味もある方針転換だと思います。

小幡:

マイナス金利をやめても良いと思いますが。

木内:

私は、正常化するときはそこが最初かなとは思います。まずは、マイナスをプラスにする。

国債の買い入れは、ペースをだいぶ落としていますが、残高を落とすにはオーバーシュート型コミットメントを変えなくてはいけないので、そのときには正式に「政策を変えます」と宣言してからでないと変えられません。それは黒田総裁の任期中には、やらないだろうと思います。

小幡:

ETFの買い入れはすぐにでもやめてもいいはずだけれども、インパクトが大き過ぎてできない、ということですか?

木内:

買い入れを減らすことはできるかもしれませんが、売るというのはハードルが高いですね。

小幡:

でも、期落ちできないから、株はどこかで売らないといけない。

木内:

どこかでオフバランス化しなくてはいけないと思います。三十何兆円も株を持っていると、日本銀行の財務にとって非常に大きなリスクです。

小幡:

上がっている時ではないと価格を崩さずに売るのは難しいはずですが、結局、上がってる時にすら売れないという現実がある。

木内:

日銀が株を売ると、何らかの理由で株価が下がった際に、日銀の政策が原因ではないにしても、必ず日銀のせいにされるので、政治的なリスクが高いです。ですから売れないです。

ETFの場合は何らかの仕組みを考えてオフバランス化する必要があります。それは日本銀行だけでは完結できないと思うので、政府に頭を下げてお願いすることになると思います。そうすると、その時点で日本銀行の独立性がかなり制約されることになるでしょう。

株が下がるといったアクシデントが起こると、途端に日本銀行は、赤字になり債務超過になり、国庫納付金も払えなくなって、大きな政治問題化します。

小幡:

国債の買い入れ政策の出口についてはどのような危機意識なんでしょうか。

木内:

国債の場合は、玉不足で買い入れができなくなる可能性もありました。銀行が売らないとなると、その途端に価格が大きく変動します。ただ、日銀の保有比率が50%に達する直前の段階で抑え込んだので、流動性リスクは下がったとは思います。

まだまだ小幡先生のご意見を伺いたいところですが、時間がきてしまいました。小幡先生とは、意見の異なるところもありますが、対談の機会をいただき大変有意義でした。ありがとうございました。

(文中敬称略)

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    Libra協会は、2020年12月1日にLibraをDiemに改称すると発表。また、協会名もDiem協会に改称した。

金融ITフォーカス2021年1月号

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