フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト レポート レポート一覧 投資未経験者も資産運用に導く

投資未経験者も資産運用に導く

2021年8月号

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

高齢化が進む中で、資産形成の必要性が長年問われている。運用との接点を持たない人にどうアプローチすれば良いのだろうか。生活に密着したサービスを提供する異業種から金融ビジネスへの参入という特徴を活かし、資産運用を身近なものに変える試みやアドバイス機能の強化を図る楽天投信投資顧問の代表取締役社長 東氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2021年8月号より

語り手 東 眞之氏

語り手

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長
東 眞之氏

1986年 大手証券入社。アナリストとして投資モデルの開発に従事。W.シャープ博士(ノーベル経済学賞受賞)他の米国研究者とも協働。英国現地法人副社長を務めるなど、海外部門・企画部門業務にも従事。2016年 楽天証券入社。投資運用室長。2017年 楽天投信投資顧問 代表取締役就任。

聞き手 横手 実

聞き手

株式会社野村総合研究所
常務執行役員 資産運用ソリューション事業本部長
横手 実

1989年 野村総合研究所入社。共同利用型証券バックオフィスソリューションの企画・設計を長年担当。2005年 大手証券会社に出向し、インターネット証券設立に参画。08年 NRIに戻り、新システムプロジェクト部、STAR事業部を経て、10年 STAR業務推進部長。14年4月に執行役員に就任。18年より資産運用ソリューション事業本部長。20年 常務執行役員。

投資を習慣化させる

横手:

楽天グループは金融戦略の中で、ネットだけでなく対面チャネルを含めた、トータルとしての金融サービスを進めていらっしゃいます。特に、対面チャネルとしてのIFAの活用に力を入れていらっしゃるように感じます。その中での楽天投信投資顧問の位置づけなどについてお話を伺いたいと思っています。

東:

グループ会社の楽天証券では早くからIFA事業に取り組んでおり、それより後発となる当社は創業当初からIFAチャネルを意識した取り組みを行っています。また当社は、先行する複数の直販投資会社の成長を眺めながら、オンライン・チャネルとIFAチャネルを現実のターゲットとしつつ今日に至っていると言えるかと思います。

このような当社を含むグループ企業は、米国において大手ネット証券を展開すると共に、IFA事業に対しプラットフォームの役割を果たす、チャールズ・シュワブ、TDアメリトレード等の歴史ともよく符号したものになっています。

グループ企業である楽天証券におけるIFA預かり資産は、昨年12月末時点で約6,600億円となっております。契約IFA社数は約100社、契約アドバイザー数は1,500人を超えてきています。

IFAのビジネスの成長は堅調に推移していますし、IFAとしてのキャリアを新たに歩まれる方は増加傾向にあり、足元ではさらに拍車がかかってきていると認識しています。これからがまさにIFAの時代になってくると期待できる状況です。

米国で今日のアドバイザーによる資産運用サービスが飛躍を遂げた背景には、401K資産の成長があると思います。日本においても、つみたてNISAに代表される一般家計による投資が急拡大しています。つみたてNISAやiDeCoの成長は、米国の401Kのように資産運用アドバイスの必要性を、今後急速に高めていくものと考えます。

現在のIFAのビジネスは、既存の伝統的な金融機関での取引から、信頼できるIFAとの取引へのシフトという形で推移していますが、ここにつみたてNISA等で老後に向けて蓄積された資産が加わることによって、貯蓄から投資へのシフトが一層定着するものと期待しています。

個人投資家保有の公募投資信託残高が200兆円あるいはそれ以上という時代もそう遠くない将来に必ずや実現するものと確信しています。ただし、このような構造変化は一朝一夕に実現するものではなく、時間をかけながら着実に進むという類のものだと思います。将来に向けて、普段からの準備や対応が大変重要だと考えています。

横手:

資産運用の最初のステップとしては、つみたてNISAなどを通して、少しずつご自身の給料の中から積み立てをしながら金融商品というものを理解していく。まずは、ご自身で投資のリテラシーを学んだり、金融商品を実際に持ったりして経験を積むというのが、一つ大事なことである、とお話を伺っていて思いました。

その次のステップとして、もう少しどういった金融商品があるのか等を理解しながら、ご自身で判断のつかない部分についてはいろいろなチャネルを活用しながら、さらに運用資産を増やしていく。その中の一つのチャネルとしてIFAというものが今後必要になってくる、ということですね。

東:

投資を開始する段階は、iDeCoなりつみたてNISAなりの制度商品が最適ですし、そこで選択できる商品を通じてあたかも“貯蓄する”ように投資をスタートできれば良いと思います。

ご指摘の通り、資産が形成されてくれば、多様な商品を選択できるようになるなど選択の高度化も期待でき、一つの進化パターンになるかも知れません。

ただし、よく言われる2000万円問題に伴う人生100年時代を考えると、シニアな年齢を迎えたとしても常に資産形成に関わる課題を抱えることになるのではないかと考えます。どのような商品を選ぶかといった狭義の課題であれば、既存金融機関でも対応できるのかもしれません。しかし、どのように働き、どのように貯めて、どのように使うかというトータルなアドバイスが必要になった時、やはり親しいアドバイザーの存在が重要になってくるのではないかと思います。

IFAの皆さんは、お客様との信頼関係を継続すべく活動されていて、ものすごく目線を低くして努力されているところを多く目にします。積立投資の相談や、どのように働くか、健康の維持増進といった諸々の生活アドバイスにも深く踏み込まれています。NISAの相談を受けたりといった地道な取り組みをされたりもしています。

金融リテラシーをどう高めるか、という課題もよく論じられますが、それよりもやはり行為として習慣化させる力が重要だと考えます。学校の試験でいくら高得点を得たとして、必ずしもその知見通りに現実を運べるわけではないということと同じだと思います。ですから、継続的な投資行動につながるつみたてNISAやiDeCo等で実践しつつ学ぶというのは、投資習慣を形成するのに重要だと考えます。

一方、このような積立投資の機会に恵まれない場合は、IFAに相談されるというのは、非常に有効な解決策だと考えます。

横手:

まだ投資を始めていない方たちに対しては、具体的にどういう形でやっていくのが良いと思いますか。

日本の場合には、元々投資をされる方が少ないということもあり、投資に接点を持っていない方々を、いかに投資をするほうに動かすかということに非常に苦慮されているように感じます。

東:

消費を含めた日常の世界に投資を持ち込むことが非常に重要だと考えます。楽天グループの強みは、この点を強く意識しているといえるかもしれません。

生活サイトの中ですべてを総合的にケアしていく仕組みをつくっていくのは、ものすごく良いこと、パワフルなことです。フリーに何でも選べるプラットフォームを用意し、あとは各自のプリファレンスなり生活に必要なものを選んでもらう、というスタイルです。

本当に日常的なところで、貯蓄行動の中での投資をうまくプロモートしていければ良いと思います。どういうコンテンツを用意するかということもありますが、投資に触れる機会をいかに生活に近いところに持ち込んでいけるか、その結果として、いかにウエルネスが向上するか、これを理解いただくことがまず重要だと思います。

横手:

一般の方々がまさに普通に生活している中でのタッチポイントに、たまたま金融機能に触れる機会がある、というくらいの位置づけでないと広がらないということですね。

金融機関の方とよくお話しするのは、それが仕事ですから当然、朝から晩まで金融のことを考えています。そうすると、「自分の資金なのに、なんで資産運用について考えないのだろう」と思うわけです。しかし、一般の方からすると、一日の中で金融のことを考えている時間はほぼないわけです。そうなると、やはり生活の中に自然に取り込まれていく金融機能のようなものがあるほうが裾野が広がるとは思います。

生活の中に溶け込む金融サービスを追求

横手:

日本の個人金融資産は1,900兆円を超えています。その中で現預金が1,000兆円もありますが、公募投信などの残高は80兆円弱です。1,000兆円の中の数%が動くだけでもかなりの規模です。10%が公募投信に動けば、今の倍以上になります。これだけの低金利ですから、普通に考えれば「なぜ動かないんだろう」となります。

東:

着実に状況は変化してくると思います。今の投信市場は、未だ伝統的な金融機関のお客様の資産で形成されていますから、変化は簡単に見てとることはできないかも知れませんが、私共は大きな変化を日々目撃しています。

20世紀末の金融危機の後、この国の伝統的なリテール証券サービスは「富裕層ビジネス」に傾斜し始めました。それ以前は、公社債投信を軸に証券貯蓄と積立投資を組み合わせたマスリテールの領域もありましたが、バブル清算の過程で、これらサービスは終焉を迎えたと言えるでしょう。伝統的な金融機関等では口座数が伸びない、これはほぼ21世紀の今に至るまでに定着した傾向です。

他方ネット証券等では、空前の顧客増加トレンドが続いている状況です。このようにビジネスは二階層に分かれていますが、総じて成長軌道にあるのは間違いないところだと考えます。

横手:

ある意味、富裕層ビジネスはパイの取り合いをしているだけ、ということですね。そうすると、まだまだ投資未経験の方々は多いので、そちらに目を向けたほうが良い、ということでしょうか。

東:

日本の伝統的な金融機関のフランチャイズは素晴らしく強固なものだと思っています。特に、大手であれば、そのレベルは高く、これは簡単に揺らぐようなものではないと考えます。

ただし、冒頭でも申し上げた通り、お客様の高齢化は着実に進みますし、資産はより若い世代に継承されます。運用会社としては、どのようなお客様の投資ニーズにも対応していくというのが、筋だと考えています。当社としては我々の強みでもあるネットとIFAを通じて、そうしたニーズに応えていきたいと考えています。

横手:

楽天グループのサービスは、生活の中での金融サービスのタッチポイントが非常に優れていると思います。例えば、普通に買い物をしていて「楽天ポイント」がたまります。たまったポイントを、運用していくこともできます。それがたまったら、新しい金融商品をグループの中で買うこともできます。アメリカの金融サービスを中心とした発展型とは一線を画した、日本の中での新しい金融サービスのモデルではないかと思います。

東:

アメリカは401kが成功しています。これが今の資産運用ビジネスの規模的な拡大をもたらしています。ただ、401Kは制度商品なので、お客様の意識もそこにフォーカスしています。

そういう意味では楽天がやっているサービスは、もうちょっと裾野が広いです。お客様の意識も多様な中で、投資のチャンスをどう提供するかというところは非常に難しい課題ではありますが、楽天の強みを発揮する絶好の機会と考えています。

横手:

それが、差別化になっていると感じています。そうなると、実際に提携されるようなIFAも、楽天グループの金融サービスの考え方に近い方が集まっているのでしょうか。まだ過渡期ですから、いろいろな方がいらっしゃるのでしょうか。

東:

その辺りの価値観の共有というのは、うまくなされていると考えています。

IFAに関する翻訳本を発行

横手:

9月に翻訳本を出版されるとお聞きしています。

東:

『アドバイスが変える資産運用ビジネス』というタイトルの翻訳本を出版します。翻訳の監修をしていただいている下関市立大学の森祐司教授から原本の紹介を受けました。原本を読みますと、アメリカのIFAの状況について、ビジネス面、アカデミック面、リーガル面、制度面、など広範な視点で各分野の専門家が執筆していらっしゃいます。是非とも、翻訳したいと思い、それが実現しました。

今の高齢者は、生活ができるくらいの年金はもらえていますので、老後のための資産運用を真剣に考えなくて済んだかもしれません。しかし、そういう時代ではなくなります。生活資金を作りだす仕組みを社会が支援して、それを個人がどう活用するか。そして、金融サービス提供者はそれをどう的確にアシストできるか、という大きい問題が控えています。そういうことがこの本には書かれています。

横手:

今後の日本の金融サービスの中で、運用会社の役割は、非常に大きいと思っています。この本を読んだら、ますますそう感じるのではないかと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2021年8月号

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ

お気軽にこちらへお問い合わせください。

担当部署:株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp