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国内スマートシティ実施主体へのインタビューに基づく持続可能なスマートシティ実現に向けた考察

2021/02/26

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都市が抱える諸課題に対して、デジタル技術活用により様々な施策が試みられている。しかし、自立したビジネスモデルを確立して持続している事例は一部に過ぎない。取組を持続させ、絶え間なく住民の生活の質を向上させるには、どのようにすればよいのだろうか。

はじめに

少子高齢化、防災、インフラ老朽化や交通弱者の問題等、都市における広範な分野の課題に対し、デジタル技術を用いて解決を試みる取組が活発になりつつある。スマートシティとも呼ばれるこれらの取組は、デジタル技術を用いたサービスを都市に実装し、そこで収集したデータを解析・活用することで都市が抱える課題の解決につなげようとするものである。多くのデータを蓄積するほど、サービスの価値が高まることが期待さ れるこれらの取組においては、持続性を念頭に置く必要がある。また、住民にとっても生活の質を向上させる取組が、頓挫することは望ましくない。
国土交通省によるスマートシティの定義も、「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」であり、“持続可能”の視点についての重要性が示唆されている。 しかしながら、企業や自治体による一時的な実証実験としての趣旨が強い国内のスマートシティにおいては、自立したビジネスモデルのもとで持続している事例は多くない。本レポートでは、筆者が行ったスマートシティの実施主体へのインタビュー、政府・自治体への支援経験等を踏まえ、持続可能なスマートシティの推進について考察する。

政府が掲げるスマートシティの将来像

スマートシティの両輪は「都市OS」と「都市マネジメント」

2020年3月に内閣府がリリースした「スマートシティ リファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー」には、他の自治体やサービス間のデータ連携を可能にするシステム的な共通の基盤(都市OS)や、持続可能な取組とするための都市マネジメントの考え方が示されており、政府によるスマートシティ関連の今後の取組の立脚点と捉えることができる。
都市マネジメントによって地域全体の戦略を定め、戦略の実行に必要なサービスを都市OS上で実装することを想定しており、どちらが欠けても内閣府が目指すスマートシティの戦略的な実行には至らない。

「都市OS」は、都市・分野間のデータを連携させるシステム基盤

「デジタル化された持続可能な地域経営」を実現させるために、内閣府は、都市・分野間の連携を可能とする統一的なシステム基盤(以降、都市OS)を整備することを掲げ、検討を行っている。
全国の都市が抱える課題は一様ではないため、活動を開始しているスマートシティの取組分野は非常に広範にわたっている。政府は都市OSを整備することにより、各自治体が異なる仕様でシステム構築することなく、地域間でのデータやサービスの互換性を確保することを目指している。なお、筆者が事務局を支援する形で携わった政府の検討会においては、都市OSの整備により、さまざまなプレーヤーが協調・競争できる環境を用意できるという考え方も示された。

「都市マネジメント」は、スマートシティの持続的運営に不可欠

前述のホワイトペーパーには、スマートシティを持続的に運営するためには地域全体をマネジメントする機能が必要であるとの考え方が示されており、推進組織、ビジネスモデルの明確化等が挙げられている。
ビジネスモデルの明確化とは、参画するプレーヤーに求められる価値、価値への対価、対価の財源を明らかにすることであり、持続可能な取組とするためには不可欠である。ただし、地域の特徴や参画する企業が異なることから、画一的なフレームを示すことは困難であり、地域の事情を加味したマネジメントが必要であろう。

スマートシティ化に取り組む都市の実情

喫緊の課題を抱えた地方部ほどリソース不足

政府が、都市OSの整備、都市マネジメントのフレームを示す一方で、スマートシティ推進の現場の対応としては、画一的なフレームでは対応しきれない地域特有の事情(地場の企業・団体の関係性、住民の志向等)を踏まえた柔軟な対応が必要となる。また、国内のスマートシティの取組の中には、企業や自治体が体制、費用等を投資する実証実験として行われ、持続的に参画企業が収益を挙げられるビジネスモデルの確立に至って いない例もある。
また、少子高齢化やインフラ老朽化、交通弱者の問題等多くの社会課題は地方部ほど喫緊の課題となっているが、地方自治体の職員数は限られており、財政的な余裕も少ないなど、デジタル化に取り組むためのリソースが不足していることが多い。企業が、このような地方部で収益を上げ、デジタル化を持続的に推進する障壁は高い。そのため、地方部におけるスマートシティの取組は、政府からの補助金を契機に始まる事例もみられる。

持続が難しい補助金に依存した取組

補助金を契機に開始された取組は、自立したビジネスモデルを確立できないまま、補助金終了後に取組を継続することが困難となる場合もある。
東日本大震災の復興支援を目的に、再生可能エネルギー、蓄電池、エネルギー管理システムなどの導入を行う事業に対して、経済産業省から補助金が付けられ、複数の事業者がスマートシティの取組を行った事例がある。筆者は、活動が終了している取組について、当時のプロジェクトリーダーにインタビューを行った。
福島県の自治体で実施されたその取組では、再生エネルギー関連機器を製造する電機メーカーA社が推進主体となり、自治体、電力会社と協業し、都市全体のエネルギー需給システムの構築を目指した。補助金が付けられた事業でもあり、A社は協業先からの協力を比較的容易に得て活動を開始した。しかし、本活動は、補助金が終了した1年半後に終了してしまう。活動が終了した最も大きな要因についてプロジェクトリーダーは、機器開発の費用が高く、補助金終了後の収益が見込めなかったことを挙げている。また、本事例は復興支援ということもあり、2か月という短期間で企画が構想された。そのため、補助金終了後におけるビジネスプランやプロジェクトのゴールの明確化について、関係者とじっくり協議できなかったことも活動が終了した要因であったと、当時のプロジェクトリーダーは話している。
政府の補助金事業は期間を限定して行われる。補助金を契機として取組を開始する場合は、補助金に依存したビジネスモデルからの脱却を、開始当初から検討する必要がある。

協業体制の推進者にかかる多大な労力

スマートシティが取り組む課題は、単一の分野を専門とする企業だけでの解決は難しい。多くの事例においては、複数企業と自治体が協業体制の構築を行い、協力しながら推進している。その際、協業体制を率いる推進者が持続可能なスキームを構築する必要があるが、地域で既得権益を持つ企業や住民の合意が必要な場合もあり、ビジネスモデルが可視化できても、取組が進まないこともある。現在取組が持続している事例においても、協業体制の立上げ時には非常に大きな労力がかかっていることが多い。
筆者は、香川県の自治体で持続中の事例について、立上げ時に中心的な役割を担った電機メーカーB社の元プロジェクトリーダーにインタビューを行った(インタビュー時はB社退任)。この事例では、地場の企業、大学や高等専門学校、自治体等の関係者とで協議会を形成し、取組を推進している。協議会の立上げにあたっては、B社リーダーが何度も自治体に足を運び、企業、大学、自治体の関係性や課題意識の把握に骨を折ったという。現在、本事例に導入された都市OSのアルゴリズムの改善は大学や高等専門学校の学生によって行われているが、プロ ジェクト開始当初は自治体と大学とで課題意識の違いが大きく、協議会立上げ時の検討の中で方向性を擦り合わせてきたという。多様なデータを蓄積する都市OSの管理を誰が担うか定まらない場合も多い中、公平性や費用面での利点がある学術機関が担う形で協業体制を構築できたことが、この取組の持続に寄与していると考えられる。

持続しているスマートシティにみる成功要因

自治体の費用負担を上回る費用削減効果を示した取組

住宅地においてスマートシティの取組を行う場合、地域課題を把握している自治体を含めた関係者間の協議を経た上で実施することが多い。また、一部の事例においては、自治体が地域 課題を解決するために、企業へ委託する形で取組が実施されている。
兵庫県の自治体の事例では、子どもや認知症の高齢者にBluetoothで通信が行えるタグを携帯してもらい、家族にメールで居場所を通知する試みを実施している。タグを携帯した人が、電信柱などに設置された検出器付近を通ると通知が届く仕組みで、約1,500台の検出器の設置やメール通知のシステム運用について、民間警備会社が自治体から委託を受けている。自治体にとって相応の費用がかかる取組だが、効果の仮試算値として、軽減した犯罪被害額(5,500万円/5年)、軽減した交通事故被害額(10億円/5年)と公表されていることから、自治体が採算性について妥当と判断していることが伺える。
スマートシティが解決の対象とする課題は公共性の高いものが多く、自治体の費用負担となる場合も多い。軽減する被害額等を試算し、市議会の承認や政府の補助金を得て持続している本事例は、公共性の高い課題への取組の参考と成り得るだろう。

スマートシティ開発時に本業ビジネスにて投資コスト回収を見込めた取組

農地や工場跡地等をスマートシティとして開発する事例もある。この場合、スマートシティの管理料やデータ収集について合意の上、住民が新たに居住することとなり、取組持続の障壁 が低くなることが多い。スマートシティの取組が実施されていることが付加価値となり、住宅地としての価値が高くなる可能性もある。通信、ライフライン、金融を担う参画企業にとっては、新規契約者となる住民が新たに入居することから、スマートシティの取組による利益や補助金に頼らずとも、本業での投資費用の回収が見込みやすい。また、元々土地を所有していた企業・団体が主導する立場となるため、大きな推進力を発揮しやすい。
このような類型の事例で中核を担った、立上げ時のリーダーに筆者はインタビューを行った。本事例は、神奈川県の自治体において、電機メーカーC社工場跡地をスマートシティとして開発したものだ。スマートシティの取組の中には、イニシャルコストを賄うために実証実験として補助金を活用することが多いが、本事例においては公的な補助金等は投入されていない。公的資金に頼ることなく開発に着手できた要因として、C社は自社工場跡地の土地の価値を高めて売却する利益が見込め、参画企業は本業での投資回収が見込めていたことが挙げられる。これら参画企業が出資するマネジメント会社は、住民からの管理費をもとに、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)、地域のセキュリティ、健康情報の共有等のサービスを行っている。ただし、官報の決算公告によると、このマネジメント会社自体はそれほど利益を上げていないようだ(2018年は 約1,000万円の赤字、2019年は約10万円の赤字、2020年は約1,800万円の黒字)。
本事例は、デジタル化の取組を付加価値としながら本業の顧客を拡大したものだ。C社は、スマートシティ内の住宅全てに自社の製品を備え付けており、参画した通信、ライフライン、金融関連企業は約1,000戸の新規契約を得ることができた。参画企業にとっては、本業で利益が得られるのであれば、デジタル化自体で投資コストを回収しなくとも取組を継続できる。また、企業にとっては、この取組を続けることでデータを蓄積で き、より住民に適したサービスにチューニングする中で、本業の新たなビジネス創出も図れる可能性があるのではないだろうか。

持続可能なスマートシティの実現に向けて

収集したデータに基づく住民サービスの継続的な向上

スマートシティの取組で利用者から得たデータは、サービスの向上によって利用者に還元すべきである。サービスの向上は、データ分析の結果に基づき行われるため、取組が持続しなければ十分な還元は望めない。また、サービスが十分でない状況が長く続けば、地域や利用者の課題解決への効果は薄れ、取組の持続は困難になる。
上記の神奈川県の例では、ID認証カードが住人に配布されており、住人の使用電力量、世帯情報、家電機器の履歴、カーシェア・サイクルシェアやスマートシティ内のイベントへの参加の情報がIDに紐づき収集され、管理されている。これらの情報をもとにポイントが付与され、地域サービスや、個別の省エネアドバイス、マネジメント会社からの特典を受けられる。そのため、利用者には積極的にデータを提供するインセンティブ が生まれ、データを提供すればするほどスマートシティのサービス向上にもつながる仕組みとなっている。

社会環境に適応した都市機能の再設計

新型コロナウイルスの影響により、都市を構成するさまざまなインフラが変化を求められている。特に、人の移動に関する都市の機能については再設計が必要ではないだろうか。
MaaS(Mobility as a Service)は、既存の移動手段をデジタル技術の活用により、利用者に最適な形につなぎ合わせるサービスであることを考えると、都市機能を状況に応じて再設計できる可能性がある。MaaSの取組は国内外で多数行われているが、それが地域課題の解決を目指すものであれば、冒頭で挙げた国土交通省の定義に照らしたとき、スマートシティの取組の一つとして捉えることができる。特に、交通弱者の比率が高い 地方部においては、限られた既存インフラを活用した再設計が求められる。
そのような事例がフィンランドにある。本事例について、筆者はフィンランド大使館商務部にインタビューを行った。フィンランドも日本同様、都市部への人口集中、高齢化の進展を抱えている。地方交通機関が脆弱な中、自家用車の運転が困難な住民が増加しているため、高齢者、要介護者、小学生等が病院や介護施設、学校へ通うための公営の送迎車両が存在している。この送迎車両の空き座席と一般住民とのマッチングを行うプラットフォームを、フィンランドのスタートアップ企業Kyyti社が提供している。
この事例は、既存の交通手段を従来想定しなかった用途として活用するという意味から、都市を再設計した例といえる。都市のデジタル化の推進者には、都市OS整備に必要なデジタルの知見に加え、複数の関係者をまとめる調整力、都市の構成要素を再設計する視点などが、ますます求められることになるだろう。

執筆者情報

  • 神林 優太

    システムコンサルティング事業本部

    主任システムコンサルタント

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