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物流DXに向けた課題と進め方のポイント

2021/10/04

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デジタル化の進展によって生活者や企業によるインターネットでの商品購入が増加したり、製造業における多品少量生産や短納期化の流れから企業間での貨物輸送が重視されてきている等、物流の社会的重要度が高まってきている。配送に関しては、即日配送や計画変更への臨機応変な対処が求められるなどニーズが高度化しており、製造業や流通業にとっては、商品の価値だけでなく、配送ニーズへの柔軟な対応が差別化要素の一つとなっている。
一方、慢性的な労働力不足や物流コストの高騰など物流業界を取り巻く環境は厳しさを増しており、現場努力による対応はすでに限界にきている。AIやロボットによる業務の自動化・高度化など、物流のデジタル化(物流DX:デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みも始まっているが、順調に進んでいないのが実状である。
以下では、物流DXを実現する際の課題および進め方のポイントについて解説する。

企業戦略上の重要性が高まる物流業務

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による在宅時間の増加やデジタル化の進展に伴い、リアル店舗での購入が減少する一方、スマートフォンやPCを用いたインターネットでの購入が増えた結果、物流網を通じたモノの動きが活発化している。2020年「電子商取引に関する市場調査」(経済産業省)によれば、物販系分野におけるBtoC-EC市場規模は、2013年に6兆円弱であったものが、2020年には12兆円にまで増加している。
製造業や流通業では、物流は本業に対する付帯的な位置づけとされることが多かった。しかし、消費者への直接配送のニーズが高まるにつれ、AmazonなどEC事業者のみならず、アパレルやメーカーのダイレクト販売(D2C)や、飲食業界のデリバリーサービスなども物流に力を入れるようになってきている。
物流の重要性が増すにつれて、荷主から物流事業者への要求も厳しくなる一方で、以前なら配送に数日かかっていたものでも、昨今は即日配送が当たり前となっている。さらに、配送計画変更への即日対応など、物流事業者には荷主の厳しい要求に応えることが求められている。
いまや企業にとっては、商品そのものの価値だけでなく、個別の配送ニーズに柔軟に対応できることが、顧客に提供できる重要な価値となっている。物流は企業戦略上、重要な要素の一つなのである。

物流を支える現場のデジタル化の必要性と物流DXで目指す姿

物流業界は、大量の荷物や個別の配送ニーズに対し、これまでは業務の手順を変更したり、荷物の置き方を工夫したりするなど、現場でのアナログな業務改善で対応してきた。しかし、近年はドライバーや倉庫作業員などの労働力不足が深刻で、増加する荷物量や複雑化する配送ニーズに十分対応できるリソースが確保できていない。
特にドライバーは過酷な労働環境から若年労働力の減少が著しく、高齢化が進む一方、今後も労働力の減少が続くことが予想される。国土交通省によれば、大型トラックのドライバーは、40歳以上の割合が2010年には71.4%であったのが、2019年には80.9%となっている。同じ時期の全産業平均が59.5%(2010年)から59.02%(2019年)であるのと比較すれば、高齢化が急速に進んでいるのがわかるだろう。
労働力が減少する中、これまでのように現場の経験と勘による工夫やアナログな業務改善だけで荷物量の増加や荷主からの配送要求に応えるのは困難になっている。ノウハウを持つベテランが退職していくことで、経験にもとづく現場のノウハウも失われつつあり、経験や勘に依存せずとも誰もが対応できるように業務の仕方を変えていく必要がある。つまり、これまでに蓄積された暗黙知をデジタル技術を用いて可視化し、誰もが扱える状態にしなければならない。
デジタル化で目指す姿は、“現場の状況に関するデータの可視化”によって、これまでなら経験がなければわからないような状況の変化を誰もが一目で把握できるようになること、また、その変化に対し即時かつ柔軟に対応できるようになることである。
そのためには、現場に情報入力の負担をかけずに、現場の状況に関するデータを自動で取得し(インプットレス)、これらのデータを複合的に捉え、分析することで、物流網全体の状況をピンポイントな状況だけでなく面的にかつリアルタイムに把握できる(面・リアルタイム)ようにする必要がある。それによって、配送事業者は変化する状況に対して最適な対応(ダイナミックな対応)を行えるようになる(図表1参照)。
物流DXで目指すこれら3つの要素について、以下に解説する。

●インプットレスでの現場状況の取得

物流網全体の状況を把握するには、それぞれの現場において、膨大なデータの入力が必要である。これを人手で行おうとすると相当な作業量が発生し、データ取得の頻度や正確性にも限界が生じるが、昨今のIoTの進化により人手を介さずにデータを取得することが可能になってきた。例えば、赤外線センサを使って荷物の通過量を検知するなど、デジタル技術を組み合わせることで現場負担につながるデータ入力作業を不要(インプットレス)にしつつ、配送する荷物や倉庫・輸送現場の状況をデジタルデータとして取得できる。

●面・リアルタイムとしての状況可視化

各現場で取得したデータは、拠点や業務の単位(点)でしか閲覧できないケースが多い。これらを統合して処理することで、すべての拠点や複数の業務プロセスを一気通貫して閲覧できるようになる。つまり、状況を点ではなく面として捉えることができるようになる。また、データをリアルタイムで取得し処理すれば、即時に状況の変化をつかむことができる。
これにより、一つの現場の状況だけでなく、物流の流れ全体の状況を把握できるようになる。例えば、運行しているトラックの遅れに関する情報をもとに、後続の拠点での作業がどれだけ遅れてしまうのかを事前に把握できるようになる。

●状況変化へのダイナミックな対応

これまで、業務実績は1日の業務完了後の作業報告を通じて初めて把握できる状態となっていた。そのため、リアルタイムの状況変化についてはデータとして把握できず、勘と経験で判断するしかなかった。
勘と経験で判断する代わりに、各現場のデータを統合・分析し、AIで処理することができれば、従来はベテランしか気づかなった状況変化をリアルタイムに把握し、将来予測を行うことができるようになる。例えば、ベテランの勘や経験に頼らずとも、荷量が増加する予兆を事前に把握することができれば、現場の段取り変更や計画修正などにも柔軟に対応することが可能になる。

物流DXを進める上での課題

物流DXを進める上での大きな課題は、その業務特性や現場のデジタルへの理解不足などによってスムーズな導入が難しいことである。ここでは、障壁となりうる課題を3つ述べる(図表2参照)。

課題① 拠点ごとに個別最適化された現場作業

物流業務は、複数の拠点での作業と、拠点間の輸送業務で成り立っている。それぞれの現場では、仕事の内容に合わせて独自の工夫・改善が重ねられていることが多い。そのため同じ業務プロセスでも、そのやり方は現場ごとに微妙に異なっている。例えば、到着した荷物の保管指示を紙の指示書で行っている場合、注意事項が書かれていたり、指示内容が図で記されていたりするなど、その記載内容は現場ごとに異なっているだろう。
現場間の差異を残したままで導入検討を進めると、それぞれでデータ取得方法の検討が必要になり導入に手間がかかる上に、取得できるデータの範囲や精度が現場ごとに異なってしまい、全社横断での活用に支障が出る恐れがある。

課題② デジタル技術がなくても業務が成立する現場

物流現場の多くではデジタル化への理解が不足しがちであることも、物流DX実現に向けて克服しなければならない課題の一つである。
物流業務は、モノを運ぶ、保管する、荷役することが本業であり、デジタル技術がなくても業務が成立してしまうため、その必要性を理解してもらうのは容易ではない。例えば、経験豊富な配送ドライバーに対し、最適な配送ルートを表示するスマホアプリを導入しようとしても、アプリのはじき出した結果が、自身の勘と経験により培われたノウハウに勝るとはすぐには理解されがたい。
業務が逼迫している現場では、目の前の仕事で手一杯のため、端末操作などの新たな業務を受け入れる余裕もないだろう。高齢化が進んだ現場では、デジタル技術導入に伴うトレーニングに膨大な労力がかかってしまう場合もある。

課題③ 技術先行でのDX推進

近年、自動ピッキングや搬送ロボット、AIによるルート自動化など多くの先進技術の活用事例がメディアで紹介されている。そのため、物流デジタル化に取り組む際、技術の活用のみに着目してしまうケースが見られる。
しかし、デジタル技術でできることや制約事項などを正しく理解せずに導入検討を進めると、センサや機材の位置の調整など余計な作業が発生したり、そもそもセンサや機材をうまく設置できなかったりするなど、その技術が現場に合わず失敗してしまうことが多い。
また、現場に試験的に導入するPoC(Proof of Concept:概念検証)を繰り返すだけで、実運用に至らないケースもある。技術の現場適合性や効果の検証よりも技術を試すこと自体が目的となってしまい、導入に向けた課題や効果を適切に評価できず、実運用に踏み切れないのである。

物流DXを実現するためのポイント

ここまで、物流DXを進める上での課題について述べた。これらの課題を解消し物流デジタル化を実現するための主なポイントは、「A.現場の創意工夫を残しつつ、データとその取得方法を標準化する」、「B. 現場への還元を早期に取り入れ、推進力にする」、「C.目的に対し業務適合性を検証する」の3つである。

A.現場の創意工夫を残しつつ、データとその取得方法を標準化

課題①で述べたように、物流の現場は拠点ごとに独自性が高い場合が多く、業務の標準化は重要なポイントとなる。中でも取得するデータと、取得方法の標準化は必須である。物流デジタル化で目指す姿を実現するには、各現場のデータが取得され、さらに現場横断で活用できる状態でなければならない。具体的には、取得するデータの項目や粒度、取得頻度などが現場間で共通化され、相互に利用できる状態とする必要がある。
一方、業務プロセスにおいては、独自に作った紙ベースの指示書の運用を残すなど現場の創意工夫の余地をある程度残した上で、できるところはなるべく標準化することが望ましい。標準化により、現場で創意工夫してきた良さが失われ、業務効率を逆に落としてしまうこともあり得る。
標準化すべきところと個別対応すべきところの線引きは、施策の一部を複数拠点で先行して試行することで、ある程度把握することが可能である。

B.現場への還元を早期に取り入れ、推進力にする

課題②で述べた通り、物流の現場はデジタル技術がなくても業務が成立する場合が多いため、デジタル技術の浸透度合いは低くなりがちである。そのため、現場にデジタル化の必要性を理解してもらうことは容易ではない。現場に理解されないと協力を得ることも難しくなり、展開にも時間がかかってしまう。
現場の理解を深めるには、取り組みの目的や内容を説明するだけでなく、取り組みのメリットを実際に感じてもらうことが有効である。報告作業の一部が簡素化されるなど、現場に還元できるメリットを取り組みの初期段階から享受できるよう設計することで、展開がよりスムーズになる。逆に、現場のメリットが少なかったり早期の効果還元が難しかったりすると、新たな業務負荷だけが増加したと捉えられ、思うようには進められない恐れがある。
例えば、作業員の動作を取得して作業計画を最適化する取り組みは、会社視点ではコスト削減につながる重要な取り組みだが、作業員目線で見れば、業務内容が変わって面倒に感じられるだけだろう。しかし、待ち時間や残業時間が削減されるなどの効果をすぐに感じられれば、作業員のモチベーションが上がり、協力も得られやすくなる。

C.目的に対し業務適合性を検証する

近年次々と登場している自動ピッキングや搬送ロボットなどの新しいソリューションは、注目を集めることも多く、企業にとって物流デジタル化検討のきっかけとなることもあろう。しかし、課題③で述べた通り、できることや制約事項を理解しないまま、技術の活用自体が目的になってしまうと、結果としてその技術が現場環境に合わず、使われなくなるケースも多い。
物流の現場には薄暗い場所もあり、常に多くのモノが動いている、業務は危険と隣り合わせであるなど、安全性に十分配慮しなくてはならない環境ゆえの制約も多い。ところが、これらの検証を十分にせず、技術の動作確認のみで導入に踏み込む例が見られる。
例えば、荷物に貼られたラベルを読み取るスキャナーの導入において、実証実験環境では動作したが、実導入時に一部の薄暗いエリアでうまく動作しないことがわかり導入を断念したケースや、スキャナーの操作が加わることで既存の業務がやりにくくなり、現場から受け入れられなかったケースがある。これらは、実際に使用する作業環境における環境適合性の検証や業務プロセス全体での検証が不十分であったことが原因である。
実証実験では、動作有無だけでなく、実際に使用する環境で現場のフィードバックをもらいながら、環境に合っているか、容易に導入できるか、現場にとって使いやすいか、運用管理はしやすいか、安全性は問題ないかなど、複数の視点で技術の適用可否を検証する必要がある。

最後に

物流業のデジタル化では、AIの活用やロボットの活用などの華やかな事例が多く登場する反面、現場の協力が得られず、失敗することも多い。
物流業界は、荷物を運んだり車を運転したりとフィジカルな部分の重要性が高いため、デジタル化の重要性について現場の理解を得るのは容易ではない。物流DXの検討では、ROI(投資利益率)など経営的視点での検討はもちろん大事だが、それと同時に現場の理解を得ながら巻き込んでいくことも忘れないようにしたい。現場での業務適合性をしっかりと検証し、早期段階から現場がメリットを享受できるよう配慮するなど、現場と二人三脚で進めることが望ましい。

執筆者情報

  • 武居 輝好

    システムコンサルティング事業本部
    YHプロジェクト部

    上級システムコンサルタント

  • 井関 夏帆

    システムコンサルティング事業本部
    YHプロジェクト部

    システムコンサルタント

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