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人と設備への投資による労働環境改善で日本全体の生産性向上を

~長期化する人手不足克服こそが成長と分配の好循環実現の鍵に~

2022/05/12

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概要

日本経済は、グローバル化の反動や輸入物価の高騰による貿易・経常収支をきっかけに、通貨安が続いている。今回の通貨安は、日本の産業立地としての優位性をどう回復し、日本全体の転落をどう防ぐかという、中長期的な課題への早期警戒警報と考えるべきである。課題克服にあたっては、日本社会の置かれている現状を冷静に認識すると共に、現在の国力や環境を踏まえた身の丈に合った対策こそが必要と考えられる。

バブル崩壊後、長く続く経済の低迷の中、多くの企業で新たな設備投資の削減や人件費の抑制が行われた。特に人件費抑制は、産業構造のサービス業シフトの中で、相対的に低賃金である女性・シニアの活用拡大に繋がった。低処遇の女性・シニア男性が大規模に労働市場へ参加したことにより、労働需給バランスは大きく企業側にシフトすると共に賃金の低下圧力が増加した。この事が現役世代の所得低迷に繋がり、従来日本社会を支えていた分厚い中間層が貧困化して、消費低迷・売上げ低迷・企業の更なる業績悪化に繋がった。

ところで、2010年代半ば以降、労働力供給が先細りになる一方で、企業の人手不足は深刻になりつつある。2030年には1,000万人以上、労働力全体の15%程度の人手が不足すると予測される。人手不足を前提にした新たなビジネスモデルの構築が不可避とならざるを得ない。

一方でこのような深刻化・長期化する人手不足を、社会経済の転換に繋げる事が期待できる。ハード・ソフト両面での設備投資(教育などソフト面を含む)を通じて省人化などによる生産性向上を行い、今まで以上に貴重な財となる「人材」の代替を図る-正にこの事こそが「人への投資」そのものであると言える。

「人への投資」に加えて「設備への投資」も進むことで、処遇改善などの「分配革命」を引き起こし、その事が更なる投資を呼ぶことで成長へと繋げていく「成長と分配の好循環」を起こすことが可能になると思われる。

人と設備への投資の担い手は、あくまでも事業者と個人である事から、①設備投資(ソフト・ハード)への税額控除50%、②賃上げ促進税制の生産性向上枠の導入で『大胆な人と設備への投資』を国として強力に後押しすべきと考える。仮に、人と設備への投資によって生産性が向上した場合、日本の潜在成長率は年率換算で0.78%高まると試算される。分厚い中間層の復活につながると同時に、日本の潜在成長率は90年代半ばの水準(1%台半ば)までに回復し、日本経済の再興にもつながると期待される。

執筆者情報

  • 梅屋 真一郎

    未来創発センター

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