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デジタル化による鶴岡市の構造改革推進
第1回:目標は「ローカルハブ」と「ウェルビーイング・コミュニティ」が連動する自立成長都市の形成

2022/08/12

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NRIは、新たな地方創生に向けた取り組みを進めるモデルケース都市の第1弾として、2019年12月に、山形県鶴岡市と連携協定を締結し、同市のデジタル化による構造改革を推進している。この取り組みでは、デジタル技術の活用によるまちづくりを通じて、「高度人材の育成」、「質の高い雇用の創出」、「付加価値が高く社会貢献にも資する産業の創造」を一体として進めることにより、高い生産性と自立的な経済成長を有する「ローカルハブ」1 の構築を目指している。同時に、市民の健康や安心で快適な生活を支援する質の高い都市サービスを実現することで、「ウェルビーイング・コミュニティ」 2の構築を目指している。
今後数回にわたって、鶴岡市でのデジタル化推進の取り組み内容を連載する。

  • 1  

    ローカルハブ:地方圏(=ローカル)にありながら、国内外の様々な都市・地域と連携した(=ハブ)「自立(独立)都市圏」を指すNRIが設定した造語。

  • 2  

    ウェルビーイング・コミュニティ:あらゆる市民が身体的、精神的、社会的に良好で、「幸福」や「豊かさ」が実現されている地域。

1.地方創生を先導する拠点都市「ローカルハブ」と産業クラスターの可能性

ローカルハブとは何か

ローカルハブとは、地方圏(=ローカル)における、国内外の様々な都市・地域と連携した(=ハブ)「自立(独立)都市圏」と定義される。政令指定都市や中核市、さらには地方中枢・中核都市といった地方自治や国土政策上用いられている一般的な用語ではなく、NRIが設定した造語である。日本では過去50年超にわたって東京大都市圏(※)への人口流入が止まっていない。東京大都市圏は2018年時点でも人口の29%を占める存在である。GDPの割合は同じ時点で人口比よりも高い33%であるが、ここ10年でその比率は横ばいである。一方で人口は東京圏に集まり続け、2008年から2018年で人口比率が1.4%ポイントも上昇している。
地方創生の究極的な目標は、大都市圏と地方圏の人口のバランスを実現することである。これまでは、人口のウエイトが高まり続けている大都市圏に立地していた省庁、基幹工場、大学・研究施設などを地方圏に移していくことが重要な政策であった。しかしながら、経済活動そのものよりも「人」が経済活動に占めるウエイトが高まりつつある中、これからは、大都市圏で居住・活動する人材を惹きつける極(拠点)を、地方圏において構築・強化していくことが重要となろう。
日本はこれから人口減少が年々加速する。大都市圏と地方圏がそれぞれ自立共生した姿でパートナーシップを結ぶことが、強靭でしなやかで災害リスクへの対応力のある国土を創る上で必要である。ローカルハブは、地方圏において、「付加価値の高い“しごと”が生まれ、安心して豊かな生活を営める」拠点として、存在し続けることが重要である。

(※)東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県とする。人口やGDPの数字は2018年時点。

図表1 ローカルハブの概念

(NRI作成)

ドイツの事例にみるローカルハブの本質

ローカルハブの在り方を考えていく上で重要な視点は、単に地方圏において「人口」や「経済規模」といった量的側面で存在感がある都市ではないということだ。人口を支える生活サービス関連の産業ではなく、人を集めるべく外貨を獲得できる産業が集積している。人口に呼応した生活インフラだけでなく、国内外の人材が集まり、研究開発や事業創造を支えるために必要な都市インフラが整備されているといったイメージである(図表2)。
世界・日本において存在感のある商品・サービス・技術・ノウハウを創り、その商品開発・サービス企画・特許料などによって収入を得るビジネスモデルは、量ではなく質で評価されるものである。言い換えれば、GDP(GRP)ではなく、単位(人、資本、空間)あたりのGDP(GRP)[生産性]で価値を出し続ける都市になっていくことである。そこには付加価値(所得)の高い職場が多く生まれる。

図表2 従来の拠点都市と比較したローカルハブの特徴

(NRI作成)

上記のローカルハブとしての特性を持った都市が、欧州経済の雄、ドイツに息づいている。図表3は、ドイツにある約400の都市圏(複数の自治体)別にみた人口と生産性の関係を示している。規模の経済・集積の経済という考え方からすれば、人口が集まれば集まるほど、その都市・地域の生産性も高まる。ニューヨーク、ロンドン、パリといった世界を牽引する大都市は経済活動も活発であるが、生産性も高い。日本でも人口が最も集積している東京圏、東京都の生産性が最も高い傾向を示している。しかしながらドイツは違う。生産性の高い都市圏は、人口5万人未満の小都市から50万人以上の大都市まで幅広く分布している。とりわけ10万~20万人の中小都市の中に、生産性で全ドイツの平均をはるかに上回る都市圏がいくつかある。欧州中央銀行の本店があるドイツの金融首都(フランクフルト)、州と同等の行政権限が付与された大都市(ハンブルグ)の他、グローバルな企業の本拠地を有している企業城下町(ヴォルフスブルグ(フォルクスワーゲンの本社)、ルートビストハーフェン(BASFの本社))などはイメージしやすい。その中でも、エアランゲン、レーゲンスブルグ、ハイルブロン、コ―ブルグといった都市は、他国からみた知名度があるわけではないが、長きにわたって高い生産性を維持している。これらの都市は、輸送機器、半導体、化学、薬品、エネルギーなど多様な分野・業界の企業が活動している他、グローバルニッチトップと呼ばれる中堅企業が相次いで生まれ、成長している。

ここ10年以上の生産性の数値を見ているが、複数の業種において高い生産性を有した都市の傾向はそれほど変わらない。すなわち、景気や為替の影響を受けにくい、多様な業種の本社・拠点が根付くなど、一度ローカルハブとしての機能を獲得すれば、ある程度持続的に高い生産性(所得)を維持することが可能になる。

図表3 ドイツの自治体・都市圏ごとの人口と生産性の分布

出所) ドイツ連邦統計庁

デジタル活用は、「ローカルハブ」成立の可能性を広げる

ドイツのローカルハブ的な都市圏には共通項がある。一つは都市・地域内のプレイヤーだ。「グローバル経済とアクセスできる大企業の本社・重要拠点」があること、「地域資源に立脚した活力あるローカル中堅企業」があること、そして「人材輩出・育成、事業機会の創出、知的資産構築を支援する大学や基礎・開発研究機関」の三つの主体が存在していることである。そしてそれらが民間活力をうまく取り込み、地域の新しい事業及び企業創造に貢献するある種の「エコシステム」を構築していることだ。さらにこれらのエコシステムを支えるものとして、オープンマインドな雰囲気とリアルな交流を促す空間の存在がある。三つの主体、二つの環境(文化・風土とリアルな交流・活動空間)、そしてそれらが一つの創業・成長のエコシステムにつながるという、この「三・二・一モデル」をいかに作れるかが重要なのである(図表4)。

従来の位置づけでは拠点都市であっても、グローバル企業、有力企業、そして大学、高等教育機関、研究開発機関が揃っている都市は多くない。地方自治法上、特別な行政権限が付与されている政令指定都市や中核市でも、三つの機能が揃っているとは限らない。グローバル企業の本社や拠点があっても、有力地場企業が息づいているとは言い難い。また、国立大学や高等専門学校などが設置されていても、地域の企業と結びついて次の事業を育成するしくみが十分ではないケースも多い。

重要なのは、施設や機関ではなく、そこで提供されている要素(機能)をいかにして創り上げていくか、また、その要素(機能)をいかに連携させ、新しい事業を起こし、生産性という成果を継続的に実現させていくか、である。
デジタル化の進展によって、「ローカルハブ」として発展できる可能性のある都市が増える。例えば、グローバル企業(大企業)の拠点が少ない都市でも、デジタルによる共同研究、データ活用の取り組みなどによって大企業を巻き込んだ研究活動が可能となり、将来的には拠点の立地にもつながる可能性がある。インフラ整備を先行的に進めることによって、新たに高等教育機関を設立する主体も登場する。まさに、ローカルハブは、政府の成長戦略の重要な柱であるデジタル田園都市国家構想を具現化する都市である。

図表4 ローカルハブは地方圏においてビジネスの核を創るポテンシャルのある都市

(NRI作成)

2.鶴岡市におけるデジタル化の取り組み

東北のローカルハブ候補・鶴岡市の持つポテンシャル

山形県鶴岡市は、人口約12万人を擁する同県第二の都市である。同市は、ドイツの事例でみたローカルハブの条件を満たす都市の一つである。特徴として挙げたいのは、他の地方都市に比して充実している研究開発機能だ。2001年に慶應義塾大学先端生命科学研究所が開かれ、人の遺伝子、メタボロームに関するハイレベルな研究が行われてきた。この研究成果をもとに、理化学研究所や国立がん研究センターなど国の研究開発拠点も鶴岡サイエンスパークに研究施設を置いている。実際、人口に対する研究者の比率をみると、鶴岡市よりも人口の多い仙台市や盛岡市といった県都に匹敵する水準であり、郡山市や秋田市のそれを上回っている。また、製造業、農業などの生産性(所得)も山形県の他都市よりも相対的に高い。このことから見ても、鶴岡市が「量より質」、「生産性」で勝負するローカルハブのポテンシャルを有する都市であることがわかる(図表5)。
もう一つの特徴は、こういった研究開発活動を通じて、次なる事業創造が行われてきている点だ。鶴岡には慶應義塾大学からおおむね8つのバイオベンチャー、地域企業が生まれている(図表5)。特にSpiberは、世界で初めて人工のクモの糸の量産化に成功し、事業規模を拡大させ、近年では医療用だけでなく、スポーツウエアやシートなどにも用途を広げ、アジア・北米に拠点を持つなどグローバル展開もしている。またヤマガタデザインは、鶴岡・庄内地域をメインに、不動産業(ホテル)をはじめ、教育、エネルギー、農業など地域資源に立脚した様々な事業を展開する地域ベンチャー企業の雄である。
鶴岡市は先に示したローカルハブの「三・二・一モデル」のうち、大企業の拠点が少ないものの、大学・高専などの研究開発・高等教育機関があり、それが地域の新しい企業を生み出すなど、多くの条件を満たしている。この都市でローカルハブに向けて不足する機能(グローバル業務)と事業創造に向けた連携強化を進めることで、日本初のローカルハブを創り上げることが可能であるとNRIは考えている。

図表5 東北のローカルハブ候補・鶴岡市が持つポテンシャル

出所)左図: 「サイエンスパークのさらなる発展に向けて」(2019年3月29日、山形銀行)より
右図:鶴岡市の提供資料より

「ローカルハブ」と「ウェルビーイング・コミュニティ」が相互連動するしかけづくり

鶴岡市が推進するデジタル化の特徴は、地方創生を先導する拠点である「ローカルハブ」と、市民生活の安全・安心や豊かさを追求する「ウェルビーイング・コミュニティ」の両方を実現させ、それらが相互に連動する都市づくりを目指す点にある(図表6)。それにより、地域産業が成長力を獲得し、新規事業や新たなサービスが生まれる。市民は、魅力的な雇用機会や新たなサービスを享受することができ、同時に、生活行動に関わるデータを地域産業のさらなる強化のために提供する。このような好循環を生み出すしかけづくりをデジタル化によって進めている。

図表6 鶴岡市が目指すデジタル化で実現する姿

(NRI作成)

データの地産地消で実現する増価蓄積社会

鶴岡市では、例えば消費生活や決済などに伴い地元で生まれるデータを、市民の同意や協力を得た上で、地元産業が競争力強化のために用いる「データの地産地消」に取り組み、地域のサービスが活用されればされるほど、地域にサービス品質という価値が蓄積していく「増価蓄積社会」の形成を目指している。スマホなどによるモバイルショッピングやSNSの利用など、様々なデジタルサービスの利用が進む中、市民によるデジタル空間上での意見の投稿のような意識的なデータの生成に加え、日常生活や健康維持、金融決済などに関わる行動の中で、本人が意識しなくても大量のデータが生成されている。サービス提供者によって活用するデータの種類は様々であり、それらのデータは地域の複数のサービスから取得される。そのため、都市におけるサービス競争力を強化し、市民生活の豊かさを向上させるためには、地元で生成される様々なデータを束ね、仲介する基盤(以降、データ連携基盤)が必要となる(図表7)。鶴岡市のような人口10万人規模の地方都市において、地域の特徴に合わせてデータ連携基盤を構築・維持しようとすると、予算規模面で制約が生じる。そのため、鶴岡市では、具体的なユースケース(オンライン施設予約、遠隔保健指導等)に基づき、適宜、市の職員が安価なローコードツールも活用しながら、定型的な部分を中心に内製化できるようなしくみを工夫している。

図表7 鶴岡市における「データの地産地消」の概念図

(NRI作成)

デジタル技術開発を通じた人材育成と内発的な新規事業創発

多くの地方都市では、近隣に所在するデジタル関連企業の数が限られ、デジタル技術を活用したしくみの整備にあたっては、大都市圏のサービス企業に頼らざるを得ない場合も多い。地域にデジタル関連企業が少ない場合、デジタル人材やノウハウの蓄積は難しい。また、国や自治体の補助金によって、大都市圏で作られたサービスを提案されるままに地方に導入したとしても、サービスを維持する人材やシステムを開発するノウハウ、ランニングコストは大都市に流出してしまい、地方と大都市の格差は縮まらない。導入したデジタルシステムのメンテナンスを考えた場合においても、近隣地域で柔軟な対応が図れることが望ましい。
鶴岡市が主導するデジタル化の実証テーマは、デジタルシステムの初期導入等が完了した段階で、地域の自立的な運用と雇用創出に向け、地域企業や学術機関への移管を見据えている。特に、2022年年度から鶴岡市デジタル人材育成事業として、市内に所在する鶴岡工業高等専門学校に補助金を付与する活動を開始している。当該活動では、地域課題を解決するデジタルを活用したしくみの開発を教材とし、学生の技術力向上を図るとともに、学生の地元定着やその技術に基づいて事業を創出する企業を地域が支援する。加えて、デジタル化に伴う地域の需要の受け皿となる新規事業創発事業(イノベーションプログラム)は、市の産業振興センターや金融機関と連携して企画が行われている。地域全体のデジタル化を契機として雇用を創出し、地域の成長力を高めていくことを目指している(図表8)。

図表8 デジタル人材の育成と新規事業創発のしくみ

(NRI作成)

デジタル化戦略立案と実現に向けた推進体制

デジタル化戦略を推進するため、鶴岡市では行政内部の推進体制を確立するとともに、民間事業との効果的連携のしくみを構築し、地域住民や団体のニーズ反映・合意形成、専門家等からの意見の聴取、他の地域における取り組みの調査・把握等を円滑に進める必要がある。庁内では、市長と密接に連携し、各分野の業務所管課が取り組むデジタル化施策を統括するポジションに、「デジタル化戦略推進室」を設置(2021年4月)し、全庁体制でデジタル化を推進する組織体制を整備している。NRIは、同室に職員を派遣し、デジタル化戦略推進室長(市のCDO)を補佐する役割を担い、デジタル化戦略の立案、施策実施に向けた市役所内外の関係者間の意見調整や連携体制の組成、実証実験の企画・運営、施策実施のための予算化交渉、デジタル田園都市構想に関わる補助事業への応募など、中央省庁からの予算獲得、市役所職員に対するNRIノウハウなどの説明などを行っている。また、市への派遣職員を窓口に、全社から多様な専門性を持つチームが参画し、鶴岡市におけるデジタル化を推進している(図表9)。

図表9 鶴岡市のデジタル化推進における庁内体制とNRIの関り

(NRI作成)

また、鶴岡市では、デジタル化に関する専門的な検討を進めるため、2021年3月に市内外のデジタル有識者・市民を招聘して構成する「SDGs未来都市デジタル化戦略有識者会議(デジタル有識者会議)」(座長:NRI神尾研究理事)を設置した。デジタル有識者会議にて示された方針等を踏まえ、庁内の各活動への助言や、各活動を跨ぐ課題等の状況を統括する目的から、庁内の部課長会議を合わせて組成した。今後は、戦略に基づく各テーマ別の活動について、官民連携の実行体制を立ち上げる予定であり、テーマ別の庁内活動を担当する市の担当業務所管部署及びデジタル化戦略推進室が、地域サービスを実装する事業者や学術機関等と、具体的な協業を行う(図表10)。

図表10 デジタル化有識者会議を中心とする官民連携による検討体制

(NRI作成)

市民参画プラットフォームを活用した地域課題解決のしくみ

鶴岡市は、2020年7月17日に「SDGs未来都市」(内閣府地方創生推進事務局)に選定され、SDGsの理念に沿った基本的・総合的取り組みを推進するしくみとして、2021年10月から市内に拠点を持つ企業のSDGs活動の宣言登録(つるおかSDGsパートナー登録制度)を開始している。この制度に基づきSDGsに取り組む企業向けに、情報発信や意見交換が行えるデジタル上のプラットフォームである「SDGs交流会・カフェ」を整備している(図表11)。これにより、地域課題の発見と解決に向けた官民連携や、地域発の新たな取り組みが生まれることを目指している。

図表11 デジタル上の官民連携プラットフォームとしてのSDGs交流会・カフェの整備

(NRI作成)

地域課題を解決するデジタルシステムの実装に際しては、地域の自律的な成長を考えた時、複数分野に跨る地域課題及び地域サービスの俯瞰的な把握が重要である。その上で、デジタル技術を活用して解決する課題の定義や対策検討、実施体制の構築、ビジネスモデル検討を推進していく(図表12)。地域課題及び地域サービスの把握は「SDGs交流会・カフェ」や、そこに参画する企業・団体・市民等がデジタル上で議論を行う「市民参画プラットフォーム」を活用する。また、デジタルは手段であり、地域課題の中には解決方法がデジタルによらない場合も多い。デジタルを活用しないサービスも含め、必要な資源が地域内にどの程度提供できるのかを把握するためにも、「SDGs交流会・カフェ」や市民参画プラットフォームを介した、デジタル実装範囲外のスコープの把握が重要となる。

図表12 デジタル実装の流れと社会のしかけ

(NRI作成)

デジタル化施策の全体像

鶴岡市においては、2021年度SDGs未来都市デジタル化戦略有識者会議において「鶴岡市デジタル化戦略」を策定し、鶴岡の魅力とデジタル化への期待を、市民とともに定義した。2022年度から、当該戦略に沿い、鶴岡市役所全庁、地場で活動する企業・学術機関が連携した活動が具体化し始めている(図表13)。

図表13 鶴岡の魅力と主なデジタル化施策検討テーマ

(NRI作成)

デジタル実装の先行施策として、鶴岡市のLINE公式アカウントから、多分野にわたる官民サービスをワンストップで提供するしくみの構築に取り組んでいる。ここで提供されている官民のサービスとしては、行政手続きなどに加え、子育て・防災・健康・移住支援関連のサービスの提供や、地域の施設の予約などがある。
このサービスには、いつでも・どこでも・だれでもアクセスできることから、物理的に市外から市内のサービスを利用したり、市内で行われる活動(町内会への参加や、地域サービスの企画等)に参画したりすることも想定される(図表14)。市外の住民が、鶴岡市の行政や地域のサービスを享受し、サービスの対価・料金を地域に還元するとともに、自治会やイベント、サービス企画などの活動に参画し、地域の担い手不足を補完する役割をデジタル上で担う。このような環境が将来、全国的に整った場合、現実世界で居住する地域に囚われず、国民はサービス享受や、参画する自治体を選択することができるようになる可能性がある。デジタルでの活動をきっかけとして、現実世界での移住定住につながることも期待される。

図表14 デジタルワンストップを介したデジタル上でのつながり

(NRI作成)

執筆者情報

  • 神尾 文彦

    未来創発センター長 

    研究理事

  • 浅野 憲周

    未来創発センター DX3.0政策戦略室

    エキスパートコンサルタント

  • 神林 優太

    システムコンサルティング本部社会ITコンサルティング部

    シニアコンサルタント

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お問い合わせ

株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp