フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト レポート レポート一覧 デジタル化による鶴岡市の構造改革推進 第2回:共創によるデータ連携を実現する鶴岡市デジタルワンストップ構想と実現体制

デジタル化による鶴岡市の構造改革推進
第2回:共創によるデータ連携を実現する鶴岡市デジタルワンストップ構想と実現体制

2022/11/25

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

「共創」の意義としくみづくり

地域特有の課題解決には地域関係者による「共創」が重要

鶴岡市におけるデジタル化では、人的・経済的資源が制約される中で、市民向け行政手続き等の「行政サービス」と地域の関係者と新たに共創する「地域課題を解決するサービス」との両面に取り組んでいる。
このうち後者のサービスの実現には、特定のサービス提供者が有する全国一律の汎用性の高いサービスモデルの導入が効率的と考えられる。一方で、地域課題には様々な側面があり、地域の特徴や参画する主体間の関係性は、地域ごとに異なるため、汎用モデルを導入しただけでは解決が困難な場合が多い。地域特有の課題解決を図るためには、多様な特徴を持つ地域関係者が主体性を持って相互に「共創」して取り組むことが重要となる。
共創における各サービス提供者は、地域において担う役割が異なり、基本的には、その役割の中で地域課題を把握し、サービスを提供している。また、共創に加わる複数のサービス提供者の中には、デジタルのソリューションを提供する全国規模の企業もあれば、地域の非デジタルのサービスを提供する関係者もある。また、鶴岡市のような地方都市では、地域に所在する企業数が少なく、地域関係者で推進する必要がある活動は、限られたサービス提供者の中での共創を模索しなくてはならない。

「共創」で重要となるコミュニティマネージャーとしての地方自治体の役割

地方自治体は、地域の課題や所在するサービス提供者の状況を中立的な立場から把握しており、市民からは個人情報の提供先としての信頼度が高いと考えられる。実際に、鶴岡市で実施した市民アンケートでは、市役所に対する信頼性が医療機関に次いで高いことがわかる(図表1)。そのため、地方自治体は、地域課題解決のために、関係する地域のサービス提供者を結びつけるコミュニティマネージャーとしての役割を担うことが望ましい。

図表1 個人情報の提供先に対する信頼性ついて

(出所)令和4年度デジタル化の進展度と生活の満足度に関わる市民アンケート調査(鶴岡市、令和4年)

市民参画プラットフォーム「Let’s Talk つるおか」による「共創」の実現

地方自治体によるコミュニティマネージャーとしての役割を機能させるためには、複数分野にまたがる地域課題やサービスの状況を俯瞰的に把握し、複数の関係者による活動を統括・調整できるようなしくみを構築しておく必要がある。特に、共創によるサービス提供を実施する場合、一つのサービスに対して、複数の関係者の要件を反映する必要がある。また、サービス提供者が、別のサービスについては利用者である場合もある。従来の行政システムの整備において、システムに対する要件は、基本的に行政内部の業務を主管する部署が提示していたが、地域課題解決を目指す際には、市民や地域企業等が抱える課題や要望を取りまとめ、地域内外の複数関係者が持つサービスを組み合わせて対応する必要がある。
地域課題やサービスの状況を把握する手段としては、地域企業・団体・市民等が地域課題解決について意見交換を行うデジタルネットワーク上の場を設定することが考えられる。鶴岡市では「Let’s Talk つるおか」と称するデジタルネットワーク上の市民参画プラットフォームの導入を進めており、第1回連載で紹介したSDGs交流会・カフェの開催など、地域企業・団体・市民等との意見交換や政策提言の場として活用している。

「共創」で実現する電子申請から電子交付までの一連の流れ

地域課題の中には、解決方法がデジタル技術によらない場合も多い。デジタル技術を活用しないサービスも含め、必要な資源が地域内でどの程度提供できるのかを把握することが重要となる。また、複数のサービス提供者がサービスを提供する際、サービスごとにデジタル関連の機器やソフトウエアが必要になる場合もある。地域課題を解決するためには、このような様々な状況に応じた複数のサービスを組み合わせていく必要がある。
例えば、鶴岡市では、電子申請から電子交付までの一連の流れを全てデジタルネットワーク上で行うしくみを検討しており(図表2)、複数のIT企業のサービスを組み合わせた実証実験を計画している。具体的には、中山間地域に住む学生の通学費補助の手続きにおいて、学生からLINE上で補助金の申請を受け付け、補助金額の決定通知を電子交付するサービスを組み合わせることで、一連の手続きの全てを電子化する。これにより、行政サービスの利便性の向上と行政事務の効率化が期待される。また、一連の手続きをデジタル上で一元管理することで、市民一人一人への対応履歴が蓄積されていく。将来的には、それらの対応履歴に応じて、市民からの申請の有無に関わらず、必要な人に必要なタイミングで電子交付・通知を自動的に送ることも見据える。

図表2 鶴岡市で進めるデジタルネットワーク上で行う電子申請から電子交付までの一連の流れ

(NRI作成)

データ連携による複合的なデジタルサービスの実現

データ連携基盤の構築を目的化してはいけない

デジタル田園都市国家構想において、データ連携基盤の整備が検討されている。全国的に共通する課題への対応に向けて、データ連携基盤上で複数の標準的なサービスを提供することは、サービス提供者側にとって効率的である。しかし、はじめにデータ連携基盤を構築した後に、連携用途を模索するようなケースもみられる。データ連携の需要が顕在化していない中で、はじめから全ての標準的なサービスが稼働できるデータ連携基盤を準備することは、基盤構築に要する膨大な初期費用や用途未定であっても毎年継続的に必要となる維持費確保の面からも現実的とはいえない。

市民に身近な課題解決からはじめて地域全体の課題解決への発展を目指す

地域の状況によっては、標準的なサービスが実施される時期は異なる。鶴岡市においても同様で、市民ニーズの顕在化とサービス提供体制の準備状況など、需要と供給の適切なタイミングを計りながら、その実施時期を検討している。具体的には、健康に関するデジタルの実証実験として、トイレに設置したセンサーからデータを収集・分析して、健康状態を管理するスマートトイレ実証、保健師が遠隔地の市民に対してタブレットやスマホなどを使って保健指導を行う遠隔保健指導、高齢者の自宅にセンサーを設置して、危険行動や健康状態の確認を行う遠隔高齢者見守り実証等を行っている。個々の実証実験は、「市民視点」からの喫緊の地域課題への対応として開始されている。これら複数の実証実験では、現時点においては、サービス対象となる市民が重複する場合は多くないため、これらの実証実験を相互につなぐデータ連携の需要はあまり生じない。実証実験が完了した後の実運用段階において、多くの市民にサービスを提供することで、データが徐々に蓄積されていき、それに伴い、「サービス提供者の視点」から、複合的な地域課題解決に向けた具体的なデータ連携需要が顕在化してくる。このように、地元で生まれるデータの蓄積から付加価値の高い複合的なサービス展開につなげる「データの地産地消」の取組みが重要と考えられる。
例えば、市民を対象に平時からスマートトイレ利用を促して健康観察を行った上で、分析結果に基づきハイリスク者を把握する。その結果を保健師等にデータ連携して、遠隔保健指導を実施することなどが考えられる(図表3)。また、平時から高齢者向けデバイスを利用した「見守りサービス」を実施して、高齢者等の状態把握を行い、災害時に避難が必要となった場合に、自力避難が困難な独居高齢者等の情報を自治体の防災担当者や地域の避難支援者にデータ連携して、円滑で迅速な避難支援活動につなげるなどの利用も考えられる。

図表3 鶴岡市における健康データの連携イメージ

(NRI作成)

「デジタルワンストップ」が実現する適切で円滑なデータ連携による複合サービスの提供

「市民視点」からの地域課題への対応時からデータ連携を見据えて設計し、「サービス提供者視点」からの具体的な需要が現れた際に、適切で円滑なデータ連携が行えるような準備をしておくことが望ましい。鶴岡市では、そのためのしかけづくりの一つとして、市民向けデジタルサービスの提供窓口をワンストップ化する取組みを進めている(図表4)。
これは、官民が提供する行政サービスや地域課題を解決するサービスを、ネットワーク上でワンストップに市民や地域企業等に届けることにより、サービス利用者の利便性を高めるしくみで、地域の担い手との共創により地域課題解決を図るデジタルサービスとデジタル化された行政サービスとが共通して必要な窓口機能を備える。具体的には、市民等がサービスを依頼したり、利用したりする際に必要となる個人認証機能、アンケート機能、施設やサービス利用の予約機能、市民や地場企業等とのコミュニケーション機能、前述した市民参画プラットフォームのような官民共創のための機能などがある。これらの共通機能がワンストップ化されることで、市民にとっての利便性向上だけでなく、サービス提供者による地域内での重複投資の抑止につながる。

図表4 鶴岡市におけるデジタルワンストップ構想

(NRI作成)

このようなしくみを用意しておくことで、当初は、様々な地域課題に対応した個別のデジタルサービスを提供し、関連データの蓄積やサービス利用者の拡大により複合的な地域課題解決の必要性が顕在化した段階で、共通のユーザーインターフェースを通して、適切で円滑なデータ連携による複合的なサービス提供を実施していくことが可能になる(図表5)。

図表5 段階的なデータ連携による複合サービスの展開イメージ

(NRI作成)

デジタルサービスの継続性確保のための取組み

デジタルサービスの継続性を確保するためには、新たな機能の開発と、開発後の運用について、地域内で自立的に取り組むためのしくみや体制を構築する必要がある。 例えば、鶴岡市におけるデジタルワンストップの新たな機能開発については、鶴岡市役所がローコードツールを導入し、職員が自ら簡易な機能の開発を行っている。開発後の運用については、業務を主管する部署が主体となり、システムの維持・更新を行い、必要に応じてデジタル部門と連携する体制や運用ルール、マニュアルを整備した。
しかし、デジタルサービスの開発規模や難易度によっては、市役所職員が自ら構築することが困難であるため、地域外のITベンダーやサービス提供者との共創が必要になる場合もある。しかし、その場合においても、地域内における自立的な運用と雇用創出に向け、デジタルシステムの初期導入による実証実験が完了した段階で、地域企業や学術機関等への移管を見据えている(詳細は第1回連載を参照)。例えば、前述した「Let’s Talk つるおか」は、鶴岡市内で地場企業が展開するリスキングプログラム1と連携して地域内における自立的な運用と地元人材の育成と雇用の創出を目指している(図表6)。

  • 1  

    リスキング:技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと。2020年のダボス会議において、「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が発表されたことで、注目を集めている。

図表6 地域におけるリスキングの取組みを活用したデジタルサービスの実施体制(構想)

(NRI作成)

全庁的・組織横断的な推進体制の構築と課題

鶴岡市におけるデジタル化戦略推進体制の整備

鶴岡市では、デジタル化戦略の立案と実現を強力に推進することを目的に、「デジタル化戦略推進室」を設置(2021年4月)した(図表7)。また、デジタル化に関する専門的な検討を進めるため、市内外のデジタル有識者・市民を招聘して構成する「SDGs未来都市デジタル化戦略有識者会議(デジタル有識者会議)」(座長:NRI研究理事 神尾文彦)を設置(2021年3月)した(詳細は、第1回連載を参照)。
これらの実施体制により、「鶴岡市デジタル化戦略」を策定(2022年3月)した上で、2022年度から当該戦略に沿い、鶴岡市役所全庁、地域企業及び学術機関が連携した活動に着手している。

図表7 鶴岡市におけるデジタル化戦略推進室の位置づけ

(NRI作成)

「全庁的・組織横断的な推進体制」整備の重要性と課題

前述したように、デジタル化施策の実現のためには、様々な関係者による共創が必要で、地方自治体がコミュニティマネージャーとしての役割を担う必要がある。共創において地域の複数分野のサービス提供者を結び付ける際、地方自治体内においても、複数分野の担当部署が連携しながら対応に当たる必要がある。総務省は「⾃治体DX推進計画」を策定(令和2年12⽉策定、令和4年9⽉第2.0版改定)し、その中で、庁内の部門横断組織の必要性について、「今回の自治体DXの取組みは、極めて多くの業務に関係する取組みを短期間で行おうとするものであることから、以下の役割を参考として、全庁的・横断的な推進体制とする必要がある。」と記載している。しかし、地方⾃治体の多くは、デジタル活⽤に関する部⾨横断的な組織を設置していない(「⾃治体DX 推進計画策定後の動き」総務省令和4年5⽉11⽇)。
鶴岡市では、「デジタル化戦略推進室」を設置しているが、企画部内の他の課と並列に位置づけられているため(図表7)、総務省が指摘する「全庁的・組織横断的な推進体制」の観点からは課題が残る。一般的に地方自治体の予算費目は、各業務に紐づいて行われるため、デジタル化施策の予算は各業務を遂行する手段として、業務主管課が計上している。鶴岡市では、デジタル化戦略推進室が、各部署による予算要求の内容を一元的に取りまとめた上で、全庁的な対応が必要なデジタル化施策については、関連部署と事前の相談をしている。但し、デジタル化戦略推進室が行えるのは、あくまでも相談であり、最終的な予算計上は、業務主管課が判断することになる。そのため、市全体のデジタル化戦略を実現する上で、必ずしも全体最適解に至るとは限らない。今後は、デジタル化戦略推進室が「全庁的・組織横断的な推進」を牽引する役割を担い、各業務主管課と一層協調できるよう、組織体制の工夫が必要になるだろう。

「全庁的・組織横断的な推進体制」のあり方

組織体制の工夫としては、次の2つのパターンが考えられる(図表8)。体制パターン1は、首長の直下にデジタル化戦略全体を管轄する専門部署を配置する体制で、各業務主管課が進めるデジタル化施策の統括及び組織間の意見調整がしやすく、迅速な意思決定が期待できる。この場合、デジタル統括部署の職員には、他の業務主管課が行う業務への十分な理解が求められる。そのため、特に重要なテーマを推進する際には、関連する業務主管課からデジタル統括部署に兼務職員として配置したり、専門性の高い外部人材を一定期間だけ登用したりするなどの工夫が考えられる。但し、外部人材を登用する場合は、任期終了後も専門的な知識、ノウハウ、技術が庁内に残されるよう、プロパー職員への人材育成と併せて行える体制を整備しておくことが望ましい。
体制パターン2は、各業務主管課が行うデジタル施策の他に、組織横断的な取組みが必要なテーマについては、関連する複数部署の職員から構成されるワーキンググループやタスクフォースチームのような活動期間を定めた実施体制を設置するもので、大きな組織改編を伴わずに、社会課題対応ニーズや状況変化に応じた柔軟な体制確保が行いやすいなどのメリットがある。但し、この場合、デジタル化戦略全体と各主管課及びワーキンググループ等が実施するデジタル化戦略との整合性の確保や施策の重複回避等の制御を適切に実施するため、例えば、首長の直下にデジタル政策の戦略づくりを主導する最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer)を配置するなどの工夫が必要である。

図表8 全庁的・組織横断的な推進体制のパターン

(NRI作成)

鶴岡市では、デジタル化戦略推進室が設置されてから2年目を迎え、体制面や予算化のしくみ、デジタル化施策の継続性の確保の観点から様々な課題が明確化しつつあり、本稿で論じた視点を踏まえた課題解決に向けた取組みを本格化しつつある。

執筆者情報

  • 神林 優太

    システムコンサルティング事業本部 社会ITコンサルティング部

    シニアコンサルタント

  • 浅野 憲周

    未来創発センター DX3.0政策戦略室

    エキスパートコンサルタント

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp