フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト レポート レポート一覧 金融情報システムの高度化対応

金融情報システムの高度化対応

2022年4月号

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

DXの進展によって、さまざまな業種から金融ビジネスへの参入が相次いでいる。金融情報システムに関連する諸問題の調査研究、各種ガイドラインの作成を手掛けている金融情報システムセンター(FISC)は、そうした新たな参入企業にも門戸を開いている。FISCの照内常務理事に、いまFISCに寄せられている期待について語っていただいた。

金融ITフォーカス2022年4月号より

語り手 照内 太郎氏

語り手

公益財団法人金融情報システムセンター(FISC)
常務理事
照内 太郎氏

1988年 日本銀行入行。2009年 システム情報局参事役。2010年 同システム企画課長。2012年 新潟支店長。2014年 システム情報局審議役。2016年 発券局審議役。2017年 文書局長。2019年 システム情報局長。2021年 金融情報システムセンター常務理事に就任。

聞き手 林 滋樹

聞き手

株式会社野村総合研究所
専務執行役員
林 滋樹

1988年 野村総合研究所入社、PMS開発部に配属。2007年に野村ホールディングス株式会社に出向。09年にNRIに戻る。12年執行役員 保険ソリューション事業本部副本部長。2014年 同本部長。2016年 常務執行役員。2017年 金融ITイノベーション事業本部長。2021年 専務執行役員。

金融情報システムのレジリエンス

林:

日本銀行から金融情報システムセンター(FISC)に移られて、景色が変わったと感じることはありますか。

照内:

日本銀行では、日銀ネットを始め、日本銀行のさまざまなシステムを開発して運用し、保守をする立場にありました。一方、FISCでは、同じ金融情報システムの世界ではありますが、金融機関がシステムをどのようにビジネスに活かし、安定的に使うかという視点から、調査研究やガイドラインの作成を行っています。また、日本銀行の時はITベンダーとの仕事上の交流が多かったですが、今は、同じくらい金融機関とのつき合いがあります。こうした点で、見える景色は違っているといえます。

林:

日本の金融情報システムは、テクノロジーを集結し常に先端をいっているように思います。

照内:

金融機関が構築、運用しているシステムは、日本の産業界の中でもとりわけ重要視されています。

フィンテックが注目され始めて久しいですが、金融機関はそれよりかなり以前から、業務の効率化、決済の安定化のために、かなりのコストをかけてITを先進的に活用してきました。わが国において決済システムの安定が保たれているのは、日本の金融界の取り組みの大きな成果だと思います。

一方で、システム障害が起こった場合、社会や国民生活へ及ぼす影響は大きいです。障害の発生をゼロにすることは難しく、障害が起こることを前提に、「レジリエンス」を高めることが大事です。利用者や関係者へ与える影響を極小化するにはどうすべきかの方策を考える必要があります。

林:

私も「レジリエンス」はキーワードだと思っています。絶対障害が起こらないシステムというのはないので、事業や生活を継続するためにどういう手だてを取っていくかを考えていかなければならないと思います。

ただ、障害に対してのレジリエンスはよく考えられていると思うのですが、最近のFATFのようなテロ資金対応に対する感覚は、アメリカと比較すると温度差を感じます。「グローバルに活動する金融機関が対応すれば良い」といった風潮があるように思います。しかし、結局チェーンの弱いところが狙われるので、そこに対する温度感はもっと高めていかなければいけないと思います。

照内:

そうですね。グローバルに活動している金融機関と国内を中心に活動している金融機関とでは、マネー・ローンダリング等に関して、目の前で起こっている話なのか、起こりそうな話なのか、リスクがある話なのか、ということの認識に対して温度差はあるかもしれません。

しかし、特に金融機関については、国際的な議論に日本も国レベルで対応することが求められており、行政当局から、システム面を含む枠組みが定められ、要請がなされています。

このため、リスクベース・アプローチの考え方にあるように、金融機関の大小ないしは活動の範囲にかかわらず、リスクに応じAMLの対応を進めていくことが求められると思います。

林:

資金移動業者、暗号資産交換業者など、非伝統的なプレイヤーが参入しつつあります。そうした方々にも同様のリスク対応が求められますね。

クラウド活用の拡大

林:

最近の金融の話題にクラウド化があると思います。「FISC安全対策基準」でも取り上げられています。

照内:

FISCでは毎年、会員企業等にアンケート調査を行っています。その中ではクラウドをどのように活用しているかについても伺っており、かなり広範に使われているという結果が出ています。

活用方法として一番多いのは行内業務や電子メールです。サービスが一般化しているものや、個別性の強くない分野が上位にきています。このほかでは、数は多くないものの、資金証券系のシステムへの活用、さらに少なくなりますが、預金や為替など金融業務の根幹を支える勘定系システムをクラウドに移行するという動きも出てきています。裾野が広がっていることが確認できます。

一方、「クラウドに不安を感じる」といった意見が依然として存在します。慎重な意見の基になっているのはセキュリティ面、特に他者にデータを渡すことへの不安です。そうした不安を軽減するために、クラウドサービス・プロバイダーでは、基準をクリアして、それを明示することで、利用を促す事例が増えているようです。

いずれにしても、クラウドの利用にあたっては、リスクとメリットのバランスをよく見る必要があります。かつては、クラウドの優位性として「低コスト」であることが象徴的に示されていましたが、最近は「構築における柔軟性」「開発期間の短縮」を挙げる方々が多いと思います。

新しい金融サービスへのチャレンジ

林:

昨年末くらいから、ステーブルコインがバズワードのように注目を集め、「何かやらなければ」という熱を感じます。

照内:

私もそのように感じます。ステーブルコインや分散型金融、あるいは暗号資産など、金融に関わる新しい技術について、FISCではタイムリーに動向を把握しつつ、必要に応じて行政当局の方々とも意見交換をしています。

林:

テクノロジーの軸とアセットの広がりの軸と、2つあると思います。アセットの広がりの軸でいうと、まずは不動産の流動化が挙げられると思います。一部のプレイヤーがセキュリティトークンを使ってビジネスに取り組んだり、不動産を所有するプレイヤーが証券会社を設立して自分の資金の回収を早めていくといったことを始めています。アメリカでは、オルタナティブ投資が金融のシェアを高めています。日本でもアセットの流動化は、経済的にもメリットがあると考える人が増えていると思います。

いろいろなプレイヤーが証券会社やアセットマネジメント会社を設立するので、FISCの会員企業も増えていくのではないでしょうか。

照内:

FISCを活用したいという企業が増えるのは、大変ありがたい話です。

FISCの活動の幹の一つは、安全対策基準を作成し、それを維持管理することで金融情報システムの安定を図ることです。同時に、システムを活用するDXなど、新しい動きにも目を配っています。DXは、ビジネスチャンスを生み出すという経営戦略的側面が大きい一方で、長い目でみれば、金融機関の業務や経営の安定につながるものです。ステーブルコインやご指摘のSTO(SecurityToken Offering)に関して、技術革新を受けて行政当局により規制が並行的に検討されている中にあって、システムがどのようにビジネスで使われていくべきかを、会員の皆様と議論していく必要があります。

林:

海外の方と話をしていると、日本の規制当局は、この分野にチャレンジングと映っているようです。それはすなわち、当局が日本の金融にとって必要な分野であると考えているということだと思います。

ただ、既に実効されている法制度でも、毎度規制が変わるたびにものすごい労力がかかります。これから起きる分散型金融は、想定を超えるほどの広がりがありますので、規制対応は大変なものになると思います。ですので、FISCにガイドラインをつくってほしいという期待は大きいかと思います。

なぜならFISCが出したクラウドのガイドラインが高い評価を得ているからです。金融機関側もクラウドプレイヤー側も、FISCの安全対策基準に準じているということで安心感を得ることができました。

照内:

クラウドのガイドラインを評価いただき、また今後への期待もいただき、嬉しく思います。ただ、「基準やガイドラインを守れば良い」という話ではないことを申し上げたいと思います。

経営の中でITの占める位置づけが重要になっている中で、基準への注目も高まっていると認識しています。基準やガイドラインはいろいろな方々の意見を踏まえて作っていますが、そこでは、リスクベース・アプローチの考え方を採り入れています。つまり、基準のすべてにそのまま対応するということではなく、基準の項目に関するリスクに即して、個々の企業が経営判断することが重要だということです。

林:

基準やガイドラインはどのように作られているのですか。

照内:

金融機関やITベンダーをはじめとする会員企業、法学や工学などの学識経験者、金融庁、日本銀行といった監督当局等から構成され、FISCが事務局となる委員会での検討を経て作成しています。いわば業界の自主基準です。さまざまな関係者が意見を持ち寄って、事務局が中立的な立場からそれらを公平に採り上げ作っています。海外と比べても珍しい事例ではないかと思います。

林:

おっしゃる通り、自主的に基準をつくる団体はグローバルに見て珍しいと思います。アメリカでは、規制側には巨大な組織があり、莫大な予算もついています。そういう意味では、業界自ら基準を考える仕組みは素晴らしいと思います。

FISCでは、グローバルに仲間づくりはされないのですか。

照内:

海外には、自主基準を作る機関が少ないため、同じ目的を持つ機関の間での幅広いつながりを構築することは難しいです。ただ、海外の動向を踏まえた上で、日本の基準やシステムの使い方はどうあるべきかという議論は、当然に必要です。このため、海外の規制当局、金融機関、関係する調査機関と意見交換を行っています。

林:

メーカー系の方から、日本は規制が行き届いているので、「チャレンジするようなことは海外で先にやる」「成功したら一番難しい日本に持ってくる」と言う話を聞きます。

東南アジアの巨大財閥がコングロマリットで流通をやったり金融をやったりしています。少し粗っぽくても東南アジアで先行しているものもあるので、そこは意外と研究対象になると思います。

照内:

その通りです。金融包摂の文脈でも語られるところですが、東南アジアなど、少し前まで発展途上にあった国々が、最近になってITを急速に金融の世界に活かすようになっています。また、金融が一つの成長産業、主要な産業になり得るという考えを持つ国も少なくありません。規制が緩いということはないと思いますが、国と産業界の目的が一致していますし、国民の福祉にも利することになります。つまり、金融の世界でITを使うことは国力を上げる手段にもなります。そうしたチャレンジングな取り組みについて、日本が参考にできる情報がたくさんあると思います。

双方向コミュニケーションで成り立つFISCの活動

林:

FISCの会員あるいは、今後会員になる可能性のある方々へ何かメッセージがありましたらお願いします。

照内:

FISCは、660程度の企業・団体が参加する会員組織です。会員について業種・業態を限定しているわけではなく、金融情報システムに関係する企業等には、門戸を開いています。

実際、新設した「スタートアップ会員」という制度を使い、フィンテック企業も会員になり、基準を策定する委員会にも参加いただいています。このように、伝統的な業種・業態以外の方々との間でもネットワークを作っています。

林:

先ほど話に出ましたステーブルコインの取り扱いに関しては、大きな経済圏を持つ企業は、ある種の金融業を営むことになると思っています。製造業を見ても、自分の経済圏の中で銀行を介さずにできる領域を増やしていきたいと思っている企業もいます。大きなビジネスをやっていると必ず金融の近くに来ている、という印象があります。

照内:

「ネオバンク」「チャレンジャーバンク」といった、非金融のサービスの中で金融サービスを展開するという動きが日本でも出てきています。

法改正により導入された、オープンAPI開放などの枠組みを活用する動きが今後も増えると思います。そうした分野に関して、FISCはプレイヤーとの間で議論することを求められてきている、と思っています。

林:

FISCではクオリティの高いレポートを出されていますよね。

照内:

ありがとうございます。

FISCは、基準を作るとともに、調査研究活動を行っています。金融情報システムの世界は、日進月歩よりもさらに速く動いています。そうした動きについて遅れることなくフォロー・情報収集し、また会員企業へのインタビューも行い、それらを取りまとめ調査レポートという形で公表しています。

残念ながら「レポートを読んだことがない」という声も少なくありません。FISC自体の広報戦略にも課題が多々あると思いますが、この対談をご覧の企業の皆さまには、是非レポートをお読みいただき、事業やシステムの利活用に役立てていただきたいと思います。

また、FISCの活動は、自分の問題意識のみで行うのではなく、会員企業をはじめ金融情報システムの関係者のニーズにお応えすることが第一です。私どもでは、「FISCを使い倒して」くださいと考えています。「こういうことをやってほしい」「こういうものを作ってほしい」というご要望をお寄せいただきたいと思っています。

林:

弊社でも積極的にアイデア出しをして、協力させていただけたらと思います。

今日は、どうもありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2022年4月号

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ

お気軽にこちらへお問い合わせください。

担当部署:株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp