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ビジネス拡大が続くNuveenの運用戦略

2022年6月号

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日本進出から間もなく4年を迎えようとしている米国大手運用会社のNuveen。これまでのビジネス拡大には目を見張るものがあるが、その成功を支えた運用戦略はどのようなものだろうか。米国地方債をはじめとする主要戦略のアルファ源泉や、ESGのインテグレーションの考え方を代表取締役社長の鈴木康之氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2022年6月号より

語り手 鈴木 康之氏

語り手

ヌビーン・ジャパン株式会社
代表取締役社長 シニア・マネージング・ディレクター
鈴木 康之氏

2018年 ヌビーン・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。日本における経営企画、株式、債券およびオルタナティブ戦略に関するマーケティングおよび商品企画を統括。Nuveenグループに入社する以前は、外資系運用会社にて機関投資家およびリテール向けのマーケティング業務、債券およびオルタナティブ商品のプロダクト・マネジメント業務などに従事。

聞き手 浦壁 厚郎

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融デジタルビジネスリサーチ部 エキスパートリサーチャー
浦壁 厚郎

2004年 野村総合研究所入社。コンサルティング事業本部を経て、2008年より資産運用のリサーチ・コンサルティング業務、年金コンサルティング業務等に従事。2017年 野村アセットマネジメントへ出向。2020年より現職。資産運用の動向、運用会社経営、機関投資家の資産運用管理を専門とする。訳書に「誤解だらけのアセットアロケーション:実務家のためのガイド」(東洋経済新報社)ほか。

マルチアセットの戦略を推進

浦壁:

「金融ITフォーカス」の2019年9月号の対談にご登場いただいた際は、日本でビジネスを開始して間もなくの時期でした。そこから破竹の勢いで拡大されていますね。

鈴木:

おかげさまで日本の投資家からのNuveenグループの受託残高は約2.5兆円まで伸びています(オルタナティブへのコミットメント額含む)。債券、株式、マルチアセット、プライベート・キャピタル、不動産、農地、再生可能エネルギーインフラ、ヘッジファンドなど戦略も多岐にわたっています。日本法人の組織も順調に拡大しており、より質の高いクライアント・サービスを提供できるように日々努めています。

浦壁:

特にどの領域で拡大されているのでしょうか。また、当初の経営計画と比較して違いがありましたか。

鈴木:

日本法人の開設前に作成した中長期の経営計画では、オルタナティブが中心のビジネス展開を予想していました。しかし、すぐにコロナ禍となり一時的にマーケットの流動性が枯渇したため、機関投資家を中心にオルタナティブのアロケーション拡大が難しくなりました。結果的に、2019年と20年は債券と株がビジネスの中心となり、債券については、米国地方債、政府機関債、社債、証券化商品の戦略などに、多くの投資家から資金が集まりました。

ただ、マーケットが落ち着いてきた2021年以降は明確にオルタナティブへのニーズが増加しています。当初はオルタナティブでもプライベート・キャピタルが大きく伸びたのに対し、不動産、農地、森林、再生可能エネルギーインフラなどのリアルアセット戦略への動きは比較的に緩慢でした。この理由は明確です。リアルアセットに投資する際には、現地での投資対象のデューデリジェンスを求めるケースも多く、コロナ禍で実施することが難しかったからです。ただ、今年に入って、現地でのデューデリジェンスの依頼も幾つかいただいていますので、リアルアセットはこれから本格的に伸びてくる可能性が高いと思います。

浦壁:

オルタナティブ資産のニーズが高まっている背景についてはどのようにお考えでしょうか。

鈴木:

オルタナティブの中でも特にニーズが高まりつつあるのはリアルアセットです。例えば、カーボン・ニュートラルや脱炭素化ニーズを背景に森林投資戦略などへの関心が徐々に大きくなっています。また、プライベート・プレースメント(私募債)やC-PACE(事業用不動産評価クリーン・エネルギー)ローン、インフラ・デットなどのインカム性資産については市場の変動性が高まる中で、安定的にインカムを獲得したいというニーズが背景にあると考えます。

浦壁:

リテールのビジネスについてはいかがでしょうか。

鈴木:

リテールについては、日本ではマルチアセットの戦略提案に注力しています。日本のリテール市場では、比較的シンプルな株式ファンドや債券ファンドといったシングルセクターが売れていました。市場の変動性の高止まりが予想される中で、マルチアセットなどの運用手法でリスク調整後リターンの改善を目指す動きが出てきていると思います。

浦壁:

今の日本のリテールのお客様が持っている投信は、セクターやテーマ型が中心です。また、資産形成層は、インデックスファンドをはじめコストが非常に低いものに向かっています。こうした中で、御社としては、アロケーション的なものを推奨したいということですね。

鈴木:

中長期にわたって追加で投資信託等を買うことができる投資家は、ドル・コスト平均法を用いてシングルセクターで積み上げることにより、ある程度の投資成果を期待できると思います。しかし、日本のリテール資産はリタイアした方々の資産が大きな割合を占めており、新規資金を追加投資していくというよりは、既にある資産を安定的に運用していくことが求められるため、市場環境に沿って配分調整するようなマルチアセットは有効な投資ソリューションになると考えています。

浦壁:

御社のマルチアセットの残高はどのくらいですか。

鈴木:

今、弊社の日本の投資家からのマルチアセット受託残高は3,500億円を超えています。弊社では、リテールの資産形成においてマルチアセットが必要とされるだろうと考え、2018年から提供を開始し、その後大きく増加してきました。足元、年金からのニーズも高まっています。

アワードに輝くインパクト投資

浦壁:

御社はグリーン・ボンドの投資家としても最大規模と伺っています。

鈴木:

現在、グローバル・コア・インパクト・ボンド戦略を、企業年金向けに去年の後半から提供を始め、相応の残高に達しています。これは債券のアクティブ戦略にESG投資、インパクト投資の軸を入れたものです。銘柄選択の際、発行体の分析にESGを取り入れるケースはあると思いますが、この戦略では、その債券を買うことによって環境・社会を良くすることができるか、という軸も取り入れています。例えば、住宅ローン担保証券を買うことで貧困地域の住宅供給につながったかということをみています。

グローバルでは類似の戦略を含めシリーズ全体で既に2兆円の残高があります。リテール、機関投資家ともに残高を積み上げています。

浦壁:

ESG関連の戦略というと、一般的には、欧州系の運用会社のほうが、アセットオーナーの関心度が高いため、アドバンスしているイメージがあります。

鈴木:

親会社がTIAA(米国教職員退職年金/保険組合)ですのでESGについては弊社のDNAに刻まれていると言っても過言ではありません。

また、インパクト投資については、Nuveenはマーケットリーダーとして他の運用会社よりも早く取り組んできたと思います。日本においても、2021年に東京都の東京金融賞、2022年には環境省のESGファイナンス・アワード・ジャパンの金賞を受賞しました。

東京金融賞では、Nuveenの農地投資を通じたESG・インパクト投資への取り組み、特に気候変動問題への対応やアグリテックを活用した自然環境の改善、生物多様性の保全のほか、地域社会への貢献などが評価されました。本邦機関投資家によるESG・インパクト投資へのさらなる取り組みの必要性をワーキンググループやメディア等を通じて広く訴求したことも受賞理由として挙げられました。

環境省のESGファイナンス・アワード・ジャパンでは、農地・森林・再生可能エネルギーインフラを通じて、気候変動のリスク管理や開示の体制を確立し総合的かつ具体的に取り組んでいる点や学術機関との連携を図っている点、責任投資分野での実績を基盤にオルタナティブ投資などで積極的に新たな取り組みを進めている点などが評価されました。

浦壁:

農地や森林投資等のリアルアセットを通じたインパクト投資というのは非常にユニークな取り組みだと思いますが、インパクトを与えるというアプローチと投資リターンの追求は両立しますか。

鈴木:

そのバランスは難しいところです。例えば、ESGのチームが運用チームの中にあると、リターンが優先される可能性があります。よって、NuveenではESGチームと運用チームを別ラインにしています。そうすることで、お互いが牽制し合って、双方が両立した形で、初めて投資が行われるようにしています。これは組織上の工夫になります。

浦壁:

ESGをどうインテグレーションするかについては2つパターンがあると思います。伝統的な株や債券のアナリストの頭の中にESGの発想がないと、本当のインテグレーションはできないという考え方が一つ。御社の場合はそれとは違っていて、ESGの専門チームがあって、伝統的なリサーチのチームと議論を戦わせることでアイデアを出しているのですね。

鈴木:

ESGチームは独立していますが、運用プロフェッショナルから営業に至るまで、ESGの考え方を学ぶトレーニングを実施しています。

浦壁:

ESGについては、哲学としてコミットして対応している会社と、まだ本当に重要なものとしての確信が持てないままマーケティングの一環で取り組んでいる会社があります。御社の本気度を理解した気がします。

アルファにつながる地方債の発掘

浦壁:

御社の強みの一つである地方債についてもお聞きしたいと思います。アメリカの地方債のマーケットはどれくらいの規模があるのですか。

鈴木:

現在、500兆円くらいの規模感です。これは社債の大体半分です。一方、銘柄数では、社債の約5万銘柄に対して、地方債は約100万銘柄です。規模は半分で、銘柄数は20倍です。1発行当たりの発行規模が小さく、かつ、毎週100から200銘柄の新規発行があります。

銘柄数が多く相対取引されていることなどから、銘柄選択の余地は非常に大きいです。例えば、高格付の地方債が、発行規模が小さいという理由などからより低格付の社債よりスプレッドが乗ることがあります。

浦壁:

10年ほど前に、御社の本国のかたと話をした時に、御社は地方債のメジャープレーヤーである、と聞きました。

鈴木:

創業者であるJohn Nuveenは、元々地方債の引受業者としてこの会社をスタートしました。

浦壁:

そもそも市場をつくったのが創業者ということですね。

鈴木:

その通りです。足元、米国地方債は世界で27兆円程度受託しています。500兆円規模のマーケットですから、27兆円がいかに大きいかはご理解いただけるかと思います。

浦壁:

競合他社と比べたときの運用チームの強み、アルファの源泉はどこにあるとお考えですか。

鈴木:

弊社は、米国地方債専任の投資チームが約80名います。平均経験年数23年の投資プロフェッショナルが、毎週新規に発行される100~200銘柄をカバーしながら、魅力的な投資機会の発掘に努めています。

例えば米国の社債は、トップ20程度のブローカーがマーケットの多くの部分をカバーしています。一方、米国地方債は地場証券のマーケットで、200から250社くらいのブローカーがいます。ブローカー全社とコンタクトするには、やはり80名程度の人員は必要です。

また、弊社の米国地方債戦略はパフォーマンスも良好です。全地域の全発行債について魅力的な銘柄を探しにいくことができているからだと思います。

浦壁:

運用スタイルについてもお聞かせください。新発のときにスプレッドが比較的厚いものを組み入れて持ち切るスタイルですか。それとも、保有した後もある程度スプレッドを見ながら、良いタイミングで売るのでしょうか。

鈴木:

お客様のガイドラインによります。年金基金などの投資家はアクティブ運用の戦略に投資されています。また、保険会社や銀行では持ち切りの投資家も多くいらっしゃいます。

日本におけるビジネス展望

浦壁:

御社では日本法人立ち上げの時から、日本のローカル資産をグローバルに提供することをビジネス戦略の一つに掲げていました。その取り組みの状況はいかがですか。

鈴木:

日本株のアナリストチームと不動産チームを立ち上げ、日本市場への投資も積極的に行っています。現在、日本株については2兆円くらいの投資規模になっています。弊社が日本に来たことによって、それだけ日本のマーケットへの押し上げ効果があったということになります。

浦壁:

日本株で2兆円は大きいですね。日本株の運用チームを新しく立ち上げたのですか。

鈴木:

もともと日本株の運用チームはアメリカにおり運用も好調でした。日本には、本格的にリサーチチームを置きました。

また、不動産チームは、日本の首都圏の住宅案件、物流物件などに注目しています。日本の不動産は、人口動態が安定している主要都市圏に注目しています。また、日本の金利は世界的にかなり低い水準なので、調達コストを引いたときのインカム水準が非常に魅力的です。

浦壁:

日本でのビジネス展開で、もう1点お聞きしたいことがあります。

御社は金融商品取引業者として直接的な戦略提供に加えて、サブアドバイザリーの形態でもビジネスをされています。今後、私募投信を設定する、あるいはリテールのビジネスを直接展開するといったことは考えていらっしゃいますか。

サブアドバイザリーのビジネスモデルで参入する運用会社は多いですが、自分たちでセールスマーケティングの主導権を握りきれない部分があって、もどかしさを感じている運用会社も少なからずあるようです。

鈴木:

日本法人のビジネスと組織は順調に拡大してきましたが、今後もサブアドバイザリーのビジネスモデル自体は継続していく予定です。

運用や運用に関連する情報提供については、弊社は高い水準だと自負していますが、最終投資家との直接のコミュニケーションについては、信託銀行、日系運用会社、証券会社などのプロフェッショナルと組んだほうが、お客様にとってプラスとなるケースもあると考えています。おかげさまで、幅広い日系運用会社、証券会社、信託銀行などと非常に良好なパートナーシップもできています。

浦壁:

外資系運用会社に何が大変かを聞くと、顧客や販社ニーズに応えるために日本固有のオペレーションが必要になる点を挙げるところが多いです。

鈴木:

弊社では海外と日本のオペレーションのギャップが出ないように、日本ビジネスについては、日系のサービスプロバイダーと積極的に協業しています。NRI-PIもその1社です。本国からは本国で使っているプロバイダーを使いたいという意向はありますが、それは日本のお客様にとっては必ずしも一番の選択ではありませんので、本国には納得いくまで説明し理解を得ています。あくまで日本のお客様に高いサービスを提供することが重要です。

浦壁:

NRIグループとしても、引き続き日本でのビジネスをお手伝いさせていただきたいと思います。

本日お話をお聞きして、御社のビジネスが急伸している理由がよく分かりました。貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2022年6月号

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