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企業価値向上に導くアクティブ・マネージャーの役割

2022年11月号

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日本の資本市場改革は待ったなしの状況にある。投資魅力度の向上には、個別の企業に変化の兆しと投資機会を見出すアクティブ・マネージャーの役割が不可欠だ。信頼関係の構築から企業価値向上まで、企業とのwin-winのエンゲージメントに取り組むニューバーガー・バーマンの日本株式運用部長の窪田慶太氏に、その投資哲学と運用プロセスを語っていただいた。

金融ITフォーカス2022年11月号より

語り手 窪田 慶太氏

語り手

ニューバーガー・バーマン株式会社
マネージング ディレクター 日本株式運用部長
窪田 慶太氏

2019年 ニューバーガー・バーマン入社。運用を担当する「日本株式ESGエンゲージメント戦略」では、ESG要素の改善を促す投資先企業の経営陣への継続的なエンゲージメント通じた株主価値の創出を追求。入社以前は、外資系運用会社シンガポール拠点のアジア株式デスク、同社東京拠点の投資アナリスト、および同社日本株式運用部のデピュティ・ヘッド兼インベストメント・ディレクターとして日本株運用に従事。

聞き手 浦壁 厚郎

聞き手

株式会社野村総合研究所
金融デジタルビジネスリサーチ部 エキスパートリサーチャー
浦壁 厚郎

2004年 野村総合研究所入社。コンサルティング事業本部を経て、2008年より資産運用のリサーチ・コンサルティング業務、年金コンサルティング業務等に従事。2017年 野村アセットマネジメントへ出向。2020年より現職。資産運用の動向、運用会社経営、機関投資家の資産運用管理を専門とする。訳書に「誤解だらけのアセットアロケーション:実務家のためのガイド」(東洋経済新報社)ほか。

日本株式運用部の立ち上げ

浦壁:

5年前、御社のニューヨーク本社を訪問したことがあります。株式、債券、プライベート・エクイティをはじめとするオルタナティブと、グローバルで幅広い運用ケイパビリティがあり、投資家のニーズに合わせた運用ソリューションを提供するところに非常に強みがある会社だと感じました。

窪田:

ありがとうございます。

ニューバーガー・バーマンは、従業員が自社株式を100%保有する独立系の運用会社なので、長期的な視点に立ち、真にお客様を中心に据えた運用に専念できる安定した経営体制と投資文化があります。こうした環境は、運用プロフェッショナルの定着やコミットメントを高め、その結果、お客様のニーズに沿った質の高い運用サービスを生み、長期にわたるパートナーシップの構築につながると考えています。

浦壁:

御社が3年前に日本拠点で日本株チームを立ち上げ、中小型株市場に投資する「日本株式ESGエンゲージメント戦略」の運用を開始されたと聞いて意外性を感じました。日本株から撤退する外資系運用会社も多い中、日本市場にどのようなオポチュニティがあるとお考えですか?

窪田:

弊社は、米国小型株の運用やESG投資で長年の高い実績を誇ります。その米国に次ぐ小型株マーケットを有するのが日本です。バリュエーション面だけでなく、企業のクオリティの観点からも、日本の次世代を担う中小型株式市場は大きなポテンシャルを秘めた隠れた宝石のような企業がひしめく魅力的なマーケットです。

しかしながら、日本市場は世界から過小評価され、見過ごされがちなのが現状です。例えば、欧米の銘柄はこの10年で大きく上昇し、株価のバリュエーションはすでに正当な水準にまで到達しています。一方、私の感覚では、技術力やサービスのクオリティ、価格競争力などの点で同水準の事業運営をしている日本の企業と欧米の企業を比べると、3割程度はディスカウントされています。売上の8割が海外という企業は山ほどありますが、そうした企業ですら、足元の円安局面においても全く評価が上がっておらず、むしろどんどん割安になってきています。

特に、中小型株式市場はセルサイドのカバレッジが相対的に薄いため、業績がアップデートされず、評価されづらい傾向にあるのです。こうした環境下では、ボトムアップ・リサーチを通じた厳選投資によるリターン獲得の機会が多く存在すると見ています。

また、2015年のコーポレートガバナンス・コード制定以降、ガバナンス改革の機運の高まりや日本市場でのESG投資の拡大が見込まれる点も好機と捉えています。

浦壁:

どのような投資プロセスなのでしょうか。戦略の概要や投資銘柄数などについて教えていただけますか。

窪田:

まず、上場株式3,600銘柄を対象に、徹底したボトムアップ・リサーチや年間500回を超える企業取材を通じて得た情報をもとに事業を分析し、本質的価値と比較して割安な高クオリティの銘柄を抽出します。

続いて、ESG要素、事業のクオリティ、バリュエーションの評価をします。これに加え、投資を開始する前に、企業調査から特定したアジェンダをもとに必ず直接企業の経営陣と面談し、変化への意思を確認しています。なぜなら、経営陣の本気度が、エンゲージメントの成果に大きく影響するからです。こうした変革ポテンシャルも踏まえて総合的に銘柄の魅力度をスコアリングし、企業を選別しています。最終的に投資をするのは、スコアの上位から50銘柄ほどです。

このスコアは毎週見直し、各銘柄の現状が把握できるようにしています。ポートフォリオ・マネージャーも人間ですからバイアスは入ります。そうした属人的な主観を極力排除するために、一見すると定性的と思われる事項に関してもすべて定量分析に落とし込んで評価し、投資比率を決定しています。

浦壁:

エンゲージメントによる加点が特徴的ですね。企業に対してどのような働きかけをするのでしょうか。

窪田:

日本の経営者は、「株価は、自分たちが決めるものではなく、皆さんの評価」とパッシブに考える方が多い。一方、欧米市場では経営者が積極的に自社をアピールすることによって株価を引き上げている。そして、その副次的効果として、安定株主の構築につながったり、敵対的買収などが起こりづらくなったりしています。

私たちは投資家として、日本企業が正当に評価されていない要因が外から見ていてよく分かります。そのため、投資を決定したら、投資開始と同時に個別のエンゲージメント目標を設定し、企業にとって重要なESG課題に取り組むために必要となる戦略や限られた社内リソースのなかで優先すべき課題のリストを策定します。そして、ともに改善に向けて取り組むための中長期的なロードマップを描き、面談において私たちの企業評価プロセスや市場参加者が企業の何を見てどう考えているのかを示しながら、課題の解決が企業のサステナブルな成長と価値の向上につながることを説明しています。

こうした企業との対話は、一般的にスチュワードシップ専任チームが担うことが多いのですが、弊社では、実際に投資先企業の現状やその文化までも理解した経験豊富な運用チームが主導しています。これにより、経営・財務戦略とマテリアリティ(重要課題)の双方に注目した対話が実現し、長期的かつ持続的な企業価値向上につながることが期待されると考えています。

浦壁:

まさに投資先企業と二人三脚で、企業価値が株価に反映されるための道筋を一緒に歩んでいるということですね。

具体的には、資本政策、ビジネスの効率性の改善、マネジメントサイクルを回すなど、企業のアクションのきっかけを作られているということでしょうか。

窪田:

はい。例えば、資本政策に関しては、日本市場特有の仕組みともいえる持ち合い株の解消が、企業にとって相当なプレッシャーになっています。これまで数十年にわたって安定株主であったメガバンクや生保、損保、事業会社による持ち合い株が、コーポレートガバナンス・コードの導入によって解消されています。その引受先に、弊社のような運用会社がいたり、なかにはアクティビストもいたりするわけです。

浦壁:

アクティブ・マネージャーのエンゲージメントに真摯に対応しないような企業は撤退せざるを得ない状況になることで、資本市場改革は成り立つのではないかと思います。

持ち合い解消の危機感があるということは、かなりの会社が対話に応じるようになっているのでしょうか。

窪田:

はい。ガバナンス改革以降、私たちのような機関投資家がより積極的な提言をするようになった結果、長引く経済の低成長も相まって、危機感を募らせた企業が次第に株主の声に耳を傾け、変革にコミットするようになったと感じています。

一方、最低限のことはやるけれども、それ以上はやらない企業も存在するので、二極化が進んでいるように見受けられます。

浦壁:

エンゲージメントに関して、アクティビストやパッシブマネジャーとのアプローチの違いをお聞かせいただけますか。

窪田:

まず、アクティビストの場合は、何か一つのアジェンダを短期間で達成しようとします。「北風と太陽」で例えると、瞬間的に勢いよく強い北風を吹かせるように、いろいろな手法を使いながら力づくで投資先企業を動かそうとするわけです。また、パッシブ・マネージャーの場合は、対象が数千社に及びますので、文字通りチェックボックスに終始してしまい、個別企業の課題を把握し、その解決に向けて建設的な対話を重ねるには限界があると思われます。

他方、アクティブ・マネージャーである私たちの運用戦略では、ポートフォリオ企業は50程度ですから、企業に寄り添って、中長期的な視点から課題解決に向けて深く議論することで、企業価値向上につながる本質的な変化を促すことができると考えています。

こうした対話を年に複数回重ね、企業価値向上という共通のゴールに向かって取り組むなかで、投資先企業から寄せられる信頼も増していきます。そうすると、逆に企業側から面談を申し込まれ、助言を求められることもありますし、こちらからより難しいアジェンダに切り込むことも可能になります。こうしたWin-Winの関係を築くユニークなアプローチは、長期的視点を有するアクティブ・マネージャーだからこそ実現できるのだと思います。

議決権行使内容を事前に開示

浦壁:

御社は議決権行使について、行使内容の事前開示をされています。この「NB VOTES」という試みは、いつ開始されたのですか。

窪田:

2020年の春に開始し、今年で3シーズン目を迎えました。2022年は10月時点で、グローバルで62件の議案に対する行使判断を事前開示しています。私たちの投資先企業に対しては、これまでに16議案について実施しています。

浦壁:

事前開示している運用会社は御社だけですか。

窪田:

弊社が調査した範囲では、運用資産1,000億ドルを超える大手資産運用会社のなかで、議決権行使判断の事前開示をしているのは、ニューバーガー・バーマンのみです。アセットオーナーのなかでも、事前開示しているのは米国などのごく一部の年金基金だけでしょう。

議決権は、株主にとって非常に重要な権利です。反対票を投じて、投資先企業にプレッシャーとも感じられるような強い意思を示す効果があるだけではなく、株主価値向上に寄与する取り組みを推進している会社に対しては、賛成票を投じることによってサポートを表明し、さらなる変革を後押ししていくことにもつながります。

どの運用会社もさまざまな議論を経て行使内容を決定していると思いますが、他社のスタンスを事前に把握することはできないため、助言会社の情報を参考にするくらいでしょう。事後に公表される議決権行使の結果分析も重要ですが、実際の行使行動に対して影響を及ぼすものではありません。

こうした現状を踏まえて、弊社では、すべての議案ではないものの、さまざまな分野の重要な議案に対する賛否とともに、その結論に至った根拠を公表しています。私たちが先駆者として行動することで、他の運用会社や個人投資家に対してポジティブな影響を与えることができますし、こうした取り組みが広がれば、業界全体としてより良いスチュワードシップ責任を果たし、個々の議案に対する議論に深みが増すことを期待しています。

こうして議決権行使の重要性を高めることを通じて、企業と緊張感のある関係を築き、より株主を向いた経営にシフトしてもらいたいという意思もあります。

実際、ありがたいことに、この取り組みに対する認知も高まりつつあり、同業他社や業界の関係者から好意的な反響をいただいています。企業側の受け止め方はさまざまではありますが、開示後のエンゲージメントの質の向上に寄与している点は、私たちの運用においてもプラスであると実感しています。

浦壁:

私は議決権行使について、議決権行使の助言会社に「実質アウトソースするだけになっていないか」という疑問を抱いています。ポートフォリオ・マネージャーには「この会社のこの議案については、こう考える」という意見をきちんと持ってほしいですし、それに従った行使をしてほしいと考えています。それによってしか、資本市場改革は進まないと思うからです。ですので、御社の取り組みには非常に共感します。

業界団体との連携

浦壁:

御社は、業界団体との連携にも力をいれているとお聞きしています。

窪田:

はい。数多くの協働事例がありますが、例えば、資産運用会社とアセットオーナーをメンバーとし、アジア圏の国々のコーポレートガバナンス向上を目指すアジア・コーポレートガバナンス協会(ACGA)で、日本株運用チームの岡村慧がジャパン・ワーキンググループのチェアを務め、他の投資家とともに日本市場全体のコーポレートガバナンス改革を推進しています。具体的には、当局に対して、投資家保護の観点から日本市場が他の市場と比べて劣後している部分に関する改善を働きかけたり、また日本企業に対しても、少数株主保護や企業価値向上の観点から改善を促すエンゲージメントを行っています。

そのほか、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が主導する投資家と企業の定期的なラウンドテーブルで気候関連の適切な情報開示や取り組みに関する議論に参加しています。TCFDコンソーシアムで共有されたベストプラクティスを投資先企業に連携することで、投資先企業の気候変動対応の支援につなげています。

日本の資本市場改革を牽引

浦壁:

窪田さんはキャリアを一貫して日本市場への投資に携わっておられます。ご自身がプロフェッショナルとして実現したいことを教えていただけますか。

窪田:

私は2006年にこの業界に入って以来、グローバル市場における日本株の相対的な立ち位置が低くなっており、日本企業に対して偏見や先入観ともいえるレッテルが貼られていることにもどかしさを感じています。

運用者として、お客様に優れた運用成果をご提供するのは当然の責務ですが、サステナビリティへの対応や株主との対話がより重視されるなかで、私たちのグローバルな知見を活かしたエンゲージメントを通じて日本企業の変革を後押しすることで、日本市場の発展に貢献していきたいと考えています。

浦壁:

日本の資本市場にとってのカタリストになるということですね。

本日のお話は、資本市場改革にもつながっていく内容が多く、非常に面白く拝聴しました。ありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2022年11月号

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