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長年培った専門性で独立ブティック運用会社設立

2022年12月号

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資産運用会社は国民の資産形成や企業のリスクマネー供給に重要な役割を担っており、多様なプレイヤーの活躍が期待されている。今年9月、「世界で活躍する日本発の独立専門ブティック運用会社」を目指す日本橋バリューパートナーズが投資運用業への登録を果たしスタート台に立った。創業者の高柳健太郎氏に独立・起業への思い、投信会社の立ち上げまでの道のりについて語っていただいた。

金融ITフォーカス2022年12月号より

語り手 高柳 健太郎氏

語り手

日本橋バリューパートナーズ株式会社
代表取締役社長 ポートフォリオマネジャー
高柳 健太郎氏

1991年 野村證券投資信託委託(現 野村アセットマネジメント)入社。2000年から手がけた日本株バリューファンドが、評価機関からの受賞、推奨などを受ける。国内外の機関投資家向けに顧客層を拡大させ、フラグシップファンドへと成長。30年勤続、満を持し2021年秋、日本橋バリューパートナーズを創業。「バリュー投資の再考ー完全予見による評価」(共著)をSAAJ(2021年3月号)に掲載。

聞き手 古賀 智子

聞き手

株式会社野村総合研究所
資産運用ソリューション事業本部 シニアチーフストラテジスト
古賀 智子

1989年 山一證券の情報システム会社入社。投信バックオフィスシステム再構築プロジェクト参画の経験を活かし、98年 野村総合研究所入社。T-STARの開発、ヘルプデスクの立上、企画営業を担当し、複数の業務効率化サービスの企画を実現。2018年 資産運用サービス事業部長を経て、2022年 現職に就任。学生向け金融教育の企画など、資産運用業界の発展の為の新しい企画に取組中。

日本橋発の運用哲学

古賀:

高柳さんが昨年設立した「日本橋バリューパートナーズ」が今年9月、投資運用業に登録されました。

高柳:

昨年秋、30年間お世話になった野村アセットマネジメントを退社して新会社を立ち上げました。社名には、私を育ててくれた場所で、歴史的にも日本の道の起点である「日本橋」を冠しました。

古賀:

高柳さんが今回起業に至った経緯を教えていただけますか。

高柳:

私は1991年に野村アセットマネジメントの前身である野村證券投資信託委託に入社しました。93年に株式運用部に異動し、その翌年から昨年9月末まで28年間ずっと日本株アクティブ運用のファンドマネジャーを務めてきました。

90年代初め、私がファンドマネジャー人生をスタートした頃はバリューやグロースといった投資スタイルを指す言葉はまだあまり聞かれませんでした。当時日本では、単位型投信、特にタイミングを見て設定するスポット型投信が全盛で、日本株が右肩上がりだった80年代までの余韻で、様々なテーマのファンドが設定されました。そんな中、私も「どうやって儲けようか」と一生懸命考えてポートフォリオを作っていました。

その後、投資スタイルの考え方が一般化し、私自身もいろいろなファンドを経験していく中で、次第に「自分のスタイルはバリューだな」と考えるようになりました。「ストラテジック・バリュー・オープン」は、私が商品開発会議に提案して採用され、2000年7月に設定されたファンドです。私にとって最もトラックレコードが長く、運用哲学やプロセスを明確にできたファンドになりました。

古賀:

どのような運用哲学だったのか教えていただけますか。

高柳:

「ストラテジック・バリュー・オープン」を設定した当時、お客さまに説明していた基本コンセプトは、「評価されていない銘柄の中から、強い実力のある会社を選ぶ」ということでした。

評価されていない会社でも、実力があって、それが業績に表れれば株価も上がります。根本にあるのは、そんなシンプルな考え方でした。

では、これをどうやって運用で実践するか。まず評価されていない銘柄、つまり割安に放置されている銘柄を探すために、バリュエーションによるスクリーニングで絞り込みます。そしてその中から強靭な会社、ポテンシャルのある会社をファンダメンタルズ分析や定性評価で探していきます。

実際にこうした手法で愚直に銘柄を選んだ結果、かなりよい運用成績をあげることができました。その後国内外の機関投資家にも顧客層が広がり、海外28か国で採用される旗艦ファンドに育ちました。

新しく立ち上げた会社でもこの運用哲学・プロセスを踏襲し、これまで培った日本株運用のノウハウやビジネスへの思いを投入していきたいと思っています。

日本株バリュー投資は今が面白い

古賀:

一つ気になるのは、日本経済が海外と比べてやや低迷しているように見えることです。日本株への投資を中長期的にどのように見ていらっしゃいますか。

高柳:

日本株を昔と今で比べると今の方が昔より割安で面白いという感覚が私にはあります。

「益利回り」という指標があります。例えば100万円をある会社に投資したときその会社がいくら利益を出しているかを比率で示したもので、PERの逆数になります。この益利回りをTOPIX全体で見ると1989年末には1.7%でしたが今年6月には7.4%になっています。自分が会社のオーナーだと考えると、益利回りは自身の利回りです。7.4%の利回りのアセットクラスなんてそうありません。

会社利益のうち配当部分に注目する「配当利回り」も1989年末には0.4%でしたが今年6月末には2.4%になりました。投資して毎年2.4%を配当でもらえるのなら、それでよしとする考え方も十分あると思います。

最終的に投資判断で問題となるのは、その利益が本当に信用できるものか、会社のことが信用できるか、ということです。こうした分析を丁寧に行うのがバリューファンドのコンセプトです。

古賀:

益利回りや配当利回りの数字を見ると、日本企業にも有力な投資先がたくさんあるということですね。

高柳:

そうです。ただ、日本企業の存在感が世界の中で相対的に低下しているのはおっしゃるとおりだと思います。うまく銘柄を選ぶことが大事なのだと思います。

私の目からは、海外で稼いでいる日本企業はリスクもありますがポテンシャルも大きいように見えます。今は日本の製造コストが安くなっているので、日本で製造して海外で販売しようとしている会社もよいかもしれません。逆に、日本で稼いでいる会社の場合、市場全体の売上が伸びづらくなっています。シェアと利益率の維持・拡大が重要です。

なぜ独立系でないといけないのか

古賀:

新会社では、どのような顧客をターゲットにサービスを提供していくのでしょうか。

高柳:

今回われわれは投資運用業の中の投資一任業と投資信託委託業の二つに登録しました。一任運用とファンドの両方を提供していこうと思っているからです。

ファンドについては当初はリテール向けの公募投資信託は立ち上げず私募の形で提供します。海外のお客さまは投資一任になります。まずは国内のお客さま向けにサービスをスタートし、それと同時に、海外のお客さまへのアプローチも開始します。

私には海外の投資家にも認められるようになりたいという強い思いがあります。一流のアセットオーナーは、運用者に対して厳しいと同時に付加価値に対してはきちんとお金を払ってくれます。これまで長く取り組んできたテーマでもあり、ビジネスとしても面白いと思っています。

古賀:

海外投資家への強い思いには、何か特別な理由があるのでしょうか。

高柳:

今回、私が起業した動機には、日本のプロ野球選手が「大リーグに行きたい」と思うのと同じような感覚があります。ファンドマネジャーであるからには、資産運用の先進国である北米のアセットオーナーに認められるようなファンドを手掛けたいのです。一番厳しい顧客と向き合ってこそ、運用能力が磨かれるからです。

2020年に入って、アメリカのある大手エンダウメント(寄贈基金)の担当者と話す機会があり、そこで「われわれは専門独立ブティックでなければ投資しない」と言われました。戸惑うと同時に私は大きなショックを受けました。そしてその翌日に「よし。それなら独立ブティックを作ろう」と心に決めました。

古賀:

なぜ独立ブティックでないと駄目なのでしょうか。

高柳:

アメリカの投資家の方々と話をしているとalignment of interestsという言葉がよく出てきます。「利害の連動性」という訳語が一番ぴったりくると思います。要するに、お客さまであるアセットオーナーと運用する人や会社の間で利害をどう一致させるかの設計を指します。

アメリカの投資家、特にエンダウメントはこれに非常にうるさい。最初の質問で「あなたの報酬はどんな計算式で決まっているのか」と聞かれたりします。アセットオーナーとマネジャーの利害を完璧に一致させる上で、ブティック運用会社は高く評価されているわけです。

もう一つは専門性です。米国の独立系運用会社には、規模は比較的小さくても、例えばバリュー運用だけをずっとやり続けているような会社がたくさんあります。お客さまとも非常に長い時間軸でパートナーの関係を築いています。そこで、「専門を絞り込んだ特徴あるブティックがなぜ日本にないのか。日本に作るべきではないか」と考えたわけです。

古賀:

日本の投信業界でも、運用会社主体の構造に変わろうとする動きがあります。新会社もそうした構造変化を推し進めようとしているのでしょうか。

高柳:

そうですね。ただ、私が独立を目指した動機は、「業界構造を変えたい」からではなく「独立した方が世界で評価される運用品質を実現できる」からです。アメリカの運用評価会社が行っている運用会社に対する評価の基準にはガバナンス構造の項目もあって、運用会社のオーナーシップ構造、ファンドマネジャーのインセンティブ設計など顧客と長期利害を一致させる枠組みが評価されています。

有益だったFinCity.Tokyoの支援

古賀:

日本では「投資助言のみ」、「投資一任のみ」の運用会社の創業はときどき見られますが、投信会社の創業はそれほど多くはないのではないかと思います。投信会社の立ち上げならではの苦労もあったのではないですか。

高柳:

そうですね。一任業も助言業と比べると遵守しなければならないルールが増えますが、投信業となるとさらに増え、どうしても設立にかかるコストが高くなります。

しかし私が最も大きな障壁だと感じたのは、投信会社の立ち上げに最低限必要なコストや人的構成がなかなか見えないことでした。モデルケースが少なく質問できる相手がいなくて、スケジュールも読みづらかったです。アウトソーサーをどのように使えるか情報がもっと充実していたらよかったとも思いました。

投資運用業が一般のビジネスと違うのは、規模に関わりなく金商法のルールに厳密に従いながら組織とプロセスを設計しなければならないことです。ルール一つ一つに対しどうすればそれらに対応できるのか判断したり、こうしたルールを守りながら付加価値を提供できることを証明したりするのは、簡単ではありません。

もう1つ難しかったのは、これは投信に限った話ではないのですが、お客さまとなる投資家を探すことです。新興の運用会社を専門的に評価するゲートキーパーが間にいると、運用会社の起業はもっと増えるのではないかと思いました。

古賀:

問題を解決するにあたって助けになったものは何かありましたか。

高柳:

東京都が支援する東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)では資産運用業の開業を目指す人向けに「Tokyo独立開業道場」というセミナーを年4回開催しています。そこで得た情報は非常に参考になりました。

FinCity.Tokyoではもう一つ、「Tokyo Asset ManagementForum」というイベントもあり、新興運用会社が国内外の投資家に自社のサービス内容をピッチできる機会を提供してくれています。昨年度はウェブだけでしたが、今年度はウェブとリアルの両方をミックスした形で行われました。われわれも今年度は3分間そこで会社をアピールすることができました。

古賀:

アセットオーナーと新興運用会社のマッチング場所みたいなものでしょうか。

高柳:

そうです。参加者の半分は海外の投資家らしく、プレゼンは英語で準備するか、日本語で話して同時通訳するかどちらか選択します。こうしたイベントは投資家を探す上で非常に助かります。

アウトソーサーの理想的な使い方

古賀:

先ほど「モデルケースが少ない」という話がありました。運用を志す人を支援するため、コンプラ、会社の総務や経理、投信計理やミドル業務とそのシステム等をワンパッケージで提供する枠組みのサービスがあると、ずいぶん楽になると思うのですが、いかがでしょうか。

高柳:

ヘッジファンドのケースですと、海外ではそういったサービスがよくあります。運用者が、そうしたサービス会社の被雇用者となれば自身は運用に専念するだけでよくて、必要なインフラは全部準備してくれます。稼いだ利益の何%が本人、何%がサービス会社といった具合に取り分の契約を結ぶわけです。

ただしこのようなサービスを利用した場合、運用者が必ずしもビジネスのオーナーシップを持っているわけではなく、サービス会社は「短期パフォーマンスが振るわない」という理由で運用者に辞めてもらう権利を持っています。投資家と長期の関係を築く専業ブティックを作りたいという私の思いとはちょっと違うものになってしまいます。

古賀:

そうすると投信会社をご自身で設立し、ワンパッケージのアウトソースサービスを利用するという形が理想ということになりますか。

高柳:

そうですね。アウトソースのサービスがもっと充実してほしいという気持ちはあります。事前にどんなサポートを受けられるのか理解していれば、コストもスケジュールもより明確に見えてくるので大変ありがたいです。

とはいえ、最後にはコストとの兼ね合いになります。それから、アウトソースした場合もサービス会社とビジネス上同じ方向を向き続けるのは、意外と難しいところがあります。特にコンプライアンスについては、解釈やさじ加減が意外と難しいので、意思疎通が大事になるでしょう。

古賀:

最後になりますが、「運用ビジネスを立ち上げたい」と考えている人に、高柳さんならどんなアドバイスをするかお聞かせいただけますか。

高柳:

第一に、先ほど述べたFinCity.Tokyoの「Tokyo独立開業道場」のセミナーは参考になるのでぜひ参加するとよいと思います。

第二に、お客さまであるアセットオーナーのニーズにどのように応えるか道筋をはっきりさせておく必要があります。自分たちのやっていることのどこに価値があるのかお客さまに説明できなければなりません。

そして第三に、海外、特にアメリカの資産運用会社からビジネスの仕組みを学ぶのは有益だと思います。金融先進国であるアメリカの手法はしばらくすると日本にやってくることが多いです。起業するということは未来に賭けることですから、ちょっと先を行く米国における成功事例は参考にすべきだと思います。

古賀:

非常に現実的なアドバイスですね。夢に向かって突き進むのは本当に難しいことで、高柳さんの行動力には尊敬の気持ちしかありません。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2022年12月号

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