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2022年の日米欧のテレワーク状況と将来展望

2023/02/28

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概要

  • ● 

    欧米諸国は2021年からコロナに対する行動制限を徐々に緩和し、経済活動も平時に戻りつつある。他方、緊急措置として導入されたテレワークについては、行動制限が緩和された後も定着している。

  • ● 

    野村総合研究所(NRI)が2022年7~8月に日米欧8か国で実施した生活者アンケートによると、米国や英国では50%、ドイツやスウェーデン、スイスなどでも依然として30%以上が実際にテレワークしている。

  • ● 

    日本のテレワークも2020年5月以降に徐々に減少しているものの、一定程度定着したと言えそうだ。2022年末時点でも依然として就業者の25%近くがテレワーク対象者となっている。特に東京、神奈川などのテレワーク対象者率が高く、日本では大都市圏を中心にテレワークが定着している。

  • ● 

    コロナ禍はテレワークだけでなく、オンライン会議ツールやオンラインの契約締結ツールなど様々なデジタルツールの導入も加速させた。これによって、テレワークのマイナス面(例:コミュニケーション不足)を軽減するだけでなく、業務の効率化など就業者の生産性向上実感にもつながっている。

  • ● 

    今後もテレワークが定着するかどうかは国や地域によって異なる可能性がある。米国を見ると、就業者のテレワーク意向は非常に強いが、実際にテレワークできるかは、個別企業の影響下にある。それに対して欧州は、就業者のテレワーク意向が強いだけでなく、政府がテレワークを後押ししていて、世界で最もテレワークが推進される地域になるだろう。日本では大都市圏中心にテレワークはある程度定着すると思われるが、欧州同様、国・地方自治体の支援の度合いに大きく影響されるだろう。

欧米主要国では行動制限緩和後もテレワークが定着

2023年初時点、コロナ禍は依然として完全には収束していないが、先進国の多くが行動制限をかなり緩和しつつある。コロナ禍に対する政府の厳格度を表す指数(図表1)を見ると、2022年に入って、米国、英国、ドイツなどの欧米主要国はこの数値が大きく低下し、行動制限が大きく取り除かれていることがわかる。日本は2021年半ばまでは米英独と比較して厳格度が相対的に低かったのだが、2022年半ばくらいには逆転し、日本の行動制限の方が厳しい状況となっている。

図表1:日米英独政府のコロナに対する厳格度推移

出所)Oxford COVID-19 Government Response Tracker, Blavatnik School of Government, University of Oxford.

厳格度が下がったことで、これらの国々のテレワーク率は下がったのかというとそうでもなさそうである。野村総合研究所(NRI)は、2022年7~8月にかけて、日本と欧米主要国でアンケートを実施し、テレワークの実施状況等について調査した。
テレワークが大々的に導入された2020年は、外出禁止令などの行動制限によって、テレワークは義務的なものであった。それに対して2022年は、多くの国でテレワークが選択肢となった。テレワークが認められていても、実際にはテレワークをせずに毎日出社する人もいる。テレワーク対象者(テレワーク可能な人)と実際にテレワークをしている人の乖離が生じている。そこで2022年のアンケート調査では、テレワークが可能かどうかと、実際のテレワーク頻度(過去1か月)について質問している。
図表2に示しているように、欧米各国では、テレワーク対象者の比率は高く、米英では60%以上、スイス、ドイツ、スウェーデンでも50%以上と、テレワーク可能な人の比率は極めて高い。日本は調査対象国では最も低く、テレワーク対象者の比率は29.7%であった。
次に、過去1か月間で実際にテレワークをした人の比率を見ると、各国ともに10-20%近く数字が小さくなる。日本では、実際にテレワークしている人の比率は19%で、テレワーク対象者の数値とは10.7%の差がある。この差分の人々は、テレワーク対象者だが実際にはテレワークせず毎日出社している人たちである。

図表2:日本と欧米主要国のテレワーク対象者・実施者比率(2022年7~8月)

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)
注)テレワーク実施者とは、過去1か月に最低1日はテレワークをした人の比率

日本では大都市部を中心にテレワークが定着

次に日本のテレワーク状況について時系列に見てみよう。図表3の数値はテレワーク対象者の比率である。最初の緊急事態宣言が発出されていた2020年5月に、日本のテレワーク対象者率は40%近くに上ったが、その後数字は低下し30%弱にまでなった。本レポートの直近の調査結果(2022年12月)では、テレワーク対象者の率は25.5%である。

図表3:日本のテレワーク対象者率の推移

出所)2019年9月のデータは総務省、残りのデータは各時点におけるNRIアンケート調査より

日本でテレワークの対象者率が減りつつあるということは、会社としてテレワークの選択肢をなくしたところが増えていることを意味しているのだが、おそらく地方部において、テレワークの必要性がなくなり、完全に出社に戻したところが増えているのが理由だと考えている。
2022年7月時点で、都道府県別に見たテレワーク対象者率の数値を図表4に示しているが、東京、神奈川ではテレワーク対象者率は40%以上(東京は51.2%)、また千葉、埼玉、大阪も30~40%未満と大都市部ではテレワーク対象者率は高い反面、島根や鹿児島は10%未満と低く周辺の地方部でも数値は低めだ。これは1時点だけのデータではあるが、おそらく大都市圏ではテレワークを続ける企業がいまだに多いのに対して、地方部ではワクチン接種やコロナの感染数の推移を見ながら、テレワークをやめて完全出社に戻す企業が一定数いたためだと考えられる。

図表4:都道府県別に見たテレワーク対象者率(2022年7月)

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)

ちなみに、東京都庁が毎月実施している都内のテレワーク実施率調査を見ると、徐々に減少傾向にあるとはいえ、2023年1月時点でも都内企業の51.7%がテレワークを導入している 。日本では、2023年5月から新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同じ5類に移行することが決まったが、移行後であってもテレワークは大都市圏を中心に定着する可能性は高いと考えている。その理由はいくつかある。

  • (1) 

    大都市圏で働く人の通勤時間が長くテレワークによる恩恵が大きいこと、

  • (2) 

    大都市圏はオフィス勤務などテレワーク可能な職種が多いこと、

  • (3) 

    コロナ禍のような感染症だけでなく大規模地震などの自然災害時にもテレワークが有効であること、

  • (4) 

    大都市圏に限ったことではないが、テレワークを平常時にも継続したいというワーカーが多いこと(データは後述)、などがあげられる。

などがあげられる。

テレワーク対象者ほどコロナ禍前と比較して生産性上昇を実感

話を日米欧の国際比較に戻そう。NRIは世界8か国の就業者に対して、コロナ禍以前(2019年)と調査時点(2022年7~8月)の生産性の変化について質問している。すると図表5に示しているように、すべての国で、テレワーク対象者の方が、テレワーク非対象者よりも、生産性は向上したと回答する比率が大幅に高い。日本は「比較できない/わからない」の回答が多いため、生産性向上を実感している人の比率は欧米諸国よりも小さいが、欧米同様テレワーク対象者の方が生産性向上を実感している。

図表5:コロナ禍前後(2019年→2022年)の生産性変化の実感

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)

ここで1つ興味深い特徴がある。それは、特に欧米諸国において、テレワーク非対象者であっても、かなりの比率の人が、コロナ禍以前と比べた生産性向上を実感していることである(例:米国43%、英国29%)。この背景には、テレワーク以外の何らかの生産性向上の契機があったことが示唆される。そしてその答えは、様々なデジタルツールがコロナ禍を契機に職場に導入されたことにあるとみている。

コロナ禍を契機とした職場への様々なデジタルツールの導入

コロナ禍はテレワーク以外にもいわゆる「職場のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を推進した。その代表例が、オンライン会議ツール(例:Zoom)やオンラインの契約締結ツール(例:DocuSign)など、様々なデジタルツールの導入である。NRIは日米欧8か国で、9種類のツールについて、職場に導入されているか、導入されているならその導入タイミングについて質問をした。
その結果を図表6に示す。どのツールを見ても、コロナ禍後に導入されたという比率が20~40%と高く、職場のDXが急速に進んだことがわかる。特にZoomなど、テレワークを直接支援するオンライン会議ツールの導入がコロナ禍後に大きく伸びている。また8か国を比較すると目を引くのが、日本の相対的な導入率の低さである。確かに日本もコロナ禍を通じてこれらのデジタルツールの職場導入が大きく進んだが、欧米諸国と比較すると、導入率は半分以下となっている。
図表7に、世界8か国について、テレワークのステータス別に見たオンラインチャットツールの導入状況をまとめている。8か国すべてに共通しているのは、テレワーク対象者の職場の方が、非対象者の職場よりもオンラインチャットツールの導入率が高いことだ。これはテレワークを補助するためにチャットツールを導入している企業が多いことを示している。しかし興味深いのは、8か国すべてで、テレワーク非対象者の10%から50%においても、「職場にオンラインチャットツールは導入されている」と回答していることである。
テレワーク非対象者の職場であってもデジタルツールが導入されている理由についてはいくつか考えられる。例えば、自分は出社でも顧客がリモートなので、それに対応するためにデジタルツールが導入された、あるいは他部署にテレワークの同僚がいるので、他部署とのコミュニケーション用に導入された、またかつてはテレワーク可能で、職場にデジタルツールが導入されたが、今は会社の方針で出社のみに戻った(デジタルツールは引き続き利用できる)、というような理由である。いずれにしても、様々なデジタルツールの職場への導入が、コロナ禍をきっかけに大きく進んだのである。

図表6:日米欧における職場でのデジタルツールの導入状況

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)

図表7:日米欧におけるテレワークステータス別に見たチャットツールの導入有無

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)

国や地方自治体がテレワーク推進のキャスティングボードを握っている

テレワークは今後日米欧で定着あるいは拡大するのだろうか。まず日米欧の就業者のテレワーク意向についてみてみよう(図表8)。この質問はテレワーク対象者/非対象者のすべてに聞いているが、「仕事の特性上テレワークができない」を除くと、すべての国で「緊急時だけでなく平常時でもテレワークをしたい」の回答率が最も高くなっている。ポーランドを除く欧米7か国ではこの数値が4~5割に上る。ちなみにこの選択肢を選んでいる人の大半が、アンケート調査時点で実際にテレワークをしている人たちである。日本ではこの数値が25%であるが、大都市圏では数値が大きい。例えば東京は36%、神奈川は38%、大阪では34%の就業者が、「緊急時だけでなく平常時でもテレワークをしたい」と回答している。
このように就業者のテレワーク意向はどの国でも高いが、テレワークの可否を決めるのはあくまで企業側である。テレワークは生産性や業務品質、社員間や顧客とのコミュニケーションに少なからぬ問題を引き起こしているのも確かで、これらの理由から完全に出社に戻す企業もいる。テレワークの影響について様子を見ている経営者も多い。
例えば米国のハイテク業界を見ても、意外なほど各社の方針はバラバラで、完全出社を求めるテスラから、曜日を指定して出社させているアップル、また部署ごとにテレワーク方針を決めるアマゾン、個人が自由に出社/テレワークを選べるメタ、と各社各様だ。金融業界では、JPモルガンやゴールドマン・サックスのように、当初はテレワークを推進していたものの、その後テレワークは会社にとって有害であると立場を180度変え、完全出社に戻す企業もいる。
米国では、テレワーク意向が強い就業者と、テレワークにそこまで熱心でない企業とのギャップが大きそうだ。LinkedInによれば、2022年2月時点で、米国の求職者の50%がテレワーク可能な仕事を希望しているのに対して、テレワーク可能な求人情報は全体の20%にも満たないという 。そのためもあってか、米国ではコロナ禍前に月300万人台だった「自発的」な離職者数が、2023年初には月400万人以上にまで拡大している 。概して言えば、米国でテレワークの未来に関するキャスティングボードを握っているのは企業で、テレワーク推進派の企業がどこまで増えるかに依存している。

図8:日米欧諸国の就業者のテレワーク意向

出所)NRI「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」(2022年7~8月)

それに対して欧州は、就業者のテレワーク意向が強いだけでなく、政府もテレワークを後押ししている。例えばアイルランドやオランダなどでは、政府がテレワーク(在宅勤務)を就業者の権利として法制化し始めていて、他の欧州国も遅かれ早かれ追随するとみられている。企業のテレワークに対する思惑を飛び越えている。
また外国の高度人材を受け入れるための「デジタルノマドビザ」(注:ノマドは遊牧民を意味する)を導入する国が欧州を中心に急増している。端的に言えば、テレワークする外国人に対して、1~数年間自国に滞在することを許可するビザである(例:米国のIT企業で働く米国人がギリシャに1年間滞在可能なビザ)。ビザ取得要件の中にITなど具体的な職種を指定している国もあるが、その主目的は外国の高度人材を自国にひきつけることだ。欧州政府はテレワークを外国人高度人材獲得の好機ととらえている。欧州では就業者と国がテレワーク推進派であり、企業の意向が及ぼす影響は小さく、世界で最もテレワークが定着する地域になるだろう。
日本のテレワークの未来はどうなるか。2023年5月には、日本においても新型コロナウイルスが「5類」に分類されることで、季節性インフルエンザと同じ扱いを受けるようになる。これによって緊急時のテレワークという要素はさらに小さくなる。テレワークをやめる企業も出るだろう。しかし日本においてもテレワークは大都市圏中心に定着すると考えている。なぜなら欧州同様、日本も国や地方自治体がテレワークに肯定的だからである。日本政府はデジタル田園都市構想の一環として、テレワークによる地方創生を推進している。地方自治体でも、他地域(特に大都市圏)からのテレワーカーをひきつけるために、温泉やカフェ付きのシェアオフィスを整備するなどしている。短期滞在の観光でもなく、定住でもない新たなニーズを好機ととらえているのである。メタバースやVRなどデジタル技術の進歩もテレワークに追い風になる。コミュニケーションの質の低下など、テレワークのマイナス面を技術が補っていくことで、長い目で見れば日本においてもテレワークは定着するとみている。ただし、その度合いは国や地方自治体がどの程度テレワークの支援策を導入するかによるだろう。欧州同様、日本政府もテレワークを好機ととらえ、地方創生だけでなく、外国の高度人材を大都市圏に誘致するといった施策も導入すべきではないか。

ご参考:アンケート調査概要

調査名 「Withコロナ期における生活実態国際比較調査」
実施時期 2022年7月12日~2022年8月10日
調査方法 インターネット調査
調査対象国 日本、米国、英国、ドイツ、イタリア、スイス、スウェーデン、ポーランドの8か国
調査対象
  • 満15~69歳の男女個人(対象者は年齢階級(10歳刻み※10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割り付け回収を行った)
  • 日本については都道府県別に年齢階級別の構成比に応じた割り付けを実施
有効回答数 日本:9,400人(47都道府県×200サンプル)
米国、英国、ドイツ、イタリア、スイス、スウェーデン、ポーランド:
各2000人
主な
調査項目
現在の生活に対する意識 生活満足度、幸福度、領域別満足度
アフターコロナの意識 コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動 保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント デジタル公共サービス利用実態
就労スタイル 就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向 消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計 コミュニケーションを取る相手、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 森 健

    未来創発センター グローバル産業・経営研究室長

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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
TEL:03-5877-7100
E-mail:kouhou@nri.co.jp