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運用ビジネスを通して社会に貢献

2023年12月号

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政府が目指す資産運用立国の実現に向けて、国内運用会社のスタートアップへの期待は大きい。そうした中、2012年に寺本義雄氏が設立したGVCアセットマネジメントが適格投資家向け資産運用業者として私募投信の運用を開始した。私募投信ビジネスをどう展開していくのか、なぜ地方銀行との協業を選択肢の一つと考えるのか、寺本氏にビジョンを語っていただいた。

金融ITフォーカス2023年12月号より

語り手 寺本 義雄氏

語り手

GVCアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長
寺本 義雄氏

1990年 日興アセットマネジメント入社。ファンドマネジャーとして12年間従事。2003年から、JPモルガン証券、メリルリンチ日本証券にてアナリストとして5年間従事。その後、レコフにてファイナンシャルアドバイザーとして企業再生・M&A・中期経営計画策定支援業務などに従事。2012年にGVCアセットマネジメントを設立、代表に就任。

聞き手 古賀 智子

聞き手

株式会社野村総合研究所
資産運用ソリューション事業本部 シニアチーフストラテジスト
古賀 智子

1989年 山一證券の情報システム会社入社。投信バックオフィスシステム再構築プロジェクト参画の経験を活かし、98年 野村総合研究所入社。T-STARの開発、ヘルプデスクの立上、企画営業を担当し、複数の業務効率化サービスの企画を実現。2018年 資産運用サービス事業部長を経て、2022年 現職に就任。学生向け金融教育の企画など、資産運用業界の発展の為の新しい企画に取組中。

私募投信の運用開始までの道のり

古賀:

寺本さんの経歴を拝見すると、GVCアセットマネジメントを立ち上げるまでに、いろいろな会社で経験を積んでいらっしゃいますね。

寺本:

私は大学生の頃から運用の仕事に興味を持っており、その甲斐あって90年に日興アセットマネジメントに入社することができました。日興アセットでは12年間ファンドマネジャーとして従事し、ファンドの運用スキルだけではなくて、組織の中でどう調和して生きていくか、といったことも学びました。ただ、私はとんがり過ぎているところがあり、客観的に見て調和できていたかは第三者の評価に委ねたいと思います。

日興アセットを退職したのは、自分自身のスキルをさらに上げたいと思ったからです。小型株運用の世界で結果を出すことができて、自分のやりたいことをある程度やったという思いもありました。

次のステップとして選んだのは外資系証券会社のアナリストです。当時バイサイドのファンドマネジャーがセルサイドに転職するというのはあまり一般的でなかったのですが、私の中では戦略的に考えた結果でした。その後約5年間、JPモルガン証券とメリルリンチ日本証券でアナリストを務めました。海外投資家とのコミュニケーションを通じて、海外と日本の投資に対するスタンスの違いなど、知見を広めることができました。

その次にM&Aコンサルティング会社のレコフという会社に転職しました。M&Aの世界では、企業の置かれた状況に応じて戦略を考え、一緒に行動することになります。バイサイドにいた時は投資家という立場で外から企業を見ていました。そして、セルサイドでは分析者という立場でより近い所から企業を見ることになり、最後にM&Aコンサルティングで企業戦略の中に入ったわけです。

古賀:

ステップを3つ踏んで、企業の内側に近づいていったわけですね。

寺本:

そうです。そしてこれらのステップで学んだことをある程度消化できたと考えた段階で、再び自分のファンドマネジャーとしての感覚を取り戻すために、ヴァレックス・パートナーズという会社で2年間運用の仕事をしました。最終的に2012年にGVCアセットマネジメントを立ちあげました。この会社を立ちあげて、今年で11年目になります。

古賀:

ご自分の会社を立ち上げるにあたって、どのような思いがあったのでしょうか。

寺本:

私がやりたいのは、投資運用業を通じて社会に貢献することです。これは簡単なようでなかなか難しい話です。なぜ難しいかというと、金融行政や規制の問題に加え、少しでもリスクを抑えようとする投資家の姿勢など市場ニーズに応えることは簡単ではないからです。法規制に則って組織を作っていく必要があるため、私の場合、思いを持ってこの会社を設立してから私募投信の運用を開始するまでに、結局10年かかりました。しっかりトラックレコードを作りながら準備を進め、ようやく投資信託の世界に入ることができたわけです。

私募投信ビジネスと銀行との協業の展望

古賀:

私募投信のビジネスはどのように進めていく方針ですか。

寺本:

先ほど申しましたように、われわれが目指すのは、運用会社として社会貢献することです。そのためには、よりよいリターンを生み出すファンドを提供することが基本になります。弊社は適格投資家向け投資運用業者ですので、地銀や地方証券会社のプロパーの資金、上場企業などの法人や、富裕層の個人投資家の資金を預かり、絶対リターンないしはマーケット・アウトパフォームの提供を目指します。

古賀:

具体的にはどのようなファンドを提供しているのですか。

寺本:

弊社は、ジャパニーズ・ビジョナリー・カンパニー略して「JVC」という概念で国内の優良企業を厳選しております。数は多くはないものの、日本にも先見性に優れた企業があります。そういった企業は、中長期的に企業業績が伸び、過去の株価も安定的に上昇しています。一時的に業績が悪化しても、組織力があるので回復することが可能で、非常に安定度が高い優良企業です。まず、そうした企業のユニバースを作って、その中からさらに厳選した企業でポートフォリオを組んでいます。これが「JVCマザーポートフォリオ」になります。現在は25社の企業で構成されています。

実際に投資家に提供するのはベビーファンドの「JVCアルファファンド」です。このファンドにはマザーファンドを組み入れますが、そのままですとマーケット全体の影響を受けてしまうので、ダウンサイドリスクを抑えるためにヘッジをかけています。日経平均が30%下がってマザーファンドが20%下がった場合、何のヘッジもしなければ、投資家は20%損をします。しかし、「JVCアルファファンド」では、10%を絶対リターンとして投資家に還元することが可能になります。このように常に緩やかに勝つことを目指して運用をしていくのが「JVCアルファファンド」です。

私はベーシックなラインアップに絞って投資家にわかりやすい形でファンドを提供していくことが重要だと思っています。現在は、こうしたマーケットニュートラル・タイプでミドルリスク・ミドルリターンの安定成長型のものを投入しています。今後は商品ラインアップの幅を少し広げて、金融機関の収益向上に資するファンドを提供していきたいと思っています。

古賀:

将来的にはリテールマーケットへの展開もお考えですか。

寺本:

はい。金融機関など適格投資家を顧客とするBtoBのビジネスがある程度形をなし方向性が定まってきたら、次のステップとして、地方銀行など金融機関との資本政策も排除せず、業務連携などを視野に入れていきたいと考えています。リテール向けにファンドを組成することなどを通して、地方金融機関の顧客の資産形成やストックベースの収益基盤の強化に貢献できたらと考えています。

古賀:

御社は独立の運用業者であり続けることを志向しているわけではないのですか。

寺本:

独立を維持することが必ずしも成功するとは限りません。成功しなければ社会貢献もできません。

われわれが生き残っていくためにはオーガニックな成長に加えて、ストラテジックな行動をとる必要があります。目線の合う地方銀行など金融機関と連携し、その金融機関の収益の一端を担うことができれば、弊社にとっても成長性や持続性の向上につながると考えています。

地方銀行が資産運用業を保有する意義

古賀:

地方銀行との連携は、御社にとっても地方銀行にとってもメリットが大きいということですね。

寺本:

そうです。今、たとえば銀行業のPBRランキングを見てみると、上位にランクインした地方銀行に共通しているのは、銀行業+αで証券関連ビジネスをグループ会社に持っている会社だということがわかります。金融ビジネスはリスクが高い業態ほどリターンが高くなります。リスクもリターンも運用会社、証券会社、プライベートエクイティまたはベンチャーキャピタルの順に高くなっていきます。そのミドルリスク・ミドルリターンの証券関連ビジネスまでは、地方銀行においても、ある程度手を広げていくことができると思います。

古賀:

銀行業+αのαとなるビジネスを持つことで、金融機関が収益強化を図れれば、株価評価が高まる可能性があるということですね。

寺本:

+αがすべてではありませんが、そのようなアプローチもあると見ております。

地方銀行が来年から始まる新しいNISAで顧客の資金を取り込んでいきたいと思っても、グループ内に証券会社がなければ、預金は取り崩されるだけで、資産はよその証券会社に持っていかれてしまいます。顧客の支払う手数料の一部でも自分たちに入ってくればよいという考え方もありますが、たとえばグループ内に運用会社があり顧客の資産を取り込むことができたら、連結ベースで収益化を図れます。それが収益性の違いにつながっていきます。

また、地方証券会社にとっても地銀と組むことはメリットが大きいと思います。地銀と連携し地域に根ざした金融サービスを提供できれば、ビジネスの継続性が高まるでしょう。

そして鍵になるのは、顧客のリターンの源泉を生み出す運用会社です。運用会社が投資家の期待を満たすリターンを生み出していかないと、顧客は金融機関から離れていってしまいます。どこに預けても期待できるリターンが同じでは、ブランド力のある大手などにお金が流れていってしまうだけだと思います。

古賀:

グループによい運用会社を持つことが金融機関にとって非常に重要になりそうですね。

寺本:

そう見ています。地方銀行と証券会社と運用会社が連携して投資家に高いリターンを提供できれば、地域に根差した金融機関として安定したポジションを築くことができると思います。

古賀:

御社としては、金融機関と提携することで、どのような付加価値を提供できるとお考えですか。

寺本:

基本的には、お客様から預かった資金をしっかり運用して収益を還元できる体制を提供することがわれわれの価値だと思います。

アセットマネジメントというのは、形を整えてやろうと思えばできなくはありません。しかし、きちんとリターンを生み出すことができるファンドマネジャーを育てたり、そうしたファンドを設計したりするのは、そう簡単ではありません。

銀行系の運用会社は、債券運用から始めるところが多いと聞いています。ただ、債券運用ではパフォーマンスにあまり差がでません。これに対して株式は運用のやり方でかなりパフォーマンスが変わりますので、力量の差が歴然となります。

古賀:

ある運用会社が、債券ファンドだけでスタートしていたのですが、お客様の要望に応えてファンドのラインアップを広げようとして、その準備に非常に苦労していました。御社はそうした悩みを抱える会社を支援することもできるのでしょうか。

寺本:

それは可能です。債券専業の運用会社が将来的に株式の運用を手掛けるためにノウハウを吸収したいと考えている場合、業務提携を行い、ノウハウを提供することができると思います。

運用業の立ち上げで苦労したのはトラックレコードの蓄積

古賀:

御社が投資運用業を開始する上で特に苦労したことについて教えていただけますか。特に投資運用業への登録などで金融庁に「イエス」と言ってもらうまでに、ハードルとして高かったものはありましたか。

寺本:

適格投資家向け投資運用業の金融庁への登録にあたって、弁護士などの士業の方たちを全く利用せず自分たちの力だけで乗り切りました。その経験は、弊社の組織対応力を高め、ノウハウとして蓄積されています。その後、私募投信を取り扱うために業務変更を行いましたが、これはシードマネーを提供して頂いた証券会社のご理解、ご支援があってこそできたことです。もちろん、事業に対する弊社の熱い思いを含めて金融庁に説明したことで、適格投資家向け投資運用業で初めて私募投信の設定・運用が認められました。

古賀:

簡単な話ではないように感じます。

寺本:

苦労といえば苦労ですが、その苦労を乗り切ることができれば、そうした経験がわれわれのノウハウになっていきます。

むしろわれわれが運用業への参入で一番苦労したのは、トラックレコードの蓄積も含めて、顧客とのリレーションシップを築くことでした。全く無名の会社なので、そこには非常に時間がかかりました。

前に申し上げましたように、われわれは2012年に会社を立ちあげて、運用業者として私募投信を立ちあげるまでに10年かかっています。トラックレコードを十分に作って、ある程度いけると思ったのは2019年でした。その時点で私募投信に参入したかったのですが、コロナ禍のために後ろに3年ずれてしまいました。

そのおかげで少し遠回りにはなりましたが、3年の間に会社としては業務変更に必要なノウハウを蓄積することができ、結果的に自社で低いコストで手続きができました。そういう意味では必ずしも余計な時間ではなかったのですが、「意外と長い時間使ってしまったな」、「特にコロナは痛かったな」という思いはあります。

古賀:

最後に、運用会社の起業を目指す人に何かアドバイスがあればお聞かせいただけますか。

寺本:

第一に、起業には実にさまざまなリスクが伴うことを理解しておく必要があると思います。

運用に限らず金融業は一人でやれるものではなく必ず組織が必要になります。コンプライアンスにしても営業にしても、組織体系をしっかり作りあげて、いろいろな人を巻き込んでいかなければなりません。

それから、登録業者に課される資本要件も非常に厳しく、お金がなくなったら何もできません。給料を未払いの状態で運用を継続することはできないわけです。投資運用業であれば最低5,000万円の資本金が求められます。われわれが適格投資家向け投資運用業にこだわったのは、資本制約のハードルを下げ、事業が軌道に乗るまでの時間を確保するためです。

第二に、社会にしっかり貢献できる運用会社を作っていくという志が重要でしょう。フィンテック的な形でやるのか、われわれのようにアクティブ運用をアナログに行うのか、または、これらのハイブリッドでやるのか、やり方はいろいろあると思います。

私は、預金ばかりに資金が集中して投資にお金が回らない日本の文化を変えるために、一つの歯車として働くことこそが最終ゴールだと思っています。日本国内にもしっかり運用できる人たちはいるはずで、その役割を外資の運用会社だけに任せるのではなく、われわれがしっかり担っていく必要があると考えています。

古賀:

私は独立して起業する人をいつも応援したいと思っています。大きなビジョンを持って、運用ビジネスを盛り立ててほしいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

金融ITフォーカス2023年12月号

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