2006年に始まり、今回で第9回目となった「NRI学生小論文コンテスト」では、これまでたくさんの受賞者を生み出してきました。当時、大学生や高校生だった皆さんは、今や社会人や大学生となり、さらにアクティブに自分の道を進んでおられます。
2015年度のコンテストは、開始以来10年目の節目を迎えます。
そこで受賞OB・OGの方に、コンテスト応募当時のことを振り返っていただき、応募された理由や受賞後の進路などについて伺いました。
2012年に[大学生の部]で優秀賞を受賞した 木下 翔太郎(きのした・しょうたろう) さん
- 応募当時: 千葉大学 医学部5年
- 現在: 内閣府 政策統括官(沖縄政策担当)付 事務官
- 2012年コンテストテーマ: 「自分たちの子ども世代に創り伝えたい社会~あるべき社会の姿と私たちの挑戦」
- 受賞論文タイトル: 将来の日本の為に──「我々の世代が為すべき医療改革」
2012年に[留学生の部]で優秀賞を受賞した 張 辰飛 (ちょう・しんひ) さん
- 応募当時: 東京大学大学院 経済学研究科 修士課程1年
- 現在: 株式会社ディー・エヌ・エー マーケテイング本部 勤務
- 2012年コンテストテーマ: 「自分たちの子ども世代に創り伝えたい社会~あるべき社会の姿と私たちの挑戦」
- 入賞論文タイトル: 「留学生活用社会」の創造──外国人留学生就職における問題の解決と留学生自身にできること(東京大学大学院 工学系研究科 修士課程2年 馬 一丹さんとのペア応募)
2012年に[高校生の部]で優秀賞を受賞した 舛田 桃香(ますだ・ももか) さん
- 応募当時: 頌栄女子学院高等学校2年
- 現在: 慶應義塾大学 総合政策学部1年
- 2012年コンテストテーマ: 「自分たちの子ども世代に創り伝えたい社会~あるべき社会の姿と私たちの挑戦」
- 受賞論文タイトル: 今どきの子供が未来を創る──興味が繋ぐバトン
人の病を治療する医師から、国の政策を企画立案する官僚へ
(木下 翔太郎さん)
─ どういう動機からコンテストに応募されたのですか
当時は医学部5年生で、病院実習が始まり数カ月が経った頃で、周りの学生が進む診療科を決めていく中、自分にはそれがなかなか見えてこなくて、どうしようかと考えていました。また、それまで打ち込んでいた弓道部を引退して、アウトプットしたり自己表現する場が欲しいと思っていました。そんなときにインターネットで「NRI学生小論文コンテスト」を知り、チャレンジしてみようと思ったのです。
─ 論文のテーマはどのように決めたのですか
大学に入学した頃に政権交代があったり、その後、東日本大震災などがあって、社会問題に関心が強くなりました。中でも少子高齢化に関心があり、本を読んだりして自分なりに勉強していました。実際に病院実習で病院が高齢者であふれているのを見て、自分たちの世代がこの問題をしっかり考えなくてはいけないと思い、論文のテーマに選びました。
─ 病院実習をしながら論文を書くのは大変だったのでは?
時間の合間を見つけて2、3カ月かけて書きました。文章を書くことは得意ではなかったのですが、問題に対するアプローチを考えて論文の構成を練る過程や、テーマに対して調べ物をしたり、知らなかった知識を得たり、使えそうな資料を見つけること自体がとても楽しく感じました。自分はこういうことが好きなんだと気が付きました。
─ 受賞された後、医師の道から国家公務員の道に方向転換することを決めたのはどうしてですか
少子高齢化に対する自分の問題意識をまとめた論文がコンテストで評価されたことは、私にとって少なからず自信になり、真剣にこういう仕事ができないかと考えるようになったのです。いろいろと調べるうちに、社会問題に対して現状分析を行い、アプローチを考えていく政策の企画立案の仕事に強くひかれ、一念発起して国家公務員試験に挑戦することにしたのです。
─ 迷いはありませんでしたか?
国家公務員試験を目指すことは自分にとってのスキルアップになると思いましたし、どこまで自分が評価されるのかチャレンジしてみたいという気持ちもありました。病院実習の合間にコツコツ勉強して、受験に臨み、幸い合格することができました。新しい課題を多く抱える内閣府にひかれて入府し、現在は沖縄政策関連の仕事をしています。大変ハードですが、楽しく仕事をしています。論文コンテストに応募し、国家公務員を目指して良かったと思っています。
─ コンテストへの応募を考えている大学生にメッセージを
勉強でも読書でも、目標があると身の入り方が違うものです。自分を高めるために目標を持つことは、とても良いことだと思います。また、社会人になると、自分が何かを発信していくときには、その考えの根拠や具体的な内容までしっかり述べることが求められます。論文という1つの形にまとめる作業は自分の考えを整理する訓練になり、必ず今後の自分のために役立つと思いますので、ぜひ皆さんには本コンテストへの応募に挑戦して欲しいと思います。
努力はさまざまな可能性をもたらしてくれる
(張 辰飛さん)
─ 張さんは受賞された小論文の題材に、日本における外国人留学生の就職を選ばれていましたが、応募されたいきさつを教えてください
私は北京の中国人民大学を卒業後、2012年4月に東大の大学院に入りました。周りには日本企業への就職を希望する留学生が多くいましたが、留学生が日本で就職活動を行うにはあまりにも情報量が少ない状態でした。私は人材系のベンチャー企業でアルバイトをして、留学生向けの就職セミナーの準備に関わったり、留学生のメーリングリストを作って就職情報を配信するといった活動を行っていました。本コンテストのことは大学の図書館でチラシを見て知り、同じ研究科の1学年上の留学生の先輩にこのコンテストで賞をとった人がいて、「私も応募してみようかな」と思ったのが直接のきっかけです。留学生の就職について感じていた問題意識や自分なりの提案を、論文にまとめました。
─ 論文が入賞したことで、何か生活や心境などに変化はありましたか
何より、賞をいただいて自分に自信が付きました。「これまで自分がしてきたことには価値があるんだ」と思えて、いろいろなことがポジティブに循環するようになっていきました。生活面では、論文を応募したすぐ後の2012年9月から、アルバイトをしていた人材系のベンチャー企業でインターンとして働き始めました。留学生向けセミナーの講師など、さまざまな業務を経験して、1年半勤めました。自分の実際の就職活動では、初めのうちは失敗を重ねましたが、次第に自分の課題が見えてくるようになりました。論文を書いたことによって考えを整理でき、それをベースに行動できるようになったと思います。最終的には希望していたIT企業に内定をいただき、就職することができました。
─ 現在はどのようなお仕事をされているのですか。
マーケティング本部で、主にユーザーの意見を吸い上げて分析する、マーケティングリサーチの業務を担当しています。また、新卒の社員で構成された組織改善という社内チームに入っていて、リーダーを務めています。今は仕事に集中し、前を向いて進んでいます。自分自身が満足できる人生を歩み、自己実現できるように、頑張っていきたいと思っています。
─ 応募を考えている留学生にメッセージをお願いします
私はこのコンテストに応募して、日本の社会では日本人だろうと外国人だろうと関係なく、自分の努力次第で何かを変えていく可能性があるということを実感しました。ぜひ自分の考えを論文にまとめて、コンテストに応募してください。
コンテスト受賞がきっかけとなって、自分の世界が大きく広がりました
(舛田 桃香さん)
─ 舛田さんが受賞されたのは高校2年生のときでしたが、どういったきっかけで応募されたのですか
私はもともと文章を書くことが好きで、中高一貫の女子校でごく普通の高校生活を送りながらも、「自分の好きなことで何か形を残したい」という思いを持っていました。インターネットで本コンテストを知り、過去の受賞作品を読んで、「私も自分の考えを文章に表現してみたい」と思ったのです。テーマには「子供が社会にもっと興味を持つにはどうしたら良いか」という問題意識をベースに、“小・中学生向けの週刊誌を作る”という提案をまとめました。
─ 論文発表会や表彰式などに参加して、いかがでしたか
論文発表会でプレゼンやディスカッションを初めて経験し、大きな刺激を受けました。特に、NRI社員の皆さんや受賞者であるOB・OGの方とのディスカッションでは、論文の内容について鋭く質問されたり、いろいろな意見をいただいて、自分の視野の狭さや考えの甘さに気づかされました。そのディスカッションで同じグループにいた、受賞OBの慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の大学院生の方に、「社会に対する子供の興味を全体的に上げていくには、やはり教育が大事」と指摘されました。論文発表会の後しばらくして、その方が研究で参加している『よのなか科』という中学生対象の対話型授業を見学させてもらい、大変興味を持ちました。
─ 受賞がきっかけになって行動が広がっていったのですね
行動的な自分に変わっていったと思います。その後も『高校生新聞』の高校生記者として活動したり、世代を越えた対話活動を行っている『こどなひろば』という高校生主催の学生団体にも参加しました。進路については慶應SFCに強く魅かれ、AO入試に挑戦して合格することができました。
─ 大学に入学されて、1年目はどんな年でしたか
実は、昨年は友人の薦めで『ミス慶應SFCコンテスト』にエントリーし、ファイナリストに選ばれるという経験をしました。学外の大きいイベントにも参加して忙しい日々を送りましたが、新しい世界を垣間見ることができて、楽しかったです。最近改めて感じているのは、慶應SFCは自分から行動を起こして求めて行かなくては何も得られないところだ、ということです。4月からは2年生になりますので、まず勉強の面では自分の関心を掘り下げて、ゼミも決めたいと思っています。また、所属しているサークル「慶應アナウンス局」で幹部を務める予定なので、そちらも頑張っていくつもりです。
─ 最後に、現役高校生にメッセージをいただけますか
私はこの「NRI学生小論文コンテスト」に応募したことで、いろいろな方との出会いやチャンスに恵まれ、自分では思ってもいなかった方向へ自分が変わっていくきっかけを得ました。論文を書くことで、「考えることの大切さ」を感じるとともに、「考えても分からないことがたくさんある」ことにも気づかされましたし、その「分からないことを知りたい」という思いが、次の行動につながって行ったと思います。皆さんも、今の自分の精一杯の力を「考える」ことに注いで、ぜひ応募してみてください。