株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)は、企業が自社のサプライチェーンにおける二酸化炭素等温室効果ガス(GHG)排出関連情報のトレースを可能にする「カーボントレーシングシステム(NRI-CTS) 1 」のプロトタイプを開発し、2021年12月から2022年3月にかけてTCFD対応や製品別のGHG排出状況のトレースにNRI-CTSを適用する概念実証(PoC)を開始します。
企業の脱炭素に向けた取り組みとして、自社および取引先が排出するGHGの量について、カテゴリ(SCOPE1,2,3)に分類して測定・算出を行い、その結果を開示する取り組みが行われています。この開示においては多くの企業が、SCOPE3と呼ばれる他社のGHG排出量(サプライチェーンの排出量)の提供を、自社のサプライチェーンを構成する各社に依頼していますが、取引先からの個別調査に対応する負荷が大きく、排出量計算の正確性やRE100 2 エネルギーの権利取得について確認に時間を要するなど、様々な課題が生じています。今後、GHG排出量の開示に取り組む企業が増えるに従い、これらの課題は各社にとって大きな負担になることが予想されます(図1)。
SCOPE3については、取引先から排出量の提供を受ける方法(実測値)と、活動量を自社で収集し該当する排出原単位を掛け合わせることにより算定する方法(原単位計算)の二つの方法が認められています 3 。後者を採用する企業が一般的ですが、排出原単位の見直しは頻繁ではないため、サプライチェーン各社におけるGHG排出削減に向けた取り組みの成果が適時に反映されないという課題があります。
今後、他社が脱炭素社会の実現に向けてエネルギー原単位の引き下げやRE100の利用を促進したり、カーボン・オフセットの取り組みを進めたりして得られた成果を、よりタイムリーに自社のSCOPE3の排出量に取り込むためには、「サプライチェーンにおける実測値による排出量把握」を実現する必要があります。NRI-CTSでは、この実測値による排出量把握を支援することを目的に、以下の4点の実現を目指しています(図2)。
1.実測値に基づくサプライチェーンのGHG排出状況把握の支援と排出量のトレーシング
NRI-CTSは、サプライチェーンにおける企業単位、製品単位などの多様な解像度におけるGHG排出状況の伝達に際し、トレーサビリティの確保と改竄リスクの排除を実現しています。この際に、社内で消費した環境価値やクレジット分のみ自動的に減算処理し、減算分について送信先が確認できるよう公開できる機能を実装しています。
2.使いやすいインターフェースで、ロングテールの取引先まで容易に情報展開が可能
NRI-CTSは、ウェブベースで証書や取引関係の登録、情報入力、編集を行い、情報の送受信は電子メールのように行うことができます。また、データインポートや受信データのエクスポート機能、受信データの期間を指定した集計機能も実装しており、TCFDに関する報告にも活用いただけます。
3.エネルギー消費量やオフセット状況、正確性に関する情報も同時に伝達
NRI-CTSは、カーボンフットプリントだけでなく、エネルギー消費量や、それまでのカーボン・オフセット量、再生可能エネルギー利用量、GHG排出削減量等だけでなく、GHG排出量計測・算定の正確性に関する情報(ISO14001や温室効果ガス(GHG)第三者検証結果)をエネルギー消費量等と同時に伝達できます。
4.SCOPE1に関する他社の取り組みとの連携
NRI-CTSは主体間連携に焦点を当てており、SCOPE1の見える化に関しては、事業会社だけではなく、他のシステムプロバイダーのソリューションとの連携も視野に入れています。
NRIはこれからも、各社が取り組む気候変動対策の成果をタイムリーに社会に共有し、脱炭素社会の実現を促進する取り組みを進めていきます。
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関連資料
NRI『知的資産創造』2021年6月号「特集 2050年カーボンニュートラルのインパクト」
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/cc/chitekishisan/lst/2021/06
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1
特許・商標出願済み。
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2
詳しくは次のURLをご参照ください。 https://www.env.go.jp/earth/re100.html
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3
具体的な算定手法や排出原単位は環境省の以下のホームページで公表されています。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html