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野村総合研究所、「情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題に関する調査」を実施
〜親・グループ会社のDX推進の中核になれる組織能力を備えるべき〜
株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)は、2021年3月1日から3月19日の間に、国内企業の情報・デジタル子会社147社を対象として、「情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題に関する調査」(以下「本調査」)を実施しました。
本調査では、子会社の業務内容から見た企業特性に着目し、主に従来の基幹系システムや業務系システムなどの開発・保守・運用を担う子会社を「従来IT子会社」、主にデジタル化2やDX3・デジタルビジネス4に特化したサービスを提供する子会社を「デジタル子会社」、その両方を担う子会社を「従来IT・デジタル子会社」と区分しました。「デジタル子会社」に分類される企業は、47社中5社(10.6%)と少数であり、統計の視点からは参考値レベルですが、今後の方向性を見るうえで示唆に富んでいることから分析対象としました。
本調査で明らかになったのは、主に以下の5点です。
1.既存システムの保守・運用を担う人材の一部は、不足する職種への配置転換が求められる
職種ごとの人材の過不足感について尋ねたところ、最も不足感が強かったのは「データサイエンティスト」で、32%の子会社が「大幅に不足」と回答しました。次いで「大幅に不足」の回答割合が高かったのは、「AIエンジニア(19%)」、「ITアーキテクト(17%)」でした(図1)。
既存システムの保守・運用業務のアウトソースや自社内の業務効率化により人材を捻出し、能力開発を行った上で、上記のような不足する職種へ配置転換することもひとつの有効策と考えられます。
2.企画力不足、新技術への感度の低さ、不十分な育成環境に対する問題意識が高い
自社の抱える問題意識について、複数回答形式で尋ねたところ、最も多かったのは、「ITを活用した企画力不足(64%)」で、次いで多かったのは、「新技術への感度が低い(R&D機能が不十分)(43%)」、「育成環境が不十分(38%)」でした(図2)。
企画力不足への対応として、親・グループ会社の抜本的な業務の見直しを経験することや、業務の上流工程シフトが有効と考えられます。
また技術感度を高めるためには、自社に影響を与え得る社会や生活者の動向、デジタル技術進化の展望、他社の先進的な取り組み、先進的な技術やサービスを提供しようとしているスタートアップ企業の動向等を察知する調査・探求機能を強化することが有効と考えられます。それとともに、親・グループ会社での、クラウド化を中心としたシステム構造の変革など、レガシーシステム5からの脱却を経験することが有効と考えられます。
3.戦略的パートナーとの協業は、DX推進において重要な手段
自社の問題意識に鑑みた場合の機能強化の方向性について、「戦略的パートナー6との協業を検討する」と回答したのは全体で30%でした。また、デジタル子会社、従来IT・デジタル子会社の方が、従来IT子会社よりも「戦略的パートナーとの協業を検討する」傾向が強くみられました(図3)。
DX推進における企画力不足や新技術への感度の低さへの対策、あるいは保守・運用業務のアウトソース先として、戦略的パートナーを活用することが重要と考えられます。
4.デジタル化やDX・デジタルビジネスサービスを提供する会社になることが、成長の鍵
10年後の事業規模の拡大(売上増分割合)について、回答企業の70%が「大幅拡大(20%以上)」「ある程度拡大(5%以上20%未満)」と回答しました(図4)。デジタル子会社、従来IT・デジタル子会社の方が、従来IT子会社よりも、「大幅拡大」の回答が多くなっています(図4)。また従来IT・デジタル子会社は、従来IT子会社と比較して人材の過不足感が相対的に低く、自社の抱える問題意識についても相対的に低い傾向がみられました。今後、デジタル化やDX・デジタルビジネスサービスを提供できるかどうかが、企業存続や事業規模拡大の鍵となることがうかがえます。
デジタル化やDX・デジタルビジネスサービスを提供するためには、「デジタルビジョンを構想する力」、「新たなデジタルビジネスを創発する力」、「そのビジネスを拡大する力」、「そのビジネスを実現するシステムを構築する力」、そして「それらを支えるための組織や人材、文化をつくり上げる力」の5つから構成される『組織能力』を備える必要があります。子会社の特性を活かし、まずは、親・グループ会社のDX推進の中核になれる組織能力を備えることが重要です。
5.業務/システム/デジタル関連のコンサルティングサービスが、外販成功への導き手
売上高に占める外販(グループ外企業向けのサービス提供)の割合や成長率に着目し、直近3年の外販売上高の年平均成長率が3%以上の子会社を「外販優勢子会社」と区分しました(今回の回答企業では10社、21.3%)。また、外販を行っているそれ以外の子会社を「外販持続・劣勢子会社」と区分しました(19社、40.4%)。
外販優勢子会社は、外販持続・劣勢子会社と比較して、「パッケージ・クラウド(自社製品)」「業務コンサルティング」「システムコンサルティング」「デジタル関連の業務コンサルティング・業務支援」を提供している割合が高く、両者には30ポイント以上の差がありました(図5)。
内販のみのサービスを提供する子会社(18社、38.3%)の場合、自社のDX推進の組織能力は、親・グループ会社のDX進展に依存してしまいます。親・グループ会社へのDX推進の中核になれる組織能力を備えた後は、グループ外へのコンサルティングサービスの開発と、そのサービスの絶え間ない改善によるビジネス拡大を通じて、自社の収益基盤を強固にすることが重要です。
本調査については、以下のURLに掲載したレポートでも、分析結果を公表しています(サンプル数の関係で、一部の結果は参考値)。
「情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2021/cc/0611_1
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情報・デジタル子会社:以下の(1)~(3)に該当する企業。
- 親会社からの出資により、IT・デジタルサービスを提供している子会社
- IT・デジタルサービスには、親会社・グループ内企業に対する内販サービス、グループ外企業に対する外販サービスのどちらも含む
- 孫会社、あるいはIT・デジタルサービス提供企業の子会社は対象外(ただし、ITベンダーなどによる50%以上の出資により、IT・デジタルサービス提供企業の子会社になった場合は対象とする)
- 2
デジタル化:AI(人工知能)、クラウド、IoT(モノのインターネット)、モバイルデバイスを中心としたデジタル技術を駆使し、データを知に変え、人々に対する価値に転換すること。
- 3
DX:企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
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デジタルビジネス:デジタル技術やデータを活用した新たな事業。
- 5
レガシーシステム:以下の(1)~(3)の特徴を持つシステム
- 技術面の老朽化:古い要素技術やパッケージで構成されており、ハードウェア等が故障すると代替がきかない、または、対応できる技術者の確保が難しい。
- 肥大化・複雑化:システムが複雑で機能の追加・変更が困難となり、現行業務の遂行や改善に支障がある。システムの変更が難しく、外部に補完機能を増やしたり、人が運用をカバーしたりしなくてはいけない。
- ブラックボックス化:ドキュメントなどが整備されておらず、属人的な運用・保守状態にあり、障害が発生しても原因がすぐにわからない。または、再構築のために現行システムの仕様が再現できない。
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戦略的パートナー:会社対会社で自社の戦略実現にコミットメントし、プロフィット、コスト、リスクを適切にシェアする関係性を持った企業(主にITベンダー)を指し、場合によっては出資を伴うケースがある。
ご参考
1.調査概要
調査名 | 情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題に関する調査 |
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調査目的 | 情報・デジタル子会社の実態を把握して変革の方向性を導くこと |
調査時期 | 2021年3月1日~2021年3月19日 |
調査方法 | Webによるアンケート |
対象企業 | 日本企業の情報・デジタル子会社(上記の注1を参照) |
回答企業数 | 47社(主に社長を含む経営層、管理職層が回答) ※案内数337社(回収率13.9%) |
2.各社の業務内容(従来IT、デジタル)から見た情報・デジタル子会社の3区分
3.各社の業務対象(内販/外販)から見た情報・デジタル子会社の分類
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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部 竹尾、玉岡
TEL:03-5877-7100
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