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野村総合研究所、中国信息通信研究院との共同研究(第2期)の中間成果をまとめる

〜デジタルツイン技術の動向や脱炭素分野の日中データ連携に向けた提言〜

2024/03/13

株式会社野村総合研究所

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株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)は、中国のICT(情報通信技術)分野で著名なシンクタンクである中国信息通信研究院(以下「中国信通院」)産業規画研究所と2023年6月から実施している「日中デジタル技術による社会変革推進とデータ要素市場化にかかる研究」(以下「本研究」)の中間成果を取りまとめました1
本研究は、2021年6月から開始しているデジタル社会資本とスマートシティの国際共同研究の第2期に相当し、デジタル技術の実装による社会課題の解決事例や社会変革の方向性、およびデータ流通関連の制度設計やカーボンニュートラルに代表されるグローバル課題への対応に向けたデータ連携の仕組みのあり方等を研究テーマとしています。中間成果の要旨は以下の通りです。

デジタルツイン技術の実装による都市管理効率の向上

中国におけるデジタルツイン技術の実装の多くは、個別の都市課題よりも、都市全体の管理効率の向上を図ったものです。2020年以降、地方政府主導でデジタルツイン等のデジタル技術を活用し、都市管理の高度化を本格的に開始した中国では、デジタルツイン・シティ関連の入札プロジェクトがここ数年増えつつあり、中国信通院がまとめた調査によると、2021年から22年の2年間で150件以上ありました(図表1)。

図表1:中国におけるデジタルツイン技術の分野別応用事例件数

注:中国信通院が中国インターネット協会デジタルツイン応用委員会及びデジタルツイン関連の協力企業と連携して発表したデジタルツインの実践事例(申告ベース)に基づき集計

出所:中国信通院「デジタルツイン・シティ応用の代表的な実践事例集(2022年)」よりNRI作成

●デジタルツインは空間管理上の課題解決に貢献

中国の先行事例を収集・分析した結果、デジタルツイン技術は都市の空間管理に関わる課題解決に貢献できることがわかりました(図表2)。

  1. 都市の地下空間等、「見えない」ゆえに維持管理が困難な課題に対して、デジタルツイン技術の活用により、地下鉄トンネルの変形状況等リアル世界の状況を、バーチャル空間で定量的かつ直感的に再現することができ、メンテナンス作業の効率化に寄与することが実証されました。
  2. 交通渋滞への対処、危険物管理、港湾管理等、常に変化する状況への対応が必要となる「管理し難い」課題について、識別子検知技術2の活用により車両や港湾設備等移動中の物体を可視化し、事故発生後の交通渋滞等の状況をリアルタイム且つ全体的に把握でき、渋滞緩和に向けて迅速な対策を可能にしています。
  3. 自然災害の事前予測及び災害発生後の緊急対応等、複雑性が高く事前にリスクをすべて洗い出せない「予測し難い」課題について、デジタルツイン上で気象、水文等のデータをシミュレーションすることにより、例えば洪水発生の予報や災害発生後の被害状況等を迅速かつ正確に予測することが可能になりました。

図表2:デジタルツイン技術の活用により解決できる都市管理関連の課題

出所:NRI

●デジタルツイン技術の実装には、データの標準化や基盤整備が重要な役割をはたす

都市や産業のスマート化や、都市の全体管理の効率化のための解決策として、デジタルツイン技術の実装はさらに進む見込みです。一方、デジタルツインの導入によって得られる効果の明確化、及び開発・運用経費の確保については、日中両国共に模索段階にあると言えます。
また、都市空間のデジタルツインの導入に際しては、データの効率的な統合、技術関連の標準策定、高度なシミュレーション能力の構築等が必要不可欠です。とりわけ、データ収集、統合、分析・シミュレーションまで一貫して行えるデジタルツイン基盤の整備が重要であり、中国・雄安新区、杭州や上海等の取り組みが参考事例となり得ます。

炭素排出データ連携における日中間協力の重要性および提言

●EU規制対応に向けて、日中間でデータの標準化やデータ流通の仕組み構築が重要

近年、炭素排出データの追跡はカーボンニュートラル目標達成のための必要手段と見なされ、グローバル・サプライチェーンへの参入要件となっています。EUは先駆的に「カーボン国境調整メカニズム」(CBAM) 計画を実施し、輸入業者に対して、商品の総含有炭素排出量に対応するCBAM証明書の購入が必要であると発表しました。日中両国とも、セメント、化学肥料、鉄鋼製品等CBAM対象となる商品をEUに輸出するためには規制への対応が必要となります。
しかし、国家間でデータ連携・相互承認を含めた協力関係がない場合、サプライチェーンの川上・川下領域を含めたScope33炭素排出データの追跡が不可能となります。炭素排出データの追跡を実現するには、国家間における炭素排出データの標準統一、管理の一貫性、並びにデータ連携・越境流通の仕組み作りが求められます。

●中国では、ドイツ企業が中国信通院の基盤を活用し、炭素排出データの安全な流通を実現

中国信通院は分散型アイデンティティ(DID)4とブロックチェーン等の技術を活用して「星火・BIF(Blockchain Infrastructure & Facility)」と名付けたデータ連携基盤を構築し、分野間のデータの安全な流通を実現しました。中国・成都にあるドイツの多国籍企業シーメンスの中国支社「西門子(中国)有限公司成都分公司」は、同社の関連企業のうち、EU向けに製品の輸出をする中国企業を対象に、製品単位のScope3の炭素排出データの追跡とデータ連携を「星火・BIF基盤」にて実現しました。

●「日中産業園区」等に立地する企業がデータ連携の実証実験を行うことが現実的

中国に進出している日本企業が、中国で生産・調達する製品の炭素排出データを日本に連携する際には、中国政府当局への許可申請が必要ですが、その許可を得られるかどうかが不透明であるという課題があります。仮に許可されたとしても、現在のところ日中間の炭素排出データに関する計算方法やデータ連携基盤が整備されていないため、案件ごとにその都度、中国政府へ確認することになり、企業にとって規制対応が大きな負担になるものと予想されています。
政府間レベルの合意には時間を要することから、差し迫るデータ越境規制への対応に向けて、まずは、中国において産業連携が緊密な「日中産業園区」、もしくは、データの越境流通の特例措置が導入される「自由貿易区」で、蓄電池等EUの規制に早急に対応する必要のある業界を対象に、炭素排出データ連携に関する日中企業間の実証実験の実施が求められます(図表3)。

図表3:日中間における炭素排出分野でのデータ連携の推進ステップ

出所:NRI

また、その結果をもって、両国の特定産業間において、信頼できるデータ連携の仕組みの構築、並びに、両国間ないし多国間における業界横断・領域横断型のルール作りに繋げていくことが期待されます。さらに、この取り組みを推進するには、両国の業界団体(日本ではウラノス・エコシステム5を推進するIPA、中国では中国自動車技術研究センター等)、関連企業コンソーシアムの協力のもと、データ連携要件等の標準の統一や相互認証等の検討を進めていくことが重要です。NRIは今後も関係者と協力し、EU規制への適合を目指す両国企業の取り組みを支援していく予定です。
NRIと中国信通院は、2024年も引き続き共同研究を推進し、日中データ連携に関する検討を実施していきます。

  • 1  

    共同研究発足の経緯については次のURLをご参照ください。
    https://www.nri.com/jp/news/info/cc/lst/2023/0731_1

  • 2  

    デジタルツイン空間の中に付与されたオブジェクトIDの検知により物体を正しく認識する技術のこと。

  • 3  

    Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)、Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

  • 4  

    分散型アイデンティティは、ユーザーが自分の属性情報に関するコントロール権を確保した上で、各データ保有者が保有するユーザーの属性情報のうち必要な情報を、ユーザーの許可した範囲で連携し合う「非中央集権型個人ID」です。

  • 5  

    人手不足や災害激甚化、脱炭素への対応といった社会課題を解決しながら、イノベーションを起こして経済成長を実現するため、企業や業界、国境を跨ぐ横断的なデータ共有やシステム連携の仕組みの構築が必要となっています。「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」は、経済産業省、関係省庁や独立行政法人情報処理推進機構(IPA)等を中心に、その一連の仕組みの実現を目指すイニシアティブです。 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html

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お問い合わせ

お知らせに関するお問い合わせ


株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部 玉岡
TEL:03-5877-7100
E-mail:kouhou@nri.co.jp

本共同研究の担当


株式会社野村総合研究所 未来創発センター 戦略企画室 李智慧