株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役会長兼社長:此本臣吾、以下「NRI」)は、2025年度までのICT(情報通信技術)とメディアに関連する主要5市場(デバイス/ネットワーク/コンテンツ配信/xTech 1 /IoT)を取り上げ、国内市場および一部の国際市場における動向分析と市場規模の予測を行いました。
5G(第5世代移動通信システム)サービスが2020年春に本格的な商用化を迎えることから、日本では5Gによる関連市場の拡大への期待がますます高まっています。5Gは、①超高速モバイルブロードバンド(eMBB:最大通信速度20Gbps)に加え、②高信頼・低遅延(URLLC:遅延時間1m/sec)、③多数同時接続(mMTC:100万個/1Km2)などの特徴を持ちます。このうちURLLCは、開発競争が進むクルマの自動運転や遠隔地からの建機・ロボットの操作を可能にします。また、mMTCは、スマートファクトリー
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やスマートシティ
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などを実現するための実証実験や試行が始まっています。これらの特徴を持つ5Gは、必要不可欠なネットワークであるという認識が世界に広がっていることが、5Gへの期待を一層高めています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)、Industry 4.0
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、Society 5.0
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を実現するための“インフラ”としても期待が膨らむ5Gについて、その可能性と限界を確実に理解しておくことが必要です。NRIでは、2019年を「5G元年」と位置づけ、2025年までの5G対応端末の販売台数と契約回線数の予測に加え、予測対象市場の中でも特に5Gと関連が深い4つの領域について、市場規模を予測しました。
● 5G関連市場
- 携帯電話端末市場/契約回線数
- SporTech(スポーツ)市場
- HealthTech(ヘルスケア)市場
- ファクトリーIoT市場
- スマートシティプラットフォーム市場
5G関連市場の特徴的な動向と予測結果は、以下のとおりです。各市場とそこで取り上げている具体的な分野については、末尾【ご参考】の「各市場・分野の定義と説明」をご参照ください。なお、今回の市場動向分析や予測の詳細は、単行本『ITナビゲーター2020年版』として、東洋経済新報社から、11月28日に発刊されます(2,400円+税)。
5G対応端末販売台数と5G契約回線数
- 電波の到達距離は周波数の二乗に反比例する。従って、3.7GHz、4.5GHz、28GHz帯という高い周波数帯域を利用する5Gは、3.5GHz以下の周波数を利用する4Gと同じエリアをカバーするにあたって、より多くの基地局を設置しなければならない。
- 通信事業者間でネットワーク共有の動きが出てきており、総務省も制度の面からその動きを後押ししているが、エリア拡大には相応の時間を要するため、比較的ゆっくりとした市場の立ち上がりを想定している。
- 2025年度には携帯電話端末の年間総販売台数の56%、約2,000万台が5G対応となり、それら販売された端末で用いる契約回線ベースでは46%が5Gになると予測している(図1,2)。
図1:携帯電話端末の販売台数推移と予測(日本国内)
※2018年度は実績値。2019年度以降は予測値
※以降、年度は全て、4月~翌年3月を指す
出所)NRI
図2:携帯電話端末で用いる契約回線数の予測(5Gとそれ以外別、日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
SporTech×5G
東京オリンピック・パラリンピックでのユースケースに期待
- SporTech は5Gの活用分野の中でも、早期の立ち上がりが予想される市場である。5Gプレ商用サービスにおいても、ソフトバンクがプロバスケットボール、NTTドコモがラグビーワールドカップ2019日本大会などスポーツを対象としているが、一番の本命は、本格商用化の直後に開催される東京オリンピック・パラリンピックである。
- SporTechには、VR(仮想現実)による観戦やマルチカメラによる多視点からの観戦、遠隔地からのバーチャル観戦など、5Gの特徴をわかりやすく訴求できる活用分野が多いため、期待が高まっている。
- SporTechの日本国内市場は、2025年度に1,550億円規模となり、そのうち約11%に当たる164億円が、5G関連になると予測している。なお、SporTech×5Gの活用事例は、コンサートなどライブイベント全般への応用が可能である。(図3)
図3:SporTech市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
HealthTech×5G
5Gの応用による生活者のデータ収集が、病気予防の取り組みを加速
- わが国が抱える大きな社会課題の1つが、増大する社会保障費である。2025年には、1947~49年に生まれたいわゆる「団塊の世代」全員が75歳以上に達し、年金や医療費・介護費などの社会保障費が一気に増大する「2025年問題」が指摘されている。
- 膨れ上がる社会保障費を削減するには、健康寿命を延ばすこと、即ち、病気予防への取り組みがきわめて有効である。生活者の日常の活動に関する情報やバイタルサイン(体温、脈拍などの生命徴候)を収集・分析し、QOL(Quality of Life)の改善につなげていくHealthTech分野において、5G応用への期待は大きい。
- HealthTechの日本国内市場は、2025年度には2,254億円の市場規模となり、そのうち約26%の580億円が5G関連になると予測している(図4,5)。
図4:デジタルヘルスケア(HealthTech)サービスの市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
図5:デジタルヘルスケア分野における5G関連サービスの市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
ファクトリーIoT×5G
「ローカル5G」を活用したスマートファクトリーの実現へ
- 企業や自治体などのさまざまな主体が、敷地内や工場内などの閉空間で、自らが5Gシステムを柔軟に構築できる「ローカル5G」の免許が付与される予定であり、2019年中の制度化に向けて総務省で検討が進められている。
- ファクトリーIoTはこのローカル5Gを活用する典型例で、たとえば工場内の配線を5Gですべて無線化し、柔軟な配置換えができるようにする、あるいは、多数のセンサー情報を5Gで収集・分析することにより機械の不具合を事前に察知するといった、いわゆる“スマートファクトリー”が実現できる。5Gのカバー範囲が、全国に“面的”に広がるには時間を要するが、倉庫内や工場内、工事現場など“点的”なカバーは容易であるため、ファクトリーIoTは早期の立ち上がりが期待される5Gの活用分野である。
- 日本国内のファクトリーIoT市場の日本国内市場は、2025年度には1兆1,000億円を超える規模となり、そのうち約2%の200億円が5G関連になると予測している(図6, 7)。
図6:ファクトリーIoTの市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
図7:ファクトリーIoTにおける5G関連の市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
スマートシティ×5G
5Gの普及により、都市におけるデータの収集・分析の取り組みが加速
- 都市において、建物間を横断してサービスを提供するための共通機能(認証技術や画像解析技術など)やインフラ管理を、クラウドなどを利用して提供するソフトウェア・サービスと、その実現に必要なカメラなどのセンサー・機器の配備に要する総額を、スマートシティプラットフォーム市場と定義して捉え、予測した。
- 5Gの普及により、収集可能な情報の量と質の両面が拡大し、スマートシティプラットフォームの市場は、2025年度には1兆2,300億円、うち5G関連は約25%の3,000億円程度となると予測している(図8)。
図8:スマートシティプラットフォームの市場規模予測(日本国内)
※全て予測値
出所)NRI
- 文中の商品名称・サービス名称は各社の商標または登録商標です。
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xTech(クロステック)市場:クラウドやIoT、AI等、近年発展が著しいデジタル技術を活用し、さまざまな分野・業界で新しいサービスを展開したり、業界構造そのものを変革したりする動きが見られる。それらから誕生する新市場を指す。
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スマートファクトリー:工場内のあらゆる機器や設備、工場内で行う人の作業などのデータを、センサーなどを活用して取得・収集し、このデータを分析・活用することで新たな付加価値を生み出せるようにする工場のこと。
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スマートシティ:都市内に張り巡らせたセンサーを通じて、環境データ、設備稼働データ、消費者属性、行動データ等の様々なデータを収集・統合してAIで分析し、更に必要な場合にはアクチュエーター等を通じて、設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの。
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Industry 4.0:製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化を目指す近年の技術的コンセプトの名称。
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Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のこと。
ご参考
各市場・分野の定義と説明
携帯電話端末 | 日本国内で販売されるスマートフォンを含む携帯電話端末の市場とする。スマートフォンとは、Android端末やアップル「iPhone」などの6インチ程度までの携帯電話端末を対象とする。なお、大画面タッチパネルを搭載した「iPad」のような機器は「タブレット」とし、本市場には含まない。 |
SporTech(スポーツ) |
①インターネットを介したスポーツ関連の動画配信サービスと、②IoTを活用したスポーツ関連の用品やサービスから構成される。
①には、インターネットを活用したスポーツ中継と動画配信が含まれるほか、IoT機器から得られるデータや、VR機器など各種端末を活用することで、付加価値をより高めた動画配信サービスを含む。 ②のうちの用品には、走行時間や距離・走行ペースを測定しスマートフォンに結果を表示できる腕時計や腕時計型端末、スイングスピードを計測できるセンサー、VR映像を活用した練習器具など各種用品や機器を想定している。また、②のサービスには、たとえば用具と連動したランニング・サイクリングアシストサービスや、スポーツジムのトレーナーと同等のアドバイスをもらえる個人トレーナーサービス、スポーツの試合相手のマッチングサイトなど、インターネットを活用したさまざまなスポーツ・健康促進関連サービスが含まれる。 なお、SporTechは一般消費者を対象とした用品やサービスのみを対象としており、プロスポーツチームや事業者は対象としない。また、地上波放送やBS放送、ケーブルテレビ放送によるスポーツ中継や、IoT機器を活用しないスポーツ用品やサービスも本市場に含まず、インターネット動画配信を視聴するためのスマートフォンなどの各種端末も含まない。 |
HealthTech(ヘルスケア) | 機器、ICTソリューションを利用した医療・ヘルスケアのソリューション・サービスを市場の対象とする。なお、CT、MRIをはじめとした医療機器の販売市場、電子カルテなど、従前の医療向けICTプラットフォーム、ロボットは対象外とする。高精細な映像や、映像の低遅延性が求められるサービスを「5G関連サービス」とし、該当するサービスはオンライン診断、遠隔診断、遠隔手術、オンライン経過観察の4つで、5Gの商用化が始まる2020年から導入される見込みである。 |
ファクトリーIoT |
IoTとは、世の中に存在するさまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信し合ったりすることで、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行う情報通信システムやサービスを指す。
「ファクトリーIoT市場」とは、IoT市場の中でも、製造業、特に工場における利用を想定した市場であり、工業機械や機器の故障予測・検知や産業用ロボットの制御・協調作業、製造・配送工程におけるトレーサビリティなどの活用用途が予想される。 ファクトリーIoT市場を構成する要素は、①工場内のセンサー・モーターなどの機器を指す「生産設備」、②それらを制御・管理するコントローラなどの「制御システム」、③制御システムからデータを収集し、機器を監視する「監視システム」、④データをもとに設備や仕掛品などの状態を把握し、スケジュール管理・作業者への指示を行う「製造実行システム」の4つに分類される。 |
スマートシティプラットフォーム | 都市における建物間を横断して、サービスを提供するための共通機能(個人認証など)や、インフラ管理(保守、警備、清掃など)の効率化を、クラウドなどを利用して提供するソフトウェア・サービス、およびそれに必要なセンサー(カメラなど)の総額と定義する。 |
- 文中の商品名称・サービス名称は各社の商標または登録商標です。
お問い合わせ
調査の内容に関するお問い合わせ
株式会社野村総合研究所 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 森田、山崎
TEL:03-5877-7314
E-mail:
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