株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:柳澤 花芽、以下「NRI」)は、クレジットカード、デビットカード、電子マネーおよびコード決済を総称した「スマートペイメント」の日本国内の利用金額について、2030年までの予測を行いました。また、経済産業省が集計・発表している「キャッシュレス決済比率」が、2030年に向けてどのように推移するかについても独自に算出しました1。
クレジットカードとコード決済がスマートペイメント市場の成長をけん引
各種の統計データなどに基づく2023年のスマートペイメント利用金額は、前年から14%増大し、約127兆円となりました2。今後は、成長率は漸減するものの、スマートペイメント市場は引き続き拡大し、2030年には約195兆円に達すると推計されます。
市場の拡大をけん引するのは引き続きクレジットカードで、2023年の約106兆円から2030年には約152兆円へと拡大します。バスや鉄道などの交通利用や、コンビニエンスストア、スーパーなど少額利用での広がりが期待されるほか、B to Bでは、経費精算だけではなく、仕入れなども含めた企業間取引全般への利用拡大が大きく寄与する見込みです。
コード決済も、2023年の約11兆円から2030年は約25兆円へと大きく拡大する見込みです。現在のコンビニエンスストアやスーパーを中心とした少額領域での利用から、より高額な決済への広がりが想定されます。
一方で、デビットカードや電子マネーについては、大きな拡大は見込めない想定です。いずれも、クレジットカードやコード決済が行っているような大規模な利用促進策を打てていないためです。電子マネーについては、ネット決済に対応しづらいなど、技術的な課題も影響します。
図1: スマートペイメント市場規模の実績と予測
※2023年までは実績値、2024年以降はNRI推計値
出所:NRI
2030年にキャッシュレス決済比率は約56%となるが、決済手段間での競争は激化
経済産業省が集計・発表した2023年の「キャッシュレス決済比率」は39.3%でした3。今後7年間の民間最終消費支出(名目)の成長率を、過去7年間の平均成長率である1.04%と仮定したうえで、上述のスマートペイメント市場の推計値を用いて2030年までのキャッシュレス決済比率を推算した結果、2030年時点で56.2%となります。すでに公共料金や金融サービスへの支払いなどの非対面取引において、銀行口座からの振り込みや自動引き落としが多く利用されていることを踏まえると、2030年時点では、リアル店舗での対面取引におけるキャッシュレス化の余地は小さくなっていることが見込まれます。
その結果、スマートペイメントを提供する事業者の競争相手は、「現金」から「他の決済手段」あるいは「同業他社」へと変わり、決済事業者間の競争が激化していくことが予想されます。すでに取り組みが始まっているB to Bのように、これまでスマートペイメントが注目してこなかった領域にも目を向けるなど、競争優位を確立していくことが決済事業者各社にとって急務となります。
図2: キャッシュレス決済比率の実績と予測
単位:%
※2023年までは経済産業省発表による実績値、2024年以降はNRI推計値
出所:NRI
ステーブルコインやCBDCの影響はまだ不透明
資金決済法などの改正により2023年に制度化された4電子決済手段、いわゆるステーブルコインは、2024年12月時点で発行事例がありません。日本銀行などを中心に議論が進められているCBDC(中央銀行デジタル通貨)も、導入の具体的な計画は示されていません。そのため、いずれも今回の予測では考慮していませんが、CBDCが導入された場合には、スマートペイメント市場への一定の影響が見込まれます。
NRIは今後も、スマートペイメントの市場動向を継続的に分析し、ビジネスを促進する決済サービスのあり方を提案していきます。
- 1 本資料に記載されている数値は四捨五入を行っています。そのため、記載されている数値を用いて計算を行った場合は差異が生じる可能性があります。
- 2各データの出所は以下の通りです。クレジットカード:一般社団法人日本クレジット協会、一般社団法人キャッシュレス推進協議会、デビットカードおよび電子マネー:日本銀行、コード決済:一般社団法人キャッシュレス推進協議会
- 3経済産業省2024年3月29日発表「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240329006/20240329006.html - 4「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)、2022年6月3日成立、6月10日公布、2023年6月1日施行