株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:柳澤 花芽、以下「NRI」)は、SNS上の投稿から就労者の働くことへの気持ちの動きを可視化する「働く感情指数」を開発しました。この指数は、仕事に関する前向きな気持ちや後ろ向きな気持ちなど、働く人の内面的な感情の動きを定量化することを目的としたものです。

少子高齢化による労働力の減少が進む中、人々の労働意欲を高める施策をよりタイムリーかつ的確に講じることの重要性が高まっています。「働く感情指数」は、働く人の感情動向をSNSへの投稿データをもとにリアルタイムに把握できることから、今後、企業や国・自治体などが、働く人の状況変化に応じて有効な施策をタイムリーに展開する上で貴重なデータになり得ると考えます。
なお、「働く感情指数」は、NRIがSNSへの投稿データを用いて社会の「空気感」を指数化した技術1を応用したものであり、「空気感」の指数化と同様に、筑波大学システム情報系の佐野幸恵准教授との共同研究の成果です。

「働く感情指数」の算出結果-ポジティブ指標とネガティブ指標の動き-

2020年10月1日から2024年11月6日までのX(旧Twitter)への日本語の投稿2を用いて算出した「働く感情指数」は、図表1のとおりとなりました。「働く感情指数」は、働くことに関して前向きな気持ちをポジティブ指標、後ろ向きな気持ちをネガティブ指標でとらえるように構成されています。図表1では、ポジティブ指標をプラス値、ネガティブ指標をマイナス値として表示し、ポジティブ指標とネガティブ指標の差分を黒線で表しています。なお、詳細な算出方法は【ご参考】をご覧ください。

図表1:2020年10月から2024年11月の「働く感情指数」の推移
と同期間における雇用・就労にかかわる主な出来事

  1. 日次指標を週次に換算して表示。2021~2023年までの値を平均1となるように規格化。
    横軸の日付は、その日付が含まれる週の週次結果であることを示す。

出所)NRI

「働く感情指数」の長期的推移をみてみると、2022年前半までは、ネガティブ指標がポジティブ指標を上回っていましたが、2022年後半から2023年前半にかけてポジティブ指標が上昇し、ポジティブ優勢なトレンドへと転換している様子が見えます。ほかにも、年末年始、ゴールデンウィークなどの長期休暇の時期に定期的にポジティブに振れることや、雇用や就労にかかわる政策やその報道に反応して感情が動く様子もうかがえます。

さらに個別に指数の推移を見てみると、新型コロナ感染症拡大が暮らしや仕事にも大きな影響を与えていた2022年末までの期間は、「働く感情指数」の両指標もこれらに影響された変動が見られます。具体的には、行動自粛が伴った夏休みは、コロナ禍ではない夏休みと比べてポジティブ指標の振れが小さくなったり、1日の感染者の最多数が日々更新されるなど感染者数が増加していた2022年の7月にはネガティブ指標の振れが大きくなったりする傾向が見られました。一方、2023年5月に新型コロナが5類感染症へ移行され、行動制限のない夏休みを迎えると、コロナ禍の夏休みと比較し、ポジティブ指標の振れが大きくなりました。さらに2024年のゴールデンウィークは大型連休でしたが、ここでも2週間近くにわたってポジティブ優勢の傾向がみられました。これらのことから長期休暇が働く感情にポジティブな影響を与えている様子がうかがえました。
また、2023年は年明けより春闘に向けた大幅な賃上げ要求が相次ぎ、結果として過去最高の上げ幅となりました。本指標においても2023年は年明けよりポジティブ指標の大きさがネガティブ指標のそれを上回る時間が続いています。2024年の春闘でも過去最大の賃上げとなりましたが、本指標は2023年の賃上げ時と比べて大きく変動することはありませんでした。2024年は物価上昇や増税の報道が相次ぎ、その影響を受けたものと推察されます。その後は、実質賃金がプラス基調に転じたり、最低賃金の引き上げがあったりしたことで、一時的にポジティブに振れるなど、指標が上下に変動する時期が続き今に至っています。なお、2024年下半期は、自民党総裁選や衆議院選挙において雇用に関連する活発な政策論争がありました。本指標もこの期間、上下に変動しており、衆議院選挙終了後はポジティブへと振れています。

「働く感情指数」の長期的および周期的特徴

「働く感情指数」の指標を「時系列データ」とみて、時系列解析ライブラリ「Prophet3」を使って長期的な推移や周期的な変動を分解した結果は、以下のとおりになります。
長期的な推移に注目すると、図表2のようにポジティブ指標とネガティブ指標のどちらも右肩上がりの傾向を示しています。働き方や働くことに関する投稿に対して、働く人がより感情をあらわにした投稿をするようになってきています。

図表2:指標時系列の長期の推移

出所)NRI

年間の周期では、図表3のように4月から5月のゴールデンウィークにかけてポジティブ指標が年間で最も高くなった後、8月まで徐々に下降し、その後年末まで緩やかに上昇する傾向が見られます。

図表3:指標時系列の年間の周期

出所)NRI

週間の周期では、図表4のように平日と週末とで違いが見られます。週明けの月曜日にはポジティブ指標・ネガティブ指標の双方が高い水準となり、仕事に対する多様な感情が投稿されていることがわかります。一方、週末にはネガティブ指標が低下し、ポジティブ指標が上昇する傾向が顕著であり、1週間における仕事に対する気持ちの変化が表れています。

図表4:指標時系列の週間の周期

出所)NRI

SNS上の投稿から働く人の感情動向を捉えた「働く感情指数」の意義

リモートワークの普及に象徴される働き方の変容に加え、人手不足の深刻化や労働に対する価値観が変化する中で、雇用や処遇の在り方についても変化の兆しが見られます。働き方や労働条件の変化は、就労者の意識や感情に影響を及ぼし、その心情の変化は、実際の就労や生産性にも影響をもたらすと考えられます。企業や政策立案者には、就労者の状況を的確に把握し、タイムリーかつ適切な施策と環境整備が求められています。
就労者の、働くことに関する感情の動向を捉えた本指標は、企業や政策立案者が施策や政策を検討・実行する際に有益な情報源となり得るものと考えます。

  1. 1 空気感の指数化については、次のレポートをご参照ください。「日本の空気感を測定するー「日本の空気感指数」の測定から活用までー」https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2024/souhatsu/0815
  2. 2株式会社ホットリンクの提供する「クチコミ@係長」を活用し、X(旧Twitter)上の2020年10月以降の投稿のうち特定の単語を含む投稿件数をAPIから取得しています。また、メディアなどの報道やキャリア・転職関係の投稿などを除き、全数とされる投稿の比率化のもと指数が構築されています。
  3. 3ProphetはFacebook社が提供している時系列データを分析、将来予測をするためのアルゴリズムで、Pythonなどのライブラリとして公開されています。2017年に初期版がリリースされました。

ご参考

本指数の算出では、NRIが開発したSNSにおける「空気感」の指数化技術を応用しています。本指数では、ワークエンゲージメントなどに関する既存調査を参考にして、就労に関連するポジティブ・ネガティブな心情を示す単語や表現の辞書を構成し、指数化を行っています。
指数の算出にあたり、対象期間の投稿から、投稿内容に「仕事」「会社」「職場」「働く」などの一般的な就労関係の用語のほか、待遇、通勤、人間関係などに関わる単語を定め、これらが含まれる投稿を就労関係の投稿として抽出しています。さらに、これらの就労関係の投稿内容をポジティブ・ネガティブとして判別するために、就労に関して前向き、あるいは後ろ向きな表現を特別に定め、図表5のような辞書として構成しています。なお、単語は表記ゆれや類義語などを含んでいます。また、一般的な意味としての利用や固有名詞と混在しないように、就労関係の文脈で使われるものを選定しています。

図表5:ポジティブ・ネガティブに関わる単語辞書の概要

感情 内容 単語数
ポジティブ 仕事に関する前向きな気持ちを表す単語:
「頑張る」「楽しい」「コツコツ」「幸せ」など
48
ネガティブ 仕事に関する後ろ向きな気持ちを表す単語:
「無理」「きつい」「楽しくない」「ダルい」など
44

出所)NRI

ここでは、ポジティブな感情と判別される単語や表現を48個、ネガティブな感情と判別される単語・表現を44個採用しています。これらの単語が含まれる投稿を、就労関係の投稿の中から取得し、図表6のような流れで、その件数比率をもとにポジティブ指標、ネガティブ指標をそれぞれ定めています。なお、投稿は大手メディアのニュース情報、転職関連のキャリア情報などを除外し、就労関係の個人の投稿が適切に抽出される仕組みをとりいれ、指数値を算出しています。

図表6:働く感情指数の算出の流れ

出所)NRI

これらの方法で指標を算出することにより、働くことに関する感情の動きをリアルタイムにとらえることを可能としています。