株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:柳澤花芽、以下「NRI」)は、2025年1月31日から2月1日にかけて、パートもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20~69歳の女性(以下「有配偶パート女性」1)3,090人を対象に、現在の就業状況および今後の就業意向を把握するインターネットアンケート調査(以下「本調査」)を実施しました。

主に有配偶パート女性において、自ら社会保険料を支払うことなどによる手取り収入の減少を避けるため、年収が一定額以下になるよう就業時間や日数を減らす「就業調整」を行っている人が少なくありません。そしてこのことが、我が国の人手不足をより深刻化させ、経済成長の抑制につながっている可能性があると考え、NRIは2022年からいわゆる「年収の壁」問題や「就業調整」の実態把握を目的とした調査を実施してきました。現在、「年収の壁」の見直しをめぐる議論が活発化しています。
これを受けて、今回の調査は、「就業調整」の実態把握に加え、「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合の就業への影響の把握を目的に実施しました。今回の調査から得られた主な結果は、以下の通りです。

就業調整する有配偶パート女性の67.4%が「年収の壁」解消で「今より働く時間を増やして年収を増やしたい」と回答

「就業調整」をしている有配偶パート女性に、現在、「年収の壁」の引上げや廃止に向けた政策議論が行われていることを伝えたうえで、今後、「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合、「今より働く時間を増やして年収を増やしたいと思うか」と聞いたところ、67.4%が「そう思う」と回答しました(「そう思う(39.0%)」と「どちらかというとそう思う(28.4%)」の合計)(図1の左)。
また、「就業調整」をしている有配偶パート女性に、現在、「年収の壁」の引上げや廃止に向けた政策議論が行われていることを伝えたうえで、今後、「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合、「今より時給の高い仕事や職場に転職したいと思うか」と聞いたところ、48.1%が「そう思う」と回答しました(「そう思う(20.7%)」と「どちらかというとそう思う(27.3%)」の合計)(図1の右)。

図1:「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合の今後の就業意向
(「就業調整」する有配偶パート女性)

注:構成比の数値は小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は100%とはならない場合がある
出所:NRI「有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査」(2025年1月31日~2月1日)

「年収の壁」の解消で働く時間を増やして収入を増やしたい人の44.9%が「年収を20万円以上増やしたい」

「就業調整」する有配偶パート女性のうち、今後「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合、今より働く時間を増やして年収を増やしたいと思うと回答した人に、「今よりいくら増えるように働きたいか」と聞いたところ、「20万円以上」と回答した人が44.9%に及びました(図2)。
「就業調整」をしながら年収100万円で働く有配偶パート女性2が、今後「年収の壁」の引上げや廃止が実現したことを受けて働く時間を増やして年収を20万円増やしたと仮定した場合、2割の収入増の実現に加えて、2割の就業時間の延長すなわち追加労働力の確保の実現が期待できることになります(時給は一定と仮定)。

図2:「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合、今より働く時間を増やして
いくら年収を増やしたいか
(「就業調整」する有配偶パート女性のうち、今後「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合に今より働く時間を増やして収入を増やしたいと思うと回答した人)

出所:NRI「有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査」(2025年1月31日~2月1日)

本調査の結果から、「年収の壁」の引上げや廃止が実現された場合、現在「年収の壁」を意識して「就業調整」する有配偶パート女性の多くが働く時間を増やして収入を増やす可能性がうかがえました。今後も続くことが想定される物価高と人手不足の状況を踏まえ、早期に「年収の壁」問題を解消し、国民の所得増と人手不足の解消を実現することが期待されます。

  • 1厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」において、正社員以外の労働者で週の所定労働時間が正社員よりも短い労働者は、「パートタイマー」「アルバイト」などの名称にかかわらず「パート」に区分されていることから、本調査結果では「パート」と総称しています。
  • 2本調査では、「就業調整」する有配偶パート女性に「年収をいくら以下に抑えようとしているか」を尋ねており、その結果「100万円~110万円」と回答した人が最も多く51.8%だった。この結果を踏まえ、年収100万円を目安に「就業調整」している有配偶パート女性を想定して試算している。

【ご参考①:調査概要】

【調査名】 「有配偶パート女性の就労の実態と意向に関する調査」
【調査時期】 2025年1月31日~2025年2月1日
【調査方法】 インターネットアンケート
【対象者】 パートもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20~69歳の女性
【回答数】 3,090人
  • 本調査では、総務省「令和4年就業構造基本調査結果」に基づき、有配偶のパート・アルバイト女性の年代別の構成比(10歳刻み)に合わせて、ウエイトバック集計を行っています。調査結果の数値はウエイトバック処理を行った後の数値です。サンプル数については実際の回収数を記載しています。

【ご参考②:本調査におけるその他の結果】

有配偶パート女性の58.3%が「就業調整」。多くが配偶者控除や社会保険の“壁”を意識

本調査に回答した有配偶パート女性のうち58.3%が、「自身の年収を一定額以下に抑えるために、就業時間や日数を調整している」と回答しました(図3)。

図3:有配偶パート女性における「就業調整」の実施有無

出所:NRI「有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査」(2025年1月31日~2月1日)

「就業調整」の背景にある「年収の壁」には、所得税課税や配偶者控除適用に関わる「103万円の壁」や社会保険加入に関わる「106万円の壁」、「130万円の壁」などがあります。また、配偶者が勤める企業が支給する家族手当や配偶者手当も、妻の年収が一定額以上になると支給されなくケースもあることから、「就業調整」につながる「年収の壁」のひとつとなっています。
「就業調整」をしている有配偶パート女性に、「就業調整」をする理由を複数回答で聞いたところ、「夫の社会保険に被扶養者として加入するため」が最も多く約7割(69.4%)で、次いで「夫が、配偶者控除や配偶者特別控除を受けられるようにするため(52.6%)」、「自分の収入に所得税がかからないようにするため(34.9%)」となりました(図4)。
また、「夫の勤務先から家族手当・配偶者手当等の支給を受けるため」を理由に挙げた人は32.1%でした。世帯年収600万円以上の人に限定すると、「就業調整」の理由に「夫の勤務先から家族手当・配偶者手当等の支給を受けるため」と回答した人の割合は40.5%でした。夫の年収が高いほど、夫が勤務先から家族手当等の支給を受けている様子がうかがえました。

図4:「就業調整」をする有配偶パート女性の「就業調整」をする理由<複数回答>

出所:NRI「有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査」(2025年1月31日~2月1日)

【ご参考③:これまでにNRIが実施した関連調査】

  • NRIニュースリリース「有配偶パート女性の6割以上が年収を一定額以下に抑える「就業調整」を実施~「就業調整」実施者の8割近くが「働き損」にならないなら今より多く働くことを希望~」(2022年9月30日)
    https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20220930_1.html
  • NRIニュースリリース「「就業調整」している有配偶パート女性の6割以上が、政府の支援策で今より年収が多くなる働き方を志向~「年収の壁」問題が解消すれば、2人に1人はより時給の高い仕事へ転職も検討~」(2023年10月31日)
    https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20231031_1.html
  • NRIニュースリリース「「年収の壁」を意識して年収を一定額以下に抑える有配偶パート女性の割合は約6割で、2年前と変わらず~時給の上昇に伴い、約210万人がさらに労働時間を削減する可能性あり~」(2024年9月18日)
    https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20240918_1.html

図5:有配偶パート女性における「就業調整」の実施有無の経年変化