株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:柳澤 花芽、以下「NRI」)は、2025年11月7日から11月11日にかけて、パートもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20~69歳の女性(以下「有配偶パート女性」1 )3,090人、およびアルバイトをしている2025年12月末時点で19歳から22歳の学生(以下「学生」)1,032人を対象に、現在の就業状況を把握するインターネットアンケート調査(以下「本調査」)を実施しました。

主に有配偶パート女性や親の扶養範囲内でアルバイトをしている学生において、自ら社会保険料を支払うことなどによる手取り収入の減少を避けるため、年収が一定額以下になるよう就業時間や日数を減らす「就業調整」を行っている人は少なくありません。そしてこの事実が、わが国の人手不足をより深刻化させ、経済成長の抑制につながっている可能性があると考え、NRIは2022年からいわゆる「年収の壁」問題や「就業調整」の実態把握を目的にした調査を行っています。

「年収の壁」問題に関して、今年2025年に大きな制度改正がありました。これにより、配偶者控除・扶養控除の所得要件が従来の103万円から123万円に引き上げられました。また、19歳から23歳未満の子の控除要件も従来の103万円から150万円に引き上げられました。今回の調査では、引き上げの影響を調べるために、従来行ってきた有配偶パート女性だけではなく、アルバイトをしている19歳から22歳の学生も調査対象にしました。今回の調査から得られた主な結果は、以下の通りです。

  • 本資料に記載の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とはならない場合があります。

「就業調整」をしている有配偶パート女性・学生は約6割に上る

本調査に回答した有配偶パート女性のうち56.7%が、「年収の壁(その金額を超えると社会保険料の負担額が増えるなどして、手取り収入の減少が生じる境目)」を意識し、自身の年収を一定額以下に抑えるために、就業時間や日数を「調整している」と回答しました(図1左)。制度変更前の2024年8月に有配偶パート女性を対象にした実施した同様の調査 におけるその割合は61.5%でしたので、2024年と大きく変わっていません。
一方、学生のうち67.6%が、「年収の壁」を意識して就業時間や日数を「調整している」と回答しました(図1右)。

図1「就業調整」の実施有無

(注)対象のパート・アルバイトがもともと一定の金額以下の年収で勤務する契約となっている場合、この質問では就業時間や日数を「調整している」と回答することとしている。

出所:NRI「「年収の壁」に関するアンケート調査」(2025年11月)

有配偶パート女性・学生の9割以上が、今年(2025年)から「年収の壁」が政府により引き上げられたことを「知っている」または「聞いたことがある」と回答

アンケート対象者に「今年から「年収の壁」が政府により引き上げられたことを知っていたか」を聞いたところ、有配偶パート女性・学生のいずれも9割以上が「知っている」または「聞いたことがあるが、内容は知らない」と答えました(図2)。

図2「2025年から「年収の壁」が政府により引き上げられたことの認知度

出所:NRI「「年収の壁」に関するアンケート調査」(2025年11月)

「年収の壁」の引き上げを「知っている」「聞いたことがあるが、内容は知らない」と回答した人に、「どこで知ったか」について聞いたところ、学生では「家族・友人」「ソーシャルメディア」と回答する人の比率が比較的高い傾向がありました。一方、「勤め先から聞いた」と回答した人は、有配偶パート女性と学生いずれも約1割にとどまることから、今後は事業者経由での周知徹底が必要と考えられます(図3)。

図3 「年収の壁」の引き上げを知った経路(複数回答)

(引き上げを「知っている」「聞いたことがあるが、内容は知らない」と回答した人に聞いた結果)

出所:NRI「「年収の壁」に関するアンケート調査」(2025年11月)

就業調整している学生の約3割は実際に収入を増やしたと回答。一方、有配偶パート女性では約1割にとどまる

就業調整をしており、「年収の壁」の引き上げを「知っている」人に「実際に収入を増やしたか、または今後増やしたいか」を聞いたところ、学生では32.0%が「増やした」と回答し、「今後増やしたい」との回答を合わせると77.6%が収入増の意欲があることが分かりました。一方、有配偶パート女性では、「増やした」のは11.8%にとどまる一方、「増やしたいと思わない」「分からない」との回答が46.9%に上りました(図4)。

図4 「年収の壁」の引き上げによる追加就労意欲

(就業調整をしており、引き上げを「知っている」(「聞いたことがあるが、内容は知らない」は除く)と回答した人に聞いた結果)

出所:NRI「「年収の壁」に関するアンケート調査」(2025年11月)

「増やしたいと思わない」「分からない」と回答した人にその理由を聞いたところ、有配偶パート女性では、「社会保険料の負担を避けたいから」との回答が65.9%に上りました(図5)。

図5追加就労意欲がない理由(複数回答)

(「今後も増やしたいとも思わない」「分からない」と回答した人に聞いた結果)

  • ※n数は無回答を除いた数

出所:NRI「「年収の壁」に関するアンケート調査」(2025年11月)

これは、いわゆる103万円の壁(配偶者控除の収入上限)の次の壁である「106万円の壁」(社会保険加入要件)を意識していると考えられますが、「106万円の壁」が仮に撤廃された場合、今回引き上げられた123万円までの給与収入であれば、社会保険料を負担しないままで収入を増やすことが可能になり、収入増に意欲的な人が増える可能性もあります。
政府は制度の詳細を就労者および事業者に丁寧に説明することで、「年収の壁」引き上げによる収入増と就労増を目指すべきとNRIは考えます。

  1. 1厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」において、正社員以外の労働者で週の所定労働時間が正社員よりも短い労働者は、「パートタイマー」「アルバイト」などの名称にかかわらず「パート」に区分されていることから、本調査結果では「パート」と総称しています。
  2. 2 詳細は次のニュースリリースをご参照ください。
    NRIニュースリリース「「年収の壁」を意識して年収を一定額以下に抑える有配偶パート女性の割合は約6割で、2年前と変わらず」(2024年9月18日) https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20240918_1.html

【ご参考:調査概要】

【調査名】「年収の壁」に関するアンケート調査
【調査時期】2025年11月7日から11月11日
【調査方法】インターネットアンケート
【対象者および回答数】
    ① 20歳代から60歳代でパート・アルバイトをしている有配偶女性 計3.090人
  (20歳代から60歳代まで10歳刻みの5つの年齢区分で618人ずつが回答)

    ②アルバイトをしている2025年12月末時点で19歳から22歳の学生 計1,032人
  (19歳から22歳までの各年齢で258人ずつが回答)

  • 本調査では、「年収の壁」に伴う就業調整の現状等を概観するため、ウェイトバックをしていない単純集計の数値を用いています。サンプル数については実際の回収数を記載しています。