株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役会長兼社長:此本臣吾、以下「NRI」)と、NRIみらい株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:長崎浩一、以下「NRIみらい」)は、2020年8月から9月にかけて、上場企業と特例子会社1を対象に「障害者雇用に関する実態調査」と「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」をそれぞれ実施しました。これらの調査は、2015年度から毎年実施しており、6回目の今回は「コロナ禍による障がい者雇用への影響と対応の方向性」をメインテーマとしています。主な結果とそこから導かれる提言は以下の通りです。
上場企業と特例子会社のほとんどの業務分野で減収。働き方の変化も不可避に
2020年6月の月間売上は、前年同月比で見て、特例子会社を設置せずに障がい者を雇用する上場企業および特例子会社ともに、ほぼ全ての業務分野で減少しました(図1)。接触を伴う業務や従来の働き方(会社に出勤する・紙に印刷するなど)を前提としたバックオフィス系の業務において、その影響が大きいことが見て取れます。
さらに、「コロナ禍による業務の実施方法の変化」について調査した結果、一部の企業において、「実施方法を一部変更して」業務を行っていたことが分かりました(図2)。例えば、「事務的業務(総務・経理的業務)」を行っている企業はテレワークでの実施に転換したり、「清掃、クリーニング、設備・機器管理」を行っている企業は、感染対策のために、業務の実施体制や業務内容を一部変更したりしています。
今後は、経営・マネジメントの見直しに関する検討が重要になる
上場企業・特例子会社において、2020年6月時点で障がい者雇用のどのような側面に、新型コロナの「影響があった」のか、あるいは「今後影響がある」と考えるのかについて調査しました。その結果、「障がい者雇用の業務分野・事業ドメイン」や「障がい者雇用・企業経営に関する計画・管理・ガバナンス等」など、経営の根本から再検討が迫られていることが分かりました(図3)。
特に、親会社から受託する業務が多い特例子会社においては、親会社の事業内容が大きく変化することや、親会社の業務形態が急速に変化(在宅勤務の導入・普及、電子化の加速など)することによる影響が続くことが見込まれます。例えば、オフィスにおける清掃や社内便等の業務が大きく減少し、その代わりに書類のPDF化や電子的管理等の業務が増加する可能性があります。
業務分野・事業ドメインの見直しにおいては、「選択と分散」がポイントになる
ビジネスモデルを環境変化に対応させていく上で、既存の主たる業務分野・事業ドメインは事業環境の変化に対応しながら継続し、一方で、自社のありたい姿・能力、事業環境の変化等を踏まえて、新たな業務内容・顧客・実施方法を「選択」し、開拓する「選択と分散」という考え方があります。NRIとNRIみらいは、障がい者雇用においても「選択と分散」を推進することを提案します。
2021年3月には、法定雇用率が2.2%から2.3%へ引き上げられます。コロナ禍で企業経営が苦しい中、法定雇用率の引き上げ後も障がい者の職域を確保しつつ盤石な活動基盤を構築していくためには、自社の柱となる業務分野・事業ドメインを見直し、拡大していくことが求められます。しかし、今後自社にとって重要となる事業が明確ではない間は、事業を「集中」させるのではなく、また職域拡大を急ぐあまりむやみに「拡大」させるのではなく、将来の様々な可能性を想定し「選択」した上での「分散」も重要です。この「選択と分散」が、ニューノーマル時代の障がい者雇用のひとつの方向性になるものと期待されます。
NRIとNRIみらいでは、これからも障がい者雇用の実態や課題とあるべき姿に関して、継続的な調査を実施し、結果の公表と提言を行っていきます。
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障がい者の雇用に特別な配慮をし、法律が定める一定の要件を満たした上で、障がい者雇用率の算定の際に、親会社の一事業所と見なされるような「特例」の認可を受けた子会社を指します。特例子会社は別法人のため、障がい者のニーズやスキルに応じた環境整備や制度設計が可能です。特例子会社は増加を続けており、2019年6月1日時点で517社となっています。(厚生労働省「特例子会社一覧」、「「特例子会社」制度の概要」)。
ご参考
<調査の概要> | 上場企業向け調査 | 特例子会社向け調査 |
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調査名 | 障害者雇用に関する実態調査 | 障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 |
調査期間 | 2020年8月24日~9月21日 | 2020年8月3日~9月6日 |
調査方法 | 配布・回収ともに、 郵送ならびにメールで実施 |
配布・回収ともに、 郵送ならびにメールで実施 |
調査対象 | 上場企業 3,552社 | 特例子会社 523社 |
有効回答数(回答率) | 163社(4.6%) | 214社(40.9%) |
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株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 水之浦、新治、笹澤
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