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野村総合研究所グループ、障がい者雇用に関する7回目の実態調査を実施
〜2030年に向けて、特例子会社は収益基盤固めを目指し、上場企業はグループ内での基盤固めを目指す〜
株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役会長兼社長:此本臣吾、以下「NRI」)と、NRIみらい株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:長崎浩一、以下「NRIみらい」)は、2021年8月から10月にかけて、上場企業と特例子会社1を対象に「障害者雇用に関する実態調査」と「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」をそれぞれ実施しました2(回収数:上場企業125社、特例子会社207社)。
これらの調査は、2015年度から毎年実施しており、7回目の今回は「過去7年の振り返りと今後10年を見据えた取組課題・対応方策」をメインテーマとしています。主な結果とそこから導かれる提言は以下の通りです。
過去7年間、障がい者雇用の重要性認識は高い水準で維持
障がい者雇用についての認識について、7年間の推移を確認したところ、特例子会社や障がい者雇用部署の視点から、「親会社や経営層が障がい者雇用の重要性を認識しているか」について、「とてもそう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計は、特例子会社の場合は9割以上で推移、上場企業の場合も8~9割で推移しています(図1)。新型コロナウイルス感染症が流行した2020年以降、企業を取り巻く事業環境は必ずしも良好ではなかったにもかかわらず、重要性の認識が大きく下がることはありませんでした。
一方で、障がい者の職域という観点では、2018年を境に変化が見られました(図2参照)。2018年には法定雇用率が2.2%に引き上げられていたことから、新たな職域開拓の一環として中長期的な目線で本業への貢献も検討されていたことがうかがえます。なお、特例子会社において、2020年の新型コロナウイルスの流行によって職域を本業に近づける意向が大きく低下したことについては、外部環境変化に直面した結果、まずは新しい職域よりも既存の業務の着実な業務遂行に注力した結果と考えられます。一方、上場企業でみられる2018年以降の下降傾向は、本業以外の領域での職域確保をうかがわせます。
2030年に向けては「高齢化」、「法定雇用率の上昇」が最重要関心事項
2030年の社会像と障がい者雇用について、特例子会社・上場企業ともに、「法定雇用率の上昇に伴い、雇用率を確保するために、採用する障害者の障害種別が現在よりも多様化している」、「障害者の高齢化がさらに進展し、今まで以上に業務面にも影響が出てくる」などの項目が上位の関心事項です(図3)。特に高齢化対応は、特例子会社の半数以上が選択していることから、関心が高いことがうかがえます。将来を展望すると、法定雇用率の上昇に備えつつ、障がい者社員の高齢化に対応すべく、短時間勤務の検討といった社内制度の見直しや、作業負担を考慮した業務への配置転換、高齢化による業務遂行能力低下を遅らせるための訓練の実施などに着手していくものとみられます。
2030年のありたい姿では両者とも「法定雇用率等ルールの遵守」がトップ
2030年のありたい姿については、特例子会社・上場企業ともに、「法定雇用率等、親会社や企業グループ全体のルール遵守への貢献」、「親会社や企業グループ全体のESGやSDGs等への貢献」、「親会社や企業グループ全体のダイバーシティ経営実現への貢献」が挙げられ、次いで「地域における障害者雇用の促進や活躍の場の提供、地域の活性化への貢献」が挙がっています(図4)。
一方で、ありたい姿実現に向けてのアプローチは、特例子会社と上場企業で異なっています(図5)。特例子会社は「特例子会社・障害者雇用の収益基盤強化に向けた新たな事業領域への進出」、「親会社や企業グループ全体で行っている既存業務の更なる巻き取り3」、「現在得意としている事業のさらなる進化・推進(業務フローの見直し等も含む)」を挙げています。これに対して、上場会社ではまず「現在得意としている事業のさらなる進化・推進(業務フローの見直し等も含む)」を、次に「障害種別に関わらず、互いに連携して活動できるチームや機能・風土づくり」、そして「ダイバーシティや障害者雇用についてグループ全体で活動進捗ができる経営管理の仕組み整備ないし強化」となっています。同じ経営基盤を固めるといっても収益基盤固めに注目する特例子会社に対して、グループの観点から基盤や仕組みを固めていこうとする上場企業という違いがみられます。
財務パフォーマンスによる特例子会社の「自立」志向が確認される
2030年のありたい姿実現に向けた取組を行う上で留意すべき事項については、特例子会社・上場企業ともに、「障害者が十分に実力を発揮できる環境づくり」が挙げられました(図6)。
また、「売り上げや収益の継続的な確保」を挙げた割合は、特例子会社の約6割に対して上場企業は約1割であり大きな差が出ました。新型コロナウイルス感染症の流行により、大きな事業環境変化に直面した結果、親会社に依存するのではなく、財務的なパフォーマンスにもこだわり成果を追求する、いわば「自立」を志向する姿がうかがえます。これは、特例子会社が親会社からは独立した事業体であるために、収益やコストについてよりシビアに捉えていることに起因すると考えられます。
2030年の障がい者雇用は、親会社やグループとともに相互が支えあう存在に
これまで、障がい者雇用は、法定雇用率の達成に寄与することが最重要課題となっており、親会社やグループに支えてもらいながら価値を発揮してきました。そして、今後を見据えた時、特例子会社・上場企業ともに、これまでにはないアプローチを検討し始めています。
2030年の障がい者雇用を考えた際には、さらに一歩進んで、親会社やグループに支えられるだけでなく、場合によっては障がい者雇用が親会社やグループを支えることを目指しても良いのではないでしょうか。これまでは、どちらかといえば「コストセンター」としての業務に取り組むケースが目立っていましたが、これからは、収益を生む事業に取り組む「プロフィットセンター」や、障がい者ならではの視点での製品開発等を行う「インベストメントセンター」に拡大することも考えられます。
特例子会社では特に財務的な自立が志向されており、上場企業ではチーム作りやダイバーシティへの貢献といったグループ全体の価値向上への寄与が志向されていました。両者で志向されるアプローチが異なっていたように、アプローチの仕方は一様ではありません。自社における障がい者雇用が置かれた立場や成り立ち、リソース等を見つめ直すことで、自社に合った方法で2030年のありたい姿の実現を検討していくことが望まれます。
NRIとNRIみらいでは、これからも障がい者雇用の実態や課題とあるべき姿に関して、継続的な調査を実施し、結果の公表と提言を行っていきます。
調査概要
調査の概要 | 上場企業向け調査 | 特例子会社向け調査 |
---|---|---|
調査名 | 障害者雇用に関する実態調査 | 障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 |
調査期間 | 2021年9月30日~10月18日 | 2021年8月27日~9月13日 |
調査方法 | 配布・回収ともに、郵送ならびにメールで実施 | 配布・回収ともに、郵送ならびにメールで実施 |
調査対象 | 上場企業 3,604社 | 特例子会社 536社 |
有効回答数(回答率)4 | 125社(3.5%) | 207社(38.6%) |
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障がい者の雇用に特別な配慮をし、法律が定める一定の要件を満たした上で、障がい者雇用率の算定の際に、親会社の一事業所と見なされるような「特例」の認可を受けた子会社を指します。特例子会社は別法人のため、障がい者のニーズやスキルに応じた環境整備や制度設計が可能です。特例子会社は増加を続けており、2020年6月1日時点で542社となっている(厚生労働省「特例子会社一覧」、「「特例子会社」制度の概要」)。
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「障害者雇用に関する実態調査」「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」及び、当該調査の引用においては厚生労働省の表記に倣い「障害者」としている。それ以外の箇所では、「障がい者」の表記を行った。
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親会社やグループ会社から受注している間接業務や後方支援等の受注量の拡大や対応範囲の拡張。
- 4
設問によって回答条件を設けているため、各設問のN数と有効回答数は一致しない。
お問い合わせ
本件調査の担当
株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 水之浦、名武、笹澤
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