株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役会長兼社長:此本 臣吾、以下「NRI」)は、2027年度までのICT(情報通信技術)とメディアに関連する主要5市場(デバイス/ネットワーク/コンテンツ配信/xTech(B2C)/xTech(B2B))を取り上げ、国内市場における動向分析と市場規模の予測を行いました。
新型コロナウイルス感染拡大は消費者と企業に大きな影響を与えました。消費者に対して行動変容を促し、結果としてデジタルを活用した行動の定着が進みました。それに伴い、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は大きく進展をみせています。これからはウィズコロナの環境でのデジタル社会を前提として、さらにサステナビリティの観点から目指すべき社会の姿とはどういうものか、その姿の実現には何が必要なのかが問われていくことになります。
長期的な視点に立つと、人口減少の日本においていかに効率的にサービスを維持・向上させるのか、社会課題にどう取り組むのかといった点において、デジタルはより重要性を高めていきます。企業個別の取り組みだけでなく、官民や産業間、企業間で連携していくことを成長の核としながら、さらにデジタル化を進めていくことが重要になっていくと考えます。
主要5市場の特徴的な動向と予測結果は、以下のとおりです。
※以降、当リリースにおいて特に注意書きのない場合、2020年以前は実績値または推計値、2021年以降は予測値です。
デバイス市場
ウィズコロナの生活スタイルに合わせたサービスやDX分野への対応
- 新型コロナウイルスの感染拡大により、デバイス市場は需要と供給の急激な縮減を経験した。人の移動が制限されたことから、需要と同時に供給も大幅に低下したこと、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンが分断されたことなどにより、さまざまな課題が浮き彫りとなった。
- 従来のモバイルデバイスや次世代テレビなどの製品は、通信速度や画質などがユーザーニーズを必ずしも十分に満たしていなかった(機能飢餓)ため、機能拡大や性能向上により市場を拡大してきたが、すでにユーザーニーズを追い越した(機能飽和)製品も多く、ユーザーに対して機能的価値以外での価値提供が求められていく。
- パンデミックからの復興に向けて各国とも巨額の資金投入を予定しており、市況の好転が期待される。資金の向かう先のひとつとしてサーキュラーエコノミー1に対する世界的な意識の高まりがあり、例えば欧州では消費者の「Right to repair(修理する権利)」が謳われている。デバイスメーカーは今後、消費者の修理できる権利を保護するために製品設計を工夫したり、使用する材料に気をつけたりする必要が出てくる。
- 5G端末の普及に向けては、各携帯電話会社のサービス提供エリアの拡大が進んでいる点や、5G対応端末として日本市場で最もシェアの高いアップルのiPhoneが5Gに対応したことや中国系メーカーによるミドルレンジの端末ラインナップが市場に大きな影響を与えている。2024年度には国内の5G端末は約2,740万台まで拡大する(図1)。
- 高精細(4K・8K)テレビは、2021年7月~ 9月に開催された東京オリンピック・パラリンピックが買い替え需要を後押しし、2027年度には約2,730万世帯まで普及する(図2)。インターネット接続可能テレビの保有世帯も、買い替え需要により、2027年度には約3,480万世帯まで拡大する(図3)。直接的あるいは間接的にテレビをインターネットに接続する世帯が増えることで、放送以外の映像コンテンツとのテレビ画面の奪い合いはさらに激しくなる
- 3Dプリンターには、①多品種生産対応、②オンデマンド生産対応、③新形状・新機能の実現という提供価値があり、大量生産から適量生産へのシフトに向けて重要な役割を果たすことが世界的に期待されている。3Dプリンターを「デジタル製造業」の生産を担うアセットと捉え、ものづくり企業は上流から下流まで事業体制を再構築することが求められる。
ネットワーク市場
オンライン活用の加速とセキュリティ需要の高まり
- 2021年の官製値下げによる影響を受けて、携帯電話料金は大きく値下がりした。さらに総務省によるMNP(Mobile Number Portability)手数料無料化やSIMロック原則禁止、携帯電話事業者各社のeSIM(Embedded SIM)対応により、事業者間の流動性が高まることが予想される。
- いわゆる「巣ごもり消費」やテレワーク、オンライン教育などのICT(情報通信技術)サービスが拡大した。それに伴い、インターネット回線には通信の安定性や速度がより重視されるようになり、光ファイバーの価値は高まる方向にある。固定ブロードバンド回線加入件数は、2027年度末には約4,320万件と予測される(図4)。
- 法人向けセキュリティ市場は、DXへの取り組み加速に加え、新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワークやWeb会議、クラウドサービスの利用増がセキュリティ対策のさらなる充実と強化を後押しした。2027年には、約1兆2,770-億円と予測される(図5)。
コンテンツ配信市場
巣ごもり消費による動画配信サービスの拡大
- コロナ禍でのデジタルシフトがコンテンツ産業に大きなインパクトを及ぼしており、「放送」と「デジタル」の両輪展開が当たり前になる、放送・メディアのニューノーマル時代を迎えている。限られた事業者の占有物だったテレビは、「オープン化」されてきているともいえ、従来のリアルタイム視聴型の放送番組に加え、①見逃し配信、②有料・無料の動画配信サービス、③インターネット上で提供されてきた人気コンテンツやサービスを視聴・利用できる環境ができつつある。
- 「巣ごもり消費」の1つとして動画配信サービスの人気が高まり、加入者が増加している。2027年度の市場規模は約4,180億円になると予測される(図6)。魅力的な独占コンテンツが競争優位の源泉である本市場において、メガプレイヤーを中心に、コンテンツの囲い込みが進んでいる。さらに、市場の飽和が徐々に見え始める中、収益源の多様化の動きも加速している。
- 新型コロナウイルスによる影響で広告市場全体が縮小傾向の中、ネット広告は堅調に成長を続ける見込みである。AIや金融工学のノウハウを活用し、インターネット上で出稿と広告枠のマッチングを行うAdTechの活用が進む一方で、個人情報の問題が表面化しており、Cookieレス時代に向けてマス広告やオウンドメディアも合わせた横断的なマネジメントが必要となっている。AdTechによって生み出されるインターネット広告市場は、2027年に約2兆5,730億円まで拡大すると予想される(図7)。
xTech(B2C市場)市場
xTech(B2C)事業者は新たなプレイヤーが登場し市場をけん引
- 「ITナビゲーター2022年版」のxTech(B2C)市場では、「EdTech(教育)」「スマートペイメント」「SporTech(スポーツ)」「BeautyTech(美容)」の4つの分野について動向分析と市場予測を行っている。
- インターネットを介したスポーツ関連の動画配信サービス市場は、東京2020オリンピック・パラリンピック(2021年)や2022 FIFAワールドカップ(2022年)などにより動画配信の視聴習慣が浸透し、2027年度には600億円を超える規模に成長する。IoT機器を活用したスポーツ用品やサービスの市場は、新型コロナウイルス感染の拡大に伴うフィットネスクラブ・スポーツジム形態の変化により、市場が急速に形成されつつある。特に50 ~ 60代以上の世代のスポーツや健康への関心の高まりにより拡大し、2027年度には500億円を超える規模となる(図8)。
- BeautyTech(美容)市場は、2018年頃から大手化粧品メーカーがAIや人工皮膚などの最新技術を取り入れた研究開発を強化し始めただけでなく、ベンチャー企業の美容業界への新規参入が相次いでおり、成長期を迎えている。在宅美容ニーズの高まりから家庭用美容機器市場が拡大、テクノロジーを背景としたパーソナライズ美容商品市場も拡大している。BeautyTech(美容)市場は、家庭用美容機器が市場を牽引し、2027年には約4,160億円規模に拡大すると推計される(図9)。
xTech(B2B)市場
加速度的に進むデータ蓄積・データ活用
- 「ITナビゲーター2022年版」のxTech(B2B)市場では、企業内で利用される「ファクトリー IoT」、「スマートシティプラットフォーム」、「不動産テック」、「HRTech」、「建設テック」、「プライバシー Tech」の6つの分野について動向分析と市場予測を行っている。
- 例えば、ファクトリーIoT市場に関しては、様々なデジタル技術を活用し、工場内の作業者の移動や人的接触を抑えながら従来の生産性を維持しつつ、かつ、市場の需要が変動しても、それに応じて多様な品種を生産可能な体制を実現するという取り組みが進んでいる。そのためのセンサーや制御システムなどからなるファクトリー IoT国内市場は、2027年には1兆円を超える規模となる(図10)。
- 国内のHR Tech(人事・人材開発)市場については、働き方や採用形態の多様化に伴い人事業務が複雑化しており、人事制度の設計・改善のサイクルを高精度に回すことに注力するためにも、市場に出回っているさまざまなHR Techサービスを活用し、オペレーション業務の効率化を進める動きが進んでいる。HR Techの市場規模は2027年には約6,620億円の規模となると予測される(図11)。
今回の市場動向分析や予測の詳細は、単行本「ITナビゲーター2022年版」として、東洋経済新報社から、12月17日に発売されます(2,600円+税)。
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サーキュラーエコノミー:循環型の経済システムを指し、従来の大量生産・消費・廃棄の経済に代わり、商品・サービスの設計・生産段階から持続的な循環や長寿命化を前提にすることで資源を最大限活用する、持続可能な成長を見据えた経済の仕組み。
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