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野村総合研究所、コロナ禍と人口減少を踏まえた「持続可能な地域公共交通」のあり方を提言

〜ローカル線沿線では、地域全体で支える公共交通システムへの移行が急務〜

2022/03/25

株式会社野村総合研究所

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株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:此本臣吾、以下「NRI」)は、新型コロナウイルス感染症をきっかけとする「新しい行動様式」の浸透や中長期的な人口減少が、地域公共交通、とりわけローカル線1沿線の公共交通網に与える影響を検証するため、鉄道事業の持続可能性を試算しました。また、ローカル線沿線住民約1万人を対象とした地域公共交通に関するアンケート調査等も実施しました(末尾【ご参考】の(1)参照)。

以下で、試算およびアンケート調査等の結果と、それに基づく「地域全体で支える公共交通システム」という新しい地域公共交通のあり方を提言します。

鉄道会社の苦境を踏まえた「地域全体で支える」地方公共交通の必要性

新型コロナウイルス感染症は人の移動に大きな制約をもたらし、鉄道、航空、バス等の主要な公共交通の利用者が大きく減少しました。中でも鉄道は、コロナ禍以前の稼ぎ頭であった新幹線などの長距離移動の需要や都心部の通勤需要が大きく減少しました。これまで鉄道会社は、新幹線・特急や大都市圏の高収益路線の黒字で地方のローカル線の赤字を支えるという「内部補填」スキームを取ってきましたが、「新しい生活様式」の浸透により稼ぎ頭の収益回復が見込めない中で、「内部補填」の維持が難しくなっています。
鉄道会社の収益が低下している中で、ローカル線沿線地域など地方の公共交通はあり方の見直しを迫られています。これまで日本では、公共交通は受益者負担で運営する考え方が一般的で、地方や中山間地域では鉄道やバス路線ではなく、個人が所有するマイカーが主たる移動手段でした。しかし、免許返納の社会的な要請、赤字ローカル線の維持の困難さ、公共交通に関する補助金の支出の増加などの近年の環境変化を踏まえると、地方や中山間地域の公共交通を「地域全体で支える」仕組みが求められていると言えます(図1)。またNRIのローカル線沿線の住民を対象としたアンケートでは、ローカル線を日常的に使用しない回答者の61%が「(利用者に限定せず)公共交通の維持のためには地域の負担も加えるべき」という意見を有しています。

図1:地域全体で公共交通を支える仕組みの必要性

JR5社の鉄道事業の「持続可能性」を試算

NRIでは、JR東海を除くJR5社2について、2040年までの中長期的な鉄道事業の持続可能性を測る「鉄道維持指数3」を試算しました。これは2019年度の各社鉄道事業の利益水準を「1.00」とし、現行の運賃水準や路線網を前提として、人口減少やWeb会議の普及等による長距離移動の減少、各社が2021年12月時点で公表済のコスト削減目標等を考慮した、将来の利益水準を示す指標です(図2)。

図2:JR各社の「鉄道維持指数」(2030年度・2040年度)

試算の結果、2019年の運賃水準と路線網を維持する場合、JR5社の収益性は今後も低下し、事業継続の難しさが浮き彫りになりました。現状のままでは鉄道事業の持続は困難であり、地方赤字路線のあり方の見直しが避けられないと考えられます。
利用者数に連動しない固定費の比率が高いという鉄道事業の特徴を踏まえた場合、費用の抑制によって鉄道維持指数の改善を目指すと、約2,800kmの路線長に相当する費用の抑制が必要になります(図3)。また収入増加による改善を目指す場合は、約1.1倍-1.6倍の客単価増(運賃値上げ等)に相当する収入増加につながる施策の実施が求められます(図4)。

図3:必要となる費用抑制額に相当する路線長

図4:必要となる増収額に相当する鉄道運賃の値上げ

大量輸送に適するという鉄道の特性を活かせず、赤字に苦しみながらも維持されている路線については、地域の移動需要に適した手段を改めて模索する必要があります。

ローカル線見直し議論を阻む「公共交通のトリレンマ」

これまで、人口密度の低い地方で公共交通を見直す際は、「利便的価値」(運行本数など)・「事業的価値」(運賃による収益事業化など)・「シンボル的価値」(「地域の宝」としての鉄道の維持など)が均衡する解を見つけにくい点が、議論のハードルとなってきました。これまでも、ローカル線の見直し議論は全国各地で提起されてきたものの、「公共交通のトリレンマ(3つのうち2つしか選択できず、残りの1つは諦めるしかない状況)」に陥ってしまい、一部の事例を除いて議論は停滞・難航してきました。
実際に、NRIがローカル線沿線住民約1万人を対象に実施したアンケートでは、52%の回答者が、ローカル線は「地域住民の心の支えになっている」と回答しています。 しかし、コロナ禍で鉄道事業の持続可能性が低下する中で、ローカル線の見直しは「待ったなし」の課題となり、否が応でも議論を進めざるを得ない状況になったといえます。アンケートやインタビューでは、沿線住民から「(鉄道にこだわらず)地域公共交通のあり方を考えていくべき」という声が見られるようになりました。従来のような「特定区間の鉄道の維持か廃止か」といった二者択一の議論ではなく、地域交通の再構築に向けて様々なアイデアを組み合わせた選択が求められます。
アンケートでは、75%が最寄りのローカル線を「ほぼ利用しない」と回答している一方で、86%が「将来的に自分自身や同居家族が高齢になった際に、自家用車を運転し続けることに不安がある」と回答しています。これらの結果からも、各地域のニーズに合わせた地域公共交通のあり方に関する議論が必須です。

多様な選択肢が考えられる今後の地域公共交通

上記のように、ローカル線の存続に対する認識が変化してきている中で、地域の実情に合わせつつ地域公共交通の変革を図っていくことが重要と言えます(図5)。

図5:地域公共交通の変革の方向性

例えば近年では、BRT(バス・ラピッド・トランジット。バス専用道や連節バス等を用いた次世代型のバス)・デマンドバスなど新たな移動手段も登場しています。そしてデジタル技術の導入により、鉄道やバス路線のルートありきで住民の行動範囲が制約されるのではなく、住民の生活に合わせた柔軟な移動サービスの提供が可能になってきています。

鉄道会社の主導による、地域全体で支える「持続可能な公共交通」の仕組み

地域交通が多様な課題に直面しているなかで、「地域全体で支える公共交通」を実現するためには、議論と投資を主導するプレイヤーが必要と考えられます。鉄道会社は、長い間地域に根ざして鉄道事業を展開しているとともに、資本力を有し、かつデジタル技術への造詣も深いため、主たるプレイヤーになることが期待されます。
NRIは、「地域全体で公共交通を支える」1つのアイデアとして、公共交通の維持・効率化や、移動先でのキャッシュレス決済、各種サービスの予約・認証といった機能を一括りとした「地域交通DX基盤」を提唱します(図6)。また、鉄道会社主導の下でこうした基盤が導入されれば、地域の各種サービスがより便利になるだけでなく、地域内での様々な消費活動から生まれた決済手数料の一部を地域公共交通の維持のために活用できる仕組み(「地域交通維持基金」)も実現可能とNRIは考えています4
NRIが実施したアンケート(ローカル線利用者アンケート)では、「この仕組み(公共交通を支えるICカード決済)が地元で導入されたら、登録してみたい」と76%が回答しています。またインタビューでは、公共交通の決済以外にも多様な機能が搭載されれば使いやすい、といった意見も聞かれました。

図6:キャッシュレス決済手数料を原資とした「地域交通DX基盤」と「地域交通維持基金」

ここまで整理してきたように、地域公共交通のあるべき姿を今こそ見直す必要があり、住民の意識の変化や多様な交通手段の登場によって、鉄道会社が主導し地域全体で支える「持続可能な公共交通」の実現に向けたハードルは低くなっているものと考えられます。各地域の実情にあわせた、理想の公共交通の実現に向けた動きが各地で進むことが期待されます。

  • ※162億円:

    総務省「家計調査」「家計消費状況調査」、農林水産省推計よりNRI算出。中山間地域世帯の電子マネー利用金額から、1%の決済手数料を取得する場合を仮定

    計算式:1世帯あたりの年間電子マネー平均利用金額×(中山間地域人口/人口15万人未満の都市の平均世帯人員)×決済手数料率

    計算式(実数値):276,384(円)×(14,200,000(人)/2.43(人))×0.01

  • 1  

    ローカル線とは、地方における利用が少ない鉄道路線を指します。統一された定義はありませんが、利用者数が一定基準を下回り、かつ都市間の幹線輸送に用いられない路線を指すことが多いです。

  • 2  

    JR北海道、JR東日本、JR西日本、JR四国、JR九州。路線別の利用状況が公表されていないJR東海については、今回の一連の試算から外しています。

  • 3  

    2019年度のJR5社鉄道事業の利益水準を「1.00」とした場合に、沿線の人口減少やWeb会議の普及等による長距離移動の減少、各社が2021年12月時点で公表済のコスト削減目標等を考慮した、将来の利益水準を示す指標です。

  • 4  

    1世帯あたりの年間電子マネー平均利用金額、中山間地域の世帯数、決済手数料率を用いて試算すると、全国合計で年間162億円程度が基金に積み立てられると期待されます。

【ご参考】アンケート・インタビュー調査の概要

  (1)ローカル線沿線住民
アンケート
(2)ローカル線利用者
アンケート
(3)ローカル線利用者
インタビュー
調査期間 2022年2月9日~2月14日 同左 2022年3月9日~3月21日
調査方法 Webアンケート Webアンケート オンライングループ
インタビュー
調査対象 JR東日本・JR西日本のローカル線(29線区)沿線地方公共団体在住で、かつ最寄り駅が当該ローカル線の駅の人
年齢:15歳~74歳
(1)の調査の条件に該当し、かつ当該ローカル線を自身もしくは同居の子供が月1回以上利用する人 (2)の回答者のうち、インタビューへの協力を承認した人
有効回答数 10,015人 1,413人 9人
主な調査項目
  • 自宅の最寄り鉄道路線、最寄り駅
  • 自身および同居家族のローカル線利用状況
  • マイカー利用や、今後の地域公共交通のあり方に関する意識
  • ローカル線の地域における役割の捉え方
  • ローカル線の詳細な利用状況
  • ローカル線の今後のあり方に関する意識
  • 持続可能な地域公共交通に関する素案に対する反応
  • 地域の公共交通改革に不足していると感じる項目についての認識
  • ローカル線の詳細な利用状況
  • ローカル線の地域における役割の捉え方
  • ローカル線維持に関する思い
  • 持続可能な地域公共交通に関する素案に対する反応

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お問い合わせ

ニュースリリースに関するお問い合わせ


株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部 玉岡、梅澤
TEL:03-5877-7100
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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金融コンサルティング部 大畑
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