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「就業調整」している有配偶パート女性の6割以上が、政府の支援策で今より年収が多くなる働き方を志向
〜「年収の壁」問題が解消すれば、2人に1人はより時給の高い仕事へ転職も検討〜
株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役会長 兼 社長:此本臣吾、以下「NRI」)は、2023年10月3日から10月5日にかけて、1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)で「年収の壁」に関するインターネットアンケート調査(以下「本調査」)を実施しました。
対象者は、パートもしくはアルバイトとして働き、配偶者のいる30~59歳の女性(以下「有配偶パート女性」)のなかで、さらに「年収の壁」1を意識し「就業調整」2をしている人で、685名から回答がありました。
2023年9月25日、政府は、働き方の選択によらず誰でも安心して希望通りに働くことができる社会保障制度への抜本的見直しに取り組むとともに、若い世代の所得向上や人手不足の解消に向けた経済対策として、「年収の壁・支援強化パッケージ」3(以下「今回の支援策」)を10月から実施すると発表しました。手当の支給や賃上げ等で、「年収の壁」を超えても従業員の手取り収入が減らないような取組みを行った企業への助成等を通じて、労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援することが目的とされています。
本調査は、今回の支援策が有配偶パート女性の今後の就労に及ぼす影響を把握することを目的に実施し、主な結果は、以下の通りでした。なお、詳細な結果などは後日改めて公表する予定です。
(本資料に記載の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、内訳の計と合計が一致しない場合があります)
「就業調整」する有配偶パート女性の63.2%が、今回の支援策で今より年収が多くなる働き方を希望
「今回の支援策が利用でき、「年収の壁」を超えても手取り額が減らなくなったら、今よりも年収が多くなるように働きたいと思うか」と聞いたところ、「就業調整」している有配偶パート女性の31.2%が「そう思う」、32.0%が「まあそう思う」と答えました(図1)。合わせると6割強(63.2%)が、今回の支援策が利用できれば今より年収が多くなるように働きたいと考えています。
図1 「年収の壁・支援強化パッケージ」がもたらす就業調整への影響
(対象:1都3県在住で「就業調整」している有配偶パート女性)
出所:NRI「「年収の壁」対策に関する調査」(2023年10月)
この63.2%の人に、「今回の支援策によって「年収の壁」を超えても手取り額が減らないようになった場合の希望する年収額」と「現在の年収額」を聞き、その差額を「今回の支援策を利用して増やしたい年収額」として集計しました。その結果、最も多かったのは20~30万円(回答者全体の21.2%)で、次いで50~60万円(同16.9%)、30~40万円(同16.4%)でした。増やしたい年収額の平均は25.9万円、中央値は34.0万円でした。
「就業調整」している有配偶パート女性の50.4%が、「年収の壁」問題の解消で時給の高い仕事への転職を希望
「今回の支援策によって「年収の壁」を超えても手取り額が減らなくなったら、今の仕事よりも時給の高い仕事に転職したいか」と聞いたところ、同じ対象者の21.0%が「そう思う」、29.3%が「まあそう思う」と答えました(図2)。合わせるとおよそ5割(50.4%)が、今回の支援策で「年収の壁」問題が解消すれば、今の仕事よりも時給が高い仕事に転職したい、と考えています。
図2 「年収の壁・支援強化パッケージ」がもたらす転職への影響
(対象:1都3県在住で「就業調整」している有配偶パート女性)
出所:NRI「「年収の壁」対策に関する調査」(2023年10月)
本調査の結果から、「年収の壁」問題が解消すれば、働く時間を増やしたり、今より処遇のよいところで働くなどしたりして、収入を増やし、家計を支えたいと考える有配偶パート女性は少なくないことがわかりました。背景には、物価の上昇やそれに伴う実質賃金の低下が続いていることがあると推察されます。
よって、政府による今回の支援策「年収の壁・支援強化パッケージ」は、「年収の壁」を意識して就業時間の調整をしながら働いているが、実際にはもっと働いて少しでも収入を増やしたいと考える労働者に対して、就業時間の延長や転職の促進とそれによる収入の増加の面で一定の効果をもたらすことが期待できると考えます。一方で、働き方の選択や勤め先の規模・業種によらず、誰もが安心して働くことができる社会保障制度などへの改革が急がれます。
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「年収の壁」とは、主に会社員等の配偶者に扶養され、パートやアルバイトとして勤める労働者が、ある年収額を超えて働くと扶養から外れ、自ら社会保険料を負担することになったり、配偶者が税制上の控除を受けられなくなったりする年収額の総称。それを超えて働くと、自身や配偶者の手取り(実際に受け取れる金額)が減る場合がある。
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「就業調整」とは、自身の年収が「年収の壁」を超えないように就業時間や就業日数を調整することを指す。
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厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」については、次のURLを参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
ご参考
1.調査概要
【調査名】「年収の壁」対策に関する調査
【調査時期】2023年10月3日~10月5日
【調査方法】インターネットアンケート
【対象者および回答者数】
1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)在住の30~59歳で、パートもしくはアルバイト
として働き、「年収の壁」を意識し「就業調整」をしている有配偶女性 685人
2.NRIの関連レポート
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政府は「『年収の壁』による働き損」の解消を-有配偶パート女性を対象とした調査結果の報告-
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/mediaforum/forum345 -
「女性の経済的自立」の実現には何が必要か
-
なぜ、最低賃金の引上げは所得増に繋がらないか
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/souhatsu/data_view_use/0810 -
「年収の壁」の高さを可視化してみる
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/souhatsu/data_view_use/0829 -
働き控えを解消する「『年収の壁』突破給付」で物価高と人手不足の克服を
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/souhatsu/data_view_use/0201
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なぜ、最低賃金の引上げは所得増に繋がらないか
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支援強化パッケージで「年収の壁」突破へ 実行に向けた3つの鍵
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/souhatsu/data_view_use/0623
お問い合わせ
本件調査の担当
株式会社野村総合研究所 未来創発センター 武田
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