フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ サステナビリティ 有識者ダイアログ 2020年度 CSRダイアログ

サステナビリティマネジメント

2020年度 CSRダイアログ

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2020年10月15日に、持続可能な開発目標(SDGs)を推進している国際NGO、World Benchmarking Alliance(以下、WBA)とダイアログを行いました。
WBAは、2019年にビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブCorporate Human Rights Benchmark(以下、CHRB)を吸収合併しています。
通算4回目となる海外有識者とのダイアログですが、今年度は新型コロナウイルス感染防止の観点から、オンラインで実施しました。ダイアログでは、主に「SDGs視点での企業評価」や「人権の取り組みにおける開示の在り方」などについて、意見を交わしました。

出席者

(所属、役職は2020年10月時点)

写真:Pauliina Murphy氏

ポーリーナ・マーフィー(Pauliina Murphy)氏

World Benchmarking Alliance (WBA), Engagement Director

ベンチマークの推進と展開戦略を主導し、投資家、市民社会、政府を含む多様なステークホルダーとの関係強化に努めている。WBAに参画する前は、英保険大手AVIVAで持続可能な金融貿易投資に関する国際的な政策立案を推進。

写真:Camille Le Pors氏

カミーユ・ル・ポルス(Camille Le Pors)氏

World Benchmarking Alliance (WBA), Lead Corporate Human Rights Benchmark

機関投資家と人権NGOが設立した、ビジネスと人権に関する国際イニシアチブの主任研究員。研究プロセスの管理、ベンチマーク企業とのかかわり、方法論の開発とレビューを担当。ロンドンのビジネスおよび人権リソースセンター、ハーグの国際刑事裁判所、およびフランス国会議員の海外メンバーとしての経験も持つ。

写真:横山賢次

横山賢次

野村総合研究所 常務執行役員

サステナビリティ、コーポレートコミュニケーション、総務、業務、調達管理、経理財務を担当。中長期の視点に立って、事業を通じた社会課題の解決やサステナビリティ活動推進の先頭に立つ。

写真:桧原 猛

桧原猛

野村総合研究所 執行役員

事業戦略、法務・知的財産を担当。コーポレートコミュニケーション、総務の副担当。 サステナビリティ経営方針のもと、NRIの持続的な成長の実現を目指し、事業戦略を推進する。

他の野村総合研究所(NRI)からの出席者

小松康弘 コーポレートコミュニケーション部長
本田健司 サステナビリティ推進室長

ファシリテーター

山口俊宗氏 経済人コー円卓会議(CRT)日本委員会

CSRダイアログ with World Benchmarking Alliance

SDGs視点での企業評価について

横山:SDGs視点での企業評価で、NRIに期待していることはありますか?

ポーリーナ・マーフィー氏:

SDGsは持続可能でより良い世界を目指すロードマップですが、ビジネスを行う企業に対して何が求められるかを明示しているわけではありません。そのため私たちは、SDGsを達成し、持続可能な社会を実現する上で、変化(トランスフォーメーション)が必要な下記7つの領域に焦点を当て、主要なプレイヤーとなる企業群全2,000社を特定しました。現在は、各企業のパフォーマンスを評価するためのベンチマーク指標を、2023年までに開発しようと取り組んでいます。

  • Social:人権尊重や不平等の是正による持続可能な社会の実現
  • Circular:持続可能な生産消費形態の確保
  • Food and agriculture:全ての人が健康的な生活を送るために必要な食料の確保
  • Decarbonisation and energy:脱炭素と持続可能なエネルギーへの普遍的アクセスの確保
  • Digital:デジタル技術を活用し、全ての人に安全な情報通信インフラを普及
  • Urban:安全かつ強靭(レジリエント)な都市の実現
  • Financial:持続可能な経済成長の実現

現時点で、NRIは対象企業に入っていませんが、7つの中で、NRIはデジタル・トランスフォーメーションに主に関係すると考えています。また、業界・企業を問わず、人権の尊重やジェンダー平等の実現を目指す、ソーシャル・トランスフォーメーションの実現にも貢献して頂きたいと思います。

デジタル・トランスフォーメーションへの貢献は、「アクセス(Access)」、「スキル(Skills)」、「ユース(Use)」、「イノベーション(Innovation)」の4つの柱で評価しています。
「アクセス(Access)」では、デジタルテクノロジーへのアクセスが困難とされている女性や女児も含めて、いかに情報へのアクセスに貢献しているか、という点を見ています。
「スキル(Skills)」では、テクノロジーの普及だけではなく、人々がそれぞれのレベルに応じたデジタルスキルを習得することを、どのように支援し広めていくかという点を見ています。
「ユース(Use)」では、取得した個人情報の適切な取り扱いなど、どのようにデジタルリスクを低減しているかという点を見ています。
「イノベーション(Innovation)」では、SDGsを達成するためのデジタル技術の創出や、オープンソースの提供によるイノベーション支援などを評価しています。

NRIには、これからも自社の活動を含め、ビジネスパートナーとの協働によるベストプラクティスや成果を共有していくことや、政府、業界団体と積極的にダイアログを行い、その情報を発信していくことを期待しています。

人権関連のリスクと開示について

本田:人権デューデリジェンスを行う際の注意点を教えてください。

カミーユ・ル・ポルス氏:

NRIで「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、人権インパクトアセスメントを実施されていますので、既にご存知かと思いますが、人権デューデリジェンスにはいくつかのステップがあり、それぞれのステップを包括的に実施することが重要です。
第1ステップは、自社のリスクを特定すること、第2ステップは、リスクアセスメントを実施して、リスクに優先順位を付け、顕著なリスクを明確にすること、第3ステップは、特定したリスクに対する低減策、是正策をマネジメントプランに組み込むこと、第4ステップは、実際にマネジメントプランを立てて実行したことの効果や改善の余地について検証することです。そして最後のステップは、関係者とのコミュニケーションです。最も影響を受けたステークホルダーに対する情報提供が重要です。

以上を踏まえた上で、人権デューデリジェンスを行う際には、2点重要なポイントがあります。
1点目は、特定の国や地域だけに焦点をあてるのではなく、組織活動を全体的に見ること、2点目は新しいリスクがないかを定期的に検証し、新たなリスクが見つかった場合には、そのリスクを統合していくことです。

桧原:新型コロナウイルスによって明らかになったリスクはありますか?

カミーユ・ル・ポルス氏:

新型コロナウイルスは、新たな人権リスクを生み出すのではなく、既にあったリスクの悪化や、潜在的なリスクの露呈を引き起こしたと考えています。例えば、職場での労働安全衛生や適正賃金の問題など、以前から存在していた人権リスクの悪化もしくは顕在化が、様々な国や業界で起こっています。新しいリスクが発生した際には、このように顕在化しているリスクをどのように是正していくのか、既存のリスクと併せて検討していく必要があります。

横山:日本企業の人権への取り組みにおいて、改善を期待するポイントはありますか?

カミーユ・ル・ポルス氏:

日本企業だけではありませんが、人権デューデリジェンスの各ステップについて、透明性をもって伝えることが欠けていると感じています。
CHRBが企業の人権への取り組みを評価する際には、「方針が策定されているか」、「社内の関連システムが方針に則っているか」、「方針に則って、取り組みを推進しているか」の3点を見ています。最後のポイントについては、多くの企業において開示が不十分だと感じています。
私たちは、具体的な開示を求めています。例えば、方針に沿って、社内システムやプロセスが実行に移され、現地で影響を受けているステークホルダーの状況改善に繋がっている、などの情報です。
また人権リスクに対して、どのように効果的な救済手段を提供しているかという点についても、開示が欠けていると思います。

多くの企業が、リスクに関してオープンに議論することに抵抗感を持っていると感じています。私たちは、以下の3点の理由から、企業に透明性のある開示を求めていますので、是非積極的に自社のリスクについても開示して頂きたいと思います。

  • 1点目は、投資家を含めた全てのステークホルダーはリスクがあるということを解っているので、企業が開示しなければ、その企業にリスクが無いのではなく、リスクをマネジメント出来ていないと解釈するからです。
  • 2点目は、ベストプラクティスを多くの企業で共有するためです。
  • 3点目は、サプライチェーン全体の問題を解決するためには、1社の取り組みだけでは難しく、パートナーシップ(協働)が必要であり、そのために透明性のある開示と情報共有が重要だからです。

苦情処理メカニズムについて

横山:苦情処理メカニズムの構築を検討していますが、考慮すべきポイントはありますか?

カミーユ・ル・ポルス氏:

苦情処理メカニズムが備えるべき要件として、以下6つのポイントがあります。

1:アクセシビリティ
全てのステークホルダーが苦情処理メカニズムにアクセス出来なければなりません。これには、正規雇用、非正規雇用、またサプライチェーンやビジネスパートナーも含まれます。さらに、顧客など企業から影響を受ける外部のステークホルダーも、アクセス出来るようにする必要があります。
また、家族も対象に含めることが望ましいと考えています。苦情処理メカニズムを設置する目的は、企業活動から負の影響を受ける可能性のあるステークホルダーが、実際に影響を受けた際に申し立てが出来る手段を用意することです。例えば、怪我等の理由で自ら苦情を申し立てることが出来ない場合に、家族が代わりにアクセスできることは重要だと考えます。

2:ステークホルダーの意見の反映
影響を受けるステークホルダーの意見を反映しながら設計することが重要です。意見を取り入れずに構築しても、使い勝手が悪く、使われない可能性があるからです。

3:匿名性の担保
第三者機関と連携し、通報者の匿名性が担保されるようにする必要があります。

4:言語
アクセシビリティとも関係しますが、対象となるステークホルダーが誰でもアクセス出来るように、企業側で必要な言語を全て用意し、周知すべきです。

5:プロセスの透明性
苦情を申し立てた時に、どのようなプロセスを経て何が起こるのか、またレスポンスまでどれぐらいの時間を要するのか等の情報を開示する必要があります。

6:有効性の検証
苦情処理メカニズムがどのように機能しているかを開示することが重要です。メカニズムを通して申し立てがあった件数、解決した件数、傾向としてどのような申し立てがあったのかを開示してください。加えて、申し立てられた案件を受け、人権デューデリジェンスにどのように影響を与えたのかという情報を開示して頂きたいと思います。

本田:日本では、人材の流動性が低く同じ会社で長く働く関係から、人権関連の問題が起こっても組織の中で解決するケースが多くあります。そのため、実際に正式な相談窓口に寄せられる件数が少ない可能性があります、その場合の開示方法はどうしたらよいでしょうか?

カミーユ・ル・ポルス氏:

組織の中で平和裏に解決できるのであれば、問題ないと考えます。正式なメカニズム経由で上がってきた相談件数の情報を開示するとともに、内部で解決されたものがあるという情報も併せて開示することで透明性は担保されます。 ただし、内部で解決が出来ていたとしても、別途苦情処理メカニズムは必要です。もし従業員が上司からハラスメントを受けるようなことがあった場合、通常のコミュニケーションラインを使用した組織内での話し合いは難しいと思います。そのため、匿名性をもって他に相談出来るメカニズムが重要だと考えます。

横山:

貴重なご意見を頂き、大変ありがとうございます。全体を通して、SDGsで定める目標達成に向けてICT企業である当社に何が期待されているのか明確になりました。NRIは中期経営計画で、社会課題の解決によって持続可能な社会づくりに貢献することを掲げています。これから今以上にデジタル化が進展していくことは間違いありません。NRIは、新しいビジネスプロセスや革新的な社会インフラを生み出すことにより、お客さまや社会の課題解決に貢献していきたいと考えています。NRIグループの活動がデジタル・トランスフォーメーションの実現につながると信じています。

(2020年12月11日公開)

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn