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NRI トップ サステナビリティ 有識者ダイアログ 2022年度 有識者ダイアログ(人的資本)

サステナビリティマネジメント

2022年度 有識者ダイアログ(人的資本)

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2022年度 有識者ダイアログ(人的資本)

写真左より、野村総合研究所 桧原、ロート製薬 取締役 CHRO髙倉氏、野村総合研究所 柳澤、伊吹

  • CHRO・・・Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)

野村総合研究所(以下、NRI)は、サステナビリティ(持続可能性)に関するグローバルな動向を理解し、それを経営戦略やリスク管理に反映するため、2010年度から、外部有識者の方々と多様なテーマで毎年ダイアログ(対話)を行っています。
10回目となる2022年度のダイアログでは、「環境」と「人的資本」の2つの分野で、有識者の方々と意見交換を行いました。本記事は、2022年12月5日に実施した、国内外の人事・人的資本分野で広範なキャリアを持ち、経済産業省の検討会委員等も多数務めている、ロート製薬株式会社 取締役CHRO※ 髙倉千春氏とのダイアログの様子です。「人的資本経営の重要性」、「NRI(グループを含む)の成長ストーリーと人材育成の関係」、「経営戦略と整合したKPI(重要業績評価指標)と情報開示」の3つのテーマについて、髙倉氏とNRI執行役員の桧原、柳澤が意見を交わしました。

出席者

(所属、役職は2022年12月時点)

髙倉 千春 氏

髙倉 千春 氏

ロート製薬株式会社 取締役CHRO

大学卒業後、農林水産省入省。米国にて、MBAを取得。三和総研、ジェミニ・コンサルティングにて、新規事業に伴う人財開発などに携わり、1999年ファイザー、2004年日本ベクトン・ディッキンソン、2006年ノバルティスファーマの人事部長を歴任。2014年より味の素にて、グローバル戦略推進に向けた人事制度の構築をリード。2020年4月ロート製薬取締役。2022年4月から同取締役CHRO。
経産省「人的資本経営の実現に向けた検討会」委員。日本特殊陶業社外取締役。

桧原 猛

桧原 猛

野村総合研究所 執行役員

1991年に野村総合研究所(NRI)に入社。1997年6月外務省派遣に伴う在サンフランシスコ日本国総領事館勤務、2015年事業戦略室長 兼 PAR支援室長を務め、2017年4月経営役事業戦略副担当、事業戦略部長。2019年4月執行役員に就任。2021年4月より、執行役員 事業戦略、コーポレートコミュニケーション、法務・知的財産、情報システム、IR担当。

柳澤 花芽

柳澤 花芽

野村総合研究所 執行役員

1991年に野村総合研究所(NRI)に入社。2012年10月経営コンサルティング部グループマネージャー、2015年4月経営コンサルティング部長、2017年4月金融コンサルティング部長、2018年4月ICTメディア・サービス産業コンサルティング部長を務め、2019年4月より経営役人事・人材開発副担当、人事部長に就任。2021年4月より、執行役員 人事・人材開発担当。

(進行)
伊吹 英子
野村総合研究所 サステナビリティ推進室長

冒頭説明(NRIのサステナビリティ経営と人的資本への取り組み)

NRI:はじめに、NRIのサステナビリティ経営と人的資本への取り組みについてお話しした上で、「人的資本経営の重要性」、「NRIの成長ストーリーと人材育成の関係性」、「経営戦略と整合したKPIと情報開示」について対話できればと思います。

(冒頭、桧原より、「NRIのサステナビリティ経営」と、「NRIの成長ストーリーにおける人的資本の位置づけ」について、また柳澤からは「NRIの人的資本への取り組み」について説明。)

NRIの成長ストーリーと人的資本の位置づけ

NRI:2030年に向けた「NRIの成長ストーリーと人的資本の位置づけ」について、お感じになったことを教えてください。

ロート製薬 髙倉氏:

髙倉氏

NRIが発行している統合レポートやESGデータブックなどの開示資料は細部まで検討され、充実した情報が開示されていると感じます。特に、ESGデータブックは、NRIグループの情報が網羅的にカバーされ、さすがだと思いました。こうした資料の開示内容は、それらがどのように企業のビジョンや存在意義とつながっているのかが理解できる形になっていることが必要であると思っており、また、こうした説明を一層分かりやすくストーリーとして伝えていくことも大切であると感じました。
NRIの存在意義に関わる社会の潮流
は、大きく2つあると考えています。
1点目は、社会的な観点から求められているDX※1に関する取り組みです。かつてDX1.0を中心に推進していた時代は、既存の業務のデジタル化が成長・変革の鍵でした。現在では、DX1.0を通じて事業の基盤となる業務プロセスやインフラがデジタル化されることは当たり前になってきています。また、DX2.0では、業界全体のビジネスモデルを変革するようなプラットフォームの構築を中心に進められてきました。今後は、社会を変革するツールとして、デジタルをどのように活かすのかという観点が重要となり、DX3.0が求められるようになっていくと思います。
2点目は、事業会社の観点から求められる潮流です。CX※2という言葉があるように、今後、企業自身の変革が重要な課題となってきています。企業のトランスフォーメーションに深く関連して、サステナビリティというテーマがあると考えます。また、CXとサステナビリティの実現を支えるのは「人材」だとも言われています。CXやサステナビリティのように企業が新たに取り組むべきテーマが注目される背景には、これまでの価値基準や価値観では、企業が持続的成長を実現できないのではという危機感があると考えます。
ここ2,3年で、社会的課題の解決や、社会に価値を創出するなど「非財務領域」の取り組みなしでは、企業は財務面での持続的成長が実現しえないという環境に変わってきたように感じています。社会的課題の解決に代表される非財務的な取り組みは、NRIが掲げる価値共創につながります。とりわけNRIのような知的産業企業では、クライアントである各事業会社を新しい価値を創造する方向へと導いていく取組みに対する社会からの期待値が高いと考えています。
将来の社会がどの方向に向かうのか、どのように変わっていくのかという、社会の将来像を洞察するのがNRIの価値の出し方で、これは大変難易度が高いことです。未来社会において、どのような変化が起きるのかは本当に誰も分からない状況です。そのなかで、多様な方向から世界の最先端の知見を取り入れ、異才(彩)の専門家が集まり、議論を交わし研究を重ねるという、このNRIの「場」は、これから非常に価値が高まるのではないかと期待しています。

NRI桧原:

NRI桧原

現在、2030年に向けた新しい経営ビジョンV2030を策定しています。NRIの企業理念には、「新しい社会のパラダイムを洞察し、その実現を担う」とありますが、これまで、どのような社会を目指しているのかについては、必ずしも明示できていなかったと思います。新ビジョンの策定では、NRIがどのような社会の構築に貢献していくのかという、自社の存在意義にも近い議論を取り込みながら、2年近く社内での意見交換を実施しました。その過程で言葉を磨き続けて、ようやくどのような社会を創発していくべきかについても整理がついています。
また、髙倉さんのおっしゃるように、目指す姿の実現を支えるのは人材ですから、グループを含めた社員全員がどのような価値観を共有すべきかについても、整理ができました。そして、目指す社会とともに価値観についても、企業理念体系の中に位置づけて発信する予定です。正式には、2023年4月に公表となります。
新しいビジョンでは、「創出する価値」をマテリアリティ(自社にとっての重要課題)の中に位置づけ、事業を通じてNRIが目指す方向を示すとともに、人的資本などの資本がビジョンや価値創出とどのように関連づくのかについても明示していきます。

髙倉氏:

今後、NRIが何のために社会に存在するのかという観点が示されると、そこからバックキャスト(未来から振り返って現在なすべきことを考える手法)して、どのような専門性が必要なのか、どのような人材の多様性が求められるかが、おのずと明らかになってくると思います。

  • ※1  DX・・・

    デジタルトランスフォーメーションの略。デジタル技術を活用して、ビジネスなどを変革することを指す。

  • ※2  CX・・・

    コーポレートトランスフォーメーションの略。企業を根幹からつくり変えることを指す。

NRIグループの成長ストーリーと人材育成のリンク

NRI:成長ストーリーを実現させるためのNRIの人的資本経営の在り方については、どのようにお考えでしょうか?

髙倉氏:

ここまでのお話を伺うと、やはり「NRIならではの人的資本経営」の発信がとても大切であると思います。さまざまな事業会社が人的資本経営に取り組んでいますが、NRIならではの特徴があります。その1つは、マクロ視点で未来社会を洞察できることです。「豊かで活力ある社会」を、将来に向けてどのように創っていくのかといったマクロ視点での示唆や提言を表明することは、将来社会にとって大変重要です。人材が切磋琢磨しながら、その回答を考え抜き、導き出すことは、NRIならではの良さだと思います。さまざまな事業会社も将来像を考えてはいますが、どうしても自社の「製品」を通じて何を実現するかといった、日々の活動に終始してしまいがちです。実は、社会全体を広い視点で捉えるということが、事業特性上、意外と難しいのです。でもNRIは、製造業などとは事業特性が大きく異なります。とくにお客様へコンサルティングとソリューションの両方を提供する事業を展開しているので、よりマクロな視点でこれらサービスをどのように活用し得るかを考えることができます。また、人的資本経営を世の中にどのように展開するか、という示唆まで発信することができる会社ではないでしょうか。「人的資本が価値創造の源泉である」というご説明は、なるほど、と思いました。
ただ、未来洞察の結果が実業や社会の実態とかけ離れてしまっては価値がありません。そのため、マクロな視点での未来洞察は簡単なことではないでしょう。これからは、将来を見る洞察力と、二律背反的ですが、人々の暮らしや実業などの足元の動きを把握する視点の両方が重要となります。さらに、未来洞察と実業の流れがどのようにリンクするか、マクロとミクロ2つの視点を行ったり来たりしながら考察する力が求められます。実業や実生活における生活者としての視点も大切にして頂きたいです。
例えば製造業では、生活者ニーズをどう扱うかが重要であり、働き方改革で時間を作り出し、副業・兼業をはじめとして、生活者としての目線を取り入れることを意識的に行う企業もあります。NRIが実業や実生活で必要な生活者としての視点も持って人的資本経営に取り組むことで、社会に対してNRIの人的資本経営を示し、価値の創出やヒントの提供につながるのではないかと考えます。

NRI 柳澤:

ダイアログの様子

生活者としての経験に関して、社員自身のワーク・ライフ・バランスや働き方改革の中にも課題がある、と捉えています。NRIは、お客様へのコンサルティングやソリューションの提供を通じて、生活者としての経験を踏まえたさまざまなアイディアや提案をしています。

NRI 桧原:

NRIグループの社員にとっては、生活者の感覚も重要ですし、世間で起きていることをきちんとタイミングよく知ることも大事だと思います。本を読む、新しい技術の動向を知る、今何が社会のイシュー(論点、争点)なのかに目を向けるなど、さまざまなことに常に興味を持って考える時間が大切です。成長ストーリーのなかで「事業創造するケイパビリティ(組織的能力)」を挙げていますが、気持ちの余裕をもって働く時間を使えるワーク・イン・ライフ(人生・生活の中に仕事を位置づける)の考え方や、事業創造の前提になる時間を創出しなければならないと考えています。

髙倉氏:

仕事以外の場で創造性を養う習慣をつけることは大事だと思います。それに加えて、重要なのは想像力ですね。仕事とは、結局のところ一人で何でもこなすことができるわけではないのです。例えば、農家の方の話を聞いて、これは大事なことだと思っても、実際に農業をすぐ始めることは難しい。ただ、相手の話を聞いて、その方が何を生業にしていて、どんな環境で生活しているかということを想像するイマジネーション力を持つことが大切だと考えています。一方、こうした想像力を育てることは大変難しいと感じます。NRIの採用試験を受ける候補者は、一定レベルの優秀さや論理性などを当たり前に持っていると思いますが、どれぐらい相手のことを慮って思考することができるか、それを自分事として捉えられるか、つまり、他人のことと自分の思いを行ったり来たりできる素養が重要になってくると思います。こうした力が、今後の事業創造のケイパビリティには非常に重要になるかもしれません。問題発見力も同様に大切です。これは、誰かに言われたらやるのではなく、自発的に相手の課題を慮って、それをどうしたら解決できるかを自分事として考えられるかということです。

NRI 桧原:

おっしゃる通りだと思います。今後は、受け身ではなく、自発性と相手を思いやる力が求められると思います。先ほども言及した「事業創造するケイパビリティ」についてですが、その一つとして「構想力」を挙げています。これは、ひとりでは組み立てられないような大きな構想を、人とのコミュニケーションや、有識者の方々との対話を通じて組み立てていけるような人的資本を指しています。先ほど申し上げたDX3.0は、社会全体を変革していこうとする大きな概念ですから、これを現実的に進めようとすると、多様な視点を取り入れ、新たな仕組みを創造していくケイパビリティがさらに必要になってくると思います。

NRI:次は成長ストーリーを実現させる人材の多様性について、議論していきたいと思います。

NRI 柳澤:

NRI 柳澤

ここからは、成長ストーリーに資する人材の多様性についてお話ししたいと思います。成長ストーリーを実現するケイパビリティの一つに、「多様な人材とのビジネス推進力・議論力」を挙げています。私たちは、生活者を直接お客様としているビジネスではないだけに、多様性を意識すべきという実感を迫りくる危機感として持ちにくい事情があります。
NRIが普段お客様として接するのは、会社役員の方やIT部門の方々などで、現時点では多くが男性という状況です。そのため、「お客様の多様性に合わせて、NRIにおいても、女性や外国籍の方々、LGBTQの方々などを含めた人材の多様性を高めなければしならない」というストーリーになりにくい面があります。
こうした多様性の議論について、例えばロート製薬さんが関わる医薬品分野では、どのようにストーリー立てて語っているのでしょうか。

髙倉氏:

実は、ロート製薬は化粧品事業を始めてから社内の人材構成にも変化がみられ、女性が増えました。女性のユーザー目線で開発を進められるという点で、研究所に所属している女性の理系人材や薬剤師は増えています。ここは、NRIの事業環境とは異なる部分かもしれません。
NRIの成長ストーリーの中に、「多様なプロフェッショナルの挑戦・成長による人的資本の拡充」とありますが、これは、「多様な視点を持った人材の挑戦・成長」とも置き換えられますね。事業創造やグローバルでの事業推進には多様な視点が必要なので、多様な人材が必要ということですが、実は、1人の人間が多様な視点を持っているということも重要だと考えます。
「多様な視点」をもつには、例えば副業・兼業や越境学習を通じて、アウェーの環境に身を置かないと手に入らない。たとえば、NRIのコンサルタントの皆さんは、日々接するクライアントが日本企業の経営幹部ですから、柳澤さんのおっしゃる通り男性比率が高いことが多いと思います。ですから、アウェーの環境というのは、実は仕事、本業から離れた場所なのかもしれないですね。
人は、アウェーな環境に入っていくと、今までの自分のアプローチでは通用しないという葛藤が生まれます。今までの男性が多い社会でビジネスをやっている場合、その場での定型的な成功体験が生まれるのですが、そのような成功体験を持った男性が例えば女性が多いチームで仕事をすると何が起きるのでしょうか。そこでは、今までの価値観では全く通用しないという葛藤を感じ、そうした経験を経て、多様な視点を獲得することになります。このように多様な視点をもった人材が増えることで、成長ストーリーを実現していくような事業創造につながる「多様な視点を持った人材」が生まれるのではないでしょうか。

NRI 柳澤:

NRIには現在でも多様な視点をもった人材が多くいますが、一方、非常に効率化されたプロセスの中で、無駄のない業務を推進するというスタイルが生まれてしまっていることも事実だと思います。同じ枠組み、同じ手順、同じプロセスでやればうまくいく、という成功体験が生まれがちです。
その中で、我々は多様な視点を仕事の中で活かしたり、多様な意見を言ったりする機会を十分に作れていないのかもしれない、とも考えます。もう少しゆとりや、良い意味での無駄な時間があってもよいのかもしれません。

髙倉氏:

おっしゃる通りですね。昨今のサステナビリティの潮流は、これまで効率性を優先してビジネスを推進してきたことの裏返しでもあり、こうした負のサイクルを断ち切ろうという動きでもあります。そう考えると、ビジネスにゆとりや、良い意味での「無駄」を取り戻すという意味合いが、あらためてよく理解できます。
例えば地球環境問題も、負の影響をゼロベースまで回復させるというのが今までの流れですが、欧州では、マイナスがゼロまで回復した暁には、そこから次の世界では何をしていくのか=Regenerationの流れになっています。これはまさに、次の価値共創とは何かという議論を、これからの若い世代が推進していくということです。
現在NRIがお客様から依頼されるプロジェクトは、サステナビリティをどう推進するかという観点で各企業のニーズに応えることが中心かもしれませんが、その次は、Regenerationの観点で新規事業やソーシャルイノベーションをどう起こすかに焦点を当てたプロジェクトを期待される可能性があります。そのためのプロフェッショナリティとは何か、といった論点も人的資本の中に織り込むべきかもしれません。

  •   Regeneration・・・

    サステナビリティ(持続可能性)というステージから、どのように「新たに再生していく力」を創りあげていくかという概念を指す。

NRI:人的資本の拡充に向けて、トップダウン的なアプローチとボトムアップ的なアプローチをどうやって組み合わせていけばよいかについて、議論していきたいと思います。

NRI 柳澤:

NRIの場合は、基本的には事業部門が強い風土で、事業部門内で人材育成をして、異動や機会付与を考え、評価をするというサイクルがあります。昨今は、サステナビリティや人的資本経営の潮流も踏まえ、本社主導でも様々な取り組みを展開し、事業部門に対して働きかけをするように変化してきています。例えば、現在の中期経営計画においても、「価値共創」の取組みを進めています。冒頭の説明でお示しした3つの社会価値について、私たちの仕事がそれぞれとどのように結びついているかを事業部門のメンバーに考えてもらったり、次期中期経営計画の策定を見据えた新ビジョンの草案をもとに、「価値共創」の観点から事業部門内で議論を重ねてもらったり、ここ数年間で価値共創活動と、新ビジョン・新中計に向けた対話を繰り返し行ってきました。 このように、ボトムアップ型の現場の力を活かすというNRIの風土をうまく保ちつつ、トップダウンでも経営層の想いや会社としての想いを伝えながら議論を重ねています。今後も、価値共創活動を継続しながら、経営トップの想いを伝える場を創っていきつつ、逆に、現場からいろいろな声や想いを集め、それらを経営にいかしていくなど、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチで推進することができるのではないかと思います。

髙倉氏:

トップダウンやボトムアップでの取り組みのあり方は、個社の事業特性と関係するので一概に言えませんが、事業部門が強いと、その中で人がローテーションして完結してしまいます。桧原さんのお話にもありましたが、会社の存在意義を踏まえると、そのような事業部門のなかで人がローテーションしていくやり方が最適かは今後の検討課題かもしれません。ある専門性の中で部分最適に人材を育成するのも重要ですが、多様な部門を経験して、広い視野を持たないと、新たな価値を提供できない可能性もあります。 加えて、今後のNRIの事業ポートフォリオがどう変化するかも重要な観点です。現状のセグメント別売上収益比率は、コンサルティングが1割弱、他はITソリューションですが、今後は事業ポートフォリオをどのように変化させていくのか。また、ITソリューションのサービス内容も、社会の流れやお客様のニーズによって変化していくことと思います。ITソリューションの新たなサービスに、コンサルテーションや本格的な提言型の要素が必要になると、それを実現できる人材をどのように育成するかが課題となります。今までのように、特定の専門性の中で育成するだけでは、変化し続ける環境やそれに応じたサービスを提供できる人材は育てられるのか、というのが重要な論点だと認識しています。 私は、「人材版伊藤レポート」の中で、「どんな会社も、全体最適で人を見なければいけない」と発言してきました。恐らく一番困るのは将来の経営層で、上の職位に行けば行くほど、専門性が高い人材をどうマネジメントするかが大切な仕事になります。多様な専門性を持つ人材がどのように価値を発揮するかが勝負だとすると、複数の分野に知見がないとマネジメントはできないと思います。NRIを今後担う経営層をどう育成するかが大切であり、また、今後のNRIのビジネスが成長していくために専門性を深化させるのか幅を広げるのか、実際には、それらの両方の必要があると考えています。それを実現するのが「トップダウンとボトムアップのアプローチの組み合わせ」なのではないかと考えています。

「人材版伊藤レポート」
伊藤邦雄一橋大学特任教授を座長とした、経済産業省の報告書の通称。2022年5月の「人材版伊藤レポート2.0」では、「人的資本」の重要性を認識するとともに、人的資本経営をどう具体化し、実践に移していくかを主眼として有用なアイディアを提示している。

投資家への人的資本経営の伝え方

NRI:投資家に対して、人的資本の充実度やNRIの人材の優れた点を、どのように伝えるのがよいとお考えでしょうか?

髙倉氏:

投資家からの要求事項としては、大きく2点あります。まずは、比較可能な指標を示してほしいということです。
たとえば、どの企業でも多様な視点、多様な人材、層の厚い次世代等の要素が求められるとすると、どのようなKPIが示されるかが重要となります。NRIについては、女性や中途入社の社員の活躍に加えて、様々な専門性の人材が異才(彩)でチームを形成しているという状態が見えるといいですね。また、人材の育成に対して、どのような投資をするかという点も重要です。個人的には、教育研修の時間や費用を単純に示すだけでなく、学び(=インプット)と経験の循環が必要だと思っています。そうした施策を実際にやっているかということを、投資家は聞きたいと言っています。
もう1点は、会社のストーリーを示すことです。まずは企業理念があり、そして、創出する価値として3つの社会価値がある。さらにそれを実現するために人的資本と知的資本の両輪を回していく。だから、人的資本ではこのような施策を実行するという、全体のストーリーがきちんと繋がっているかをCHROから語る。社長ではなく、CHROが経営の一角を担い、NRIとしての方向性と、その理由をサステナビリティも関連付けてストーリーで語る、という点を投資家は求めています。

NRI:全体を振り返って、最後にフィードバックをお願いいたします。

髙倉氏:

とても充実した時間をいただき、ありがとうございました。非常に真面目にお考えになっていることがよくわかり、また、どこが足りないのかという真摯な視点も持っていらっしゃると思いました。この2つの視点は、いつの時代も必要だと思っており、ある程度、物事が完成したとしても、これで完璧だとか100%だと思わないことが、これからの不確実な時代にはますます必要だと思います。真摯に取り組みながら、謙虚な振り返りの視点を持ち続けることは経営上もとても大事ですし、人材育成の根幹や、学び続けるというのはこういうことかなと本日の議論の中で考えました。

ダイアログの様子

NRI 柳澤:

本日はありがとうございました。はっとするキーワードをいくつもいただきました。本質的には、議論の中でも出た多様な視点や、イマジネーション力が重要であり、それらを会社の中の人材がどれだけ自由に発言できる環境を整えられるかがとても大事だと感じました。また、そのためには余力も必要だという点も含め、非常に気づきの多い、贅沢な時間でした。

NRI 桧原:

本日は貴重なお時間をいただき、感謝しています。人的資本の成長ストーリーへの織り込みは、まさに今、検討を重ねてビジョンや中期経営計画に反映しようとしていますが、ストーリーをしっかりと社外の方々にお伝えする準備も、改めて進めていかなければいけないと感じました。そうしたストーリーがステークホルダーの皆さんにご理解いただければ、その中で人的資本がどういう位置づけなのかもご理解いただけるし、私どもの企業価値も高まっていくだろうと思っています。ありがとうございました。

(2023年3月29日公開)

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