シングルソースデータで広告の世界に革新をもたらす
  • イノベーション

2017年12月13日

シングルソースデータで広告の世界に革新をもたらす インサイトシグナル事業部長 塩崎 潤一

私たちが、テレビや新聞・雑誌、インターネット等で何気なく目にしている広告ですが、本当に広告主(企業)の戦略に合致した広告活動が行われているのでしょうか。そうした問題意識から2007年に始まったのが、野村総合研究所(NRI)のインサイトシグナル事業です。独自の「シングルソースデータ」を用いて、広告効果の測定から戦略の立案まで、企業のマーケティング活動を支援してきました。同事業の立ち上げから携わってきた塩崎潤一に、この事業が広告の世界にもたらす効果について聞きました。

広告主の想いを届けたい

――インサイトシグナル事業とはどのような活動なのでしょうか?

広告主(企業)の広告活動の効果を、オリジナルデータを用いて測定するサービスを提供しています。広告の評価には感覚的な要素が多分に含まれますので、メディアでも広告代理店でもない第三者機関であるわれわれが、客観的なデータを用いて科学的に効果測定することに意義があると考えたのです。しかし、この事業を検討していた2005年当時、その分析に適したデータは世の中に存在しませんでした。無ければ作るしかない、と自らがデータを収集し分析をする形でこの事業を立ち上げました。

――シングルソースデータとは?

従来のデータ収集は、例えば視聴率や接触率、購読者数などのように、テレビや雑誌などメディア別に行われます。一方、シングルソースデータは、同じ人に複数のメディア接触や広告出稿の事前と事後の2回、購買行動を尋ねて収集します。これにより、メディアの横断的な利用やメディア接触と購買活動の関係などを捉えることが可能です。調査は、2カ月間にわたる3000人に対するアンケート調査です。この間、テレビ、新聞、雑誌など多様なメディアの利用状況、CMとの接触状況、購入意向、実際の購入行動などを調べます。
このやり方には多くの調査コストがかかりますが、われわれは試行錯誤しながら、コストとデータ精度のバランスを探り、多数の広告主がデータ基盤を共有して費用負担を軽減させる「マルチクライアント形式」でサービスを提供することで運用をしています。

好感度が高くても「良い広告」とは限らない

――シングルソースデータで分析すると、具体的に何がわかるのでしょうか。

広告の効果を客観的・科学的に分析し、成功と失敗の本質的な原因を捉えることができます。従来、広告の効果は出稿量や接触した割合、好感度などで測られてきました。そのため、売れなかった時は、商品の供給量や価格帯など広告以外を要因としたり、売り上げが増えた場合も、具体的な理由がわからなかったり、購入意欲の増減の理由は季節変動や法律の変化など社会的な影響も考えられました。シングルソースデータを使えば、純粋な広告の「量」と「質」でメディアの効果を測定できます。購入意向につながらない無駄な広告が一目瞭然となる一方で、もっと広告を出稿すればさらに売れた、どのようなメッセージが購入意欲を高めたか、ということも解るのです。

――データはどのように分析しているのですか。

効果の算定方法は、「差分の差分」という手法を利用しています。簡単に言うと、テレビCMに触れた方(接触群)と触れていない方(非接触群)の数値の比較です。広告投下後、接触群のみ購入意向が上がれば、それはCMの効果と言えます。一方、非接触群の購入意向も同時に上がっていれば、CM以外の外部要因が効いていることになります。同様の考え方で、クリエイティブの効果の測定も行っています。クリエイティブの各要素の認知者・非認知者で比較をすることで、ターゲットに最も訴求したメッセージや、映像なども明らかになるのです。

各メディアの接触がない人を比較対象群(コントロール群)として、リーチ(接触)者における効果を推計

――サービスを提供して、どのような反響がありましたか。

ある広告主から「インドにおける『ゼロの発見』と同じくらいすごい」と言われたのが印象的でした。広告に「効果がない」あるいは「マイナスの効果ある」という概念を打ち出し、改善を図ろうとするアプローチは、「ゼロ」に相当する新発見と評価されました。
広告の純粋な広告効果を見ると、好感度が高くても売り上げにつながっていない広告、認知度は低いのにターゲットに効果的に訴求している広告などが分かります。われわれの提案に沿って、お客様の広告クリエイティブが変わるのを見ると、この調査の影響力を感じます。経営報告にもわれわれの分析結果を用いているという話を伺うと、プレッシャーも感じますが、それだけデータを重要視されていると実感できてありがたいですね。

新しい技術も取り入れながら更なる進化を目指す

――ゼロから事業を生み出すのは難しいことですが、どのような意識で臨まれたのでしょうか。

コンサルティングとは普通、人を通じたサービス提供です。データを通じたサービスを提供する新事業は試行錯誤の連続でした。
最近でこそ、データ・アナリティクスやオリジナルなデータ資産を武器にするアセット・ベースト・コンサルティングが注目されていますが、それに10年前から取り組み、ノウハウを蓄積して差別化を図り、一定の成果を出してきました。広告主の意識が変わってきたという手応えも感じています。

――シングルソースデータをうまく活用するためのポイントを教えてください。

シングルソースデータを使うと、さまざまな切り口で広告を捕らえることができます。そのため、何を知りたいか、改善したいかなどの目的を明確にして活用することが重要です。広告主は往々にして、購入意向も認知度も高めたい、全部改善したいと言いがちですが、目的に応じてメディアの使い方は異なります。広告で何を達成したいかという明確な目標を定めることでそれに焦点をあてた分析、改善案の提案を提示することができるのです。

――最後に、今後のインサイトシグナル事業について教えてください。

現在、新たな取り組みとして10年間の蓄積したデータを用い、クリエイティブの評価分析の検討を進めています。このような新しい切り口も提供しながら、データを活用し、中立性でお客さまの課題解決を支援することがわれわれの使命と考えています。

関連サイト
INSIGHT SIGNAL(インサイトシグナル)

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この記事に関するお問い合わせ先

株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
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