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NRI トップ NRI JOURNAL 脱炭素時代、先手の取組みとなる分散型電源ビジネス――太陽光発電・蓄電池・EVの導入

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脱炭素時代、先手の取組みとなる分散型電源ビジネス――太陽光発電・蓄電池・EVの導入

システムコンサルティング事業開発室 佐野 則子

#エネルギー・環境

#カーボンニュートラル

#サステナビリティ

2024/04/16

地球温暖化の一因であるCO2排出量削減の一環として、住宅への太陽光パネルや家庭用蓄電地、電気自動車(EV)の導入・設置が推進されるようになりました。野村総合研究所(NRI)ではこうした「分散型電源」に対する生活者の導入意識や、分散型電源を統合・制御する仮想発電所(VPP)への参加意向などについて調査を行いました。
NRIの佐野則子が注目したのが、節約や停電対策を理由とした分散型電源への関心の高さです。エネルギーをビジネスとする企業が行える、分散型電源の導入促進と利活用の仕組みについて聞きました。

地球温暖化防止の意識と分散型電源への関心が高くても、導入に踏み切れない生活者

異常気象や海面上昇、生態系への悪影響などが深刻さを増す今、地球温暖化対策は世界共通の課題です。こうした地球温暖化を「危機的」と捉え、対策が“緊急”と考える生活者(ハイアラート層)の割合は39%、地球温暖化を「懸念」している人も合わせた割合は61%に及びました。一方で、地球温暖化防止に貢献する「再エネ電気プラン」は、電気代が安くならない限り、利用意向は上がりませんでした。

こうした生活者が関心を持っているのが、節約や停電対策を主目的として行う太陽光パネルや家庭用蓄電地、EVなどの小規模な発電・蓄電設備である「分散型電源」の導入です。自宅への分散型電源を「導入済み」、または「検討中」「関心がある」「多少、関心がある」と回答した人(導入・関心層)の割合は、太陽光発電設備で64%、家庭用蓄電池で73%、バッテリーの電気を自宅に給電できる電気自動車(給電できるEV)は63%を占めました。一方、給電できないEVは47%でした。

特に、太陽光発電の関心層では、家庭用蓄電池やEVへの関心がより高くなります。発電した電気をEVで使ったり、自宅で発電した電気を家庭用蓄電池やEVバッテリー(容量の大きい蓄電池)にためておくために、これらの導入につながる可能性があると考えられます。しかし、分散型電源の「導入済み」の割合はまだまだ少なく、導入に踏み切れない生活者が多いことがわかります。導入を後押しするためには、仕掛けが必要です。

分散型電源の導入を後押しする、自家消費インセンティブと屋根貸し方式

分散型電源の導入を後押しする仕掛けとして、1つは自家消費への報酬(インセンティブ)が考えられます。調査では2人に1人が、「自宅で発電した電気を自分で使う(自家消費)で報酬がもらえるなら、自宅での太陽光発電を前向きに検討するきっかけになる」と回答しました。
調査では、太陽光発電や家庭用蓄電地、EVのそれぞれの関心層では、さらに前向き度が高まることが分かりました。自家消費に対するインセンティブは、分散型電源の導入にとって後押しになる可能性が高いと言えます。

インセンティブを与える原資の1つとして、カーボンクレジットがあります。企業や自治体は、複数の住宅や事業所へ発電設備や蓄電池、EVを導入し、それらをとりまとめることでカーボンクレジットを創出することができます。その収益を自家消費へのインセンティブに使うことで、導入を促進することが可能です。

分散型電源の導入を後押しする仕掛けの2つ目は、費用負担のかからない導入方式です。自宅への太陽光発電の導入障壁として、導入コストが高い、メンテナンスなどの手間がかかるという点があります。こうしたリスクを軽減する方法として、「屋根貸し方式」による太陽光発電の導入があげられます。
屋根貸し方式とは、例えば自宅の屋根などを企業に貸して太陽光パネルを設置させる代わりに、発電された電気の一部を安い価格で購入できる方式です。太陽光発電の関心層では望ましい導入方法としてこの屋根貸し方式をあげる人が最も多く、その割合は46%と購入やリースを上回りました。

このように、エネルギービジネス事業者は、太陽光発電設備を「屋根貸し方式」で提供したり、自家消費へのインセンティブ付与で、分散型電源の導入を後押しすることができます。また、これらを行う事業者や生活者へ政府や自治体が補助することも分散型電源の導入促進に重要な役割を果たします。

資源循環を組み込んだ分散型電源の利活用で、先手の事業開発を

住宅・企業などに蓄電池やEVバッテリーなどの分散型電源が導入されれば、仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)の構築が可能となります。VPPとは、分散型電源を束ねて管理・制御し、地域で発電量を補って、発電所のように電力の需給調整を行う仕組みです。エネルギーの地産地消に寄与する一方で、生活者も電気代の節約、停電防止などのメリットを享受できます。蓄電池、給電できるEVそれぞれの導入・関心層では、このVPPへの参加意向が50%超となりました。

VPPへの参加意向がある人の半数程度は「貢献に応じた報酬」などを求めていますが、「蓄電池の劣化防止の仕組み」を求める人も40%弱存在します。蓄電池には、何度も充電・売電すると劣化しやすくなる懸念があるため、蓄電池の劣化判定と使用済み蓄電池の再利用を事業に組み込むことが大切です。

日本は、GX(グリーントランスフォーメーション)のために、これから10年間に20兆円の経済移行債を発行し、官民あわせて150兆円のGX投資につなげる計画です。このGX投資の重点領域の中に、蓄電池やEVがあります。例えばEVを導入し、使用済みのEVバッテリーを定置型蓄電池として使う資源循環を行うことで事業を開発することができます。今後、産業競争力強化、経済成長、地球温暖化防止のいずれにも貢献する分野へのGX投資が活発化していきます。企業にとって、GX投資の重点領域で事業を考えることは先手の取り組みとなるでしょう。

住宅への分散型電源の導入は、生活者にとって電気代などの高騰に対する解決策となるだけでなく、生活者と企業双方が地球温暖化防止に貢献することにもつながります。エネルギービジネス事業者には、これらの分散型電源の導入と資源循環を事業に組み込んだ利活用を行い、事業を通してこれらの社会課題を解決することが求められます。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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